これまで紹介した話題が今どうなっているか-前編

相談者 KHさん

 私は近所のお友達とのおしゃべりが楽しみな34歳の主婦。子供は昼間、小学校に行っているので、近くのファミレスでスイーツとドリンクバーを楽しみながら、息抜きをしています。そこで話すことといえば、子供のことだったり、最近できたお店の評判だったりするのですが、友達の一人がドラマ、特に刑事ものが大好きで、よく最近起きた事件の話をします。事件や法律の話など関係ないと思っていた私ですが、話題についていこうと思って、家でちょくちょく事件のことをネットで調べるようになりました。そうして知ったのが、このコーナーです。

 中身は私にはちょっと難しいのですが、最近起きた事件や話題がよく取り上げられているので、重宝しています。先日、新聞を見ていて、ふと目に留まったのが、球場で顔にファウルボールが当たって失明した女性が球団などを訴えていた裁判の記事でした。1審では決着がつかず、高等裁判所に持ち込まれ、判決が出たようです。

 「確か、このコーナーで取り上げられていたはず」。私は居間ですぐパソコンを開き、記事を探してみました。記事が出たのは1審の判決が出た時だったので、当然ながら、その時点での情報しか書いてありません。当然、その後のことが知りたいところです。

 そこでお願いなのですが、同じように、このコーナーで取り上げられた法律関連の話題について、その後、何か動きがあったものについては、その情報を教えていただけないでしょうか。おしゃべりのネタにもなると思うので、いくつか選んで教えていただければと思います(相談文はフィクションです)。

(回答)

過去の本コーナーをふり返って

 みなさまに長い間ご愛読いただいた「おとなの法律事件簿」が、6月末で終了することになりました。今回を入れてあと2回となります。ちなみに、次回最終回が、連載開始以来ちょうど120回目となり、月2本ずつですから、ちょうど5年間、連載を続けたことになります。

 そこで、今回及び次回で、過去に取り上げた話題がその後どのようになったかについてお伝えしようと考えています。前半にあたる今回は一般的な話題について、次回の最終回はITも含めて企業に関連する話題について取り上げてみたいと思います。

野球事故に関する高裁判決について

 相談者も指摘しているように、札幌ドームでの打球事件については、2015年5月27日に、「野球場での打球事故に対する責任-防球ネットの是非」で説明しました。

 第1審の札幌地方裁判所は、北海道日本ハムファイターズと札幌ドーム、札幌市が連帯して約4200万円の損害賠償金を支払うよう命じましたが、控訴審の札幌高等裁判所は、今年5月20日、札幌地方裁判所判決を変更し、北海道日本ハムファイターズに対してのみ約3350万円の賠償を命じて、球場を管理する札幌ドームと所有する札幌市への請求は棄却しました。

 原告である女性が欠陥を主張した球場設備の瑕疵かしについては、札幌ドームの内野フェンスの高さは他球場に比べて特に低かったわけではないとして、通常の観客を前提とすれば安全性を欠いていたとは言えないと、瑕疵があったとは認めず、球場を管理する札幌ドームと所有する札幌市の責任については否定したわけです。

 一方、試合を主催していた北海道日本ハムファイターズの責任については、日本ハムが小学生を招待した企画に保護者として付き添っていた原告の女性には、野球の知識がほとんどなかったとして、日本ハムは打球の危険性を告知し、小学生と保護者の安全に配慮する義務があったが、十分尽くしたとは認められないと指摘し、損害賠償の責任を負うとしました。ただし、原告の女性が、打者が打った瞬間は見ていたが、その後の打球の行方を見ていなかった過失があったとして、2割の過失相殺を認め、損害賠償金額は減額される結果となっています。

 この控訴審判決を受けて、北海道日本ハムファイターズは、「球団の主張通り、他の球場同様、札幌ドームにおける野球観戦の安全性を認めていただいた点は妥当な判断であると考えます。球団の安全配慮義務違反を認めた点につきましては、判決を十分に精査した上で今後の対応を検討致します」とのコメントを発表しています。ただ、その後、双方ともに上告しなかったことから、上記札幌高等裁判所の判決が確定しました。

 判決は施設の瑕疵は認めていませんから、視認性や臨場感を犠牲にしてまで、ファウルボールなどから観客を守るネットが、全国で一律に設置されるような事態にはならないと思われます。他方、今後、現状以上に、防球ネットの整備が進まないとなると、野球場のテーマパーク化の進行に伴って急増している、野球に関する知識を欠いた観客に対する対策が急務になってくるということです。裁判所から責任を問われた球団が、今回の判決を受けて、具体的にどのような対策を取っていくかについて注目したいと思います。

離婚した夫婦における、子供との面会について

 この問題については、14年2月26日に、「妻と離婚しても子供と会える?親権は?」とのタイトルで説明しました。

 この点、子供との面会に関し、近時、非常に注目されるべき判決が出されました。千葉家庭裁判所松戸支部は、今年3月29日、母親が提訴した離婚訴訟において、別居している父親に親権を認め、子の引き渡しを命じる判決を出したのです。

 この事件では、離婚後の面会交流において、父親から無断で連れ去った長女を監護している母親が、月1回の家庭問題情報センターでの監視付き面会を父親にさせるとしたのに対し、父親は親権者になれば、長女が両親の愛情を受けて育ち、子供の最善の利益を優先するために、年間100日程度の面会交流を母親に保障すると主張しました。また、父親は、年間100日程度の面会交流保障の約束を守らない場合は、親権者を母親に変更するとも申し立てました。これに対して、母親は、面会交流を月1回程度にすることを主張するとともに、長女を現在の慣れ親しんだ環境から引き離すのは、長女の福祉に反するなどと主張しました。

 結論として、裁判所は、母親の懸念は杞憂きゆうにすぎず、長女が両親の愛情を受けて健全に成長することを可能とするためには、父親を親権者と指定するのが相当と判断したのです。

 判決は次のように判示しています。

 「上記認定の事実によれば、原告(注:母親)は被告(注:父親)の了解を得ることなく、長女を連れ出し、以来、今日までの約5年10か月間、長女を監護し、その間、長女と被告との面会交流には合計で6回程度しか応じておらず、今後も一定の条件のもとでの面会交流を月1回程度の頻度とすることを希望していること、他方、被告は、長女が連れ出された直後から、長女を取り戻すべく、数々の法的手段に訴えてきたが、いずれも奏功せず、爾来じらい今日まで長女との生活を切望しながら果たせずに来ており、それが実現した場合には、整った環境で、周到に監護する計画と意欲を持っており、長女と原告との交流については、緊密な親子関係の継続を重視して、年間100日に及ぶ面会交流の計画を提示していること、以上が認められるのであって、これらの事実を総合すれば、長女が両親の愛情を受けて健全に成長することを可能とするためには、被告を親権者と指定するのが相当である。原告は、長女を現在の慣れ親しんだ環境から引き離すのは、長女の福祉に反する旨主張するが、今後長女が身を置く新しい環境は、長女の健全な成長を願う実の父親が用意する整った環境であり、長女が現在に比べて劣悪な環境に置かれるわけではない。加えて、年間100日に及ぶ面会交流が予定されていることも考慮すれば、原告の懸念は杞憂にすぎないというべきである。よって、原告は被告に対し、本判決確定後、直ちに長女を引き渡すべきである」 

 私は、14年2月の記事では、厚生労働省における具体的な統計数字などを根拠に、「現在、子供の親権者となるのは、ほぼ母親であると言ってもよいかと思われます」と書きました。本件のように、母親が子供と一緒に暮らしているならなおさらです。司法の場におけるこの「常識」に反し、離婚する相手と子供の面会を積極的に認めれば父親であっても親権をとれるとした、今回の判決は大きな反響を呼んでいます。

 この判決は、子供の面会交流について、「フレンドリーペアレントルール(寛容性の原則)」を適用した判決とも評価されています。フレンドリーペアレントルールとは、もう一方の親と子供との関係をより友好に保てる親を親権者とする考え方であり、先進国では子供の利益を実現するために取り入れられている原則であるとのことです。

 今回、千葉家庭裁判所松戸支部は、母親が突然長女を連れて別居したこと、約5年にわたり父親と長女を面会させなかったことなども総合的に考慮して、父親を親権者とする判決を出したわけですが、今後、他の同種事件において、どのような判断がなされるのか注目されるところです。

DV・ストーカーについて

 DV(ドメスティック・バイオレンス)の問題については、14年1月22日に、「恋人の暴力で殺されるかも!改正DV法の保護は?」とのタイトルで説明しました。

 上記記事において説明したように、改正配偶者暴力防止法(DV防止法)が14年1月3日に施行されて、DVの適用される当事者の範囲が、婚姻関係にある配偶者や事実婚の内縁者の場合だけでなく、一緒に同棲どうせいする未婚の男女間における暴力についても拡大されました。

 ただ、施行後の14年度(14年4月1日~15年3月31日)の配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数は、13年度の9万9961件から10万2963件と増加しています。また、警察における配偶者からの暴力事案等の認知件数も13年度の4万9533件から、14年度は5万9072件と増加しています。一方、配偶者暴力防止法に基づく保護命令事件の既決件数も、13年度の2984件から、14年度は3125件と増加しています。

 法改正によって、それまで顕在化しなかった事件が表に出てきたといえるかもしれませんが、今後もこの問題については、社会が継続的に関心を持って、その抑止に注力していく必要があると思われます。

 なお、このDVに関する記事において、DV防止法と同時期に、ストーカー行為への対応を強化するために改正された、ストーカー規制法についても言及しています。当時、改正によって、電子メールを送信する行為の規制対象への追加などが実施されました。ただ、このストーカー規正法改正後も悲惨な事件は続いています。

 今年5月21日、ライブ会場前で出演者の20代の女性が男に刃物で刺される事件が発生したことはみなさんも記憶に新しいところかと思います。この女性は、事件前に、ツイッターなどへの執拗しつような書き込みについて警察に相談していましたが、警察は、直ちに危害を加えるような内容ではないとして、ストーカー被害としては扱っていなかったと報道されています。その原因として、ストーカー規正法では、SNSでのメッセージ送信は対象外となっており、「つきまとい」や「ストーカー」行為とみなされないという「法の不備」があったことが指摘されています。すなわち、現在のストーカー規制法は、「電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、しくは電子メールを送信すること」などが対象となっており、SNSについては規制対象となるかどうかが明記されていないのです。

 この事件を受けて、現在、ストーカー規正法を改正する動きが出てきています。具体的には、ストーカー行為として規制する対象を拡大し、新たにツイッターやフェイスブックなど、インターネットのSNSで執拗にメッセージを送る行為なども含めるというものです。また、被害者による告訴がなくても起訴できる非親告罪にすることや、罰則の強化についても議論されているようです。

 今後、悲惨な事件を繰り返さないためにも、法改正を含めた総合的な対策を是非とも打ち出してほしいものです。

リベンジポルノについて

 この問題については、15年8月12日に、「子どもがリベンジポルノの被害に…どうすればいい?」とのタイトルで説明しました。この記事は、フェイスブックでのおすすめが、300近くになるなど、おそらく私の書いた記事の中でSNSでの反響が一番大きかったものかと思います。

 この記事は、14年11月19日に成立した、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」(リベンジポルノ防止法)について解説したものであり、その際に、この法律制定の契機となった1人の女性の死を巡る裁判について取り上げました。

 すなわち、加害男性が元恋人である被害女性(当時18歳)を殺害した上、プライベートの写真と映像を、ウェブサイトを通じて拡散させた「三鷹ストーカー殺人事件」です。

 この事件について、1審裁判所(東京地方裁判所立川支部)は、リベンジポルノについて、刑の重さを決める要素のひとつに挙げて、懲役22年の判決を言い渡しました(14年8月1日)。しかし、この判決に対し、2審裁判所(東京高等裁判所)は、「情状として考慮できる範囲を超えており、実質的にリベンジポルノも処罰するかのような刑を裁定した疑いがある」「名誉毀損きそん罪を実質的に処罰する判決で1審の裁判官の審理の進め方に誤りがあった」などと指摘の上、懲役22年とした裁判員裁判による1審判決を破棄し、東京地方裁判所に差し戻したのです(15年2月6日)。つまり、起訴されていないリベンジポルノに関する行為を、実質的に処罰するのは問題だと、裁判所は判断したわけです。

 この判決を受けて差し戻し審が行われるにあたり、検察庁はあらためてリベンジポルノそのものについても審理の対象とすべく追起訴しました。以前、この事件について紹介した時点では、この差し戻し審の審理中でしたが、今年の3月15日に差し戻し審の判決が出されました。

 結論としては、従前の1審裁判所の判決と同様に、懲役22年とする判決が出されました。被害者のご両親が覚悟を決め、リベンジポルノの点についても告訴を行い、それを踏まえて前回の裁判とは異なる裁判員が評決を行った上で出された判決でした。

 ご両親は、当初、リベンジポルノの罪を「娘の名誉が傷つく」と告訴しなかったわけであり、告訴してリベンジポルノも裁判の対象となれば、娘の裸の画像を何枚も証拠として提出しなければならなくなり、それが裁判員の目に触れるのに抵抗があったと報道されています。当初の裁判では、犯人の悪質性を訴える材料として、一部を塗りつぶした画像2枚だけを証拠提出したものの、やり直し裁判では67枚が証拠として調べられたとのことです。にもかかわらず、結論として、前回と同じ懲役22年の判決が出されたことについては、批判的な意見も含めて話題となっています。

 1審判決を破棄し、東京地方裁判所に差し戻した、裁判所の指摘する理屈については、弁護士として理解はできるのですが、被害者のご両親の感情を考えると複雑な気持ちになります。弁護士をしていると、法理論と社会の常識との乖離かいりについて考えさせられることが往々にしてありますが、今回の顛末てんまつも、そのような問題の一つかと思います。

 ちなみに、警察庁は、今年3月17日、リベンジポルノを巡って15年に全国の警察に寄せられた相談が1143件に上ったことを発表しました。リベンジポルノ防止法が施行されて以降、初めての年間統計となります。

 被害の相談は女性が1041件、男性が102件であり、年齢別では、10~20代が6割近くに上っています。うち130件は、インターネットだけのやり取りで実際に会ったことのない相手に自分の画像を送ったことに関する被害相談だったとのことです。警察は相談を受けた1143件のうち276件を立件しましたが、その内訳は、「会わないと画像がどうなるか分からないぞ」などと脅したとする「脅迫」が69件、「児童買春・ポルノ禁止法違反」が56件、画像を不特定多数に提供しようとしたなどの「リベンジポルノ防止法違反」が53件などとなっています。

 この統計を見てもお分かりのように、まだまだ、リベンジポルノによる被害は多発しており、特に事件被害の多くを占める若年層への教育が重要であると思われます。

再婚禁止期間について

 この問題については、15年12月24日に、「夫婦同姓合憲、再婚禁止100日超は違憲 今後は?」で説明しました。

 元々民法において、「女は、前婚の解消又は取消しの日から6月を経過した後でなければ、再婚をすることができない」と定められていましたが(第733条)、この規定の合憲性について争われた訴訟において、最高裁判所が、15年12月16日に違憲であると判断を下したことを受けての解説でした。

 この最高裁判所の判断を踏まえ、国会において民法の再婚禁止規定の改正について議論がなされ、先月24日に衆議院において民法改正案が可決されて、今月1日に参議院でも可決され、改正法案が成立しました。

 改正法では、再婚禁止期間が6か月から100日間に短縮されたうえ、(1)前婚の解消又は取り消しの時に懐胎していなかった場合、及び(2)前婚の解消又は取り消しの後に出産した場合にはそもそも再婚禁止期間を設けないという規定になりました。また、付則において、3年後をめどに、民法改正後の規定の施行の状況等を勘案し、両性の本質的平等の観点から、再婚禁止期間を廃止することも検討すると規定されています。

民法改正について

 この問題については、15年1月14日に、「民法の大改正、ポイントを教えて」とのタイトルで説明しました。

 当時は、民法が120年ぶりに大改正されるとして、世間でも大きな話題となっていたこともあり、このコーナーも極めて多くのPV(ページビュー)を獲得したので、この記事のことは今もよく覚えています。

 しかし、残念ながら、いまだに、民法改正は実現していません。昨年の2月に法制審議会から「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」が出され、これを踏まえて民法改正法案が国会に提出されて、当国会において成立する可能性もささやかれていました。しかし、昨年の国会においては、みなさんもご存じのように、安全保障関連法案の審議が行われたこともあって、結局、民法改正法案については審議が進みませんでした。同法案については、いわゆる継続審議となり、廃案にはならず次回以降の国会に審議が持ち越されることになったのですが、今年の1月から行われた通常国会においても具体的な審議は行われなかったようです。衆議院のHP(ホームページ)を見ると、議案名「民法の一部を改正する法律案」の審議経過情報の欄には、「閉会中審査」と記載されたままになっています。

 こうした状況ですので、現時点では、いつ民法改正が実現するのかという点についての見通しはたっていません。

 このコーナーでも解説したように、この民法改正は、(1)約款やっかんに関する規定が置かれる、(2)消滅時効の時効期間が変更される、(3)法定利率が引き下げられる、(4)保証人の保護が強化される、(5)敷金の返還義務が明確化されるなど、国民の生活に直結した重要な改正が多く含まれているのですから、早期の成立が望まれるところです。

機能性表示食品について

 この問題については、15年4月8日に、「『第3の健康食品』って何?」とのタイトルで説明しました。

 15年4月に新たに始まった「機能性表示食品」制度は世間の注目を集め、多くの企業が積極的に広告展開を行い、機能性を打ち出した新商品が販売好調の企業も続出しているようです。私たちも、以前に比べ、「脂肪の吸収を抑える」「糖の吸収をおだやかにする」「目の健康を維持する機能があります」など、様々な機能性をうたった商品を、よく目にするようになりました。

 他方、私も当時の記事の中で指摘したように、この新しい制度は、企業が自己責任で担う部分が多く、問題のある商品が世に出回る可能性があり、消費者がリスクを負うことになりかねないといった懸念もずっと主張されてきました。

 そうした中、株式会社リコムが開発したキトグルカン(エノキタケ抽出物)を配合した「蹴脂粒」が、15年4月17日、機能性表示食品として受理されたことで、その問題が再燃しました。同社は、同じ成分を使った商品を、特定保健用食品(トクホ)として申請していましたが、15年3月、食品安全委員会が特定保健用食品としての審査を行い、「安全性を評価することはできない」との結論をまとめていたからです。つまり、トクホにおいて、専門家が安全性に疑義を抱いていた成分が、機能性表示食品としては既に受理されていたことが問題となったのです。

 消費者庁は、届け出内容を審議することはなく、書類がそろっているか形式的にチェックするため、同社の届け出は受理されたわけですが、こうした事態が発生したことに対して、一部の消費者団体は、安全性が確認できない、危険かもしれない商品でさえ、届けを出したら受理せざるを得ない制度の欠陥が露呈した、制度は廃止すべきなどと反発し、制度の見直しを求める要望書を消費者庁に送るといった事態にまで発展しました。

 結局、この問題は、消費者庁長官が「(制度に沿って)安全性に問題がある結果が生じているとは認められない」との見解を示すことで収束し、上記製品は既に販売されています。

 なお、この騒動を受け、今年4月1日からは、安全性を確認するため、届け出た食品または関与成分について、(1)厚生労働省の通知「無承認無許可医薬品の指導取り締まりについて」の「もっぱら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」に含まれていないことを確認、(2)食品衛生法に抵触しないことを確認することが追加され、さらに届け出た関与成分と同様の成分につき、トクホの安全性審査の実施状況に関する情報を収集し、安全性を評価することと規定しています。

 この機能性表示の制度が社会に根付く前提として、私が以前書いたように、消費者が、食品の安全性などに関して国にばかり頼るのではなく、消費者庁のHPなどから自ら情報を収集するなどして、自分が期待している食品の機能や食品の信頼性を見極めて、的確な商品選択をできる能力を持つことが必要だということかと思います。これからも、国がどのような安全性確保のための方策を打ち出してくるかに注目していきたいと思います。

自転車の危険運転

 この問題については、15年7月22日に、「自転車の危険運転で講習義務化」とのタイトルで説明しました。自転車の運転者に安全講習の受講を義務づける改正道路交通法施行について取り上げたものです。

 改正道路交通法では、昨年6月から、刑事処分とは別に、3年以内に2回以上、危険行為で摘発された14歳以上の運転者に、各地の警察本部や運転免許センターなどでの安全講習(3時間)の受講が、義務づけられましたが、この間に全国の警察が確認した危険行為は1万5131件、講習を受けたのは24人だったと警察庁が発表しています。

 講習を受けたのは大阪府11人、東京都4人、兵庫県3人、岡山県2人で、愛知、京都、愛媛、福岡各府県が1人となっています。講習を受けた24人のうち、男性が19人、女性が5人となっています。年齢別に見ると、20代が10人と最も多く、30代が6人、80代も2人いたということです。

 警察が確認した危険行為では、信号無視が6457件(42.7%)と最も多く、遮断機を無視して踏切内に入る違反3884件(25.7%)、携帯電話を使いながら運転して事故を起こすなどの安全運転義務違反1914件(12.6%)、一時不停止1122件(7.4%)、ブレーキ不良の自転車を運転539件(3.6%)、その他1215件(8.0%)となっています。年齢別では10~30代で半数を超え、大阪府5126件、東京都3581件、兵庫県2054件がワースト3となっています。

 このように講習を義務づける制度がスタートし、自転車の危険性が社会でも注目されてきているにもかかわらず、自転車運転中の危険行為で重大な事故が相変わらず発生しています。

 昨年6月千葉市の路上で、大学2年の男子学生(当時20歳)がイヤホンで音楽を聴きながら自転車を時速約25キロで運転中、横断歩道を歩行中の女性(当時77歳)をはねて死亡させるという事故が発生しました。この大学生は、重過失致死罪に問われ、今年2月23日、千葉地方裁判所は、禁錮2年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しています。大学生は、被告人質問で、日頃から音楽を聴きながら自転車を運転することが多かったと述べ、気を付けていたつもりだった。不注意で事故を起こしてしまい、女性や遺族に申し訳ないと語ったと報道されています。

 自転車で重大な事故を起こした場合、損害賠償という民事的な責任だけでなく、刑事的な責任も問われる可能性があることを十分認識して、安全講習を受けるまでもなく、慎重に自転車を運転するように心がける必要があると思います。

 

2016年06月08日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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