「ファイトーイッパーツ」「おーいお茶」が商標に

相談者 E.Tさん

 私はある中堅食品メーカーで宣伝を担当しています。主力商品は子ども向けのお菓子。創業以来の人気商品で、時代によってパッケージは変えてきましたが、コマーシャル(CM)の最後で軽快なメロディーとともに商品名を読み上げる部分は変わっていません。CMの印象が強いせいか、長年にわたってうちの商品のファンという人も多く、中には親子でこのお菓子を買い求める人もいます。浮き沈みの激しいこの業界で、これは大切なわが社の財産だと考えています。

 先日、うちの部署に社長が来て言いました。「おい、新聞に音声が商標登録されたと書いてあるぞ。うちでも可能か、至急検討するように」。記事を読むと、2人組の男性が岩か何かを登り切った時に叫ぶ「ファイトーイッパーツ」、人気俳優がおいしそうにペットボトルのお茶を飲むCMの「おーいお茶」など、いろいろな「音声」が商標登録されたようです。子どものころ好きだったウルトラマンのカラータイマーの音まで登録申請されたというではありませんか。

 ただ、何もかもが認められると言うわけでもなさそうです。認められるものと認められないものの線引きはどうやってなされたのでしょうか。新しいCMの企画も同時並行で進めなければならず、担当者としては胃の痛くなる日が続きます。音の商標登録の基本的な事柄について、教えていただければ幸いです(最近の事例をもとに創作したフィクションです)。

(回答)

商標登録された音の商標

 10月27日、特許庁は、音商標や動き商標等の新しいタイプの商標43件について、初めて登録を認める旨の判断をしたと公表しました。

 今回の相談のテーマである、音商標について登録が認められた主なものは、次のようなものです。

 ・久光製薬がTVCM等で使用している「HISAMITSU」というメロディーと音声

 ・味の素がTVCM等で使用している「あじのもと」というメロディーと音声

 ・小林製薬がTVCM等で使用している「ビフナイト」「ブルーレットおくだけ」「ブルーレット」「いのちーのははエー」「さらっさらーのサラサーティ」というメロディーと音声

 ・大幸薬品がTVCM等で使用している「クレべリン」というメロディーと音声

 ・花王がTVCM等で使用している「ビオレ」というメロディーと音声

 ・ライオンがTVCM等で使用している「スマイルよんじゅう」というメロディーと音声

 ・エプソン販売がTVCM等で使用している「カラリオ」というメロディーと音声

 ・第一生命がTVCM等で使用している「だいいちせいめい」というメロディーと音声

 ・フジッコがTVCM等で使用している「ふじっ子のおまめさん」というメロディーと音声

 ・大正製薬がリポビタンDのTVCMに使用している「ファイトーイッパーツ」という音声(ちなみに、「本商標は、『ファイトー』と聞こえた後に、『イッパーツ』と聞こえる構成となっており、全体で5秒間の長さである」という商標として登録されています)

 ・エステーがTVCM等で使用している「ピヨピヨ、エステー」という音声

 ・伊藤園がTVCM等で使用している「おーいお茶」という音声

 ・アスクルがTVCM等で使用している「ソロエル」という音声

 ・バンダイナムコホールディングスがゲーム内等で使用している「バンダイナムコ」という音声

法改正により音や色彩も商標登録可能に

 「特許法等の一部を改正する法律」により商標法が改正されて、2015年4月1日から施行されたことに伴い、音商標や色彩のみの商標など、これまで登録し保護することができなかった商標の登録が可能になりました。

 改正前の商標法では、商標の定義について、「文字、図形、記号しくは立体的形状若しくはこれらの結合またはこれらの色彩との結合」とされており、文字等と結合していない色彩のみや音などについては、商標法の保護を受けることができませんでした。

 改正後の商標法では、人の知覚によって認識することができるもののうち、「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」(商標法第2条第1項)とされており、色彩のみ、音、その他政令で定めるものについても、商標として登録することができるようになりました。

 従来、音商標は、著作権法や不正競争防止法で保護される可能性が一応ありましたが、今後は、音商標として登録することで、直接、商標法による保護を受けることができるようになったわけです。

企業のブランド戦略に大きな役割を期待

 特許庁が発表した解説書によれば、今回の改正は、「近年のデジタル技術の急速な進歩や商品又はサービスの販売戦略の多様化に伴い、企業は自らの商品又は役務(サービス)のブランド化に際し、文字や図形のみならず、色彩のみや音についても商標として用いるようになってきている。諸外国では、色彩のみや音といった『新しい商標』を既に保護対象としており、実際に、こうした諸外国において我が国企業が出願や権利取得を進めるケースも増加しており、我が国における保護ニーズも高まっている。こうした『新しい商標』が我が国においても保護対象に追加されることにより、商標権の侵害行為に対する差し止めや損害賠償の請求といった権利行使が可能となるほか、マドリッド協定の議定書に基づいた『新しい商標』の複数国への一括出願が可能となるといった実益が生ずることから、『新しい商標』を保護対象とする必要がある」とされています。

 10月27日に特許庁が発表した資料においても、「新しいタイプの商標は、言語を超えたブランド発信手段として、企業のブランド戦略に大きな役割を果たすことが期待されます。引き続き、特許庁は、新しいタイプの商標出願についても、適正な審査に努め、企業のブランド戦略構築を支援してまいります」とされています。

殺到する音商標の出願

 音商標とは、音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標をいいます。例えば、CMなどに使用されるサウンドロゴなどです。

 特許庁の発表によると、出願受け付けが開始された今年4月1日だけで151件の音商標の出願があり、10月23日時点での音商標の出願総数は321件となっています。そして、特許庁は、10月27日、このうちの21件について、音商標として登録を認める判断を下しました。今回登録が認められた21件は、すべて、4月1日に出願されたものですが、4月1日に出願された他の130件の音商標についても、登録が認められないと判断されたわけではなく、4月1日以降に出願された音商標も含め、今後、引き続き審査が行われるということです。

 今回登録が認められた21件以外で審査中のものとして、皆さんがテレビなどで聞き覚えのあるであろう著名なものとしては、以下のようなものがあります。

 ・大幸薬品が胃腸薬「正露丸」のTVCM等に使用しているトランペットを用いたメロディー

 ・救心製薬がTVCM等で使用している「きゅーしんきゅーしん」というメロディーと音声

 ・ライオンがTVCM等で使用している「ずつうにバファリン」というメロディーと音声

 ・サンヨー食品がラーメン等のTVCM等で使用している「サッポロいちばん」というメロディーと音声

 ・コスモ石油がTVCM等で使用している「こころもまんたんにコスモせきゆ」というメロディーと音声

 ・出光興産がTVCM等使用している「ほっともっときっといでみつ」というメロディーと音声

 ・アコムがTVCM等で使用している「はじめてのアコム」というメロディーと音声

 ・三井不動産リアルティがTVCM等で使用している「みついのリハウス」というメロディーと音声

 ・ミサワホームがTVCM等で使用している「ミサワホーム」というメロディーと音声

 ・積水ハウスがTVCM等で使用している「セキスーイハウス」というメロディーと音声

 ・タマホームがTVCM等で使用している「ハッピーライフハッピーホームタマホーム ハッピーライフハッピーホームタマホーム ハッピーライフハッピーホームタマホーム」というメロディーと音声

 ・タイガー魔法瓶が炊飯ジャー等のTVCM等で使用している「タイガー炊飯ジャーたきたて」というメロディーと音声

 ・東洋水産がカップ麺等のTVCM等で使用している「あかいきつねとみどりのたぬき」というメロディーと音声

 ・宝ホールディングスが日本酒等のTVCM等で使用している「しょうちくばい」というメロディーと音声

 ・はせがわが仏具等のTVCM等で使用している「お手々のしわとしわを合わせて、しあわせ、なーむー。」という音声

ウルトラマンの「シュワッチ」も申請中

 珍しいものとしては、円谷プロダクションが、次のような内容で、音の登録を出願しています。

 ・ウルトラマンに登場する、ウルトラマンに与えられた戦闘時間(3分間)を知らせる効果音として広く周知されている「『ピコン』聞こえる単音の電子音が、計40回繰り返される。最初は一定の速度、一定の音程で繰り返されるが、14回目の繰り返しからは反復の速度が早まるとともに音程がなだらかに上昇する。28回目の繰り返しで反復速度が最も早くなり、同時に音程も最も高くなる。以降40回目まで最も早く、最も高いまま繰り返され、最後3回ほどは反復速度、音程はそのままに音量が小さくなり、フェードアウトする」という音

 ・ウルトラマンの声である「『シュワッチ!(人によっては、シュワッチョと聞こえるかもしれません)』と叫ぶ声に、電気的に加工を施して残響音を付加した音」や「『シュワッ!(人によっては、シュワー、シャーなどと聞こえるかもしれません)』と叫ぶ声に、電気的に加工を施して残響音を付加した音」

 ・著名な怪獣、バルタン星人の声である「低く太い男性の声による『フォフォフォフォ(人によっては、フォッフォッフォッフォッと聞こえるかもしれません)』という擬態語に、電気的に加工を施して残響音を付加したもので、前述の『フォフォフォフォ』を計4回繰り返す音」

 また、永谷園は、お茶づけ海苔のり等のTVCM等で使用しているお茶づけ海苔等を振り掛ける音を「本商標は、『カサッカサッ』と2回軽量なものがこすれ合う音が聞こえる構成となっており、全体として約1秒間の長さである」として出願しています。

音商標の登録要件

 商標が登録された場合、商標権者は、その商標を独占的に使用することができることになりますが、出願された商標を何でも登録してしまっては、かえって、商品や役務(サービス)の円滑な取引が阻害されてしまうおそれがあります。そのため、音商標に限らず、一般的に商標として登録されるためには、次のような要件を充足する必要があるとされています。

 (1)自他商品・役務の識別力があること

 (2)他人の権利を害さないこと

 (3)公の利益を害さないこと

自他商品・役務の識別力があること

 「自他商品・役務の識別力」とは、その商標を付した自社の商品や役務(サービス)を他社の商品や役務(サービス)と区別させる機能のことです。

 商標は、主に三つの機能を有しているとされます。すなわち、<1>同一の商標を付した商品や役務(サービス)は、いつも一定の生産者、販売者または提供者によるものであることを示す機能(出所の表示)、<2>商品の品質または役務(サービス)の質を保証する機能(品質の保証)、<3>商品または役務(サービス)の広告的機能(広告・宣伝)です。

 つまり、「自他商品・役務の識別力」を有しないような商標であれば、自社の商品や役務(サービス)を他社の商品や役務(サービス)と区別することができないため、商標が有する上記機能を果たすことができず、したがって、「自他商品・役務の識別力」のない商標は登録することができないものとされているのです。

 「自他商品・役務の識別力」がない商標としては、商標法第3条で、<1>普通名称、<2>慣用商標、<3>記述的商標、<4>ありふれた氏または名称、<5>極めて簡単で、かつ、ありふれた標章、<6>これらの他、識別力がないものが規定されています。

 <1>の「普通名称」とは、取引業界において、その商品または役務(サービス)の一般的名称であると認識されるに至っているものをいいます。例えば、「時計」という商品に「時計」という商標は登録できません。ちなみに有名な話ですが、今多くの方々が使っている「宅急便」という言葉は、ヤマトホールディングスの登録商標であり、普通名称は「宅配便」です。他にも、「プラモデル」、「万歩計」、「ラジコン」、「セロテープ」、「サランラップ」、「ポリバケツ」なども、一般的な名称と認識されている方もいるかもしれませんが、いずれも登録商標です。

 <2>の「慣用商標」とは、元々は他人の商品または役務(サービス)と区別できる商標であったものが、同種類の商品または役務(サービス)について、同業者間で普通に使用されるようになってしまったため、もはや自己の商品または役務(サービス)と区別することができなくなった商標のことをいいます。例えば、ホテルのような「宿泊施設の提供」という役務(サービス)に「観光ホテル」という商標は登録できません。「観光ホテル」はホテル業界では既に普通に使用されているからです。清酒として使われる「正宗」という言葉なども同様です。

 <3>の「記述的商標」とは、商品の産地や品質、役務(サービス)の提供場所や質などを表示したものをいいます。例えば、「チーズ」という商品に「北海道」という商標、「自動車」という商品に「エクセレント」という商標、「飲食物の提供」という役務(サービス)に「東京渋谷」という商標、「入浴施設の提供」という役務(サービス)に「疲労回復」という商標を出願しても登録できません。ただし、産地名を表示した記述的商標に過ぎないものでも、広く認識されているなどの一定の要件を充足する場合には、「地域団体商標」として登録できる場合もあります。例えば、「関あじ」、「松阪牛」、「静岡茶」、「小田原蒲鉾かまぼこ」、「江戸切子」、「京友禅」、「有馬温泉」などが「地域団体商標」として登録されています。

 <4>の「ありふれた氏または名称」とは、例えば、電話帳において同種のものが多数存在するようなもので、例えば、「山田」や「鈴木」等が該当します。また、ありふれた氏に「株式会社」、「商店」、「研究所」等を結合したものは、ありふれた名称に含まれます。

 <5>の「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」とは、審査基準では、仮名文字1字、数字、ありふれた輪郭(○、△、□、◇等)、ローマ字の1字または2字のもの等が該当するとされています。

 <6>の「これらの他、識別力がないもの」としては、キャッチフレーズや現元号の「平成」等が例として挙げられています。なお、キャッチフレーズやスローガンについては、特許庁が、商標審査基準を改める方針を明らかにしています。今後(2016年4月以降)、CMなどを通じて広く知られているキャッチフレーズなどは、商標登録が認められやすくなることが期待されます。

音商標の場合も同様の制限が

 音商標の場合も、商標であることに変わりはありませんので、登録されるためには、「自他商品・役務の識別力」がなければならないので、上記に該当するような音商標は登録することができないことになります。

 すなわち、商品または役務(サービス)の普通名称、慣用商標、ありふれた氏を読み上げたに過ぎないものや単音や、これに準ずる極めて短い音などは登録できません。

 商標審査基準によれば、例えば、「焼き芋」という商品に「石焼き芋の売り声」の音商標、「屋台における中華そばの提供」という役務(サービス)に「夜鳴きそばのチャルメラの音」の音商標は、<2>の慣用商標に該当し、登録できないとされています。

 また、商標審査基準によれば、次のようなものは、<3>の記述的商標に該当して登録できないものとされています。

 i)商品が通常発する音として、a)商品から自然発生する音、例えば、「炭酸飲料」という商品に「『シュワシュワ』という泡のはじける音」やb)商品の機能を確保するために通常使用される音または不可欠な音、例えば、「目覚まし時計」という商品について、「『ピピピ』というアラーム音」

 ii)役務(サービス)の提供にあたり通常発する音として、a)役務の性質上、自然発生する音、例えば、「焼肉の提供」という役務について、「『ジュー』という肉が焼ける音」、b)役務の提供にあたり通常使用されるまたは不可欠な音、例えば、「ボクシングの興業の開催」という役務について、「『カーン』というゴングを鳴らす音」

さらに、<6>「これらの他、識別力がないもの」に該当するか否かについては、音の商標を構成する音の要素(音楽的要素、自然音等)及び言語的要素(歌詞等)を総合して判断されることとされています。

 そして、次のような音の要素のみからなる音商標については、「自他商品・役務の識別力」が認められないため、原則として、登録できないものとされています。

 i)自然音を認識させる音。この自然音には、風の吹く音や雷の鳴る音のような自然界に存在する音のみならず、それに似せた音、人工的であっても自然界に存在するように似せた音も含まれるとされています。

 ii)需要者にクラシック音楽、歌謡曲、オリジナル曲等の楽曲としてのみ認識される音。例えば、CM等の広告において、BGMとして流されるような楽曲は登録できません。

 iii)商品の機能を確保するためにまたは役務(サービス)の提供にあたり、通常使用されずまた不可欠でもないが、商品または役務(サービス)の魅力を向上させるにすぎない音。例えば、「子供靴」という商品に「歩くたびに鳴る『ピヨピヨ』という音」は音商標として登録できません。

 iv)広告等において、需要者の注意を喚起したり、印象付けたり、効果音として使用される音。例えば、「焼肉のたれ」の広告における「ビールを注ぐ『コポコポ』という効果音」やTVCMの最後に流れる「『ポーン』という需要者の注意を喚起する音」等は、音商標として登録できません。

 v)役務(サービス)の提供の用に供する物が発する音。例えば、「車両による輸送」という役務に「車両の発するエンジン音」、「コーヒーの提供」という役務に「コーヒー豆をひく音」等は、音商標として登録できません。

皆が認識しているものなら例外的な取り扱いも

 このような商標審査基準からすると、今回登録された音商標の中でも、なぜ登録が認められたのか疑問に思われるものもあるかもしれません。

 例えば、花王がTVCM等で使用している「ビオレ」というメロディーと音声は、3音3文字であり、「単音やこれに準ずる極めて短い音」に該当する可能性もありそうに思えます。しかし、使用をされた結果、需要者が何らかの業務に係る商品又は役務(サービス)であることを認識することができるに至っているものについては、商標として登録できるとされています。「ビオレ」という音商標の場合、たとえ単音やこれに準ずる極めて短い音に該当したとしても、「ビオレ」が文字の商標として花王によって商標登録されており、文字の商標として識別力があるため、音商標としても、需要者が「ビオレ」という音を聞いた場合、花王の「ビオレ」という商品を認識することができるに至っているとして、登録が認められたのではないかと考えられます。

 他方、既にご紹介した、現在出願されている音商標の中には、商標審査基準からすると、登録が認められないのではないかと思われるものもありそうです。

 永谷園は、お茶づけ海苔などを振り掛ける「カサッカサッ」という音を、「ふりかけ」等の商品について出願していますが、商標審査基準で登録が認められないとされている「極めて短い音や商品から自然発生する音」に該当するとも考えられそうです。登録されるかどうかは、需要者が「カサッカサッ」という音を聞いた場合に、永谷園のお茶づけの音だと認識するまでに至っていると判断されるかどうかが問題となり、至っていると判断された場合には、「自他商品・役務の識別力」を有しているとして、音商標として登録され得ることになります。

 その他の商標も含め、今後、特許庁がどのような判断をするのか注目されるところです。

他人の権利を害さないこと

 商標権は商標を独占的に使用できる強力な権利であるため、他人の権利を不当に害すると考えられる場合には登録が認められません。

 具体的には、以下のようなものは登録できないものとされています。

 <1>他人の登録商標と類似しているもの

 <2>周知・著名商標と類似していて混同を惹起するもの

 <3>他人の著名な商標の盗用であるもの

 <4>他人の氏名等と同一のもの

 音商標も、先に出願され登録された他人の音の商標と類似している場合には登録できません。

 商標の類似性の判断について、最高裁判所は、次のように判示しています(昭和43年2月27日判決)。

 「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。……商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従って、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない」

 音商標の類似性の判断は、音商標を構成する音の要素(音楽的要素であるメロディー、ハーモニー、リズムまたはテンポ、音色等及び自然音等)及び言語的要素(歌詞等)を総合し、商標全体として考察されることになります。

公の利益を害さないこと

 この点は言うまでもないでしょうが、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがある商標は登録が認められません。

 音商標に関しても、国歌(外国のものを含む)を想起させる場合や、我が国でよく知られている救急車のサイレン音を認識させる場合などには公序良俗に反するとして登録できないとされています。

商標権侵害

 商標権が侵害されている場合には、商標権者は、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置請求(謝罪広告の掲載等)、不当利得返還請求などを行うことができ、また商標権侵害者は刑事罰に問われることもあります。

 しかし、他人が登録された音商標を「商標として」、つまり商品または役務(サービス)の出所を表示する態様で使用していない場合には、商標の出所表示機能が害されることにはならないので、商標権侵害とはなりませんので注意が必要です。

その他の新しい商標

 商標法改正により、新しい商標として登録可能になった商標として「音商標」が注目を集めていますが、それ以外にも、「動き商標」、「ホログラム商標」、「位置商標」、「色彩のみからなる商標」なども認められました。今回、音商標21件とともに、16件の動き商標、1件のホログラム商標、5件の位置商標の登録が認められています。ただ、色彩のみからなる商標については、今回は登録が認められていません。

 「動き商標」とは、文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標で、例えば、テレビやコンピューター画面等に映し出される変化する文字や図形などがこれにあたり、今回、東宝映画の始めにスクリーンに浮き出てくる東宝のマーク等16件の登録が認められています。

 「ホログラム商標」とは、文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標で、例えば、見る角度によって変化してみえる文字や図形などがこれにあたり、今回、三井住友カードのプレミアムギフトカードのホログラム1件の登録が認められています。

 「位置商標」とは、図形等の商標であって、商品等に付す位置が特定されている商標で、今回は、エドウインのズボンの後ろポケットの左上方に付ける赤い長方形のタブ等5件の登録が認められています。

 「色彩のみからなる商標」とは、単色又は複数の色彩の組み合わせからなる商標で、例えば、商品の包装紙や広告用の看板に使用される色彩などがこれにあたりますが、今回登録が認められた商標はありませんでした。

 なお、どのような新しい商標が出願されているかは、独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営する特許情報提供サービスサイト「特許情報プラットフォームJ-PlatPat」で検索することができるようになっていますので、興味のある方は検索してみて下さい。

今後の企業における商標活用

 特許庁も指摘するように、今回の法改正で認められた「音商標」、「動き商標」、「ホログラム商標」、「位置商標」、「色彩のみからなる商標」を、企業は、言語を超えたブランド発信手段ととらえ、今後のブランド戦略に積極的に活用していくと思われます。

 赤い靴底で有名なフランスの靴ブランド「クリスチャン・ルブタン」が、靴底に赤い色を用いるデザイン(レッドソール)を同社独自の商標と認めるよう主張していた裁判で、ニューヨークの連邦高裁が商標と認める判断を示したとのニュースは、日本でも大きな話題になりましたが、今後は、日本でも、同様に話題性のある商標が社会的な注目を集めるかもしれません。

 さらに、前述のように、従来は基本的に認められていなかった、キャッチフレーズやスローガンについても、特許庁が、商標審査基準を改めて、16年4月以降、商標登録しやすくなるとされています。そうなると、ダイハツが「Innovation For Tomorrow」を商標登録するのに苦労した当時とは異なって、容易に企業スローガンを登録できるようになることが期待されます。

 今後は、従来以上に、企業が、商標を活用し、いかにして社会に自社の商品やサービスをアピールしていくかが競われていくことになりそうです。

 

2015年11月11日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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