マイナンバー制度いよいよ開始 どう対応すれば良い?

相談者 AKさん(54)

 私は、食品会社で経理課長をしています。国民や企業に番号を割り当てるマイナンバー制度が10月から始まり、社内でも話題になっています。先日も、パートの女性従業員からこんなことを聞かれました。

 「マイナンバー制度を悪用した詐欺があるってニュースで見ましたよ。個人情報の漏えいとか怖いし、パートだから通知が来ても会社に番号を知らせなくていいですよね」

 「いや…、確か従業員は全員対象だったはずだが」

 返答に困っていると、女性は「だって住所や収入だけじゃなく、通院歴や光熱費とか生活実態が筒抜けになっちゃうっていううわさですよ……。そんな大事な情報、うちの会社でちゃんと管理できます?」と不安そうでした。

 来年からは、給与からの源泉徴収や社会保険の加入などでマイナンバーの利用が本格的に始まるそうです。今後、従業員とその扶養家族の番号を集め、必要書類に記載し、厳重な管理をしなければいけないようですが、わが社では担当者もまだ決まっていなければ、管理体制もとても万全とは言えない状態です。

 実を言うと、私自身、この制度の細かい内容や、それによってどんな影響があるのか十分に理解しているとは言えません。

 でも、先日の新聞では、そろそろ、マイナンバーが記載された通知カードが各家庭に届くということであり、それが届けば従業員からの問い合わせもありそうですし、さすがに、もう準備を始めないと手遅れになってしまう気がして、焦りが募るばかりです。

 マイナンバー制度の内容と、これから何をしなければならないかを詳しく教えてください。

 

(回答)

いよいよ動き出したマイナンバー制度

 いよいよマイナンバー制度(社会保障・税番号制度)が10月5日から始まりました。制度導入に伴い、国民一人ひとりに12桁の番号(マイナンバー)が割り当てられ、来年1月から、「社会保障」、「税」、「災害対策」の3分野で行政手続きに利用されることになります。この制度は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(いわゆる「マイナンバー法」)に基づくものです。

 マイナンバーを使った行政手続きが広がれば、国民は役所に提出する書類が減り、国は年金の不正受給や脱税などの不正行為を防ぎやすくなるなどのメリットがあると言われています。一方で、その情報が漏れてしまった場合には、重大なプライバシーの侵害や悪用が起きる危険性もはらんでいます。

 マイナンバー制度の開始にあたっては、自治体や行政機関だけでなく、中小企業も含めた全ての民間企業において対応が必要となりますが、報道によれば、中小企業でマイナンバー制度への準備を整えたところは、いまだに、わずか7%程度とのことであり、相談者の勤める企業のように、その体制整備が急務となっています。

住民登録地に送付

 相談者も指摘されているように、マイナンバーが記載された「通知カード」は、10月5日時点で住民登録している場所に、家族分まとめて世帯ごとに簡易書留で送られます。

 政府は、カードの届く時期について、10月20日頃から11月中になるとの見通しを発表しており、まだ皆さんのところには届いていないと思います(大都市ほど遅くなる見通しとのことです)。

 また、市区町村によって発送時期が異なりますので、知り合いのところに届いているのに自分のところに届いていないと心配する必要は必ずしもありません。

 ただ、なかなか通知カードが届かず心配という人は、市区町村ごとの発送状況が、個人番号カード総合サイトで確認できるので、そちらを閲覧してもよいかと思います。

 同制度は10月5日時点で住民票がある人のすべてが対象ですから、赤ちゃんも含みます。外国人でも日本で住民登録していれば番号が割り当てられますが、日本人であっても、日本に住民票がない場合は、帰国して住民登録しないと番号は割り当てられません。

 そして、この番号は、漏えいして不正利用される恐れがある場合を除いて、生涯同じ番号を使い続けることが前提となっており、住民票を移しても変わることはありません。

 なお、この「通知カード」と、いわゆる「マイナンバーカード」(個人番号カード)は異なります。通知カードには、マイナンバーカードの申請書(「個人番号カード交付申請書」)が付いており、それによって申請すると、顔写真が入ったマイナンバーカードが無料で交付されることになっています。

 マイナンバーカードは、運転免許証などと同様に身分証明書として利用でき、今後、自治体によっては公立図書館の貸出カードや印鑑証明書など様々な用途に広がることが想定されます。

早くも悪用事例が

 相談者の勤める企業では、まだマイナンバー制度への対応が終わっていないとのことですが、今まさに、中小企業での対応の遅れが問題とされています。中小企業の対応が遅れている大きな要因としては、マイナンバー制度への世間の理解が十分に進んでいないという点があげられます。

 内閣府が今年7月から8月に実施した調査では、「制度の内容まで知っている」という回答は、43.5%にとどまりました。いまだに国民の半数以上が、制度を十分理解していない状況にあります。そして、今回のマイナンバー制度のように、世間で広く話題になっている反面、その内容について理解が十分に浸透していない状況の時、往々にして、その歪みを利用した犯罪が発生します。

 消費者庁が10月6日、具体的な被害例を公表すると、新聞各紙は、「マイナンバー詐欺被害」「消費者庁 不審電話、注意呼びかけ」「マイナンバーで詐欺被害初確認」などの見出しで報じました。

 その被害とは次のようなものです。

 「公的な相談窓口を名乗る者から電話があり、偽のマイナンバーを教えられた。その後、公的機関に寄付をしたいという別の男性から連絡があり、そのマイナンバーを貸してほしいと言われたので教えた。翌日、『マイナンバーを教えたことは犯罪に当たる』と寄付を受けたとする機関を名乗る者から言われ、記録を改ざんするため金銭を要求され、現金を渡してしまった」

 このほかにも、消費者庁には、マイナンバー制度に関連して、以下のような、様々な相談が寄せられているとのことです。

 <1>行政機関を名乗って、「マイナンバー制度が始まると手続きが面倒になるので、至急、振込先の口座番号を教えてほしい」との電話があった。

 <2>「マイナンバー制度の導入に伴い、個人情報を調査中である」と言って、女性が来訪し、資産や保険の契約状況などを聞かれた。

 <3>知らない業者から「マイナンバーを管理します」という電話があった。「専門家が管理するのか」と尋ねたところ、「私が管理する」と言ったので、不審に思い、電話を切った。

 <4>若い男性から「マイナンバーが順次届いており、みんな手続きをしているが、あなたは手続きをしているか」との電話があった。「まだ手続きをしていない」と答えると、「早く手続きをしないと刑事問題になるかもしれない」などと言われ、不審に思い、すぐに電話を切った。

 <5>「対応しないと高額の罰金が科されるから契約するように」と迫り、商品販売や相談業務契約等を強引に取り付けようとする電話があった。

 <6>「マイナンバー制度が始まると金融機関に登録されている個人情報に訂正がある場合は取り消さなければならない」という電話があった。

 <7>電話で、国の行政機関をかたり、マイナンバー制度のアンケートとして、家族構成や年金受給者かどうかを聞かれた。

国民生活センターも注意喚起

 国民生活センターも以下のような注意喚起を行っています。

 「10月からマイナンバーが通知されることに関連して、『口座番号を教えてほしい』『個人情報を調査する』などといった不審な電話等に関する相談が全国の消費生活センターに寄せられています。マイナンバー制度に便乗した不審な電話はすぐに切り、来訪があっても断ってください」

 「少しでも不安を感じたら、すぐにお近くの消費生活センター(消費者ホットライン「188」)や警察等に相談してください」

 このように、制度導入早々、何かと話題にされることが多いマイナンバー制度ですが、企業ばかりでなく、国民一人ひとりがこの制度をきちんと理解しないと、上記のような詐欺被害は今後もなくなりません。さらに、マイナンバーを管理する企業の側も、番号の取り扱いを誤ると、取り返しのつかない大きなダメージを受けることになりかねません。

 そこで、以下、マイナンバー制度の概要と、国民各人や企業が求められる対応について解説したいと思います。

制度導入の目的

 これまで、市役所や税務署、年金事務所などの公的機関は、それぞれの方法で個人情報を管理していました。今回導入されたマイナンバー制度は、日本に住民票があるすべての人に固有の番号を振り、その番号で各機関の情報をひも付けすることで、複数機関での情報共有を可能とする制度です。それによって次のようなことが期待されます。

 <1>公的機関での情報の照会や入力などに要する時間や労力が削減される(行政の効率化)。

 <2>社会保障や税関係の申請時に添付書類が省略されるなど手続きが簡素化され、国民の負担が軽減される(国民の利便性の向上)。

 <3>所得や他の行政サービスの状況が把握しやすくなり、負担を不当に免れることや不正受給を防止する(公平・公正な社会の実現)。

 さらに、来年1月以降は、前述のように、希望者は、自治体に申請すれば無料でマイナンバーカードの交付を受けることができます。カードには、マイナンバー、氏名、住所、性別、生年月日のほか、これらの情報を記録したICチップが埋め込まれます。顔写真付きなので、公的な身分証明書としても使うことが可能です。

暮らしはどう変わる

 制度の導入で私たちの生活はどう変わるのでしょうか。

 例えば、年金を申請する場合、現在は市区町村で住民票や所得証明書を手に入れてから年金事務所で手続きする必要があります。今後は、年金事務所でマイナンバーを示せば申請できるようになります。児童手当や生活保護など福祉の給付などでも、提出する証明書が減り、手続きが簡素化されます。

 なお、冒頭で述べたように、もともとの「マイナンバー法」は、「社会保障」「税」「災害対策」の3分野で行政手続きに利用されることを規定していましたが、この9月3日には、その活用範囲を拡大する「改正マイナンバー法」が成立し、健康保険組合や自治体が持つ特定健診(メタボ健診)、予防接種の記録も、マイナンバーと結びつけ、転職や引っ越し後も円滑に引き継ぐことができるようになりました。2018年からは、預金口座にも任意で番号を適用することなども盛り込まれました。

 また、17年1月には、インターネット上に個人用のホームページ「マイナポータル」(「情報提供等記録開示システム」)が開設される予定です。これは、「消えた年金記録問題」のようなことが起こらないように、自分の年金や税金の払い込みの記録をチェックしたり、自分の個人情報がいつ、どのように提供されたか(マイナンバーの利用履歴)などを確認できたりする仕組みです。

 政府は、マイナポータルを利用して、引っ越しなどの官民横断的な手続きのワンストップ化や納税手続きをオンラインで簡単にできるようにする仕組みの構築を目指しています。

 今後、国民は、年金・雇用保険・医療保険の手続き、生活保護・児童手当など福祉の給付、確定申告などの税の手続きなど様々な場面において、申請書にマイナンバーの記載を求められることとなります。

 民間企業は、従業員の健康保険や厚生年金の加入手続きを行ったり、従業員の給料から源泉徴収して税金を納めたりしています。証券会社や保険会社などの金融機関でも、配当金や保険金などの税務処理を行っています。来年1月以降、これらの手続を行うためにマイナンバーが必要となるため、すべての企業がマイナンバー制度への対応を迫られることになるわけです。

 その結果、会社員は、年内にも、正社員、パート、アルバイトを問わず、配偶者や子どもなど扶養家族の分も含めて、マイナンバーを勤務先から聞かれることになります。これは、原稿料や講演料など、一時的な収入を得ている場合でも同様です。それによって、企業は、来年から源泉徴収や健康保険などの手続きに、マイナンバーを利用することができるようになるわけです。

マイナンバー利用の厳しい制限

 マイナンバーを使って、情報のマッチングが行われた場合、重大なプライバシーの侵害を招きかねません。そのため、マイナンバー法では、番号の利用、収集、提供において厳格な制限を設けています。

 マイナンバー法では、「マイナンバーやマイナンバーを含む個人情報」(これを「特定個人情報」と言います)が利用できる範囲を明確に定めており、それ以外の目的で利用できません。

 特定個人情報は、通常の個人情報とは異なり、「本人の同意」があったとしても目的外の利用が禁じられているので、取り扱いに注意が必要です。例えば、社員番号として勤怠管理や営業成績管理に使う、顧客情報の管理に使うといったことは、認められていません。

 なお、企業において、具体的にマイナンバーの利用が想定されているのは、以下のようなケースです。

 <1>健康保険・厚生年金保険届出事務

 <2>国民年金第3号被保険者届出事務

 <3>雇用保険届出事務

 <4>労働者災害補償保険法に基づく請求事務

 <5>給与所得・退職所得の源泉徴収票作成事務

 <6>報酬・料金・契約金・賞金の支払調書作成事務

 <7>配当・余剰金の分配及び基金利息の支払調書作成事務

 <8>不動産の使用料等の支払調書

本人確認と利用目的の明示

 マイナンバー法では、税や社会保険・雇用保険関係の事務を処理するのに必要な場合など、法律に挙げられた場合を除いて、個人情報を収集することや、提供の要求を行うことが禁止されています。また、従業員からマイナンバーを取得するときは、(1)本人確認(2)利用目的の明示の二つを必ずしなければなりません。

 すなわち、(1)なりすまし防止のため、本人の正しい番号かどうかをきちんと確認する必要があります。マイナンバーカードを持っている場合はそれだけで確認が済みますが、持たない場合は、もうすぐ送付される通知カードとともに免許証やパスポートで本人確認をする必要があります。

 また、(2)特定個人情報には、個人情報保護法が適用されるため、マイナンバーを取得するときは、利用目的を本人に通知、または公表しなければなりません。複数の利用目的をまとめて明示することは可能ですが、後から利用目的を追加することはできません。

 例えば、「厚生年金保険届出事務」とのみ目的を定めてマイナンバーを取得した場合、「源泉徴収票作成事務」には利用できません。従って企業は、該当する手続きを確認し、網羅的に明示しておく必要があります。

 さらに、マイナンバー法は、特定個人情報を第三者へ提供することを原則として禁止しており、事業主が特定個人情報を第三者へ提供できるのは、法律に定められている場合に限定されます。

 具体的に、税や社会保障関係事務以外で特定個人情報の提供が認められるケースは以下のような場合などです。

 <1>特定個人情報の取り扱いを委託している場合、または合併などによる事業の継承に伴う場合。

 <2>特定個人情報保護委員会(番号に関する監督組織)からの情報提供の求めがあるとき。

 <3>各議院審査、裁判手続きなど、公益上の必要性があるとき

 <4>生命、身体、または財産の保護のため必要があり、本人の同意があるか

または同意を得ることが困難な場合。

 上述の<1>の通り、人事給与関係事務などマイナンバー関連の事務を外部に委託することは可能ですが、マイナンバー法では委託者の許諾のない再委託は禁じられています。また、事業者は、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければなりません。責任を持つのは、あくまで情報提供元の企業ということになります。

 ここで注意したいのが、子会社やグループ会社に従業員が出向・転籍した場合の処理です。出向元企業が従業員の番号などを出向先企業に提供することは、目的外利用となり禁止されているため、相手先はあらためて本人から番号を取得する必要があります。

 マイナンバー法は、特定個人情報の保管についても、収集と同じ規制を課しています。つまり、一度集めた番号は、法で認められた事務処理の目的でのみ保管することができます。

 マイナンバーが記載された書類のうち、所管法令によって定められた保管期限(例えば、扶養控除等申告書の法定保存期間は7年)を経過した場合は、すみやかに廃棄、削除しなければいけません。その際には、番号が復元されないよう、高性能なシュレッダーを使ったり、焼却したりしなければなりませんので、企業は、廃棄や削除の具体的な手順をあらかじめ定めておく必要があります。ただし、雇用関係にある従業員のマイナンバーは、提供を受けた以降も毎年継続的に利用する必要が認められたことから、雇用関係が続く限り、保管し続けることができます。

厳しい罰則も

 個人情報保護法では、主務大臣の是正命令や措置命令といった行政処分に従わない場合に、はじめて刑事罰が適用されていました。従って、個人情報保護法違反で逮捕または起訴された事案はこれまでほとんどないと思われます。

 これに対し、マイナンバー法に違反した行為が認められた場合、従来の個人情報保護法よりも重い罰則が科されます。

 主な罰則は以下の通りです。

<1>個人番号を含む個人情報リストのファイルなどを故意に漏えいした場合
 「4年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金またはこれらの併科」

<2>業務に関して知り得た個人番号を漏えい、盗用した場合
 「3年以下の懲役もしくは150万円以下の罰金またはこれらの併科」

<3>不正アクセスなどで個人番号を取得した場合
 「3年以下の懲役または150万円以下の罰金」

<4>特定個人情報保護委員会の業務改善命令に従わなかった場合
 「2年以下の懲役または50万円以下の罰金」

<5>特定個人情報保護委員会の検査忌避をした場合
 「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」

 そして、従業員が上記のような違反行為を行った場合、事態を引き起こした企業そのものにも同じ罰金刑が科されます。さらに、特定個人情報保護委員会により監視が非常に厳しくなっている点も、従来の個人情報保護法と大きく異なる点です。

 従って、企業としては、従来の個人情報の取り扱い以上に、情報漏えいの防止のほか、適切な管理が行われるよう組織全体での取り組みが不可欠となります。

求められる安全管理措置

 マイナンバー法は、個人番号の漏えい、滅失又は毀損きそんの防止、その他の個人番号の適切な管理のために必要な措置を講じなければならないとして、企業に対して「安全管理措置」を求めています。その安全管理措置については、特定個人情報保護委員会が公表している「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」の中で「別添 特定個人情報に関する安全管理措置」に記載されています。

 詳細な内容なので、ここでは省略しますが、企業は、マイナンバーを取り扱う事務の範囲や特定個人情報の範囲を明確化した上で、事務取扱担当者を決め、様々な安全管理措置を講じる必要があります。

 なお、原則的にはすべての事業者に安全管理措置が求められますが、100人以下の事業者(中小規模事業者)については、個人情報保護法でいう「個人情報取扱事業者」(過去半年間で取り扱う個人情報が5,000件以上の事業者)ではないなどの限定はありますが、一部の措置について、厳格な管理が少し緩和されています。

企業の準備スケジュール

 では、マイナンバー制度の運用に伴い、企業は何をすべきでしょうか。

 最初にすべきことは、対象業務の洗い出しです。マイナンバーの記載が必要な書類を確認するということです。前述したように、給与所得の源泉徴収票や、健康保険・厚生年金保険などがあります。

 次に、番号を集める必要がある人を洗い出します。対象は、正社員だけではありません。パートやアルバイト、従業員の扶養家族、弁護士や研修の講師など、報酬や講演料を払う必要がある外部の人も含まれます。

 さらに、対処方針の検討が求められます。必要な業務に合わせて、組織体制や社内規定を整備しなければなりません。担当部門、担当者も明確にする必要があります。社会保障と税の手続きを行う人事部、総務部、経理部に加え、セキュリティーを管理するシステム部門も参加する必要があります。管理場所や番号の取り扱いについての準備も必要です。新たな設備投資が必要になるケースもあると思われます。

 続けて、マイナンバー収集対象者への周知が必要です。あらかじめ、収集スケジュールを提示した上で、今後送られてくる郵便物に注意する必要を説明しなければなりません。通知カードは簡易書留で送られてきますから、配達時に留守にしていると受け取れません。その場合、郵便局で一定期間保管されますが、保管期間が過ぎると市区町村の窓口まで取りに行かなければならなくなります。特に、長期出張で住民登録地以外に滞在している人、実家に住民票を置いたままの一人暮らしの学生など、住民票と住所が違っている場合、通知カードを受け取れない可能性があります。なお、マイナンバーは厳格な管理が必要なため、社員への教育・研修を行う必要があることも言うまでもありません。

 また、多くの企業が給与計算や人事管理に社内のシステムを使っていると思いますが、市販のソフトの場合はバージョンアップ、自社システムの場合はシステムの改修を行う必要があります。委託先や社内の監督体制も再確認するべきです。

 委託先に対しては、これまで以上の安全管理対策を求めることになります。既存の委託契約書の内容を見直す、守秘義務を盛り込んだ契約を締結し直すといった対応をとった上で、定期的に相手先の現場視察や担当者の聞き取りを行うといったルールを策定する必要が出てきます。社内についても定期監査が行える体制を作っておくべきです。

 ちなみに、マイナンバー制度では、法人にも番号が割り当てられます。10月以降、国税庁から、登記上の本店所在地宛てに13桁の法人番号が通知されます。法人の支店や事業所、個人事業者には番号は割り当てられません。法人番号は、個人番号とは異なり、公表されたうえで官民問わず自由に利用可能なものとなります。

マイナンバー制度の今後

 マイナンバー制度が本格始動するのは、国と自治体のシステムがつながり、役所同士の情報共有が可能になる2017年からとなりそうです。

 個人がインターネット上で自分専用のページを持つ「マイナポータル」が、同年から稼働します。そうすると、引っ越し後の電気・ガス・水道などの住所変更が一斉にできるようになる見通しで、この制度の効果を実感できるようになると思われます。

 既にご説明したように、9月3日に成立した改正マイナンバー法は、18年から、金融機関の預金口座にも任意で番号を結び付けるなど適用範囲の拡大が盛り込まれました。課税逃れなどを防ぐことが狙いと言われています。

 マイナンバーによる預金口座の管理が進めば、資産の名寄せが容易になることから、相続にも影響が出ると言われています。従来、相続が発生した際、亡くなった人がどの金融機関にどの程度の預金をしていたかを調べる方法が限られていましたが、それが容易になるわけです。

 相続で争点となる相続財産の全体像の把握が容易になれば、相続を巡る紛争の実情が変わるかもしれません。また、金融機関が破綻した場合に預金者への払い戻しがスムーズになるなどの利点も指摘されています。

 これまで説明してきたように、マイナンバーそのものの利用には厳しい制約がありますが、マイナンバーカードで本人確認をする機能は、自治体や民間企業で幅広く利用できます。例えば、利用者は金融機関に出向くことなくネット上で公的個人認証を使って預金口座を開設し、そのまま自分の口座情報に安全にアクセスできるようになります。

 自治体は条例で定めれば、ICチップの空き領域を使って図書館カードなどの機能をつけることも可能です。将来的には、このICチップの空き領域を民間に開放する構想もあります。免許証やクレジットカードの機能を付ける、カルテや戸籍などと結びつける案なども出ており、今後、さまざまなサービスに広がる可能性があります。

情報漏えい対策が重要に

 そこで鍵となるのが、情報漏えいの問題です。制度へのしっかりとした信頼性が築けなければ、今後の利用拡大に重大な影響が出ることが懸念されます。

 先に個人番号を導入した諸外国では番号が流出し、本人になりすましてクレジットカードを作ったり、給付金を受給したりする被害が出ているとのことです。

 日本年金機構において、パソコンのウイルス感染により個人情報が流出した事件は記憶に新しいところであり、多くの人が、改めて情報管理の難しさを認識することになりました。

 政府は、税などの個人情報を1か所に集約するのではなく、各機関が保有し続ける「分散管理」を採用。単純に番号を使って情報照会、提供するのではなく、「符号」に置き換えながらやりとりする複雑なシステムを導入し、個人情報同士が直接リンクしないようにするとのことです。

 多くの国民が不安に思っている情報漏えいやそれに伴う制度の悪用に対し、万全の備えをし、その不安を払拭する努力を行うことが不可欠です。今後、制度運用が本格化していくに際して、マイナンバーに関与する、全ての自治体や行政機関、さらには企業が、情報漏えいを起こさないよう、きちんとした対応を取り続けていくことが必要です。

制度の理解へ向けての努力

 今回のマイナンバー制度の成功のためには、制度の理解へ向けての努力(広報活動)も不可欠です。

 政府による番号制度は、02年に導入された「住民基本台帳ネットワークシステム」があります。行政事務の効率化には役立ったものの、国民の理解を得られなかったこともあって、必ずしも成功したとは言えませんでした。住基ネットでも、「住民票コード」といわれる11桁の番号が使われ、当該番号が記録された「住基カード」(住民基本台帳カード)が発行されていますが、総務省によると、14年3月31日時点でカードの交付状況は、全体の約5%にとどまっています。

 ちなみに、今後のマイナンバーカードの交付に伴って、住基カードの新規発行は終了し、住基カードとマイナンバーカードを両方所有することはできず、マイナンバーカードを交付する際には、住基カードを回収することになるとのことです。

 今後、マイナンバー制度、及びそれに伴うマイナンバーカードが、国民に広く活用されるためには、住基カードの反省を踏まえて、政府が新制度の仕組みを十分に国民に周知徹底し、その理解を進める努力を行う必要があります。また、自治体や行政機関だけでなく、中小企業も含めた全ての民間企業も、国任せにするのではなく、制度の普及に協力していく必要があると思われます。

 

2015年10月14日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


Copyright © The Yomiuri Shimbun