改正派遣法成立 派遣労働者にとって有利?不利?

相談者 AHさん(56)

 私は、現在、派遣社員として働いている主婦です。派遣先はメーカーの経理部門で、給与計算の補助をパソコンでやっています。パソコン操作はなかなか慣れませんが、職場の雰囲気は気に入っています。

 ところで、今国会において、労働者派遣法改正案が成立したんですね。この法律は自分に直接関わることでもあり、興味をもって新聞記事などに目を通しています。

 ただ、そこで不思議に思ったのは、法律の内容についての評価が、立場によって全く違っていることです。本当に、同じ法律の話をしているの?と感じてしまいます。

 今回、実際に法律が成立したわけですが、果たして改正が私たち派遣社員にとって、良いものなのか悪いものなのか正直言ってよく分かりません。

 安倍首相は今回の改正について、「派遣の道を選んでいる方々には待遇を改善し、正社員の道を希望する方々にはその道を開くための法案だ」と説明しています。もし、その通りであれば私にも正社員への道が開けてきそうなので期待できます。

 他方、今度の法改正には大きな問題があるとして、野党の民主党などは反対し、労働組合からも反対の声が上がっているようです。連合の会長などは、「世紀の大悪法だ」とまで言っていると、新聞に書いてありました。

 世間では今回の改正について、業務を派遣社員に任せられる期間がこれまでの「最長3年」から見直され、受け入れ期間の上限を全業務についてなくし、企業が3年ごとに人を入れ替えて同じ業務をずっと派遣労働者に任せられるようになることに注目が集まっているようです。

 ただ、それだけだと、私のように専門業務についている訳ではない普通の派遣労働者にとっては、そんなに大きな変化があるようにも思えません。そこで、その他の部分も含めて、今回の法改正の内容と問題点を教えてくれますか。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)。

(回答)

派遣法改正案が成立

 安倍首相が進める労働法改革の柱の一つとなる「労働者派遣法」の改正案が11日、国会で成立しました。今月30日から施行されます。労働者派遣法の改正案は、これまで2度国会に提出されながらいずれも廃案となり、今国会でようやく成立したわけです。

 今回の改正法のポイントは、立場の違いによってメディアごとに取りあげ方が異なっていますが、大きく次の4点にまとめられると思われます。

 (1)企業は原則最長3年だった派遣社員の受け入れ期間を延長できる(人が代われば同じ仕事をずっと派遣社員に任せることができる)。

 (2)派遣期間の制限がなかったソフトウェア開発、事務用機器操作、通訳、秘書などの26業務の制度は廃止する(仕事の内容に関わりなく、個人の期間制限を同じにする)。

 (3)派遣社員が同じ事業所で働き続けるためには3年ごとに課を変える必要がある(一人の派遣社員が同じ課で働くことができるのは原則3年まで)。ただし、派遣会社に無期雇用されればずっと同じ課で働くことができる。

 (4)派遣会社は全て許可制にして悪質な派遣会社を排除するとともに、派遣会社に、派遣終了後も雇用の継続に努めるなど、雇用安定のための措置を義務づける。

労使間で評価に大きな乖離

 厚生労働省の資料によれば、今回の派遣法改正は、2012年における改正の付帯決議を踏まえて、派遣労働者の一層の雇用の安定、保護等を図るために、全ての労働者派遣事業を許可制にしました。それとともに、派遣労働者の正社員化を含むキャリアアップ、雇用継続を推進し、派遣先の事業所等ごとの派遣期間制限を設ける措置を講ずるものとされています。

 今回の改正を受けて、塩崎厚生労働相は11日の閣議後の記者会見の場で、「正社員になりたい方にはその可能性を高め、派遣であえて働こうとする方々には処遇を改善しやすいようにするための法律だ」と発言しています。経済界も今回の法改正を歓迎しており、経団連の榊原会長は、「経済界にも派遣業界にも、派遣労働者にもプラスの多い改正だ」と述べました。

 日本商工会議所の三村会頭は、「派遣労働者のキャリアアップも強化されており使用者側、労働者側の双方にメリットがある」とコメントしています。

 他方、過去、野党の抵抗で2度廃案となったことからもお分かりのように、労働界などからは根強い反対もあります。

 連合の古賀会長は「低賃金で働く者を増やす。世紀の大悪法だ」と批判しています。

 民主党も、HPに「労働法改悪STOP!」という記事を掲載。労働者法改悪のポイントとして、派遣社員の受け入れ期間の制限を事実上撤廃、派遣社員の待遇改善措置は実効性なしの2点を挙げ、「派遣社員の受け入れ期間制限を事実上撤廃して、『“生涯”派遣』の若者を増やすことにつながります」などと指摘しています。

 このように、今回成立した改正労働者派遣法に対する評価は大きく分かれており、相談者が戸惑うのも理解できます。そこでまずは、成立した改正法の具体的内容から説明し、その後、どうしてこのような評価の乖離かいりが生まれたのか説明していきたいと思います。

改正内容1-より分かりやすい派遣期間規制への見直し

 改正におけるこの部分が、「『最長3年』見直し」「受け入れ期間実質撤廃」などとしてメディアで大きく取りあげられているものです。

 現行法では、ソフトウェア開発、事務用機器操作、秘書、通訳など、業務を迅速かつ的確に行うために専門的知識や技術を必要とする業務、または特別の雇用管理を必要とする業務として、派遣法施行令で「専門26業務」が定められています。指定された業務については、派遣期間の制限はありませんでした。

 他方、「専門26業務」以外の業務は、派遣期間の上限が定められていました。この期間は原則として上限1年で、過半数組合等への意見聴取により上限3年まで延長可能となっていたのです。

 このように派遣期間が制限されていた理由は、労働者派遣事業は常用雇用の代替のおそれが少ないと考えられる「臨時的・一時的な労働力の需給調整のためのシステム」として位置づけられていたからです。

 つまり、派遣事業は、利用の仕方如何いかんによっては、正社員としての雇い入れが減少し、安定した雇用機会の確保が難しくなり、長期雇用慣行を前提とした企業への帰属意識の減退、技術革新への柔軟な対応ができないなど、我が国の雇用慣行に悪影響を及ぼすと考えられたわけです。

 そのため、派遣先の正社員の代替防止のために、派遣期間が制限されていました。それに対して、「専門26業務」であれば、その専門性などから独自の外部労働市場が形成されており、派遣先の正社員の代替を促進する要素に乏しいという考えから、期間制限は設けられていなかったわけです。

 しかし、実際の派遣現場では、「専門26業務」か、それ以外の業務かは曖昧なケースが少なくありません。専門性の内容は、時代とともに変化するため、何が正社員の代替の恐れのない専門的な業務であるかという判断基準を明確に定めることが難しいとの指摘がなされ、制度的にも分かりにくいものとなっていました。

 例えば、「専門26業務」の中の一つである「事務用機器操作」に従事する者は、「オフィス用コンピュータの操作に適した専門的な技能・技術を十分に持つ者」です。同様に「ファイリング」は、「高度の専門的な知識、技術又は経験を利用して分類基準を作成した上で、当該分類基準に沿って整理保管を行う者」に限られています。しかし、これらの業務は一般事務と混同されやすい問題点がありました。

 派遣可能期間の制限を免れることを目的として、契約上は「専門26業務」と称しつつ、実態はその解釈を歪曲わいきょく、拡大して運営されている事案が散見されました。その対策として、厚生労働省は2010年に、「期間制限を免れるために専門26業務と称した違法派遣への厳正な対応(専門26業務派遣適正化プラン)」を発表しています。

 従来から、もはや実態に合わないとの指摘があり、「専門26業務」を廃止して、全ての業務に共通のルールを適用する制度が設けられることとなったのです。

期間制限のルールの変更

 具体的には、派遣労働者が派遣会社との間で「有期の雇用契約」を締結している場合(無期の雇用契約の場合は後述)には、(1)派遣先事業所(派遣労働者を受け入れる事業所)ごとに課せられる「事業所単位の期間制限」(2)派遣労働者ごとに課せられる「人単位の期間制限」という切り口の異なる二つの期間制限が設定されています。

 (1)派遣先事業所単位の期間制限

 派遣先の同一の事業所(ここでいう「事業所」とは、本社、支社、工場などのことを意味します)における派遣労働者の受け入れは、3年が上限とされます。これは、3年を限度として延長(再延長)することが可能ですが、その場合には、派遣先の過半数労働組合などからの意見聴取が必要とされ、意見があった場合には対応方針などの説明義務が課されます。

 (2)派遣労働者個人単位の期間制限

 派遣先の同一の組織単位(企業における「課」)における同一の派遣労働者の受け入れは3年が上限とされます。つまり、同じ人の同じ「課」への派遣は3年が上限とされます。他方、同じ人であっても、派遣先の「課」を変えた場合は、3年を超えて同じ人を派遣として受け入れることができます。なお、その場合は、(1)と異なり、過半数労働組合などからの意見聴取の必要はありません。この制限は、様々な仕事を経験することにより、派遣社員の能力開発につなげる狙いがあるとされています。

 他方、派遣先の企業は、同じ「課」でも3年ごとに人を入れ替えれば、同じ仕事をずっと派遣社員に任せられるため、改正反対派からは後述のように、正社員を派遣労働に置き換える企業が増えると批判されているわけです。

 つまり、企業の側から見れば、3年ごとに人を入れ替えて、労働組合の意見を聞くという手順を踏む限りにおいて、同じ業務をずっと派遣労働者に任せることができます。しかし、派遣労働者の側から見れば、従来は一定の専門業種であれば同じ職場で働き続けることができたのに、3年ごとに課を変えなければ同じ事業所で働き続けることができなくなるわけです。

 ちなみに、今回の改正ですが、施行日以降に締結または更新される労働者派遣契約では、すべての業務の派遣期間にこの制限が適用されます。施行日時点で既に締結されている労働者派遣契約については、その契約が終了するまで改正前の法律が適用となります。

 なお、派遣労働者が派遣会社との間で「有期の雇用契約」を締結している場合と異なり、「無期雇用」の派遣労働者は期間制限の例外とされています。つまり、派遣労働者が、派遣会社との間で「無期の雇用契約」を締結している場合、派遣期間には制限がありません。そのため、無期雇用を増やす意向を示す派遣会社も出てきています。

 以上より、改正後は、「専門26業務」による区分は廃止され、原則として、派遣労働者が「無期雇用」か「有期雇用」かによって、期間制限の有無が区分されることとなります。なお、60歳以上の高齢者、日数限定業務、有期プロジェクト業務、休業代替業務で受け入れる場合も期間制限の例外とされています。

改正内容2-許可制による派遣事業の健全化

 現行法における労働者派遣事業は、「特定労働者派遣事業」と「一般労働者派遣事業」とに分類されています。

 特定労働者派遣事業とは、派遣元に常時雇用される労働者を他社に派遣する形態であり、厚生労働大臣への「届出制」となっています。一方、一般労働者派遣事業とは、派遣元に常時雇用されていない労働者(自社の非正規雇用社員、登録型派遣)を他社に派遣する形態で、厚生労働大臣の「許可制」となっています。

 しかし、一般労働者派遣事業の許可要件を満たせないため、特定労働者派遣事業と偽って、一般労働者派遣事業を行うといった悪質な派遣会社が存在するとの問題が以前から指摘されていました。また、派遣会社において有期雇用を反復更新で、常用雇用とみなされている労働者もおり、このような労働者の雇用が必ずしも安定していない点も問題とされてきました。

 そこで、今回の改正では、派遣事業の健全化を図るため、全ての労働者派遣事業を「許可制」にするとともに、、キャリア形成支援制度を持つことが派遣事業の許可要件として追加されました。

 ただし、経過措置として、施行日(平成27年9月30日)時点で特定労働者派遣事業を行っている(届け出をしている)事業主は、施行日から3年間は許可を受けなくても、引き続き「派遣労働者が常時雇用される労働者のみである労働者派遣事業」(現在の特定労働者派遣事業)を行うことができるとされています。また、小規模な派遣会社に対しては、新たな許可要件のうち、事業の財産的基礎となる資産要件等について、一定の軽減を行うこととされています。

改正内容3-派遣労働者の雇用安定とキャリアアップ

 これまでは、派遣労働者が派遣期間の上限で雇い止めになるケースも多く、雇用の継続が保証されていないという問題が指摘されていました。厚生労働省による平成24年(2012年)派遣労働者実態調査では、派遣労働者の今後の働き方の希望として、43・2%が、「派遣社員ではなく正社員として働きたい」と回答しており、正社員になるためのキャリアアップも必要であるとされてきました。

 今回の改正で、派遣労働者の雇用を継続するため、また派遣労働者の正社員化を含むキャリアアップのために、派遣会社に対して、以下の措置を取ることが義務付けられました。

 (1)派遣労働者に対する計画的な教育訓練や、希望者へのキャリア・コンサルティング

 (2)派遣期間終了時の派遣労働者の雇用安定措置 この雇用安定措置とは、雇用を継続するための措置であり、(1)派遣先への直接雇用の依頼、(2)新たな派遣先の提供、(3)派遣会社での無期雇用、(4)その他安定した雇用の継続を図るために必要な措置とされています。

 派遣会社が、上記(1)及び(2)の義務に違反した場合は、派遣事業の許可の取り消しも含めて厳しく指導することとされています。なお、これらは、派遣期間が3年経過時は義務とされますが、1年以上3年未満は努力義務とされています。また、派遣先に対しても、派遣労働者のキャリアアップのため、派遣労働者の能力に関する情報提供の努力義務が課されることとなりました。

改正内容4-派遣労働者の均衡待遇の強化

 派遣元と派遣先双方において、派遣労働者と派遣先の労働者の均衡待遇確保のための措置が強化されます。

 現行法においても、派遣元である派遣会社に対して、同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮しつつ、賃金決定や教育訓練、福利厚生を実施する配慮義務が課されていました。改正後は、この配慮義務に加え、派遣労働者の均衡待遇の確保の際に考慮した内容の説明義務が課されることになりました。

 また、現行法において、派遣先に対して課されていた同種の業務に従事する派遣先の労働者に関する情報提供などの努力義務は改正後、労働者の賃金の情報提供、教育訓練、福利厚生施設の利用に関する配慮義務が加わることになりました。

改正法の背景に「10.1問題」の存在

 政府が今国会での派遣法改正案の成立を目指した背景には、いわゆる「10.1問題」があるといわれています。

2012年10月1日、派遣社員を保護するための規制強化を目的とした、改正労働者派遣法が施行されており、その内容や影響については、以前このコーナーでも詳しく解説しました(2013年7月24日付「労働者派遣法の改正 派遣社員はどう変わる?」)。

 その中で、改正法では、「労働契約申込みみなし制度」が新設されたことを説明しています。これは、派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申し込み(直接雇用の申し込み)をしたとみなされる制度です。

 上記解説では、「今回の改正で、『労働契約申込みみなし制度』が話題となっていますが、これは10月1日に施行されます。従って、改正に備えて企業の姿勢が変わることで間接的な影響を受けるかもしれませんが、当分の間、派遣社員の皆さんには直接関係はないと思われます」と記載されています。まさに、猶予期間が終わり、その実施が迫っていたわけです。

 違法派遣とは、(1)派遣禁止業務に従事させた場合(2)無許可・無届の派遣会社から派遣を受け入れた場合(3)派遣受け入れ可能期間を超えて派遣を受け入れた場合(4)偽装請負に該当する場合――をいいます。

 前述のように、「専門26業務」か、それ以外の業務かが曖昧なケースが少なくない現状では、例えば派遣先が「専門26業務」と考えていても、労働局から、それ以外の業務であると認定されてしまった場合、3年を超えた時点で違法派遣となり、派遣先が派遣労働者に直接雇用を申し入れたのと同様とみなされてしまうことになります。

 ちまたでは10月1日の「労働契約申込みみなし制度」の施行前に派遣法改正が成立しない場合には、こうした事態をおそれて、一部で雇い止めが起きるのではないか、雇い止めを不満に思った派遣労働者が訴えたり、派遣先が労働局の判断を争ったりするといった混乱が生じたりするのではないかと警戒されていました。

 今回、「労働者派遣法」の改正案が今月30日から施行されることによって、そのような混乱が生じることは回避できたわけです。

賛成と反対の2つの立場

 改正派遣法は、以上のような内容ですが、賛成派と反対派では、法案の評価が大きく分かれています。よく分からない人が見れば、まるで全く別の法律のことを評価しているとしか思えないでしょう。

 そこで、まずは、反対派、賛成派、両方の立場の主張内容について確認していきたいと思います。

反対派の主張

 派遣法改正に関しては、大きな問題があるとし、野党の民主党や労働組合等からも多くの反対の声が上がっています。前述したように、民主党は、HPで労働者派遣法改悪のポイントとして、(1)派遣社員の受け入れ期間の制限を事実上撤廃、(2)派遣社員の待遇改善措置は実効性なしの2点を挙げています。

 (1)の「期間制限の事実上撤廃」については、個人単位の期間制限が設けられることによって、派遣先の企業は、3年ごとに人を代えれば同じ仕事をずっと派遣社員に任せることもできるようになり、派遣期間の制限は事実上撤廃されることになるということです。

 社民党も「労働者派遣法改正案の衆議院通過に抗議する(談話)」において、「これまで、受入期間の制限があるために派遣労働者を使ってこなかった企業は多いが、期間制限が大幅に緩和されれば、正社員を派遣労働に置き換える企業が増えることが予想される。企業は人を代えれば派遣をずっと受け入れられるようになる一方、派遣労働者は専門業種も含めて3年ごとに仕事を失う恐れが生じ、不安定な働き方が固定化されてしまう」として、身分の不安定な「生涯派遣」の道を開く法案であると主張していました。

 なお、前述のように、事業所単位の期間制限により、同一の事業所における派遣労働者の受け入れは3年が上限とされています。3年を超えて受け入れるには、過半数労働組合等からの「意見聴取」が必要されていますが、「同意」を得る必要まではありませんので、結局、経営者の裁量によって派遣期間の制限は事実上撤廃されることになりかねないと指摘されています。

 また、無期雇用の派遣労働者などは期間制限の例外とされており、期間制限は発生しません。ただ、厚生労働省の調査によれば、派遣の種類は、登録型は47.8%、常用雇用型は52.2%となっており、常用雇用型のうちでも「期間の定めのない」労働者は27.9%にとどまっていて、現在の派遣労働者の8割以上が雇用期間の限られる有期雇用といわれています。つまり、現状において、派遣労働者の多くが、今回の期間制限の影響を受けるのであり、3年ごとに仕事を失う人が多く発生するおそれがあります。

 他方、派遣先の企業にとっては、3年ごとに人を代えれば同じ仕事をずっと派遣社員に任せることもできるようになりますので、正社員の業務が派遣労働に代替されて不安定な雇用が拡大する可能性があると指摘されています。

 (2)の「派遣社員の待遇改善措置」については、前述のとおり、改正派遣法で、雇用安定措置が設けられています。雇用安定措置とは、雇用を継続するための措置であり、(ア)派遣先への直接雇用の依頼(イ)新たな派遣先の提供(ウ)派遣会社での無期雇用(エ)その他安定した雇用の継続――を図るために必要な措置が規定されています。

 しかし、(ア)派遣先への直接雇用の依頼は、単に「依頼すること」が派遣会社に義務付けられているだけであり、派遣先がその「依頼を拒絶することは自由」ですので、派遣先への直接雇用が保証されるものではないと指摘されています。

 また、(イ)新たな派遣先の提供、(ウ)派遣会社での無期雇用についても、派遣会社に義務付けられるのは派遣期間が3年に達した場合だけで、1年以上3年未満の場合には努力義務にとどまりますので、十分な成果が上がるかという点について疑問視されています。

 さらに、(ウ)派遣会社での無期雇用となった場合でも、必ずしも処遇が改善されるとは限らない点も指摘されています。無期雇用は正社員と同じ意味ではなく、通常、定期昇給はなく、退職金なども支給されないからです。契約期間が終了すれば簡単に職場を追われてしまう不安定な立場ではなくなるものの、その労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間など)は、通常は、直前の有期労働契約と同一なのです。

 なお、無期雇用と正社員の違いについては、本コーナーの2013年7月10日付「『5年以上でパートも正社員に?』法改正の内容とは」を参照して下さい。

賛成派の主張

 このような反対派の主張に対して、賛成派は、今回の派遣法改正は、多様な働き方が広がる中、「派遣先の正社員の保護」から「派遣労働者の保護」に軸足を移すもので妥当なものであるとしています。

 派遣社員の待遇改善措置についても、派遣会社を全て許可制とすることで、国の監督体制を強化するのであるから、制度が有効に機能すれば、派遣労働者の処遇改善に寄与するものとしています。

 期間制限の問題についても、曖昧だった「専門26業種」の区別を廃止することで、派遣労働者の正社員化を含め安定した雇用につながり、3年ごとに職場を変更しなければいけないとしても、自らのキャリアを見つめ直す良い機会になり、かえって正社員化を促すことにつながるという考えです。

 6月20日付の読売新聞の社説も以下のように、改正法について好意的な見解を述べています。

 「現行法は、企業が正社員の仕事を派遣労働者に切り替えるのを防ぐことを主眼にしてきた。そのため、一部の専門業務を除き、企業の派遣受け入れ期間を最長3年に制限している。反面、派遣労働者の雇用や待遇を守る規定が手薄だった。多様な働き方が広がる中、派遣先の正社員の保護から派遣労働者の保護に軸足を移す。改正案のこの考え方は妥当である。民主党などは『派遣労働者を増やす』と反対し、キャリアアップ支援なども『実効性がない』と批判している。だが、改正案は、派遣会社を全て許可制とし、政府の監督体制を強化する。制度が有効に機能すれば、処遇改善に寄与しよう」

 つまり、反対派が指摘する、前述のような様々な弊害については、国の指導・監督体制がきちんと実効性を持てば防止できるのであり、それによって、派遣労働者の処遇改善につながるとしているわけです。

国の指導や管理体制の実効性次第

 賛成派の指摘するように、悪質な派遣会社の存在が、派遣労働者の利益を損ねていたのは事実であり、許可制にすることによって、悪質な業者が淘汰とうたされ、派遣労働者を取り巻く環境の改善につながるのは間違いないことだと思います。また、派遣労働者の正社員化を含むキャリアアップのために、派遣会社に対し、派遣労働者に対する計画的な教育訓練や、希望者へのキャリア・コンサルティング、さらには派遣期間終了時の派遣労働者の雇用安定措置が義務づけられ、その義務に違反した場合、派遣事業の許可の取り消しも含めて厳しく指導されるようになるのも、派遣労働者にとって利益になると考えられます。

 期限制限の問題についても、「専門26業種」がもはや実態に合わなくなっており、区分の曖昧さが原因でトラブルが発生していたのは事実ですから、区分廃止により期間制限を一本化して、派遣を活用しやすくすることにも、一定の合理性があると思われます。

 それでも、大きな反対の声が出て来るのは、派遣社員の雇用安定とキャリアアップというような「理念」は良いとしても、本当に「実効性」をもって実現できるのかどうかに対する不信感に原因がある気がします。

 改正法が実効性を持つためには、今回、一緒に法律に盛り込まれた、派遣労働者の雇用を継続するため、また派遣労働者の正社員化を含むキャリアアップのための様々な措置が、派遣会社によってきちんと実施される必要があります。

 反対派は、派遣会社による直接雇用の依頼は、単に「依頼すること」が義務付けられているだけであり、派遣先がその「依頼を拒絶することは自由」だから実効性がないと指摘しています。仮に、今回新たに盛り込まれた雇用安定のための様々な措置が実効性を全く持たない場合は、反対派の批判が現実味を帯びて来ます。他方、今回の改正法では、その実効性確保のために、すべての労働者派遣事業を「許可制」にして、雇用の安定に取り組まない悪質業者を排除することができようにするとともに、派遣労働者のキャリアアップのため、キャリア形成支援制度を持つことが派遣事業の許可要件として追加されるなど、相応の施策を講じています。

 結局、今回の派遣法改正に関しては、派遣会社や派遣先企業など、派遣労働に関わる存在が、この法律の狙い通りに派遣社員の雇用安定に力を注ぐかどうかにかかっているのであり、それを担保すべき、厚生労働省の指導・監督体制が本当に実効性を持つのかが重要です。

 前述の読売新聞の社説のタイトルは「処遇向上の実効性を高めたい」というものであり、まさに、この「実効性」が問われているのだと思います。今後、今回の法改正の実態が、「正社員への橋渡し」のための制度なのか、「正社員になる道を閉ざす」制度なのかについては、しっかりと監視していく必要がありそうです。

 

2015年09月23日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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