増えるイクメン、職場のパタハラ問題の対処法
相談者 SKさん(36)
私は世間で言うところの「イクメン」です。
大学時代に知り合って結婚した妻はキャリア志向で、総合職としてバリバリ働いています。子どもを作るかどうか2人で悩みましたが、私も育児に積極的に関わるということで妻にも納得してもらいました。今2歳になる息子は本当に
私の毎日は、朝4時半に妻と子どもを起こさないようにして家を出ることから始まります。始発で通勤しフレックスタイムを朝型で活用して、午後4時過ぎには退社して保育園に子どもを迎えに行きます。
帰宅後、子どもとお風呂に入ったり、遊んだりしているうちに妻が帰宅して、家族3人仲良く食卓を囲みます。子どもの成長を間近で見つめられる毎日には本当に満足しています。
ただ、必ずしも良いことばかりではありません。仲間の同僚の多くは、私を積極的に応援してくれますが、中には、「育児のためにフレックス勤務なんかされると同僚として迷惑だ」とはっきり言う人もいます。また、年配の上司は明らかに快く思っていないようで、この間も、会議室に呼ばれ「どんな理由があっても、後輩の相談や指導がすぐにできるように夜まで職場にいるべきだ」と説教されました。
大学の同期にもイクメンがいますが、保育園の送り迎えで残業を断り続けていたら降格させられたということです、
安倍晋三首相は「『女性が働き続けられる社会』を目指す」と成長戦略で打ち出しています。ただ、そのためには、マタハラなどの被害をなくすことはもちろん、イクメンに対する理解も不可欠だと思います。
最近では、男性の育児参加を職場が妨げることをパタニティー・ハラスメント(パタハラ)と呼んで、マタハラと同様に職場のハラスメントとして問題となっていると聞きました。
このコーナーでは、マタハラの解説はありましたが、パタハラについてはまだ取りあげられていないようです。ぜひ、パタハラについても教えてもらえますか。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)。
(回答)
女性活躍推進法の成立
安倍首相が女性の活躍推進を成長戦略の柱に掲げて、積極的に活動しており、今年、男女平等や女性の活躍推進を進める国連の専門機関「UN Women」によって、女性活躍を戦略的に進める世界上位10人の首脳の1人に選出されました。このことは、本連載の「マタニティー・ハラスメントに関わる最高裁判決の意義」(2015年6月24日)でもご紹介しました。
8月28日には、大企業に対し女性登用の数値目標を作るように義務づけた「女性活躍推進法」(正式名称:「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」)が各党の賛成多数で可決、成立しています。今後、従業員301人以上の企業、国・地方方公共団体では、女性管理職比率などの数値目標を含む行動計画を、16年4月1日までに策定し、届け出・情報公表しなければならなくなります。
ただ、罰則規定がなく、従業員300人以下の企業では努力義務にすぎないこともあり、その実効性には疑問も出ています。また、そもそも上記マタハラの記事にも書いたように、「出産・育休・職場復帰などに立ちはだかる現実的な障害それ自体が本当に取り除かれない限り、法律を作っても意味がない」として冷めた目で見ている働く女性も多いようです。
ストップ! 寿退社
8月27日の読売新聞には、「ストップ! 寿退社」という大きな見出しの記事が出ていました。
女性行員が結婚後も働き続けてもらえるように、ある地方銀行が新たな勤務制度を導入したという話題です。その銀行では女性の平均勤続年数が9年弱にとどまり、行員の男女・年齢構成を「人口ピラミッド」で表すと、女性は20歳代の層が厚く30歳代から激減するとのことです。
その原因が「寿退社」にあるとのことは言うまでもありません。今後、労働力が次第に不足してくる人口減少時代を迎え、結婚退職を新規採用で補充できなくなる事態に備えて、結婚や配偶者の転勤があっても働き続けてもらう制度の構築が進んでいるとのことです。
他方、その前日26日の読売新聞では、「『イクメン』離職続々」、「仕事多忙 家庭進出阻む」という見出しの記事が、収入減といった生活面のリスクを覚悟の上で離職に踏み切る子育てに積極的な男性が増加していることを報じています。その記事の中では、子育てを理由に離職した男性が最近倍増したという総務省の調査結果を紹介しています。
このように、政府が女性活用を目指して積極的に動き、企業も女性が長く勤務できる態勢が整備されつつあります。こうした中、本来であれば女性が結婚後も職場にとどまり活躍するために必要不可欠であるはずの男性の育児参加が、必ずしもうまく実現できていません。その大きな要因であると言われている、いわゆる「パタハラ」について、今回説明してみたいと思います。
パタハラとは
「パタハラ」とは、「パタニティー・ハラスメント」の略です。パタニティー(Paternity)は父性という意味で、母性という意味のマタニティー(Maternity)の対義語です。
パタハラとは、男性の労働者が育児休業をとったり、育児支援のための短時間勤務やフレックス勤務をしたりすることを、妨害したり嫌がらせをしたりする行為のこと(降格等不利益な取り扱いや育児参加を否定するような言動も含みます)。マタハラ(マタニティー・ハラスメント)の男性版として使われるようになった言葉です。
余談ですが、マタニティー・ハラスメントもパタニティー・ハラスメントも、セクシャルハラスメントとは異なり、和製英語です。
育児・介護休業法
女性の社会進出に伴い共働き世帯が増加したことによって、男性の育児参加が求められるようになってきています。
2010年6月30日に施行された「改正育児・介護休業法」では、父親も子育てをできる働き方の実現(父親の育児休業の取得促進)のために、<1>父母がともに育児休業を取得する場合の休業可能期間の延長<2>出産後8週間以内の父親の育児休業取得の促進<3>労使協定による専業主婦(夫)除外規定の廃止――がなされました。
<1>は「パパ・ママ育休プラス」と言われるもので、それまでは父親も母親も、子どもが1歳に達するまでの1年間育児休業を取得可能だったのですが、改正法では母親だけでなく父親も育児休業を取得する場合、休業可能期間が1歳2か月に達するまで(2か月分は父親のプラス分)に延長されました。
その結果、母親が育児休業を終えて職場復帰で大変な時期に、父親が育児休業を取ることで、協力して子育てをするような対応が可能となりました。
<2>は、妻の出産後8週間以内に父親が育児休業を取得した場合、特例として、育児休業の再度の取得を認めることとして、出産後8週間以内に父親が育児休業を取得しやすいようにしました。
<3>は、改正前までは労使協定により、配偶者が専業主婦であれば育児休暇の取得を不可とすることが可能だったのですが、改正法ではこの規定を廃止し、すべての父親が必要に応じて出産後8週間以内であれば育児休業を取得することができるようにしました。
なお、育児・介護休業法では上記改正前から、男性の仕事と子育て両立の支援制度として、ほかにも以下のような内容が規定されています。
<4>3歳に達するまでの子を養育する労働者は短時間勤務を申請可能
<5>小学校就学前までの子を養育する労働者が請求した場合、1年150時間を超える時間外労働を制限
<6>小学校就学前までの子を養育する労働者が請求した場合、22時から5時の深夜業を制限
<7>小学校就学前までの子が1人であれば年5日、2人以上であれば年10日を限度として看護休暇付与を義務付け
<8>労働者を転勤させる場合、育児の状況についての配慮義務
イクメンプロジェクト
こうした育児・介護休業法改正による支援のほかに、厚生労働省は10年6月17日から、男性による子育て参加や育児休暇取得の促進を目的として、「イクメンプロジェクト」を始動しました。
このプロジェクトは、働く男性が、育児をより積極的にすることや、育児休暇取得をすることができるよう、社会の気運を高めることを目的としています。同省は、「イクメン」をより幅広くPRしていくため、「イクメンプロジェクト」のサイトを立ち上げて、委託事業として実施しています。
このサイトの冒頭には、「育てる男が、家庭を変える。社会が動く。」というキャッチコピーが掲げられており、「イクメンとは、子育てを楽しみ、自分自身も成長する男性のこと。または、将来そんな人生を送ろうと考えている男性のこと。イクメンがもっと多くなれば、妻である女性の生き方が、子どもたちの可能性が、家族のあり方が大きく変わっていくはず。そして社会全体も、もっと豊かに成長していくはずです。イクメンプロジェクトは、そんなビジョンを掲げて発足しました。」と高らかに
ちなみに、このプロジェクトでは、13年より「イクメン企業アワード」という企業表彰の制度が設けられており、10月2日には15年の受賞企業が発表される予定です。昨年の受賞企業としては、アース・クリエイト、昭和電工、住友生命、千葉銀行、日本生命、日立ソリューションズ、丸井グループなどの名前が挙がっています
育児休業の現状
こういった世の中の動きを受けて、実際に男性の育児への参加意欲は徐々に高まっているようです。13年8月にライフネット生命が発表した育児休業に関する意識調査によれば、63・6%の男性が「育児休業を取得したい」と希望しています。
しかし、厚生労働省が実施した14年度の雇用均等基本調査によれば、男性の育児休暇取得率は、13年度の2・03%から0・27ポイント改善したものの、依然として2・30%に止まっています。
また、12年度の雇用均等基本調査によれば、男性の育児休業の取得期間は、5日未満が41・3%、5日~2週間未満が19・4%、2週間~1か月未満が14・8%。1か月未満の取得が75・5%と、男性はごく短期間しか育児休業を取得していない結果となっています。
こうした現状が、前述の読売新聞における「『イクメン』離職続々」という事態へと、積極的に子育てをしたい男性を追い込んでいるのだと思われます。
育児休暇取得とパタハラの密接な関係
制度的には、育児・介護休業法の改正によって育児休暇を取得しやすい状況となり、男性の育児への参加意欲も高まっているにもかかわらず、男性の育児休暇取得はそれほど進んでいない大きな要因の一つとして、パタハラの問題があると指摘されています。
前述のライフネット生命の育児休業に関する意識調査でも、76・4%の人が、「男性が育児休暇を取得できる雰囲気がない」、20・1%の人が「同僚の男性が育児休暇を取得すると不快と感じる」と回答しています。
日本労働組合総連合会(連合)が14年1月23日に発表した「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)に関する調査」でも、「自分の職場は男性も子育てをしながら働ける環境にある」と回答した人は21・9%にとどまりました。51・0%の人が「そのような環境にない」と回答しています。「自分の職場で男性の子育てに対し理解があると思う人が誰もいない」と回答した人も、45・1%と半数近くに及んでいます。
これは、男性の育児休暇取得に対する職場の抵抗感が日本では依然根強いことが原因であると考えられます。同調査における「職場でパタハラが起こる原因は何だと考えるか」の質問に対する回答も、「上司や同僚の理解不足・協力不足」が57・3%と最も多く、「会社の支援制度の設計や運用の徹底不足」が45・4%、「性別役割分担意識」が4・1%、「職場の恒常的な業務過多」が41・3%、「フォローする周囲の社員への会社からのケア不足」が35・8%となっています。
パタハラの現状
さらに同調査によれば、11・6%の人が「職場でパタハラをされた経験がある」と回答しています。パタハラの内容としては<1>子育てのための制度利用を認めてもらえなかったが5・5%<2>子育てのために制度利用を申請したら上司に「育児は母親の役割」「育休をとればキャリアに傷がつく」などと言われたが3・8%<3>子育てのための制度利用をしたら嫌がらせをされたが1・9%となっています。また、10・8%の人が「周囲でパタハラにあった人がいる」と回答しています。
7月15日の読売新聞では、あるNPO法人にパタハラ被害を相談した30歳代の男性による、次のような具体的体験談を掲載しています。
その男性は「出退社の時間を自分で決められる職場のため、早朝に出勤して午後4時過ぎに退社し、保育園に2児を迎えに行く。しかし、50歳代の元上司は、男性や周囲に『どんな理由があっても、後輩の相談や指導がすぐにできるよう、夜まで職場にいるべきだ』と話した。男性の都合を無視して会議を夕方に設定し、欠席するとしかることもあった。男性は、毎日『お先に失礼します』というのがストレスで、精神的に苦痛だった」
イクメンプロジェクト
こうしたパタハラの現状を受けて、政府も今年3月20日に閣議決定した「少子化社会対策大綱~結婚、妊娠、子ども・子育てに温かい社会の実現をめざして~」の中で、パタニティー・ハラスメント防止の取り組みを充実させることを明記しています。
その具体的施策として、「男性が育児休業や子育てのための短時間勤務を取得することを妨げるなどの行為(いわゆる「パタニティーハラスメント」)がないよう、具体的かつ分かりやすい事例を示しての普及活動や、意識啓発を行うとともに、企業に対する指導の強化・徹底等を行う」としています。
また「イクメンプロジェクトの実施等、父親の育児休業に関する啓発資料や育児休業体験談の広報等を行うことにより、男性の育児に関する意識改革を促進する」とされています。
イクボス養成
さらに、連合による「パタニティー・ハラスメント(パタハラ)に関する調査」の結果が示すように、パタハラ防止のためには男性が育児休暇を取得できる雰囲気を醸成すべきです。
そのためには、今回の相談内容からも明らかなように、上司や同僚の理解や協力が不可欠です。前述「少子化社会対策大綱」では、部下の仕事と育児の両立を支援する「上司(イクボス)」や「子育て」を尊重するような企業文化の醸成に向けた検討・取り組みを行うとしています。イクメン支援のためには、イクボスの養成も必要ということです。
こうした流れの一環として、15年3月には、内閣府男女共同参画局、厚生労働省等が後援して、「イクボスで行こう! ~子育て中の社員を応援する上司が社会を変える~」というイベントが開催されています。このプロジェクトを主催するのは、イクボス養成に取り組んでいるNPO法人です。
この団体が実施する「イクボスプロジェクト」とは、仕事一筋であった管理職を、「女性活躍」と「男性の育児参画」はセットであることを理解する「イクボス」に変えるための事業を展開するもので、「イクボスを増やせば社会は変わる」としています。
このイクボスプロジェクトでは、以下のような「イクボス10ヶ条」を制定し、この過半を満たしていることがイクボスの証としています。
(1)「理解」…現代の子育て事情を理解し、部下がライフ(育児)に時間を割くことに、理解を示していること
(2)「ダイバーシティ」…ライフに時間を割いている部下を、差別(冷遇)せず、ダイバーシティな経営をしていること
(3)「知識」…ライフのための社内制度(育休制度など)や法律(労基法など)を、知っていること
(4)「組織浸透」…管轄している組織(例えば部長なら部)全体に、ライフを軽視せず積極的に時間を割くことを推奨し広めていること
(5)「配慮」…家族を伴う転勤や単身赴任など、部下のライフに「大きく」影響を及ぼす人事については、最大限の配慮をしていること
(6)「業務」…育休取得者が出ても、組織内の業務が滞りなく進むために、組織内の情報共有作り、チームワークの醸成、モバイルやクラウド化など、可能な手段を講じていること
(7)「時間
(8)「提言」…ボスからみた上司や人事部に対し、部下のライフを重視した経営をするよう、提言していること
(9)「有言実行」…イクボスのいる組織や企業は、業績も向上するということを実証し、社会に広める努力をしていること
(10)「
パタハラへの対応
このように現在は、イクメンプロジェクトやイクボス養成などによって、パタハラが起こらない職場環境整備が着実に進められていますが、相談者のように、まだまだパタハラ被害は発生しています。では、実際に職場でパタハラ被害にあった場合、どのように対応したらよいのでしょうか。
前述の連合調査では、パタハラをされた経験がある人の65・6%が「だれにも相談せず、子育てのための制度の利用をあきらめた」と回答しています。次いで、「社外の友人に相談した」が13・1%、「家族に相談した」11・5%、「同僚に相談した」8・2%、「上司に相談した」8・2%、「会社の専門部署や担当者に相談した」6・6%、「労働組合に相談した」6・6%、「社外の労働相談や公的機関などに相談した」1・6%となっています。
こうした相談の中で何らかの解決が図られればよいですが、会社内で解決できないのであれば、育児・介護休業法に基づく「紛争解決援助制度」を利用することが考えられます。
厚生労働省の出先機関である都道府県労働局雇用均等室では、労働者と事業主の間で育児・介護休業等に関するトラブルが生じた場合、当事者の一方または双方の申し出があれば、トラブルの早期解決のための援助を行っています。
トラブル解決の援助には、都道府県労働局長による紛争解決の援助(育児・介護休業法52条の4)と、両立支援調停会議による調停(同法52条の5)という二つの制度があります。この二つの制度は、都道府県労働局長又は調停委員が公平な第三者として紛争の当事者の間に立ち、両当事者の納得が得られるよう解決策を提示し、紛争の解決を図ることを目的とした行政サービスです。
都道府県労働局長による紛争解決の援助とは、都道府県労働局長が、労働者と事業主との間のトラブルを公正・中立な立場から、当事者双方の意見を十分に聴取し、双方の意見を尊重しつつ、問題解決に必要な具体策の提示(助言・指導・勧告)をすることによりトラブルの解決を図る制度です。
労働者からの援助の申し立てがあると、労働者と事業主双方に対する事情聴取がなされ(必要な場合には第三者に対する事情聴取が実施される場合があります。)、労働局長により、問題の解決に必要な援助、具体的には、助言、行政指導、勧告がなされることになります。
一方、両立支援調停会議による調停は10年4月1日から開始された制度で、調停委員が当事者である労働者と事業主双方から事情を聴取し、紛争解決の方法として調停案を作成し、当事者双方に調停案の受諾を勧告することにより紛争の解決を図るものです。
調停は、弁護士や大学教授、家庭裁判所家事調停委員、社会保険労務士等の労働問題の専門家が援助の主体となり、高い公平性、中立性、的確性が期待できます。両立支援調停会議は、関係当事者からの事情聴取、必要がある場合には関係当事者からの申し立てに基づき関係労使を代表する者からの意見聴取のほか、同一の事業所に雇用される労働者その他の参考人からの意見聴取が実施された上で、両立支援調停会議によって調停案が作成され、関係当事者双方に調停案の受諾が勧告されることになります。
二つの制度ともに、関係当事者以外には、援助や調停の内容は公にされず、プライバシーは保護されます。労働者が育児・介護休業法に基づく紛争解決援助制度を利用したことを理由として、事業者が当該労働者に解雇、配置転換、降格、減給等の不利益取り扱いをすることも育児・介護休業法によって禁止されています。
無料で利用できますので、マタハラ被害にあった場合、これらの制度を利用することを検討してみてもよいかもしれません。
パタハラ解消のために意識の変化を
前述した、イクボスプロジェクトが端的に表しているように、まずは「イクボス」へと変わる必要があります。つまり、企業はもちろんのこと、仕事一筋であった一定年齢以上の管理職が、「女性活躍」と「男性の育児参画」はセットであることを理解するということです。
こうした変化の必要性が、今まさに社会から求められているという現実を十分に認識する必要があると思われます。男性の育児参画に対する価値観が変わりつつあることを認識しないと、大きなリスクを背負うことになりかねません。
本コーナーの「『言葉のセクハラ』最高裁判決の意義」(15年3月11日)で解説したように、言葉のセクハラを理由とした懲戒処分について争われた事案で、最高裁判所は身体接触のない発言だけであっても、企業は社員に重い処分を下すことができる旨を判示しました。
この裁判の審理過程において、言葉のセクハラを繰り返し、懲戒解雇に次ぐ重い処分である出勤停止処分を受けた男性管理職は「性的な関係を迫ったり、わいせつな行為をしたこともなく、その人格を直接傷つけるようなことを述べたわけではなく、雑談の中で男女の関係に関する話題を口にしただけ」「休憩室での雑談の中で持ち出された話題をいちいち取り上げて問題にすることは間違っている」というような主張を行っています。
この主張は、もしかすると一定年齢以上の男性社員にとっては共感できるものであるかもしれません。しかし、最高裁判所は、そのような主張そのものが既に時代の変化に取り残されていたことを明らかにしました。
この管理職は、何が違法なハラスメントに該当するかの基準が時代の変化とともに変わっていたことに気がつかなかったために、重い懲戒処分を受けるに至ったわけです。
上記本コーナーでも、読売新聞のコラムである「編集手帳」が、上記最高裁判所判決につき述べた一節を紹介しましたが、今回も同じように、そのコラムの引用で締めくくりたいと思います。
企業やそこに勤める管理職は、世間から「いまどきの人やおまへんな」と言われないように、セクハラばかりではなく、パタハラを含むハラスメント全ての基準が時代の変化に伴って年々変わっていくことを十分に認識し、その変化に柔軟に対応していかないと、予期せぬリスクに直面する可能性があることを自覚する必要があると思います。
「昔の小説を新装版で読んでいて、巻末の注釈に出合うことがある。〈本書には現在から見て不適切な表現が用いられているが、原文の歴史性を考慮し、そのままとした〉などの文章である◆「結婚もせんで、こんな所で何してんの。親、泣くで」「もうお
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