民泊ビジネスの是非 ネットの新事業で失敗しない法律武装とは?

相談者 AKさん(27)

 私は1か月前まで大手総合商社に勤務していました。恵まれた職場で、社内教育も充実しており、とても満足していたのです。しかし、会社の業務でアメリカに短期間ですが滞在させてもらって以来、すっかり考え方が変わってしまいました。

 スタンフォード大学の学生がガレージではじめたグーグル社をはじめ、アメリカでは次々にインターネットにかかわる新ビジネスが生まれていきます。そのダイナミズムに少し触れただけですが、何か新しい事を始めてみたいという気持ちがどんどん強くなってきたのです。

 まず考えたのが社内起業です。インターネット関連の新ビジネスの企画書を作って直属の上司に提出したりしたのですが、全く相手にされません。それでも少しでもインターネットに関わっていたいと考え、会社のインターネット事業部への配転を希望したのですが、その希望はかないませんでした。そこで、思い切ってやめてしまったのです。

 両親や友人からは、「無謀すぎる」と反対されましたが、勝負のタイミングって人生にあるじゃないですか。会社からも強く慰留されました。でも、楽天の三木谷さんがエリート銀行マンの地位を捨ててネットの世界に飛び出した時のように、思い立った時にすぐ始めないと人生後悔するという強迫観念の方が勝ったのです。

 さて、新しいネットビジネスを始めるに当たって目を配っておくべきなのは、その業界に関する法律の存在であることは起業を勧める解説書に書いてあり、その重要性はわかっているつもりです。私としては、ネット上で自宅の空き部屋を有効活用したい人と、旅行者を引き合わせて手数料を取るというビジネスモデルを考えています。これから2020年の東京五輪・パラリンピックを控えて、日本への旅行者が急増していくのは確実で、成功しないわけがないと思うのですが、ネットで調べてみると法律面で色々な問題があるようなのです。

 別の例ですが、ハイヤーの配車サービスを提供する米ウーバー・テクノロジーズ社が日本に進出したものの、道路運送法に触れるとして、国土交通省から待ったがかかったとの報道を見た記憶もあります。私の考えているビジネスの法律上の問題点を教えてくれますか。

 (最近の事例を参考に創作したフィクションです)。

(回答)

泊まるホテルが取れない!

 先日、テレビで、東京都心でビジネスホテルの予約が取りづらくなっている旨が放映されていました。東京都内のビジネスホテルの稼働率は、4年前にはおよそ70%でしたが、ここ数年で急増し、今や86%になっているということでした。

 しかも予約が難しいばかりか、苦労して空き部屋を見つけても、ホテル代が高騰していて、従来の出張予算では泊まれないところが増えているということです。ネットで調べると、市場連動型で料金設定をするビジネスホテルもあり、時期によっては1泊2万円以上のこともあるとのことで驚かされました。「ビジネスホテル難民」などという言葉を使って、仕方なく繁華街のカプセルホテルや、インターネットカフェで一晩過ごす会社員の事例なども取りあげられています。

 背景には、円安を背景とした外国人観光客の急増があります。テレビで取材されていたホテルでは、宿泊客の70%を外国人が占めているということでした。2020年の東京五輪・パラリンピック開催に向けて、この傾向はさらに進んでいくものと予想されます。

 このような社会情勢の中、相談者の考えているビジネスモデルが注目を集めています。自宅の空き部屋を有効活用したい人と、旅行者とをネット上で引き合わせることによって、手数料を取るというものです。

 ただそこに立ちはだかるのが、いわゆる「業法」と言われるものです。

 業法とは法律用語ではありません。ウィキペディアによると、「特定の業種の営業に関する規制の条項を含む法律」と定義されており、「この種の法律には『○○業法』という題名のものが多いことに由来する用語」とされています。その例としては、貸金業法、銀行法、古物営業法、風俗営業法、保険業法、旅館業法、建設業法、宅地建物取引業法、道路運送法など、様々なものがあります。

 そして、新しいビジネスを始めるに際して十分注意しなければならないのが、この業法による規制なのです。今回は、相談者が想定しているビジネスのほか、世界中でいま話題となっているウーバーについても説明したいと思います。

シェアリング・エコノミーの広がり

 スマートフォンやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の普及によって、次々と新しいビジネスが登場しています。中でも、ここ数年で急成長しているのがモノやサービスを必要なときに借りたり、個人間で共有したりする「シェアリング・エコノミー」と呼ばれるビジネスモデルです。この種のビジネスは08年のリーマン・ショック以降、節約志向の高まりの中、アメリカで急速に広まっていきました。

 空いていたり、余ったりしている空間やモノを、比較的安い利用料金で人に貸すことは、所有者にとっては遊休資産がお金を生み、利用者は安く使えると、双方にメリットがあります。

 フェイスブックやツイッターなどのSNSの普及により、全く見知らぬ他人同士がつながることができ、互いの所有物やスキルが見えるようになったこと、サービスを提供する側と利用する側とがお互いに評価できるようになったことが、「シェアリング・エコノミー」が広がった大きな理由と考えられます。

 まさに、これらの新しいビジネスモデルは、ITの進展がもたらした「恩恵」とも言えるものなのです。

エアビーアンドビーとウーバー

 その先駆けとも言われているのが、カリフォルニア州・サンフランシスコに本社を置くAirbnb(エアビーアンドビー)とUber(ウーバー)です。

 エアビーアンドビーは、自宅の空き部屋を貸したい人と宿泊先を探す旅行者とを仲介するサービスです。08年に設立され、今では世界190か国3万4000都市以上に広がっていて、日本でも首都圏や都市部を中心に物件が登録されています。

 ウーバーは、09年に生まれたタクシーやハイヤーの配車サービスです。スマホアプリの位置情報を使い、現在地近くを走る空車を自動的に見つけるものです。こちらも、13年から日本でサービスを開始しています。

 ほかにも、空き駐車場を貸したい人と駐車したい人を仲介する、料理を作りたい人と食べたい人をつなぐ、空き時間を活用したい人と家事してほしい人をつなぐなど、日本でも多様なシェアリングサービスが生まれていますが、国内での認知度はまだまだ低いようです。

 JTB総合研究所が昨年末に行ったインターネット調査によれば、20~69歳の男女5万8017人のうち、シェアリング・エコノミーの代表的サービスを知っていると答えたのは5%未満。利用や提供したことがあるのは1%強でした。ただ、サービスの説明を読んだ上で、利用したいと答えた人は3~4割に上っていることから、日本でも今後の拡大が期待されます。

 そこで鍵となってくるのが、法律やガイドラインなどの整備になりますが、現行の法律はシェアリング・エコノミーを想定していないため、新しいビジネスに対応しきれないケースが多いのが実情です。業法との抵触なども指摘されており、現状においては「グレーゾーン」のビジネスとなってしまっている例が多く見受けられます。

ウーバーの実験は中止に

 その顕著な例がウーバーです。上場前にもかかわらず、すでにその企業価値は約5兆円に達しているとのことであり、ツイッターの時価総額を超えています。ちなみに、日本で株式時価総額が5兆円というと、セブン&アイ・ホールディングス、武田薬品、日産自動車などの水準です。それだけ事業に対する期待が大きいということです。

 しかし、そのウーバーも、日本での事業展開については苦戦を強いられています。ウーバーは、今年2月、産学連携機構九州と提携して、一般ドライバーが利用者を自家用車に乗せる「ライドシェア(相乗り)」の実験を福岡市で始めました。スマホアプリを使って配車を依頼すると、事前に登録された一般ドライバーが迎えに来て、目的地に連れて行く仕組みです。

 これに「待った」をかけたのが国土交通省です。この実験が、無許可の自動車を使ってタクシー営業をする「白タク」行為を禁止する、道路運送法に違反する可能性があるとして中止を指導しました。その結果、実験はわずか1か月で終了しました。

 道路運送法は、第4条で「一般旅客自動車運送事業を経営しようとする者は、国土交通大臣の許可を受けなければならない」と定めています。この「旅客自動車運送事業」とは、「他人の需要に応じ、有償で、自動車を使用して旅客を運送する事業」(第2条第3項)のことです。

 そのため、一般の人が自家用車を使って他人を有償で乗せることは、法文上明記された一定の例外事由に該当しない限り認められていません。仮に、例外事由に該当しないにもかかわらず、一般の人が自家用車を使って他人を有償で乗せた場合、「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金」(またはこれを併科)という刑罰に処されてしまう可能性があるのです(96条)。

 報道によると、今回の実験では、利用者の利用料は無料となっていましたが、実験データの提供、ガソリン代、通信費の実費としてウーバーからドライバーに対価が支払われていました。この点について、ウーバーは「運転手に払ったお金は報酬ではなく、データ提供の対価にすぎない」という旨主張していましたが、国土交通省はこの対価が道路運送法の「有償の旅客運送」にあたると指摘しています。

ウーバーではなく、ドライバーが刑事責任を負う?

 この実験で、ドライバーの対価が全くの無償であれば、旅客自動車運送事業に該当せず、実施できることになるかもしれません。しかし、情報提供料であっても、ドライバーが金銭を受け取る仕組みである以上、実質的な報酬とみなされ、有償と判断されるリスクがあるのは言うまでもありません。現在の法律を前提とする限り、国土交通省が指導を行ったことが不合理であるとは言い切れないと思われます。

 ちなみにほかにも、ドライバーとの契約がトラブル発生時に海外でしか仲裁できない内容になっていたことを適切に説明していなかった点や、事故時に自家用車向けの保険が適用できるのかについて、きちんと確認を行っていなかったという点なども、国土交通省が問題視した理由であると言われているようです。

 なお、ウーバーは、自社で車もドライバーも保有していません。運送事業者ではないため、仮に国土交通省の指導を無視して実験を続けたとしても、自らが道路運送法に基づく行政処分を受ける可能性は低いと考えられます。道路運送法は、自社で車やドライバーを持たないケースを想定していないからです。

 他方、ウーバーに登録したドライバーは自家用車の使用停止の処分を受ける可能性がありますし、また最悪のケースでは、前述のように、道路運送法違反で、「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金」という刑罰に処されてしまう可能性があるのです。上述のように、事故時の自動車保険の適用の可否の問題など、ほかにも看過できない問題があります。

 もちろん、自動車保有にコストのかかる大都市圏や、公共交通の維持が難しくなっている過疎地域では、この手のサービスは非常に有効に機能するのではないかと考えられます。現に、ネットで調べると、海外でウーバーを利用した人の体験談が掲載されており、その多くがサービスの快適さを称賛しています。

 しかし、この種のビジネスが広がっていけば、既存のタクシー業界は利用客を奪われ、大きな打撃を受けることも否定できません。世界50か国以上、約300都市でサービスを展開しているウーバーですが、世界各地でタクシーの運転手たちによる猛烈な反発が広がっており、ヨーロッパなどではデモやウーバーの車が襲われる事件も起きています。先日も、パリでタクシー運転手がウーバーに抗議して道路を封鎖したとのニュースが流れていました。タクシー業界団体からの訴訟も相次ぎ、フランス政府からは違法性が指摘されて運用が中止されるなど、世界各地で規制の逆風にさらされているようです。

自宅に旅行客を泊めてはダメ?

 さて、相談者が考えている「ネット上で、自宅の部屋を有効活用したい人と、旅行者を引き合わせて手数料を取るというビジネス」ですが、前述のエアビーアンドビーをはじめとして、類似のサービスが次々と登場しているようです。

 ホテルと比べて宿泊料が安く済むことや、実際に現地に住んでいる人と触れ合えることなどから、欧米ではバックパッカーたちから人気が広まり、日本でも外国人旅行客を中心に利用が増えています。ただ、このサービスは、国内で利用するとなると、旅館業法に抵触する可能性があります。

 旅館業法では、「旅館業」は「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されています。つまり、(1)宿泊料を受ける(2)人を宿泊させる(宿泊とは「寝具を使用して施設を利用すること」を意味します)(3)営業である――の三つの要素で構成されるわけです。そして、この「旅館業」を行う場合は、都道府県知事の許可を受けなければならないとされています(第3条)。

 自宅などを貸し出して宿泊させ、宿泊料を取った場合には、上記(1)及び(2)の要素に該当することは明白ですから、さらに(3)にも該当した場合には「旅館業」を行ったということになります。

 (3)の「営業」に該当するか否かは、実質的に判断されるのですが、一般的な常識とやや乖離かいりしているので注意が必要です。つまり、たとえ個人であって、本人は営業として行っているつもりは全くなくとも、自宅を繰り返し貸し出し(反復継続性)、不特定多数の客を宿泊させれば「営業」として行ったとみなされるのです。

 そして、仮に「旅館業」を行っていると判断された場合に、原則としては、都道府県知事の許可を受けていなければ、旅館業法違反の行為を行ったことになります。

 もちろん、「旅館業」として都道府県知事の許可を受ければ良いわけですが、許可を得るためには、宿泊施設について、広さや部屋数、適当な規模の入浴施設や洗面設備、さらには玄関帳場の設置など、旅館業法施行令や各地域の条例が定める多くの細かい条件をクリアする必要があります。そのため、一般の人が「旅館業」として、都道府県知事の許可を受けることはかなり難しいという現実があるのです。

 もし、無許可で「旅館業」を営んだ場合、「6か月以下の懲役又は3万円以下の罰金」に処される可能性があります(第10条)。実際に昨年5月には、東京都足立区で外国人観光客向けの簡易宿泊所を無許可で営んだとして、英国籍の男性が旅館業法違反の疑いで逮捕されたという報道がなされています。

 また、自宅などを貸し出して宿泊をさせた場合には、旅館業法以外の問題も生じる可能性があります。例えば、自宅が賃貸物件であるというケースです。

 そもそも賃貸の場合は通常、賃貸借契約で他の人へ転貸することが禁止されているケースがほとんどです。大家さんに黙って宿泊客を受け入れた場合に、法的トラブルに発展して、最悪の場合は賃貸借契約を解除され立ち退かざるを得なくなることや、損害賠償請求を受けることもあり得ます。一方、仮に自分の所有する物件であっても、居住用のマンションやアパートでは、管理規約などで部屋を居住目的以外に利用することを禁じている場合もあります。不特定多数の旅行客が出入りするようになれば、治安上の問題や騒音などで、近隣の住民とのトラブルになることも十分に考えられます。

マッチング・サービス自体の適法性

 上記のとおり、現状の法律の下においては、空き部屋を貸し出して旅行客を泊めるということは、法的にかなりグレーだと言わざるを得ません。それでは、宿泊したい人と宿泊させたい人をマッチングさせるサービスを行うこと自体が違法になるのでしょうか。

 結論としては、仲介者として、マッチング・サービスを行うだけなのであれば、直ちに違法行為とはならないと思われます。

 サービスを利用し宿泊させた人(ホスト)が、旅館業法違反に問われた場合には、マッチング・サービスの提供者も違法行為に加担したとして、旅館業法違反の「幇助ほうじょ犯」の罪に問われる事態は一応想定されますが、そのような可能性は高くないと思われます。

 ホストには旅館業の許可を受けている人もいるでしょうし、1回限りで部屋を貸そうとする人や宿泊に該当しない範囲で部屋を貸そうとする人も含まれます。それにもかかわらず、常に幇助犯としての刑事責任が問われてしまうことには問題があるからです。そのため、サービスの利用者に対し、旅館業法を守るように適切な注意喚起を行っていた場合、マッチング・サービスを行ったとしても、サービス提供者自体が違法行為を行ったと認定される可能性は低いのではないかと考えられるわけです。

 この点、たとえば、エアビーアンドビーでは、ホストとしてサービスを利用する際の注意点として、以下のような記載をして、サービスを違法行為に利用しないように注意喚起を行っています。

 「適用となる認可、建築規制、安全、健康に関する規制は必ず調べてください」「あなたの都市において適用される法律を理解することが重要です」「あなたに対して法的拘束力を有する他の契約や規則(賃貸借契約や建物の内規など)についても理解し、これを遵守じゅんしゅすることが重要です」「あなたに適用されうる法律は複雑である可能性があります。もし質問がある場合は、適切な政府機関に直接問い合わせるか、あなたに法的助言を行う現地の弁護士を雇う必要があります」

 そういう意味では、相談者もそういった配慮をきちんとして営業する限り、グレーではあるものの、想定している事業を実現できる可能性はあると思われます。

国に規制緩和の動き

 円安や訪日ビザの緩和などが後押しし、日本を訪れる外国人旅行者は、14年は過去最多となる約1341万人となりました。この状況は続いており、今年1月から先月までの7か月間に日本を訪れた外国人旅行者は、1105万人余りと、前の年の同じ時期に比べて、46.9%も増えたそうです。

 外国人旅行者の1000万人超えは、去年の10月よりも3か月早く、統計を取り始めた1964年以降で最も早いとのことです。政府は、東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年には、訪日外国人旅行者を年間3000万人とする目標を掲げています。そして、五輪期間中に多くの外国人観光客が集中することを考えて、一定数の宿泊施設を用意する必要性から、旅館業法の規制緩和に乗り出しています。

 政府が6月30日に閣議決定した「規制改革実施計画」には、「インターネットを通じ宿泊者を募集する一般住宅、別荘等を活用した宿泊サービスの提供」について、関係省庁で実態の把握を行った上で、旅館・ホテルとの競争条件を含め、幅広い観点から検討するとの方針が明記されました。16年度中には結論を出す見通しのようです。これは、政府の規制改革会議が安倍首相に提出した「規制改革に関する第3次答申~多様で活力ある日本へ~」を踏まえたものです。改革の重点分野の一つ、「地域活性化」の項目で「小規模宿泊業のための規制緩和」の一環として取り上げられています。

 当該答申には、次のように記載されています。

「自宅又は自宅の一部や専ら自らが使用することを目的としている別荘等について、自ら使用していない期間等に他人に有償で貸し出す場合、旅館業法の許可を受け、旅館業法や旅館業法施行令、及び各自治体の条例で定める構造設備等を備える必要がある。一方で、自宅又は自宅の一部や遊休期間が長くなった別荘等を活用した宿泊サービスについては、その地域に様々な消費を生む可能性があることから、その利活用について柔軟に考えるべき、との指摘がある。また、インターネットを通じ宿泊者を募集するシェアリングのような、新たなサービス形態について、実態が先行している問題と空きキャパシティの利活用の観点から検討すべき、との指摘がある。したがって、インターネットを通じ宿泊者を募集する一般住宅、別荘等を活用した民泊サービスについては、関係省庁において実態の把握等を行った上で、旅館・ホテルとの競争条件を含め、幅広い観点から検討し、結論を得る」

 この答申の中では、イベントなどを実施する際の「民泊」における規制緩和や農林漁家民宿の対象範囲の拡大といった小規模宿泊業のための規制緩和についての提言も盛り込まれています。

サービスの信頼性

 以上、相談者が検討しているビジネスをはじめとする、シェアリング・エコノミーについて検討してきました。このスキームは、世の中で有効活用できていないものと、それを必要とする人を、ITの力で結びつけ、有効活用していく仕組みです。その潜在的な市場規模は非常に大きく、多くのビジネスチャンスが秘められていると思います。

 これらシェアリング・エコノミーがさらに普及していくための大きな課題は、法整備を進めることと、サービスの信頼度を高めることです。法整備については今後の政府の検討を待つとして、信頼度はどうでしょうか。

 ある調査では、こうしたシェアリングのサービスを「利用したいと思わない」と回答した人の多くが「信用できる相手かわからないから」という理由を挙げています。確かに、見ず知らずの人の車に乗ったり、家に泊まったりするのには抵抗があります。

 ここで出て来るのが「認証制度」と呼ばれるものです。サービス内容につき、レーティング(順位付け)し、また利用者の任意の感想を記入することなどによって、その信用性を外部から判断できるようにすることです。

 たとえば、Aさんについて最高評価のレーティングがなされており、「Aさんのサービスは最高だった」というような感想が多く書き込まれていれば、Aさんはきちんとしたサービスをしてくれる信頼できる人と判断でき、安心してそのサービスを利用できるわけです。

 アマゾンで中古DVDを購入しようとする場合に、多数の出品者が候補に挙がる中、多くの人は、そのレーティング(「過去12か月で〇〇%の高い評価」)や評価の書き込みを見て、信頼できそうな業者を選択すると思いますが、それと同じです。こうした情報が広く行き渡れば、自ずと、悪い評価の人のサービスは利用されなくなり、市場から駆逐されていき、良いサービスだけが残るわけです。こうした信用情報の開示や流通も、インターネットやSNSといったITにより実現したものです。

シェアリング・エコノミーの将来性

 日本における多くの法令は、現在のITを活用したシェアリング・エコノミーのビジネスを想定して作られたものではありません。そのため、現行の法制度のままサービスを行った場合、グレーなものや違法とされてしまうサービスも数多くあるというのが現状です。

 しかし、シェアリング・エコノミーは、サービス提供者にとってのみならず、その利用者にとっても、より便利で豊かな暮らしをするため有用なものとなる大きな可能性を秘めています。もちろん、単に利便性のみを強調し過ぎた結果、法規制の及ばないサービスを放置することにつながり、結果として、利用者の安全等が阻害されるおそれもあります。

 シェアリング・エコノミーの将来は、そのサービスに携わる企業が、利用者の持つ不安や懸念に耳を傾けてサービスの向上を図るだけでなく、グレーゾーンから脱却する努力にかかっていると思います。つまり、「社会にとって必要不可欠なサービスである」という世論の後押しを受けつつ、利用者の安全に十分配慮した適切な法整備に協力していくことです。いずれにしても今は、前述の規制緩和の提言がどのように現実化するかを、期待して待ちたいと思います。

 最後になりましたが、本連載は2011年8月に開始して以来、今回の記事が第100回目となります。最初のうちは、このような難しい法律の記事をどれほどの方々が読んでくれるのか不安もありましたが、予期に反し、毎回、非常に多数の方々に読まれているようであり、読者の皆さんに感謝しています。お陰様で、2013年には、私の専門分野の一つであるIT関連の記事だけを抽出して大幅に加筆し、「おとなのIT法律事件簿」という独立した書籍として出版もさせていただきました。これからも、読者の皆さんが関心をお持ちであるであろう法律的な話題について解説していきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。

 

2015年08月26日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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