「第3の健康食品」って何?

相談者 HKさん(51)

 「もう、お母さんたら! 最近の夕ご飯、太る料理ばっかりよ。昨日は回鍋肉ホイコーローでしょ、おとといは焼き肉、その前はちゃんこ鍋……そしてきょうはダブル・ハンバーガーにチキンって、どうゆうこと!? メタボごはんで、私をお母さんと同じ体形にしたいわけ?」

 25歳になる娘が食卓についた途端、語気荒く私を責め立てます。

 夫も同じ思いだったようで、娘に同調します。

 「そうだよ、母さん……オレもこの前のメタボ健診で初めてひっかかったんだぞ。これじゃあ、オレに生活習慣病になってくれといわんばかりじゃないか」

 そんなやりとりが先日の夕食時にあり、私は何も言い返せませんでした。

 フルタイムで働く私としては、家事もきちんとやっているつもりですが、夕食はどうしても出来合いのものになりがちです。もちろん、健康第一ですが……。とはいえ、夕食ぐらいおなかいっぱい食べたいですし、ここだけの話、脂っこいものや甘いものを食べるのが実は大好きです。それでも、このままでは家での立場がないので、今後は、きちんと食品の機能を選んで買おうと思い立ちました。家族に文句を言わせないためには、それなりの証拠というか根拠も必要かと思っています。

 そんな中、健康にどんな効果があるかを食品に表示しやすくなる「機能性表示食品」という制度がスタートしたという記事が先日の新聞に載っていました。特定保健用食品(トクホ)、栄養機能食品に続く「第3の健康食品」などとも、ちまたでは呼ばれているそうです。

 私もどうせ口にするなら、なるべく体に良いものを取りたいと思っているので、体への効き目を明確に示してくれるのであれば、とてもありがたい話と思います。ただ、その記事では結構簡単に表示が認められるようで、根拠がよく分からない表示が乱立する可能性も指摘されているとも書かれていました。実際、トクホなどとどこがどう違うのかも分かりません。

 実際に購入するとき、どの表示を基準にすればいいのか、かえって戸惑ってしまいそうで……。この「機能性表示食品」の制度の概要について教えてもらえませんか。(最近の事例をもとに創作したフィクションです)

 

(回答)

第3の健康食品?

 最近、健康にかかわる食品の表示制度が変わることが話題になっています。「目の健康を維持する機能があります」「おなかの調子を整える機能があります」といった体への効果を、国による厳しい審査なしに、メーカー自身の責任で商品に表示できる「機能性表示食品」が認められたからです。

 この制度は、加工食品であるサプリメントから生鮮食品である野菜まで,幅広い商品が対象となります。この4月1日に導入され、早ければ6月頃には、新たな表示がつけられた商品が市場に登場するだろうと言われています。

 これまで、食品の機能性表示が認められていたのは「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」の二つであり、それ以外の食品で機能性を表示することはできませんでした。この新制度は、それら二つの食品に続く、「第3の健康食品」などとも巷では呼ばれているようです(厳密には、「第3の機能性表示食品」と呼んだ方が正確かと思います)。

 食品業界などでは、この制度導入が大きなビジネスチャンスになると捉えられている反面、この制度の活用の仕方次第で企業の淘汰とうたが進むなどとも言われており、関心が高まっています。

 読売新聞の記事によれば、想定される表示例(生鮮品の場合)として、「β-クリプトキサンチンを含み、骨の健康を保つ」温州ミカン、「肝臓の機能をサポートする」「胃の調子を整える」ブロッコリー、「メチル化カテキンを含み、目や鼻の調子を整える」緑茶、「ルテインを補い、目の健康を維持する機能がある」寒締めホウレンソウ、「β-グルカンが正常な血糖値の維持に役立つ」大麦などが挙げられています。ほかにも、様々な食品で従来なかった表示を目にすることになりそうです。

 確かに消費者にとっては、健康への効果が分かり易くやすなり、自分が求めている機能に応じて食品を購入できるというメリットがありそうですが、他面、国の審査なしに健康への効用を表示できることから、効果の怪しい食品が出回るのではないかとの危惧も出ています。

 今回は、この新しい食品表示制度についてご説明したいと思います。

食品表示法の施行

 食品表示ラベルの記載内容の統一などを目的にした食品表示法が、4月1日から施行されました。2009年、新たに消費者庁が発足したことを契機とし、それまで厚生労働省(食品衛生法や健康増進法)、農林水産省(JAS法)など、複数の省庁で、個別に所管されていた食品表示に関する法制度が一元化されることになりました(食品表示に関する包括的かつ一元的な制度の創設)。

 その結果、2013年に食品表示法が制定され、この4月1日から施行されたわけです。それに伴い新たにスタートするのが「機能性表示食品制度」です。 

 同制度の定める安全基準を満たした健康関連食品について、「具体的に健康にどのように効く商品か」を、国の審査なしに、企業の自己責任で公表できるようになります。

 ちなみに、この新制度は安倍内閣の成長戦略の一環とされています。安倍総理は、2013年6月、成長戦略に関する次のようなスピーチを行っており、これを受けた制度が今回の機能性表示食品制度であるわけです。

 「健康食品の機能性表示を解禁いたします。国民が自らの健康を自ら守る。そのためには、的確な情報が提供されなければならない。当然のことです。現在は、国から『トクホ』の認定を受けなければ、『強い骨をつくる』といった効果を商品に記載できません。お金も、時間もかかります。とりわけ中小企業・小規模事業者には、チャンスが事実上閉ざされていると言ってもよいでしょう。 アメリカでは、国の認定を受けていないことをしっかりと明記すれば、商品に機能性表示を行うことができます。国へは事後に届け出をするだけでよいのです。 今回の解禁は単に、世界と制度をそろえるだけにとどまりません。農産物の海外展開も視野に、諸外国よりも消費者にわかりやすい機能表示を促すような仕組みも検討したいと思います。目指すのは、『世界並み』ではありません。むしろ、『世界最先端』です。世界で一番企業が活躍しやすい国の実現。それが安倍内閣の基本方針です」

これまでの食品表示に関わる規制

 前述のように、食品表示法が施行されるまでの食品表示制度は、厚生労働省所管の「食品衛生法」「健康増進法」、農林水産省所管の「JAS法」の3法により規制されてきました(ただし、表示関係についてはいずれも消費者庁が所管となっています)。

 食品衛生法は、飲食に起因する衛生上の危害発生を阻止するのが目的。食品の安全性の確保のために公衆衛生上必要な情報を消費者に提供することを促しており、「添加物」や「アレルギー」等の表示を義務付けていました。

 JAS法は、品質に関する適正な表示をさせることが目的。消費者の商品選択に資するために、品質に関する情報の提供を促しており、「原材料名」、「内容量」、「原産地」等の表示を義務付けていました。

 健康増進法は、栄養の改善その他の国民の健康の増進を図る目的。消費者に栄養成分及び熱量に関する情報の提供を促していました。

 しかし、これまでの食品表示制度は、各法で表示基準が異なり、定義や用語が不統一だったため、複雑で分かりにくいと言われていました。具体的には、食品衛生法とJAS法で、「名称」、「賞味期限」、「保存方法」、「遺伝子組み換え」、「製造者名」などが重複して規定され、両方で表示が義務化される状態となっていましたし、例えばドライフルーツは、食品衛生法では「生鮮食品」として扱われるのに対して、JAS法では「加工食品」として扱われていました。また、食品の袋詰めをする企業に関しては、食品衛生法では「製造者」として扱われるのに対して、JAS法では「加工者」として扱われるといった不具合が指摘されていたのです。

 このような問題を解決するため、一元的な表示制度を定める食品表示法が制定されることになったわけです。

 なお、食品表示法は、これら3法のうち食品表示に関する規定部分が抜き出されて制定されるイメージであり、3法が消滅するわけではありません。表示に関する規定部分以外が存続することはもちろん、特に供給サイドにおける対策(食品衛生法では安全な食品の製造・提供、JAS法では良質な品質の食品の提供など)を重点とした規定が残ります。消費段階での対応が記載された食品表示法と相まって、健全な食生活の実現に有効に機能する仕組みになるとされています。

2001年に制度化された機能性表示について

 前述のように、従来から存在した食品の機能性表示は、「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」の2種類となります。これは、2001年に制度化された、「保健機能食品制度」に基づくものです。

 この制度は、多種多様に販売されていた「いわゆる健康食品」のうち、一定の条件を満たした食品を「保健機能食品」と称することを認めた制度であり、国の許可等の必要性や食品の目的、機能などの違いによって「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」の2つのカテゴリーに分類されています。

 皆さんも、人のマークをデザインした特徴的な表示がついていて、「お腹の調子を整える」「血圧が高めの方に適する」「コレステロールが高めの方に適する」「血糖値が気になる方に適する」「ミネラルの吸収を助ける」「食後の血中の中性脂肪を抑さえる」「虫歯の原因になりにくい」「歯の健康維持に役立つ」「体脂肪がつきにくい」「骨の健康が気になる方に適する」などといった、特定の保健効果を示す様々な食品が市場に出回るようになったのを覚えていらっしゃると思います。これら食品の登場は、上述した保健機能食品制度の開始によるわけです。

 今回の食品表示法の施行によって、三つ目の新たな表示の仕方が認められたわけですが、今後も、「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」は存続します。また、今回の新たな表示制度の趣旨は、従来の食品表示制度で使い勝手の悪かった部分を改善しよういうところにあることから、新たな表示制度をより深く理解してもらうために、まず従来の表示制度の概要を説明したいと思います。

特定保健用食品(トクホ)

 「特定保健用食品(トクホ)」とは、体の生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品のことです。血圧、血中コレステロールなどを正常に保つことを助けたり、おなかの調子を整えたりするのに役立つ、など特定の保健用途に資する旨を表示しています。当該食品として認められた商品には、「消費者庁許可」「特定保健用食品」と付記された、人のマークをデザインした表示がつけられており、皆さんも日々利用していると思います。

 特定保健用食品(トクホ)には、栄養成分の含有表示、特定の保健用途の表示、疾病リスク低減表示をすることが許されています。具体的に幾つか著名な商品を以下に挙げたいと思いますが、それぞれの商品ごとに一定の表示をすることが認められています。

○ファイブミニ

 「食生活で不足しがちな食物繊維を手軽にとり、おなかの調子を整える食物繊維飲料です」

○ヘルシア緑茶

 「茶カテキンを豊富に含んでおり、エネルギーとして脂肪を消費しやすくするので、体脂肪が気になる方に適しています」

胡麻ごま麦茶

 「ゴマペプチドを含んでおり、血圧が高めの方に適した飲料です」

○黒烏龍ウーロン

 「脂肪の吸収を抑えるウーロン茶重合ポリフェノールの働きにより、食後の血中中性脂肪の上昇を抑えるので、脂肪の多い食事を摂りがちな方、血中中性脂肪が高めの方の食生活改善に役立ちます」

○キリンメッツコーラ

 「食事から摂取した脂肪の吸収を抑えて排出を増加させる難消化性デキストリン(食物繊維)の働きにより、食後の中性脂肪の上昇を抑制するので、脂肪の多い食事を摂りがちな方、食後の中性脂肪が気になる方の食生活の改善に役立ちます」

トクホは厳しい審査が必要で時間もお金もかかる

 しかし、このように特定保健用食品(トクホ)として販売するためには、製品毎に食品の有効性や安全性について審査を受け、表示について国の許可を受ける必要があります。安倍首相が指摘するように、お金も時間もかかるので、事実上、中小企業や小規模事業者が利用するには高いハードルがありました。

 つまり、許可の要件として(1)食生活の改善が図られ、健康の維持・増進に寄与することが期待できるものであること(2)食品または関与する成分について、保険の用途の根拠が医学的、栄養学的に明らかにされていること(3)食品または関与する成分の適切な摂取量が医学的、栄養学的に設定できるものであること(4)食品または関与する成分が、添付資料からみて安全なものであること(5)関与成分について、物理学的、科学的及び生物学的性状ならびにその試験方法、定性及び定量試験方法が明らかにされていること――などといった厳格な要件が課されているわけです。

 そのため、許可を得るには、有効性や安全性を「人」を使って試験しなければいけません。また、国による審査などを経るために、費用や時間などの面での負担が非常に重く、許可を取るのは容易なものではありませんでした。

 ちなみに、あるアンケート調査では、回答した企業のうち4割近くが、試験費用に4000万円以上をかけていました(1億円以上も12%)。開発開始から販売までの期間も、約3年と5年以上がともに30%を超えていたそうで、企業の負担の大きさがうかがえます。特定保健用食品(トクホ)は、加工食品のみではなく、生鮮食品も一応対象とされていますが、これまで生鮮食品の許可事例はないとのことです。

栄養機能食品

 栄養機能食品とは、高齢化やライフスタイルの変化などにより通常の食生活を行うことが難しく、1日に必要な栄養成分を取れないような場合に、その補給・補完のために利用してもらう食品とされています。

 栄養機能食品は、特定保健用食品(トクホ)とは異なり、個別に国の許可を受けている食品ではありません。1日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が、国が定めた上下限値の規格基準に適合している場合、その栄養成分の機能の表示をすることができます。

 現在、規格基準が定められている栄養成分は、ミネラル類として、カルシウム、亜鉛、銅、マグネシウム、鉄の5成分。ビタミン類として、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、葉酸の12成分となっています。

 表示として認められる機能表示とは、例えば、「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です」「ビタミンAは、夜間の視力の維持を助ける栄養素です」「ビタミンCは、皮膚や粘膜の健康維持を助けるとともに,抗酸化作用を持つ栄養素です」「鉄は、赤血球を作るのに必要な栄養素です」「銅は、多くの体内酵素の正常な働きと骨の形成を助ける栄養素です」「カリウムは正常な血液を保つのに必要な栄養素です」などとなっています。

 特定保健用食品(トクホ)で許可されている「おなかの調子を整える」といった、特定の保健の目的に役立つ旨の表示は認められていません。また、対象となる食品は、加工食品のみであり、生鮮食品は対象とされていませんでした。

 ちなみに、この4月1日から栄養機能食品の制度も変更となり、従来は加工食品のみとされていた対象が、生鮮食品も含まれるようになりました。また、上記成分のほかに、n-3系脂肪酸(イワシ、サバなどの青魚に豊富に含まれているDHAなどのことです)、ビタミンK、カリウムの3成分が追加されています。

回の機能性表示食品とは

 今回制定された「機能性表示食品」は、食品の機能性表示が認められていた特定保健用食品(トクホ)と栄養機能食品の二つに次ぐ「第3の食品ジャンル」として機能性表示が認められるものです。対象となるのは食品全般であり、サプリメント形状の加工食品から 生鮮食品まで非常に幅広く認められます。

 この制度の下では、食品の健康への効能につき、企業の責任で科学的な根拠を消費者庁へ届け出れば商品にその効能を表示できるとされており、国の審査は不要で、申請後60日で商品を販売することができることとなっています。つまり、特定保健用食品(トクホ)の場合には、国の審査・許可が必要なのに対して、機能性表示食品の場合、表示の科学的根拠となる臨床研究の結果や論文等を消費者庁に提出する必要はあるものの、消費者庁に届け出をすれば足り、国の審査・許可は不要であることがポイントです。

 最終製品を用いた臨床試験をせずに、世の中に既にある論文についてデータベースを用いて総合的に機能性があるかどうかを評価するといった手法でも良いということです。ただし、販売後に、企業が提出した科学的根拠に疑問が生じた場合、制度利用の撤回や商品の回収、罰則などが科せられることもあるとされています。

 この制度によって、従来の「事前規制」から「事後チェック」へ、「国の責任」から「事業者責任」へと、大きく転換したわけです。

 以下、消費者庁が3月30日に発表した「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」に従って、簡単に要点だけを説明したいと思います。

機能性表示食品の要件

 機能性表示食品と言えるためには、次の要件を満たしている必要があります。ただ、この点は、やや細かい部分であり、上記説明の繰り返しも出てきますので、読み飛ばして頂いても結構です。

(1)疾病に既に罹患りかんしていない者(未成年者、妊産婦=妊娠を計画中の者を含む=及び授乳婦を除く)を対象としているものであること

(2)機能性関与成分によって健康の維持及び増進に資する特定の保健の目的(疾病リスクの低減に係るものを除く)が期待できる旨を科学的根拠に基づいて容器包装に表示しているものであること。

(3)食品全般が対象であるが、以下に掲げるものではないこと。

 ・特別用途食品および栄養機能食品

 ・アルコールを含有する飲料

 ・特定の栄養素(脂質、コレステロール、ナトリウム等)の過剰な摂取につながるもの(「過剰な摂取」とは、例えば、当該食品を通常の食事に付加的に摂取すること及び同種の食品に代替して摂取することにより、上記栄養素の1日当たりの摂取量が、食事摂取基準で定められている目標量を上回ってしまう等、当該栄養素を必要以上に摂取するリスクが高くなる場合等を言います)

(4)当該食品に関する表示の内容、食品関連事業者名及び連絡先等の食品関連事業者に関する基本情報、安全性及び機能性の根拠に関する情報、生産・製造及び品質の管理に関する情報、健康被害の情報収集体制、その他必要な事項を、販売日の60日前までに消費者庁長官に届け出たものであること。

可能な機能性表示の範囲

 機能性表示の範囲は前述したとおり、疾病に罹患していない者の健康の維持及び増進に役立つ旨、又は適する旨を表現するものとなり、「診断」、「予防」、「治療」、「処置」といった医学的な表現は使用できません。健康の維持・増進の範囲内であれば、身体の特定の部位に言及した表現も可能です。特定保健用食品(トクホ)で認められている表現などでも大丈夫です。

 ガイドラインでは例えば、次に掲げる表現が可能です。

(1)容易に測定可能な体調の指標の維持に適する又は改善に役立つ旨(医学的及び栄養学的な観点から十分に評価され、広く受け入れられている評価指標を用いる必要があります)

(2)身体の生理機能、組織機能の良好な維持に適する又は改善に役立つ旨

(3)身体の状態を本人が自覚でき、一時的であって継続的、慢性的でない体調の変化の改善に役立つ旨

 このガイドラインでは、明らかに医薬品と誤認されるおそれのあるものであってはならないこととされていますが、具体的な表示内容については、今後の消費者庁によるQ&Aなどを待つ必要がありそうです。

認められない表現例

 本制度では認められない表現例として、ガイドラインは以下のものが考えられるとしています。

(1)疾病の治療効果又は予防効果を暗示する表現(例えば「糖尿病の人に」、「高血圧の人に」など)

(2)健康の維持及び増進の範囲を超えた、意図的な健康の増強を標ぼうするものと認められる表現(例えば「肉体改造」、「増毛」、「美白」など)

(3)科学的根拠に基づき実証されていない機能性に関する表現(例えば、限られた免疫指標のデータを用いて身体全体の免疫に関する機能があると誤解を招く表現など)

容器包装への表示の仕方

 消費者の自主的かつ合理的な食品選択に資するよう科学的根拠に基づいた表示及び情報開示を行う必要があります。科学的根拠情報に基づかない容器包装への表示事項は、食品表示法違反、科学的根拠情報の範囲を超えた表示事項や広告・宣伝は、景表法の不当表示又は健康増進法の虚偽誇大広告に該当するおそれがあります。

 容器包装への表示については、食品表示基準に基づき、適正に表示することになりますが、機能性表示の内容に関する科学的根拠情報等については、消費者庁のウェブサイト等で、販売前から詳細に情報開示されることになります。

 具体的に、容器包装に表示しなければならない事項については、(1)機能性表示食品である旨(2)科学的根拠を有する機能性関与成分及び当該成分を含有する食品が有する機能性(3)栄養成分の量及び熱量(4)1日当たりの摂取目安量あたりの機能性関与成分の含有量(5)1日当たりの摂取目安量(6)届け出番号(7)食品関連事業者の連絡先(8)摂取の方法(9)摂取する上での注意事項(10)調理又は保存の方法に関し特に注意するものにあっては当該注意事項などが定められています。

 (1)の「機能性表示食品である旨」については、容器包装の主要面(通常、商品名が記載されている面)に表示されなければならないとされています。(2)の「科学的根拠を有する機能性関与成分及び当該成分を含有する食品が有する機能性」については、「機能性関与成分に基づく科学的根拠なのか、当該成分を含有する食品(最終製品)に基づく科学的根拠なのか、その科学的根拠が最終製品を用いた臨床試験に基づくものなのか、研究レビューによるものなのかが分かる表現にする」とされています。

 そして、当該「成分」に基づく科学的根拠を有する場合は、当該「食品自体」に機能性があるという科学的根拠を有するものではないということが明確になる表現としなければなりませんし、「研究レビューによる場合」は、「報告されている」ということが明確になる表現が必要とされています。つまり、「本品にはA(機能性関与成分)が含まれるので、Bの機能があります(機能性)」「本品にはA(機能性関与成分)が含まれ、Bの機能がある(機能性)ことが報告されています」「本品にはA(機能性関与成分)が含まれます。AにはBの機能がある(機能性)ことが報告されています」といった表現の使い分けをきちんとしなければならないということです。

ビジネスチャンス到来?

 これまで述べてきたように、機能性表示食品は、国の審査や許可なしで健康への効果をうたうことができる上、特定の身体の部位に言及することもできます。

 従来、健康食品やサプリメントでは、健康への効果を消費者に訴えるために、「スッキリしたい人に」、「爽やかな朝をサポート」「エネルギッシュな毎日に」というような、体によさそうと思わせる表現や、効果を暗示させる遠回しな表現を使用するしかありませんでした。

 今後は、科学的根拠を示せば、健康食品やサプリメントでも、冒頭で紹介したように「β-クリプトキサンチンを含み、骨の健康を保つ」といった表現を使用することができるようになります。また、従来の健康食品に見られたような、あいまいな表現ではなく、機能性が表示されることになって、消費者にとっても、商品選択の際に分かり易くなることが期待されています。

 食品業界は、機能性表示食品制度の導入をビジネスチャンスと捉え、多くの事業者が機能性表示食品に対する準備を進めているということです。

 読売新聞の関連記事には、「他社との差別化、ブランドの価値向上につながる。先駆けて参入し、ビジネスチャンスをつかみたい」「これまでより明確に、商品の特徴を届けられるようになり、消費者の商品選択に役立つ。できるものは基本的に機能を表示していきたい」といった各社のコメントが掲載されています。

 また、今回の機能性表示食品の対象食品には生鮮食品も含まれていますので、生鮮食品に含まれる成分が健康への効果があったとする科学的根拠などを示せばその効果をうたうことができるため、農産物での表示の検討が始まっています。

 例えば、JAかごしま茶業では、「べにふうき緑茶」の機能性表示に向けた取り組みが進められているということです。べにふうき茶には「メチル化カテキン」が多く含まれアレルギー症状の抑制効果があることが解明されたとのことであり、具体的な表示としては「本品はメチル化カテキンを含んでいるため、ハウスダストやホコリなどによる目や鼻への影響を軽減することが報告されています」などをイメージしています。1日あたりの摂取目安量のほか注意事項なども表示することになるということです。

 同様に、JAみっかびでは、ミカンに含まれるβ―クリプトキサンチンの効果を医大などと共同で研究してきたということで、その効果を新制度を利用して生かす予定でいるそうです。JAみっかび三ヶ日町柑橘出荷組合はそのHPで、今年度の出荷段ボールなどには「本品はβ―クリプトキサンチンを含み、骨の健康を保つ食品です」、「1日に3、4個を目安に」といった表示を行うことを検討している旨が表示されています。

期待される消費者庁の役割

 今回の新しい表示制度には、食品業界を中心に期待が広がっています。また、健康食品市場には、機能性を明確に表示していない商品があふれており、時に消費者問題に発展することもありますが、その中から安全性、品質、機能性が確認された機能性表示食品に移行するものが増えていくことで、業界の健全化につながることも期待できそうです。一方、企業が自己責任で担う部分が多く、問題のある商品が世に出回る可能性もあり、消費者団体からは、事業者に責任を押しつけ消費者がリスクを負うことになりかねないといった懸念も示されています。

 政府が新制度の参考にしたアメリカでは、根拠が不明確な商品が出回り、健康を害する消費者が出たとも言われています。厳格な審査がなされる特定保健用食品(トクホ)においてすら、「骨の健康維持に役立つ」表示ができる成分とされた大豆イソフラボンにつき、その摂取量について一時混乱が生じたこともあり(大豆イソフラボンの過剰摂取のリスクが取りあげられた問題)、新制度においても当初、同様の混乱が生じることも予想されています。

 消費者庁が示したガイドラインには、「健康被害の情報収集に係る事項」の項目が設けられています。そこには「機能性表示食品の摂取による健康被害の発生の未然防止及び拡大防止を図るため、届け出者は健康被害の情報を収集し、行政機関への報告を行う体制を整備することが適当である。また、機能性表示食品は、医薬品と異なり摂取が限定されるものではないことから、万が一、健康被害が発生した際には、急速に発生が拡大するおそれが考えられる。そのため、入手した情報が不十分であったとしても速やかに報告することが適当である」と記載されています。

 今回の新たな制度によって、消費者がそのメリットを享受し、また食品業界も新たな市場を得て発展するということになるためには、消費者庁に期待される役割は非常に大きいと言わざるを得ません。

消費者自身の能力向上が不可欠

 事業者は、新制度を利用するに際して、十分検証された科学的根拠に基づき正確な表現をしないと、逆に消費者の不信を招き、その信用を失墜させることにもなりかねません。消費者の側もこれを機に、食品の安全性などに関して国にばかり頼るのではなく、消費者庁HPなどから自ら情報を収集するなどして、自分が期待している食品の機能や食品の信頼性を見極めて、的確な商品選択をできる能力を持つことが必要です。

 前述のように、今回の制度創設によって、食品の機能性表示につき、従来の「事前規制」から「事後チェック」へ、「国の責任」から「事業者責任」へと、大きく転換したわけです。この新たなスキームの中では、消費者自身の情報リテラシーが問われることになりそうです。

 

2015年04月08日 10時45分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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