「言葉のセクハラ」最高裁判決の意義

相談者 YOさん

 私は、ある企業の部長職を務めています。私の部下である課長の1人について、今度退職することになった女性社員よりセクハラの訴えがあり、対応をどうするべきか検討しています。

 その課長は部下の女性社員に対して、「いくつになったの? もうそんな年になるんだ。」、「お給料足りないんじゃない? 夜の仕事とかしないの? 時給は相当いいよ? どんどんやったらいいじゃない」「30歳は、22、3歳の子から見たらおばさんだよ」「もうお局さんだね。若い子から怖がられてるんじゃない?」、「男に甘えたりする? 君はしないでしょ。女の子は男に甘える方がいいよ」、「うちの課の中で誰か一人と絶対結婚しなければならないとしたら、誰を選ぶ?」「君のお父さん絶対浮気しているよ。浮気してないやつなんていないよ」などと日常的に話していました。2人っきりの場では、自分の性器や浮気相手との性交渉に関する発言などもしていたようです。

 当社の就業規則では、禁止行為の一つとして「会社の秩序または職場規律を乱すこと」が掲げられています。就業規則に違反した社員に対しては、その違反の軽重に従って、戒告、減給、出勤停止または懲戒解雇の懲戒処分を行う旨が定められています。また、当社では、セクハラ禁止の文書も作成して社員に配布しています。その中には就業規則における禁止行為の例として、「性的な冗談、からかい、質問」「他人に不快感を与える性的な言動」「身体への不必要な接触」「性的な言動により社員等の就業意欲を低下させ、能力発揮を阻害する行為」などが挙げられています。

 ちなみに、上記のような文書配布のほかにも、年に一度弁護士に依頼して、ハラスメント研修も実施していますが、この課長は研修終了後、皆の前で「あんなことを守っていたら女の子と何も話せないよ」とか「ああいうことを言われる奴は女の子に嫌われているんで、自分は大丈夫だ」などとも話していたようです。

 本人は、その女性社員からは明白な拒否の姿勢を示されておらず、問題となっている言動も許容されていると思っていたなどと主張して、悪びれない風情です。私としては、発言の内容は到底看過できるものではなく、何らかの処分は必要だと考えています。ただ、私が懸念しているのは今回の場合、女性社員に何度も確認しましたが、不適切な内容の発言はあったものの、直接身体を触られたりしたような事実はないということです。セクハラというと、私のイメージでの典型例は女性の体を触ったり、関係を強要したりというものであり、単なる言葉だけだと果たして懲戒処分までして良いのか分かりません。

 本人も「上品とは言い難いかもしれないが、普通の人が話している内容を大きく踏み外してはいない。処分までされるような問題ではない」と強弁しています。

 とはいえ、その余りに下品な内容からして、会社としては女性社員の職場環境を守るためにも、当然、何らかの懲戒処分をすべきかと思いますが、いかがでしょうか?(最近の事例をもとに創作したフィクションです)

 

(回答)

言葉のセクハラ、最高裁で会社が逆転勝訴

 最高裁判所は2月26日、職場の部下である女性にセクハラ発言を繰り返した男性を懲戒処分としたことが妥当であったかどうかが争われた訴訟の上告審で、処分を無効とした第2審(大阪高等裁判所)の判決を破棄し、会社側の逆転勝訴判決を言い渡しました。

 具体的には、大阪市の第3セクターである株式会社「海遊館」(水族館運営企業)が男性管理職2人に対して、女性従業員へのセクハラ発言があったことを理由として、それぞれ30日間と10日間の出勤停止とした上で、課長代理から係長に降格させたことが発端でした。

 これに対し、男性管理職側が「セクハラ発言に当たらず、事前に注意や警告もなく処分したのは不当だ」として提訴しました。最高裁判決では、問題となっているセクハラ発言は「職場環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる」「出勤停止処分が本件各行為を懲戒事由とする懲戒処分として重きに失し、社会通念上相当性を欠くということはできない」と判断したのです。

 この裁判は、第1審と第2審の判断がわかれました。また、男性は女性に対して身体を触ったりしたことが全くなかったことから、「言葉のセクハラ」事件として、判決前からメディアで取りあげられ注目を集めていましたが、ようやく決着がついたわけです。

 翌日の新聞各紙は「言葉のセクハラ懲戒妥当 最高裁企業の厳格対応支持」「セクハラ発言 処分『妥当』」「セクハラ発言 降格妥当」「警告なく懲戒『妥当』」「警告なしでも処分妥当」など大きく取りあげ、世間の関心の高さが示されました。

 今回の相談は、まさに「言葉のセクハラ」に関わる事案です。

 上記事件の第1審、第2審をふり返りながら、最高裁がどのような判断を下したのかについて説明したいと思います。なお、セクハラに関しては、2013年2月27日付「営業課長が新入社員にセクハラ どうすればいい?」でも取り上げており、セクハラに関する基礎知識はそちらで説明しておりますので、ご参照下さい。

問題となったセクハラ発言

 最初に、最高裁判所の判決が認定した、問題とされているセクハラ発言を紹介したいと思います。

 実は、多くの新聞において、実際のセクハラ発言の内容が記載されていますが、一番問題になりそうな部分(女性が特に著しい不快感や嫌悪感を抱くであろう内容)が記載されておりません。「ほかにも自分の性器や浮気相手との性交渉に関する発言を認定」などとぼかした表現がなされているだけです。

 確かに、新聞などに載せるには抵抗のある非常に下品な内容なのですが、おそらく、その言葉をきちんと示さないと本件の事案の実態が十分に理解できないと思いますので、あえて以下、最高裁判所が認定した発言を全て引用したいと思います。

 最高裁判所の判決では、処分を受けた2人の社員について、それぞれ、「被上告人〇〇の行為一覧表」と題する別紙をつけて、認定した発言内容を明確にしています。

判決文における別紙1「被上告人X1の行為一覧表」の記載内容

<1>被上告人X1は、平成23年、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、複数回、自らの不貞相手と称する女性の年齢(20代や30代)や職業(主婦や看護師等)の話をし、不貞相手とその夫との間の性生活の話をした。

<2>被上告人X1は、平成23年秋頃、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ」と言った。

<3>被上告人X1は、平成23年、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、複数回、「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん」、「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな」、「でも家庭サービスはきちんとやってるねん。切替えはしてるから」と言った。

<4>被上告人X1は、平成23年12月下旬、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、不貞相手の話をした後、「こんな話をできるのも、あとちょっとやな。寂しくなるわ」などと言った。

<5>被上告人X1は、平成23年11月頃、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、不貞相手が自動車で迎えに来ていたという話をする中で、「この前、カー何々してん」と言い、従業員Aに「何々」のところをわざと言わせようとするように話を持ちかけた。

<6>被上告人X1は、平成23年12月、従業員Aに対し、不貞相手からの「旦那にメールを見られた」との内容の携帯電話のメールを見せた。

<7>被上告人X1は、休憩室において、従業員Aに対し、被上告人X1の不貞相手と推測できる女性の写真をしばしば見せた。

<8>被上告人X1は、従業員Aもいた休憩室において、本件水族館の女性客について、「今日のお母さんよかったわ……」、「かがんで中見えたんラッキー」、「好みの人がいたなあ」などと言った。

判決文における別紙2「被上告人X2の行為一覧表」の記載内容

<1>被上告人X2は、平成22年11月、従業員Aに対し、「いくつになったん」、「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」と言った。

<2>被上告人X2は、平成23年7月頃、従業員Aに対し、「30歳は、二十二、三歳の子から見たら、おばさんやで」、「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん」、「精算室に従業員Aさんが来たときは22歳やろ。もう30歳になったんやから、あかんな」などという発言を繰り返した。

<3>被上告人X2は、平成23年12月下旬、従業員Aに対し、Cもいた精算室内で、「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから、仕事やめられていいなあ。うらやましいわ」と言った。

<4>被上告人X2は、平成22年11月以後、従業員Aに対し、「毎月、収入どれくらい。時給いくらなん。社員はもっとあるで」、「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん」、「実家に住んでるからそんなん言えるねん、独り暮らしの子は結構やってる。MPのテナントの子もやってるで。チケットブースの子とかもやってる子いてるんちゃうん」などと繰り返し言った。

<5>被上告人X2は、平成23年秋頃、従業員A及び従業員Bに対し、具体的な男性従業員の名前を複数挙げて、「この中で誰か1人と絶対結婚しなあかんとしたら、誰を選ぶ」、「地球に2人しかいなかったらどうする」と聞いた。

<6>被上告人X2は、セクハラに関する研修を受けた後、「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなあ」、「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているんや」という趣旨の発言をした。

第1審判決(大阪地方裁判所・平成25年9月6日)

 以上のようなセクハラ発言があったとの報告を受けた「海遊館」は事実関係の調査を行った上で、就業規則に従って、X1に対しては、出勤停止30日間、課長代理から係長への降格という処分を行いました。一方、X2に対しては、出勤停止10日間、課長代理から係長への降格の各処分を行いました。

 これに対し、処分を受けたX1、X2は、「セクハラ行為は行っていない」「各処分は相当性を欠き懲戒権を濫用したもので無効である」などと主張して訴訟を提起しました。

 第1審の大阪地方裁判所は、X1、X2には「セクハラ発言があり、このようなセクハラ発言が懲戒事由に該当する」とした上で、「懲戒の手続きにも問題なく、各処分も社会的相当性を欠くとまではいえない」として、本件各処分を有効と判断しました。

懲戒事由の有無について

 具体的には、懲戒事由の有無については、個別の発言について詳細に吟味した上で、「被告が本件各懲戒事由として主張する原告らのセクハラ行為等の存在をいずれも認めることができる」とし、「原告らは、就業規則4条(5)及びセクハラ禁止文書における禁止行為を繰り返し行っていたことが認められるから、……懲戒処分の対象とされている『会社の就業規則などに定める服務規律にしばしば違反したとき』に該当するものということができる。したがって、被告が原告らに対してした本件各処分については『客観的に合理的な理由』(労働契約法15条)があるということができる」と結論づけました。

懲戒の手続について

 また、X1・X2は、「海遊館」が本件各処分の前に処分の理由となる事実を具体的に特定して弁明の機会を与えていないから、本件各処分を行うことは社会通念上相当性を欠くなどとも主張しました。

 この点に関して裁判所は、「被告(注:海遊館)は、本件各処分を行うに当たって、原告ら(X1、X2)に対し、本件各懲戒事由について個別具体的に摘示することまではしていないが、そのことには合理的な理由があり、また、被告は、原告らに対し、原告らがどのような行為が問題とされているかを認識して反論することが可能な程度には事実を摘示するとともに、原告らが本件各懲戒事由を否定した場合には更に個別具体的なセクハラ行為等の内容を摘示する意思も有していたが、原告らが基本的に事実関係を認めたため、個別具体的な摘示まではしなかったものということができる。したがって、被告が原告らに対して十分な弁明の機会を与えておらず、懲戒手続全体が適正さを欠くということはできないから、原告らの上記主張は採用することができない。」などとし、「本件各処分の手続に不相当な点は認められない」としました。

各処分の相当性について

 さらに、X1・X2は、「出勤停止処分をすることは重すぎるし、本件各処分によって被った原告らの不利益はあまりにも大きいから、本件各処分は社会通念上相当性を欠く」とも主張しました。

 これに対し、裁判所は以下のような認定をしました。

 「確かに、原告らが、性的関係を求めたり殊更に嫌がらせをしたりする目的や動機に基づいて、Bらに対してセクハラ行為等を行ったことをうかがわせる証拠はないから、このような目的や動機に基づくセクハラ行為等に比較すれば、原告らによるセクハラ行為等の悪質性は低いといえなくはない」

 「原告らは、懲戒処分を受けたことはなく、セクハラ行為等について、被告から直接的な注意や警告を受けたこともなかったこと、被告の就業規則において、出勤停止処分は懲戒解雇に次ぐ重い懲戒処分と位置付けられていること、そもそも被告は、セクハラ行為等を対象にするものも含め、懲戒処分を行ったことはないことが認められる」

 「原告らは、……セクハラ行為等について基本的に事実関係を認め、反省の意思を示していたことも認められる。」

 このように裁判所は、X1・X2にとって有利な事情を認定しながらも、以下のように強い口調でX1・X2を非難しています。

 「原告らの各懲戒事由をみると、原告らは、被告に派遣されている労働者等という弱い立場にあるBらに対し、その上司という立場にありながら、いずれも職場内において、繰り返しセクハラ行為等を行ったものであって、その態様は悪質なものといわざるを得ない。また、原告らによる具体的なセクハラ行為等の内容をみても、原告X1のセクハラ行為等は、Bらと1対1の状況で、自らの性器や性欲等に関する極めて露骨で卑猥ひわいな発言等を繰り返すなどしたというものであって、その発言は、職場における女性従業員に対するものとしては常軌を逸しているとしか評価し得ないものである。原告X2のセクハラ行為等についても、多数回にわたり、女性従業員を侮辱したり強い性的不快感を与えたりするような発言をするなどしたものであり、その行為は悪質なものといわざるを得ない」

 その上で、次のように結論づけました。

 「被告は、セクハラ禁止文書を作成して従業員に配布し、職場にも掲示するとともに、毎年、セクハラ研修への参加を全従業員に義務付けるなどして、セクハラ行為の防止に力を入れていたことが認められるところ、原告らは、上記セクハラ研修を受けていただけでなく、被告の管理職の立場にあり、本来は、部下を指導するなどしてセクハラ行為の防止に努力すべき立場にあったにもかかわらず、むしろ、Bらに対し、上記のような極めて悪質なセクハラ行為等を繰り返し行ったものであって、このような原告らの行動が被告の職場規律に及ぼした影響は重大なものということができる。そうすると、……諸事情を最大限考慮したとしても、原告らによるセクハラ行為等の悪質性及びこれによる被害の程度、原告らの役職、被告におけるセクハラ行為防止の取組み等に照らせば、原告X1を出勤停止30日、原告X2を出勤停止10日とした本件各処分があまりにも重すぎるものとして、社会通念上相当性を欠くとまでいうことはできない」

 また、降格処分についても「被告は、資格等級制度規程に基づき、原告らが本件各処分を受けたことを理由に、本件各降格をしたものであるところ、……本件各処分は有効であるから、本件各降格については、客観的に合理的な理由があるものということができる」と認定しました。

 その上で、「原告らが、被告の管理職という立場にありながら、職場において悪質なセクハラ行為等を繰り返し行ったことに照らせば、原告らについて,M0の等級から1段階降格してS2の等級に格付けしたことが、社会通念上相当性を欠くとはいえないことは明らかである」とし、「本件各降格は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるから、人事権の行使として、有効なものというべきである」としています。

控訴審判決(大阪高等裁判所・平成26年3月28日)

 しかし、控訴審では、第1審の大阪地方裁判所判決とは異なる判断を行い、本件各処分は無効とされました。

 ただ、ここで注意すべきなのは、大阪高等裁判所も、セクハラ発言があったこと自体は認め、「言辞によるセクハラ行為等としては軽微とは言い難い」としている点です。

つまり、懲戒事由は存在するとしながら、「事前の警告や注意、更に被控訴人(注:海遊館)の具体的方針を認識する機会もないまま、本件各懲戒該当行為について、突如、懲戒解雇の次に重い出勤停止処分を行うことは、控訴人ら(注:X1・X2)にとって酷にすぎるというべきである」として、「本件各処分は、その対象となる行為の性質・態様等に照らし、重きに失し、社会通念上相当とは認められず、本件各処分につき手続の適正を欠く旨の控訴人らの主張について判断するまでもなく、権利の濫用として無効である」と結論づけたのです。

上告審(最高裁判所・平成27年2月26日判決)

 これに対し、最高裁は、冒頭で説明したように、処分を無効とした控訴審判決を破棄し、以下のように判示して、会社側の逆転勝訴判決を言い渡しました。

 「本件各行為の内容についてみるに、被上告X1は、営業部サービスチームの責任者の立場にありながら、別紙1(注:冒頭で紹介した行為一覧表を参照して下さい)のとおり、従業員Aが精算室において1人で勤務している際に、同人に対し、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等について殊更に具体的な話をするなど、極めて露骨で卑わいな発言等を繰り返すなどしたものであり、また、被上告人X2は、……上司から女性従業員に対する言動に気を付けるように注意されていたにもかかわらず、別紙2(注:冒頭で紹介した行為一覧表を参照して下さい)のとおり、従業員Aの年齢や従業員Aらがいまだ結婚をしていないことなどを殊更に取り上げて著しく侮辱的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し、派遣社員である従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなどしたものである。

 このように、同一部署内において勤務していた従業員Aらに対し、被上告人ら(注:X1・X2)が職場において1年余にわたり繰り返した上記の発言等の内容は、いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる。

 しかも、上告人(注:海遊館)においては、職場におけるセクハラの防止を重要課題と位置付け、セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員らに周知させるとともに、セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど、セクハラの防止のために種々の取組を行っていたのであり、被上告人らは、上記の研修を受けていただけでなく、上告人の管理職として上記のような上告人の方針や取組を十分に理解し、セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず、派遣労働者等の立場にある女性従業員らに対し、職場内において1年余にわたり上記のような多数回のセクハラ行為等を繰り返したものであって、その職責や立場に照らしても著しく不適切なものといわなければならない。

 そして、従業員Aは、被上告人らのこのような本件各行為が一因となって、本件水族館での勤務を辞めることを余儀なくされているのであり、管理職である被上告人らが女性従業員らに対して反復継続的に行った上記のような極めて不適切なセクハラ行為等が上告人の企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難いものというべきである」

最高裁判所は原審の判断を否定

 「原審(注:大阪高等裁判所判決)は、被上告人らが従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず、本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたなどとして、これらを被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが、職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることや、上記のような本件各行為の内容等に照らせば、仮に上記のような事情があったとしても、そのことをもって被上告人らに有利にしんしゃくすることは相当ではないというべきである。

 また、原審は、被上告人らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する上告人の具体的な方針を認識する機会がなく、事前に上告人から警告や注意等を受けていなかったなどとして、これらも被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが、上告人の管理職である被上告人らにおいて、セクハラの防止やこれに対する懲戒等に関する上記のような上告人の方針や取組を当然に認識すべきであったといえることに加え、従業員Aらが上告人に対して被害の申告に及ぶまで1年余にわたり被上告人らが本件各行為を継続していたことや、本件各行為の多くが第三者のいない状況で行われており、従業員Aらから被害の申告を受ける前の時点において、上告人が被上告人らのセクハラ行為及びこれによる従業員Aらの被害の事実を具体的に認識して警告や注意等を行い得る機会があったとはうかがわれないことからすれば、被上告人らが懲戒を受ける前の経緯について被上告人らに有利にしんしゃくし得る事情があるとはいえない。 

 以上によれば、被上告人らが過去に懲戒処分を受けたことがなく、被上告人らが受けた各出勤停止処分がその結果として相応の給与上の不利益を伴うものであったことなどを考慮したとしても,被上告人X1を出勤停止30日、被上告人X2を出勤停止10日とした各出勤停止処分が本件各行為を懲戒事由とする懲戒処分として重きに失し、社会通念上相当性を欠くということはできない。

 したがって、上告人が被上告人らに対してした本件各行為を懲戒事由とする各出勤停止処分は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいえないから、上告人において懲戒権を濫用したものとはいえず、有効なものというべきである。

 ……そして、被上告人らが、……懲戒解雇に次いで重い懲戒処分として上記のとおり有効な出勤停止処分を受けていることからすれば、上告人が被上告人らをそれぞれ1等級降格したことが社会通念上著しく相当性を欠くものということはできず、このことは、上記各降格がその結果として被上告人らの管理職である課長代理としての地位が失われて相応の給与上の不利益を伴うものであったことなどを考慮したとしても、左右されるものではないというべきである。

 以上によれば、上告人が被上告人らに対してした上記各出勤停止処分を理由とする各降格は、上告人において人事権を濫用したものとはいえず、有効なものというべきである」

今回の最高裁判所判決を受けて

 最高裁判所が会社側の処分を有効と判断した理由の一つは、第1審が「その発言は、職場における女性従業員に対するものとしては常軌を逸しているとしか評価し得ない」とまで言い切ったほどに、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切な内容であったこと、そういった発言が約1年にわたり執拗しつように繰り返された点にあります。

 会社側がセクハラの防止のために、様々な取組を行っていたことも挙げられます。男性課長代理2人は、「事前に会社側から警告や注意等を受けていなかったにもかかわらず突然処分したのは不当である」と主張しましたが、裁判所は、会社の取組姿勢のほか、その2人が研修を受けていただけでなく、管理職として会社の方針や取組を十分に理解して、セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず、不適切な言動を繰り返していたことを重視して、問題が発覚した直後に処分したことを妥当であるとしました。

 男女雇用機会均等法第11条第1項では、セクハラについて、「性的な言動」と規定しています。「性的な言動」には性的な内容の発言も含まれますので、直接身体に触れるなどの身体的接触がなく、発言だけであってもセクハラとして問題とされる場合が当然あり得ます。

 ただ、従来はセクハラ発言だけで懲戒処分にして良いのか、どこまでの発言であれば処分できるのかという点で不明確なところもありました。しかし、今回の最高裁判所判決によって、企業は身体接触のない発言だけに対しても、重い処分を下すことができることが明確になりました。この判決内容がその際の重要な基準となってくると思われます。

 企業としては今後、セクハラ防止のための予防策をより一層充実させる一方、言葉だけのセクハラを軽視する風潮に対する社員の意識改革を進めて行くことも求められています。

時代の変化に対し柔軟に対応を

 相談者は、不適切な内容の発言はあったものの、直接身体を触られたりしたような、従来セクハラの典型とされるような事実がないという点を気にしているようですが、セクハラというと、女性の体を触ったり関係を強要したりというものであるといった意識は変える必要があります。

 単なる言葉だけでも、内容によっては、重い懲戒処分を下すことができることを十分に認識すべきです。

 読売新聞のコラムである「編集手帳」に、本件裁判について、次のような一節がありました。

 「昔の小説を新装版で読んでいて、巻末の注釈に出合うことがある。〈本書には現在から見て不適切な表現が用いられているが、原文の歴史性を考慮し、そのままとした〉などの文章である◆「結婚もせんで、こんな所で何してんの。親、泣くで」「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん」。ほかにも露骨に性的な表現を含む言葉があったというから、半世紀前の小説か映画の一場面を思い起こさせる◆大阪市の水族館「海遊館」の運営会社で、管理職の男性2人(40代)が部下の女性2人に言ったという。3年前の発言とはいえ、あんさん方、いまどきの人やおまへんな」

 企業としては、世間から「いまどきの人やおまへんな」と言われないように、セクハラを含むハラスメントの基準が年々変わっていくことを十分に認識し、時代の意識に敏感に対応していくべきことを自覚すべきと思います。

 

2015年03月11日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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