改正薬事法施行、どうなる医薬品ネット販売?

相談者 K.Tさん

 先日、何気なく新聞を見ていたら、厚生労働省からのお知らせ(政府広報)が載っており、「6月12日から市販薬がインターネットで購入できます」と書いてありました。ようやくこの日がきたのかと思うと、感無量です。

 私は、以前、本コーナーで相談を取りあげてもらったネット通販愛好者です(2012年8月8日付「薬のネット通販なぜダメ 再開の見込みは?」)。その年の4月26日に、東京高等裁判所が、医薬品のネット販売に関する国の規制が違法であると判断したばかりの頃で、「最高裁の最終的な判断が出るのはまだ大分先になるでしょうから、ご相談者の方がネット通販で医薬品を購入できるようになるのは、もうしばらく待たなければならないことになります」との回答をいただきました。

 あれから約2年、待ち望んでいた医薬品のネット通販解禁がついに実現するわけです。 前回相談時に1歳と5歳だった私の子どもも、それぞれ3歳と7歳になりました。少し大きくなったとはいえ、まだ手がかかります。普段私が服用している薬を買うために、子どもの手を引いて遠くのドラッグストアに行くのは大変です。ネットで薬を買えたらと思うのはこんな時です。もう、こんな思いをしなくてもいいんだと思うとホッとしています。また、ドラッグストアが閉まっている時間に注文を出せるのもありがたいと思います。

 ただ、今回の件についてちょっと気になって新聞に載った過去の記事などを調べてみると、「薬ネット販売99%超」とか「薬、市販3年でネット解禁」などとあります。私は全面解禁だとばかり思っていたのですが、実際は違うのでしょうか。また、何かの雑誌で、国に対して裁判を起こした原告の方が、今回の法改正に不満を述べているインタビューも見かけました。本来なら諸手を挙げて歓迎しているはずのネット業界が全面歓迎ではないのはなぜでしょうか。

 ネットでの薬の販売に関して、賛成派と反対派にそれぞれ主張があることは知っています。でも、この問題が最終的にどう決着したのかは、私にはよく分かりません。

 前回記事が出てからの経緯と、医薬品ネット販売解禁と言われている今回の改正薬事法の内容について、わかりやすく説明していただけないでしょうか。(最近の事例をもとに創作したフィクションです)

(回答)

6月12日、医薬品ネット販売解禁

 いよいよ、6月12日に、大きな議論となった改正薬事法が施行されます。

 従来、ネット販売での取り扱いが禁止されていた第一類医薬品と第二類医薬品の販売が原則として解禁され、一般医薬品の約99%について、ネット通販での取り扱いが可能となります。相談者が指摘しているように、東京高等裁判所が、ネット販売を禁じた厚生労働省の省令を無効であるとした判決(2012年4月26日)から2年余り、同判決を是認した最高裁判所判決(13年1月11日)からみてもすでに1年半が経過しましたが、ようやく誰もがネット通販で医薬品を購入できるようになるわけです。

 ただ、ここに至るまでには、ネット通販推進派と慎重派の激しい対立があり、また、今回の改正でも従来の第一類医薬品の一部が「要指導医薬品」と名前を変えて、相変わらずネットでの販売が禁じられているほか、処方箋薬のネット販売が正式に薬事法で禁止されるようになるなど(従来は省令で規定されていました)、規制緩和に反する方向の内容も含まれており、ネット業界としても今回の改正に諸手を挙げて賛成というわけではありません。

 そこで、今回は、本連載の中で、医薬品のネット通販問題について説明した「薬のネット通販なぜダメ 再開の見込みは?」(12年8月8日)の後の状況についてまず説明し、それから今回の改正薬事法の内容について検討してみたいと思います。

最高裁判決後も多くの企業が様子見

 最高裁判所の判決が出てから、医薬品の販売現場には大きな混乱が生じました。同判決は、ネット販売を禁じた厚生労働省の省令が違法無効であるとし、裁判の原告企業(ケンコーコム社及びウェルネット社)について、「第一類、第二類医薬品をネット販売することができる地位」を確認したにすぎず、全ての企業に医薬品のネット販売そのものを解禁したわけではないからです。当然のことながら、裁判所のお墨付きを得た原告企業2社は、直ちに第一類、第二類医薬品のネット販売を開始しましたが、他の多くの企業は他社の動向を見つつ様子見の姿勢でした。ちなみに、厚生労働省医薬食品局総務課の13年1月17日付事務連絡によれば、「原告以外の事業者については、その権利は確認されていないものの、今回の判決の趣旨からすれば、郵便等販売を行ったとしても、それだけで薬事法違反を問うことは考えていない」「しかしながら、厚生労働省としては、郵便等販売に関する新たなルールが決まるまでの間は、関係者には慎重な対応をお願いしている。具体的には、第一類・第二類医薬品については、新しい販売のルールが出来るまでの間、郵便等販売による販売を控えていただくようお願いするものである」として、事実上、新たな販売ルールが決定するまでは販売を自粛するように求めており、大手企業の多くは、この自粛要請を受けて、従前同様に、第一類、第二類医薬品の販売は控えていました。

 他方、最高裁判所判決によって、事実上の解禁状態になったとの認識を持ち、第一類医薬品も含めた一般用医薬品のすべてをネット販売する中小規模の業者も多数現れました(報道によれば、13年3月時点で、100社以上に上ったとのことです)。これに対しては、ネット業界からも、明確な販売ルールも確立していないのに、副作用の恐れもある医薬品が自由に販売されることについて危惧する声も出ていました。他方、楽天やヤフーなどは、自社のネットモール内における自主ルールを独自に策定して対応するなど、まさに混乱した状態が続いていたわけです。

厚労省検討会も方針示せず

 そのような中、厚生労働省は、13年2月14日に検討会を立ち上げましたが、推進派と慎重派の対立は深刻な様相で、前述のような現場の混乱をよそに、激しい議論が続きました。結局、5月31日開催の第11回検討会では、両論を併記した報告書を取りまとめるだけに終わりました。

 当時、検討会の座長による「これ以上やっても合意は進まない。私もいろんな審議会の座長をしましたけど、これほどまとまらないのは初めて」との発言が報道されたりしましたが、それほど両派の対立は深刻なものであったわけです。

流れを決めた安倍首相の意向

 この対立状況に変化が見られるようになったのが、13年6月4日付の「薬99%ネット販売解禁」(読売新聞)との報道の前後からです。この記事は、政府が、一般用医薬品のインターネット販売に関し、副作用のリスクが高いとされる第一類医薬品の一部を除き、解禁する方針を固めたとの内容であって、この時点以降から、ネット販売解禁の流れができたと思われます。

 この方針決定は、政府の規制改革会議が医薬品ネット販売を最優先案件として位置づけ全面解禁を求めていたことが大きく影響したとみられ、まさに安倍首相が進める規制改革の成果と言えます。

 その後は、ネット販売を基本的に解禁する前提で、販売ルール等の詳細が詰められていき、今回の薬事法改正に至ったわけです。新たに設置された、販売ルール策定の作業部会においては、テレビ電話の設置義務付け問題、ネットでの販売時間、多量頻回購入の防止策、販売記録の作成・保存などを巡って対立がありましたが、ネット販売推進派の意見が多く取り入れられています。

ネット業界には一部規制が残ることに不満も

 ここまで読むと、ネット販売推進派の主張の多くが通り、ネット業界も満足しているかのように見えるかもしれません。しかし、必ずしもそうではなく、楽天の三木谷浩史社長は、今回の決着を不満として、政府の産業競争力会議の民間議員を辞任しています。その理由は、全面解禁が認められずに、医師の処方箋が必要な医療用医薬品(いわゆる処方箋薬)から市販薬への切り替え後、原則として3年間販売を認められない医薬品23品目、また副作用リスクの高い劇薬5品目がネット販売から除外されたことにあります(後に解説します)。前者は市場で販売した際のリスク評価が定まるのに一定の時間が必要、また後者は毒性が強い成分が含まれているという理由です。

 三木谷社長は、13年11月6日の記者会見で、「厚生労働省の法案は『対面による』という言葉が連発されている。時代錯誤もはなはだしい。総論OKだが最後は各論の重要なところで役人にせきとめられる」「不合理な『対面安全神話』という声を通すのであれば、規制改革は進まないだろうと考える。今回は規制強化という真逆の方向に動いている」などと述べ、強い不満を表明しています。

改正薬事法の成立、施行へ

 三木谷社長の上記意見表明などによる波乱はあったものの、最終的には改正薬事法は、13年12月5日、参院本会議で賛成多数により可決、成立しました。そして、今年6月12日にいよいよ施行されるというわけです。

 以上のように、最高裁判所の判決が出て、医薬品のネット販売が全面解禁されるかとも思われ、安倍首相もその動きを後押ししていたようですが、最終的には新たな規制が設けられることになり、前述新聞記事のように「99%超」の解禁となったということです。

 そこで、以下、規制が残った1%とは何か、なぜそのような規制が残ったのかに着目しながら、改正薬事法の内容について簡単に説明していきたいと思います。

改正薬事法の内容

 ちまたで改正薬事法と呼ばれているのは、「薬事法及び薬剤師法の一部を改正する法律」(平成25年法律第103号)のことであり、昨年12月13日に公布され、そのうち、医薬品の販売業等に関する規制の見直しについては、今年6月12日から施行することとされたものです。

 改正薬事法によって、すべての「一般用医薬品」についてネット販売が可能となっています。ただ、ここでいう一般用医薬品というのは、従来の一般用医薬品の概念から「処方箋薬から転換して原則3年以内の薬」(スイッチ直後品目)と「劇薬」を除外したものとなっており、この除外された薬については新たに「要指導医薬品」と命名され、従前と同様にネット販売は禁止されています。この部分が、前述の解禁されていない1%部分に該当します。

 つまり、改正薬事法においては、「要指導医薬品」という新たな分類を設けて、従来、一般用医薬品に含まれていた薬の幾つかをそこに移動させることにより、「一般用医薬品は適切なルールのもとで全てネット販売可能」という形式を作り出したうえで、実質的には、一部の一般用医薬品を解禁の対象外としているわけです。これは、安倍首相による「全ての大衆薬のネット販売を解禁する」との表明に適合するように、形式を整えたなどとも言われています。

要指導医薬品とは

 では、ネット販売の対象から外された「要指導医薬品」とはどのようなものでしょうか。これは、一般用医薬品の中から、厚生労働大臣が、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものであり、具体的には、前述のように「処方薬から転換して原則3年以内の薬」(スイッチ直後品目)と「劇薬または毒薬」を意味します。

 スイッチ直後品目とは、医療用医薬品として使用前例のある成分を一般用医薬品に転用(スイッチ)して承認を得たもののことです。皆さんが、薬局などで薬を探していると、薬剤師さんが、「今度、今まで病院でしかもらえなかった、よく効く薬の成分が入った新しい市販薬が出た」などと言って、新製品の薬を薦めてくることがあると思いますが、そういったものを指しています。これは、医療用医薬品の有効成分としては新しいものではありませんが、一般用医薬品としては初めての用法用量、効能効果等で使用されるため「新薬」と取り扱われて、安全性評価を経た上で、一般用医薬品としての販売可否を確認してから一般用医薬品に移行し、ネット販売が解禁されるというプロセスを経ることになります。この移行は、特段の問題が生じない限り3年が経過した時点となります。

 また、劇薬又は毒薬としては、「ガラナポーン」など5品目が指定されています。なお、ここで指定されている5品目のほとんどは勃起障害等改善薬であり、一般の方々が、劇薬と言われてイメージするものとはやや異なっていることは一言指摘しておきたいと思います。

従来の一般用医薬品の99%超がネット販売可能に

 厚生労働省の資料によれば、昨年8月時点の統計を基にすると、従来の第一類医薬品(約100品目)の中で、今回の改正薬事法によっても相変わらず販売することができない品目は28品目(一般用医薬品全体の0.2%)、第一類医薬品全体の市場規模が約400億円(全体の4%)であり、販売できない対象はさらにその一部ということになります(なお、これは昨年8月の統計を基にした数字であり、その後のリスク評価期間の経過等により、今回実際にネット販売を禁止されたのは20品目となっています)。ちなみに、風邪薬などに代表される第二類医薬品は、約8200品目(全体の73%)、その市場規模は約6100億円(全体の66%)であり、その部分がネット販売解禁となったことだけでも十分意味はあると思われます。

 ただ、品目にしてわずか1%足らずとはいえ、前述のように「厚生労働大臣が、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定する」という、役所の裁量による規制の可能性が残された点(および、後述する、処方箋薬が法律によってネット販売を禁じられた点)については、ネット業界が反発する相当な理由があり、今後、この運用について注視していく必要があると思われます。

販売方法に対する規制

 さて、ネット販売業者は、今回の改正薬事法によって、従来取り扱うことができなかった多くの一般用医薬品を販売できるようになったわけですが、それに伴い、一定の厳格な販売ルールを遵守じゅんしゅしなければならなくなりました。

 購入者は、ホームページを閲覧して購入する薬を選んだ上で、メールなどで、性別、年齢、症状、持病、他の医薬品の使用状況、妊娠の有無など、様々な情報を申告しなければなりません。特に、副作用リスクの高い第一類医薬品の場合には、薬剤師から、用法・用量、服用上の留意点(飲み方や長期に使用しないことなど)などについて、メールなどの返信によって情報提供を受け、それに対して、購入者は提供された情報を理解した旨、再質問・他の相談はない旨を連絡し、ようやく商品の発送に至ることになります。従来、薬剤師が対面販売していた第一類医薬品については、それと同等の安全性確保を図るためです。

 なお、第二類医薬品については、上記のような販売方法をとるよう「努めなければならない」とされ、第三類医薬品については、それが「望ましい」とされているにとどまっています。

 このあたりは非常に細かい規制がありますが、関心のある方は、厚生労働省のホームページに説明が載っていますので参照してみて下さい。

レコメンド機能の禁止

 さて、上記のように、販売方法に様々な規制がされたわけですが、その中でも、ネット販売において一般に活用されている、レコメンドや口コミの掲載が禁止されたことに注目が集まっています。

 レコメンドとは、ネット販売などで、利用者の購入履歴などを分析し、利用者の好みに合致した他の商品を推薦する手法を言います。アマゾンなどで映画のDVDを購入すると、その人の過去の購入履歴や、その商品を購入した他の人の購入履歴などを基にして、その映画の監督の他の作品や、設定・テーマが類似した映画のDVDなど、購入意欲をそそられるような商品が表示されますが、あの機能を意味します。

 この点、「薬事法及び薬剤師法の一部を改正する法律等の施行等について」(平成26年3月10日付薬食発0310第1号厚生労働省医薬食品局長通知)では、次のように記載されています。

 「店舗販売業者は、医薬品の購入又は譲り受けの履歴、ホームページの利用の履歴その他の情報に基づき、自動的に特定の医薬品の購入又は譲り受けを勧誘する方法その他医薬品の使用が不適正なものとなるおそれのある方法により、医薬品に関して広告をしてはならない。例えば、特定販売を行うことについてインターネットを利用して広告をする場合に、ホームページの利用の履歴等の医薬品の購入に関する情報に基づき、自動的に特定の医薬品の購入又は譲り受けを勧誘すること(いわゆる『レコメンド』)は認められない」

 ただし、厚生労働省が出した「医薬品の販売業等に関するQ&A」によれば、全てのレコメンドが許されないのではなく、「医薬品の購入履歴等に基づかない広告(例:ホームページ閲覧者全員に対する一律の医薬品広告、ホームページでの医薬品購入者全員に対する一律の医薬品広告)は差し支えない。また、販売サイトに登録した年齢や性別に関する情報に基づき、特定の医薬品に関して広告することは差し支えない」とされています。

口コミ機能の禁止

 口コミについては特に説明の必要はないと思いますが、食べログなどのサイトにおいて、レストラン情報と一緒に掲載されている、飲食店の利用者による評判などが典型例です。

 この点、前述の厚労省の通知では、次のように記載されています。

 「店舗販売業者は、その店舗において販売・授与しようとする医薬品について広告をするときは、当該医薬品を購入し、しくは譲り受けた者又はこれらの者によって購入され、若しくは譲り受けられた医薬品を使用した者による当該医薬品に関する意見その他医薬品の使用が不適正なものとなるおそれのある表示をしてはならない。例えば、その店舗において販売・授与しようとする医薬品についての広告(ちらし、ホームページ等)において、当該医薬品の効能・効果等に関する、当該医薬品を購入し、若しくは譲り受けた者又はこれらの者によって購入され、若しくは譲り受けられた医薬品を使用した者による意見(いわゆる『口コミ』等)を表示することは認められない」

 ただし、この点も、前述Q&Aでは、「医薬品は個々人のそのときの症状に合わせて使用されるべきものであり、体質や症状の異なる他人からの効能・効果に関する『口コミ』に基づいて使用すると、不適正な使用を招くおそれがあることから、医薬品の効能・効果に関する『口コミ』を禁止するものである。このため、単に薬局等の接客態度に関するものであれば、『口コミ』をちらしやホームページに掲載することは差し支えない。ただし、接客態度に関する『口コミ』等と称していても、その内容が医薬品の効能・効果に関する『口コミ』に該当するものは認められない」としており、すべての口コミを禁止するものではないことがわかります。

 他にも、医薬品の購入履歴等に基づくダイレクトメールの原則禁止(特別の同意を取れば可能)や、バナー広告における表示上の制約など、ネット販売に特有の規制があり、医薬品のネット販売やその広告に携わる企業にとっては、十分な注意が必要です。

処方箋薬を巡る攻防へ

 以上説明してきたように、最高裁判所判決以降も、医薬品ネット販売推進派と慎重派の対立は続いており、それは現在も同様です。今回、改正薬事法によって、従来の一般用医薬品の99%超がネット販売可能になったからといって、両者の対立が終わったわけではありません。相談者が疑問に思われるように、今回、全面解禁とはならなかったわけですが、この結果は、両者の妥協の産物として改正薬事法を捉えれば理解できると思います。

 ちなみに、今回の改正薬事法には、処方箋薬(医師の処方箋が必要な医療用医薬品)につき、ネット通販を禁止して対面販売のみ(薬剤師が対面で情報提供・指導)とする新たな規定が盛り込まれています。つまり、処方箋薬については、従来「省令」で対面販売を義務づけしていたものを、人体に対する作用が著しく重篤な副作用が生じる恐れがあるとして、「法律」に格上げしたわけです。これについては、省令におけるネット通販を制限する規定が、法律の委任の範囲を逸脱しているとして敗訴判決を受けた苦い経験を踏まえて、改めて法律で規定し直したものと思われますが、この規制については、十分な議論がなされなかったとの批判があります。三木谷社長は、記者会見で、「処方薬は医師が処方して受け渡すこと。これが対面でなければいけないという合理的説明はソクラテスでも無理だろう」とまで述べています。

 また、前述のように、全体のわずか1%弱に過ぎない医薬品を、要指導医薬品という新たな分類を設けてまで規制の対象にするように、厚生労働省がこだわったのは、一般用医薬品でネット販売を全面解禁してしまうと、次に処方箋薬もネットでというように波及していくことを恐れたからとも言われています。処方箋薬市場は9兆円を超えており、1兆円に満たない一般用医薬品市場よりもはるかに大きいのであって、実は、本当に守りたいものは他にあるということかもしれません。

 冒頭に述べた裁判で国に勝訴したケンコーコムは、13年11月、国を相手として、処方箋薬をネットで販売する権利の確認を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しましたが、今回の薬事法改正を受けて訴えを取り下げ、改正法施行後に、再度訴えを起こすと表明しています。無効を主張している省令自体が、6月12日の改正薬事法施行によって、その内容が法律に定められることになり、前回裁判で勝訴した理論が通用しなくなるからです。仮に、表明通りに、ケンコーコムが、処方箋薬のネット販売を禁じた薬事法の規定自体の有効性を争う裁判を提起すれば、その判決で、今度こそ、医薬品のネット販売を巡る争いは幕を閉じるものと思われます。それまでの間、まだまだ、この医薬品のネット販売の問題については、推進派、慎重派の間の激しい攻防が続きそうです。

 

2014年06月11日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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