話題のブラック企業、どんな会社?見分け方は?

相談者 A.Aさん(23)

 「仕事でミスをすると、社長は口より先に手が出ることもあるんだ」。就活の相談で久しぶりに会った大学の先輩の顔には、うっすらとあざが残っていました。

 それでも「ノルマは厳しいけれど、やりがいがある」と張り切っていた先輩ですが、しばらくして会社を辞めたそうです。以来、音信不通です。「もしかしてブラック企業だったんじゃ」と後輩たちでうわさしているんですよ――。

 大学4年生の私は、就職活動の真っ最中です。就職説明会で顔見知りになった他大学の学生と“情報交換”に入った喫茶店で、こんな恐ろしい話を聞かされたのが忘れられません。

 毎日いろいろな企業の説明会をはしごしています。子どものころから世界を相手に仕事をしたいと考えていたので、第1志望は総合商社です。大学4年は今年で2回目なのです。去年は、一流商社に軒並み蹴られたあと、中堅商社の最終面接でふるい落とされました。それでも商社マンになる夢を諦めきれず、再チャレンジしようと留年したのです。

 地方から東京に出てきているので学費、下宿代、生活費はばかになりません。「親にこれ以上迷惑をかけたくない」と今年は背水の陣で臨んでいます。親からも「留年せずに就職して」と言われており、それほど有名ではない企業も含め、り好みせずに幅広く就職活動をしています。

 日本の企業は中小を含めて何万社、何十万社もあるので、「どこかには入れるだろう」と思っています。ただ、気になるのが最近話題のブラック企業の問題です。ネットの掲示版には、ブラック企業に関する書き込みがたくさん載っています。残業代なしで長時間働かせられる、給料がちゃんと支払われない……などは序の口です。達成できないようなノルマを背負わされ、脅され、罵倒され、殴られ、精神的にぼろぼろになった揚げ句、最後は使い捨てにされてしまうというのです。本当にそんなひどい会社があるのだろうかと半信半疑ではあるのですが、やはりとても不安です。とはいえ、何となくブラック企業は怖いというイメージだけは持っているものの、どういう会社をブラック企業と呼んでよいのか、実はよくわかっていません。

 就職人気ランキングに載っているような大企業であれば、そういう心配はないでしょうし、いくらでも情報収集できます。しかし、あまり知られていない企業の場合、会社の評判とかを見聞きする機会もなく、そこに勤めている先輩もいないので情報を集められません。

 世間でどのような会社をブラック企業と呼んでいるのか、その見分け方などを教えていただけますか。(最近の事例をもとに創作したフィクションです)

(回答)

就活スケジュールの変更

 就職活動のスケジュールが、2016年春の卒業予定者から大きく変わるということで話題になっています。

 経団連が加盟企業向けに示すガイドラインでは、会社説明会の解禁時期を、現行3年生の12月1日から3月1日へ、また面接などの選考活動を、現行4年生の4月1日から8月1日へと、それぞれ遅らせるということです。つまり、今年4月に3年生になった大学生の就職活動から、企業側が学生を選考する期間が今以上に限定されます。逆に言えば、学生側が企業を実際に選別できる期間も限定されるようになるわけです。

 この変更は、「世界との大競争時代に、日本の将来を担う若者が目の前の就職活動にとらわれ、内向きで能力を伸ばす機会を失うのは看過できない」との思いから、安倍首相が、現在の就職活動のスケジュールを遅らせるよう、経済団体に要請したことを受けて実施されるものです。

 ただ、このルール変更に関しては、経団連に加入しない外資系企業などは対応しない方針を明確にしており、外資系企業が先行して優秀な人材を大量に確保する懸念などが上がっています。同方針に反発しているIT系新興企業なども含めると、果たしてどこまで実現されるか今から危ぶむ声も上がっています。

 とはいえ、現行ルールの下で4月1日から始まった面接などに走り回っている大学4年生の皆さんには、希望する企業にぜひ入ってもらいたいものです。

ブラック企業とは

 さて、この就活において、今最も話題になっているのがいわゆる「ブラック企業」の問題です。最近、この言葉をメディアでよく見かけるようになりましたが、ブラック企業は法律用語ではなく、確定した明確な定義があるわけでもありません。

 例えば、ウィキペディアではブラック企業について、「新興産業において若者を大量に採用し、過重労働・違法労働によって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業を指す…将来設計が立たない賃金で私生活が崩壊するような長時間労働を強い、なおかつ若者を「使い捨て」るところに「ブラック」といわれる所以ゆえんがある。」としています。

 また、受賞結果が今やニュースにも取りあげられるほど著名になった「ブラック企業大賞」のHP(ホームページ)では、定義として「(1)労働法やその他の法令に抵触し、またはその可能性があるグレーゾーンな条件での労働を、意図的・恣意しい的に従業員に強いている企業(2)パワーハラスメントなどの暴力的強制を常套じょうとう手段として従業員に強いる体質を持つ企業や法人」――としています。その指標として、長時間労働、セクハラ・パワハラ、いじめ、長時間過密労働、低賃金、コンプライアンス違反、育休・産休などの制度の不備、労組への敵対度、派遣差別、派遣依存度、残業代未払い(求人票でウソ)などを挙げています。

 さらに、昨年12月、大佛次郎論壇賞を受賞した「ブラック企業-日本を食いつぶす妖怪」の著者である今野晴貴氏が主催するNPO法人POSSE(ポッセ)のHPでは、ブラック企業について次のように説明しています。

 「『ブラック企業』という言葉はリーマンショック以降、急激に口にされるようになりました。今迄個別の事例として扱われていた若年層の鬱病・過労死・過労自殺は、ブラック企業による組織的な「若者の使い潰し」という新たな社会問題であることが明らかになっています。ブラック企業に入社する者の中では、激しい選別に伴う集団的なハラスメントや、残業代未払いの長時間労働に苦しめられ、鬱病や離職に追い込まれる人も少なくありません。」

 そして、同HPでは、「こんな企業に要注意!」として、ブラック企業診断のために次のようなメルクマールを掲げています。

<1>新規学卒社員の3年以内の離職率3割以上。

<2>過労死・過労自殺を出している。

<3>短期間で管理職になることを求めてくる。

<4>残業代が固定されている。

<5>求人広告や説明会の情報がコロコロ変わる。

政府がブラック企業対策を宣言

 以上のように、必ずしもその概念が明確ではないブラック企業ですが、個々の労働条件等の具体的事象は別として、その中心になるのは「若者を使い捨てにする」という点にあるようです。そして、政府も、ブラック企業という言葉は使っていませんが、その点に着目して行動を開始しています。

 昨年6月14日、日本経済の再生に向けた「3本の矢」のうちの3本目の矢である、成長戦略として、「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」が閣議決定されましたが、この中には、若者の活躍推進策として、「過重労働や賃金不払残業など若者の『使い捨て』が疑われる企業について、相談体制、情報発信、監督指導等の対応策を強化する。」と明記されています。まさに、政府自らが、ブラック企業対策を取ることを宣言したわけです。

 これを受けて、厚生労働省は、昨年8月8日、若者の「使い捨て」が疑われる企業等への取り組みを強化するとし、以下の3点を取組の柱として具体的な対策を行う旨を宣言しました。 

<1>長時間労働の抑制に向けて、集中的な取り組みを行います。

<2>相談にしっかり対応します。

<3>職場のパワーハラスメントの予防・解決を推進します。

調査対象の8割が法令違反

 そして、昨年12月17日、厚生労働省は、上記取り組みの結果として、「若者の『使い捨て』が疑われる企業等への重点監督の実施状況」を発表しました。

 調査対象は、無料の電話相談やハローワークなどを通じ、過重労働に関し深刻で詳細な情報が寄せられた5111の事業所に対して、昨年9月に立ち入り調査した結果であり、この種の全国調査は初めての試みということです。

 これによると、実施した約8割の事業所に法令違反があり是正勧告書が交付されており、違反で最も多いのは「違法な時間外労働」の2241事業所(43・8%)、次に「賃金不払いの残業」(23・9%)となっています。

 この調査は、問題を指摘された事業所に対するものであり、違反が指摘される可能性が高いのは当然かもしれませんが、法令違反企業が8割という結果には驚かされます。

 ちなみに、違反・問題等の主な事例として次のようなケースが挙げられています。

<1>長時間労働等により精神障害を発症したとする労災請求があった事業場で、その後も、月80時間を超える時間外労働が認められた事例。

<2>社員の7割に及ぶ係長職以上の者を管理監督者として取り扱い、割増賃金を支払っていなかった事例。

<3>営業成績等により、基本給を減額していた事例。

<4>月100 時間を超える時間外労働が行われていたにもかかわらず、健康確保措置が講じられていなかった事例。

<5>36協定で定めた上限時間を超え、月100時間を超える時間外労働が行われていた事例。

<6>労働時間が適正に把握できておらず、また、算入すべき手当を算入せずに割増賃金の単価を低く設定していた事例。

<7>賃金が、約1年にわたる長期間支払われていなかったことについて指導したが、是正されない事例。

 

 以上のように、ブラック企業として問題とされた具体的な事象には様々なものがありますが、まずは上記事例の中から幾つか典型的なものを取りあげて、説明していきたいと思います。

 なお、今回問題となっている事案のほとんどは、いずれも、過去、このコーナーで紹介している内容となっています。つまり、ブラック企業とは、本コーナーで今まで個別の労働法上の時事問題などとして取りあげてきた法令違反を、意図的かつ継続的に引き起こしている企業全般を指すものと理解することもできると思います。これからの説明について、より詳細な内容を確認したい方は、それぞれのバックナンバーをご参照いただければと思います。

違法な時間外労働

 前記ケース<1> 長時間労働等により精神障害を発症したとする労災請求があった事業場で、その後も、月80時間を超える時間外労働が認められた事例。

 前記ケース<4> 月100 時間を超える時間外労働が行われていたにもかかわらず、健康確保措置が講じられていなかった事例。

 前記ケース<5> 36協定で定めた上限時間を超え、月100時間を超える時間外労働が行われていた事例。

 厚労省による前述の立ち入り検査において、最も多く違反が認められたのは「違法な時間外労働」でした。2241事業所(43・8%)で違法な時間外労働が認められ、事業所内で時間外・休日労働時間が最長の者を確認したところ、1230事業場で1か月80時間を超え、そのうち730事業場では1か月100時間を超えていたと報告されています。仮に土曜・日曜を休んでいたとしても、毎日5時間程度の残業をしていた計算になります。

 本稿「50時間もの残業代、年俸制だと請求できない?」(2011年12月14日)の中でご説明したように、労働時間に関して、労働基準法上、従業員を就労させることのできる時間的限界が設定されており、また、かかる時間的限界を超えた場合や深夜に労働をさせた場合には「割増賃金」を支払わなければならないものとされています。

 つまり、会社は原則として1週間について「40時間」を超えて労働させてはならず、1週間の各日については、1日に「8時間」を超えて労働させてはならないとされています。休日については、原則として「毎週少なくとも1回以上」でなければなりません。加えて、会社が労働時間を延長し、もしくは休日に労働させた場合、または深夜の時間帯(午後10時から午前5時までの間)に労働をさせた場合には、通常の労働時間または労働日の賃金に一定の割増率を乗じた割増賃金(いわゆる残業代)を支払わなければならないこととされています。

 そして、会社が労働者に対し、時間外・休日労働を行わせるためには、時間外・休日労働が労働基準法上適法化されるように、いわゆる「36協定(サブロク協定)」を締結するなどの必要があります。つまり、36協定がなければそもそも残業を命じることはできませんし、36協定があるとしても、そこで定められた上限時間を超えて残業を命じることはできないわけです。

 ちなみに、36協定でも無制限に残業を認めるわけではなく、一定の制限が設けられています。例えば、1か月の限度時間は45時間と定められています。ただし、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想されるような場合には、「特別条項付き協定」を結ぶことによって、限度時間を超える時間を延長時間とすることができることになっています。

 ケース<1>は、36協定の特別条項の上限時間を超え、最も長い者で月80時間を超える時間外労働が認定されています。同様に、ケース<5>でも、36協定の上限時間を超え、正社員では最も長い者で月84時間の時間外労働が行われており、またパート社員の中には月170時間もの時間外労働を行っていた者もいたことが認定されています。

 なお、労働安全衛生法は、長時間にわたる労働により疲労の蓄積した労働者に対し、事業者は、医師による面接指導を実施することを義務づけています。具体的には、時間外・休日労働時間が1か月あたり100時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者に対し面接指導が必要ということです。ケース<4>では、そういった施策が講じられていなかったということです。

 冒頭で紹介したHPで、ブラック企業の見分け方の一つに挙げられている、「過労死・過労自殺を出している」との点ですが、会社が、きちんと上記の規制を順守していれば、本来、社員に過労死や過労自殺がでることなどは考えにくいわけです。

「名ばかり管理職」で残業代支払いを免れる

 前記ケース<2> 社員の7割に及ぶ係長職以上の者を管理監督者として取り扱い、割増賃金を支払っていなかった事例。

 前述立ち入り調査では、「賃金不払いの残業」も多数を占めています。また、企業によっては、単に残業代を支払わないという単純な違法行為をするのではなく、より巧妙な手段を取るところもあり、このケース<2>は、「名ばかり管理職」によって残業代の支払いを免れる方法です。

 本稿「実態が伴わない“名ばかり管理職”、残業代を請求できる?」(2012年2月22日)で説明したように、労働時間、休憩及び休日に関する労働基準法上の規制は、「監督若しくは管理の地位ある者」や「監視又は断続的労働に従事する者」などには適用がありません。多くの人が認識している「管理職には残業代を支払わなくて良い」という制度です。

 ただ、厚生労働省通達は、そのような管理職について「部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者」とし、対象を厳しく限定しています。

 また、その判断の際には、資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目した実質で判断されます。マクドナルド判決(東京地方裁判所・平成20年1月28日判決)が判示するように、店舗運営において重要な職責を負っている店長であっても、「企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない」限り、会社は残業代を支払わなければならないのです。

 ちなみに、過去の裁判例では、支社長の肩書を持つ社員につき管理監督者該当性を否定したものすらあるのです。

 ケース<2>のように、正社員のうち7割程度を占める係長職以上の労働者(ちなみにその半数程度が20歳代でした)を管理監督者として取り扱って、時間外労働に係る割増賃金を支払わないというのは、「みなし管理職」の典型と思われます。冒頭で紹介したHPでの基準の一つである「短期間で管理職になることを求めてくる」についても、会社が残業代支払いを免れることを意図しているとすれば脱法行為になると思われます。

年俸制度やみなし残業代を悪用する例も

 本稿「50時間もの残業代、年俸制だと請求できない?」(2011年12月14日)でも説明したように、会社が年俸制度を採用し、「時間外、休日、深夜の割増賃金が年俸の中に当然に含まれている」と主張するケースもあります。

 年俸制とは、年換算で賃金額を決定する賃金体系のことを意味し、特段の定めがなければ、年俸額はあくまでも就業規則に定められた所定労働時間分の対価にすぎず、いくら働いても年俸額ですべてカバーされるという制度ではありません。この点、会社が本当に誤解して運用している場合もあり、必ずしもブラック企業と結びつける事はできないかもしれません。しかし、労働者の誤解につけ込み、違法であることを認識したうえでそのような運用をしているとすれば、冒頭で紹介したHPでの基準の一つである「残業代が固定されている」に該当していることになると思われます。

 なお、最近よく見受けられる「みなし残業代」も上記と同様に考えられます。みなし残業代とは、給料の中に例えば「月25時間までの残業代を含む」という規定をしておくことです。これにより会社は決められた時間までの残業代の支払いは不要になるという制度です。この制度によれば、会社は決められた時間までは面倒な残業代の計算をしなくて済みますし、従業員は、仮に所定時間までの残業をしなくても残業代をもらえることになって、双方に利益があるとも評価できます。他面、仮に所定時間を超えても会社が精算しない(超過時間分に該当する残業代を支払わない)とすれば、これも「名ばかり管理職」と同様に脱法行為になると思われます。

職場のパワーハラスメント

 ブラック企業というと、ここまで説明してきたような「違法な時間外労働」や「賃金不払いの残業」というイメージが強いのですが、前述のように、厚労省は若者の「使い捨て」が疑われる企業等への取り組みを強化するとの宣言の中で、長時間労働の抑制に向けての集中的な取り組みを実施すること以外に、「職場のパワーハラスメントの予防・解決を推進」することも掲げています。

 そして、重点監督を実施した事業場に、パワーハラスメント対策の必要性を分かりやすく説明したリーフレットを配布したり、セミナーを各地で実施しています。当該リーフレットには、現状の課題として、既にご説明した「長時間労働・加重労働」「賃金不払残業」以外に「職場のパワーハラスメント」が掲げられています。

 この点、本稿「職場でのパワハラ被害の告発、どう対応すればよい?」(2013年5月8日)で詳しく解説しているように、「自分にだけ仕事が与えられない」「同僚との会話を禁止される」「毎朝、挨拶しても無視される」「他の社員がいる前で、大声でどなられる」など、職場における「いじめ」や「嫌がらせ」といったパワーハラスメント(いわゆるパワハラ)が、近時、社会問題化しています。

 裁判例では職場でのいじめによる自殺について雇用主の責任を認めたものもあり(横浜地方裁判所・平成14年6月27日判決)、パワハラの防止は企業における重要な責務と評価でき、パワハラが横行するような職場がブラック企業と評価されるのは当然のことかと思います。

 また、最近は余り聞くことがなくなりましたが、セクハラの問題も同様に考えられます(詳しくは、本稿「営業課長が新入社員にセクハラ どうすればよい?」(2013年2月27日)をご参照下さい)。

コンプライアンス違反、育休・産休などの制度の不備など

 以上、厚労省の出した宣言に基づいて、ブラック企業の特徴について解説してきましたが、他にも、ブラック企業大賞が指標として掲げる「コンプライアンス違反」や「育休・産休などの制度の不備」といった事由も重要です。

 コンプライアンス違反について言えば、本稿「内部通報で報復人事、配転の取り消しは可能?」(2011年11月9日)や「会社の不正を指摘でいきなり解雇、告発者の保護は?」(2013年11月13日)で紹介したように、社内の不正問題について自浄作用が機能せず、会社のために不正を通報した社員が不利益を被るような企業がブラックとの疑いを持たれるのは言うまでもありません。また、本稿「出産後に『マタハラ』、無事に職場復帰できる?」(2014年3月26日)で紹介したように、「妊娠したら退職」の古い慣例にとらわれ、妊娠・出産に関する法律の保護を軽視するような企業についても同様かと思います。

ブラック企業の判断に必ずしも決め手はない

 以上、一般にブラック企業と評価される要因について取りあげてきましたが、他にも色々な要素があり、一概には言えないと思います。

 冒頭でも述べたように、そもそも明確な言葉の定義がありません。ただ、ブラック企業に共通しているのは「若者を使い捨てにする」という視点です。そういう意味では、違法な時間外労働や、残業代不払いという法令違反を犯す企業は論外ですが、社員に対してハードワークを求めたり、厳しい社員教育を実施しているからといって、直ちにブラックとは評価できないはずです。

 どんなに厳しく社員に接しても、それが社員を鍛えて成長させることを目的とする限り、「使い捨て」の批判は該当しないからです。若いうちは厳しく鍛えてもらいたいという人も少なからず存在するはずであり、外部の印象から、画一的にブラックかそうでないかというレッテル貼りをするのは疑問です。

 とはいえ、今や、全ての学生が、就活において、応募先企業の情報をネットで収集する時代であり、ブラック企業かどうかの判断において、ネット情報が極めて大きな判断材料となることは言うまでもありません。

 居酒屋チェーンの「ワタミ」のように、ブラック企業大賞を受賞するなどした結果、2014年度の新卒社員を計画の半分しか採れず、環境改善のために国内店舗の1割を閉鎖するまでに追い込まれる企業も出てきています。他面、本連載でも再三申し上げているように、ネットの情報が必ずしも真実ではないことも事実であり、匿名掲示板や口コミサイトなどでは、ブラック企業という便利な言葉が無責任に利用され、特定企業について、事実無根の情報が流されて問題となったりしています。

 繰り返しになりますが、前述の厚労省が実施した調査で明らかになった類いの法律違反をする会社かどうかについては十分に調査して対応する必要があるでしょう。しかし、その成長を願って社員に厳しく対応しているような企業までが法律違反を犯す企業と同様に扱われるのは疑問であり、不確かなブラックとのうわさに依存し自分で確認もせずに当該企業を最初から選択肢より外すのは、決して得策ではないと思われます。

 相談者についても、やはりまず社会に出て何をやりたいかが先決です。ネット上のブラック企業との噂に過度に惑わされずに、子どもの頃からの夢である、世界を相手にできる仕事を行っている企業を広くまわり、仮にネット上にブラックとの噂があるなら、会社に対して直接その真偽を問うくらいの姿勢で就活に挑むのが望ましいのではないでしょうか。

 

2014年04月23日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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