ネット上の株情報、書き込みに規制はないの?

相談者 N.Kさん

 私は、ここ10年ほど、インターネットで株取引をしています。丹念な情報収集とすばやい判断で、そこそこの利益を上げてきたという自負もあります。

 そんな私の重要な情報源はネット掲示板。大手マスコミで報道されてからでは買い時を逃してしまうのです。もちろん、自分としては、ネット掲示板の情報は玉石混交と思い、決して鵜呑うのみにはしていませんが、適度に利用させてもらっています。しかし、中にはちょっと度を超えて、意図的とも思える虚偽の情報もある気がします。先日も、ある電気機器製造販売会社の株式に関して、「有名な仕手筋から仕掛けが入ってくるとの情報」との書き込みがあり、その10分後には「暴騰するからみててね」との投稿が続きました。株価を見ると値ごろ感があり、仕掛けが入ってもおかしくない状態だったので、疑心暗鬼ながらも、同株式を買ったのですが、この情報は全くの虚偽でした。私のようにこの情報をもとに買った人が多かったのか、私が買った日だけは急騰しましたが、その後は値が下がり続け、1週間後には損切りして、数万円の損を被る結果となってしまいました。今回は数万円の損で済みましたが、一方で虚偽の情報を書き込んで売り抜け、得をした人がいると思うと納得できません。

 ネットにいい加減な情報もたくさんのっているのは今や常識かもしれませんが、だからといって無責任に何を書いても良いというわけではないと思います。ネットにおける、株に関する虚偽の情報の書き込み行為に対して、どのような法の規制があるのか教えて下さい。(最近の事例をもとに創作したフィクションです)

(回答)

ネットへの虚偽情報の書き込み相次ぐ

 今年2月26日、名古屋市で投資関連会社を経営する40代の男性が、保有する株の価格をつり上げる目的でインターネット掲示板に虚偽の情報を書き込んだ疑いが強まったとして、名古屋地検特捜部が、金融商品取引法違反容疑で家宅捜索を実施した旨の新聞報道がありました。この男性は、東証2部上場の企業の株式について、ネット掲示板で「有名な仕手筋が買っている」などと、根拠のない情報を書き込んで(詳細については本稿後半で説明します)、事前に購入した同社株式を株価が上昇したところで売り抜け、数十万円の利益を得た疑いがあるということです。昨年11月にも、株価を意図的に上げるため、インターネットで虚偽の企業情報を流した疑いがあるとして、証券取引等監視委員会が金融商品取引法違反容疑で、投資助言・代理業者など関係先を強制調査した旨が報道されています。また、ネットを手段としたものではありませんが、今年3月24日、四国の中堅証券会社の営業社員らが、根拠のない情報を基に、特定の健康食品会社の株式を顧客に推奨していた疑いがあるとして、証券取引等監視委員会が、証券会社の強制捜査に乗り出した旨が報道されています。

 このように、近時、アベノミクスによる株価の上昇に影響されてか、株価の不当な操作にかかわる事件が多発しています。

 本連載でも、以前、「社内情報で妻や他人名義で株売買、インサイダー取引になる?」(2011年11月22日)との記事を掲載しましたが、今回ご相談の事案も、インサイダー取引と同様に、不公正な取引に対する規制の一つになります。インサイダー取引の場合には、投資家の投資判断に影響を与えるような未公表の情報(重要事実)に基づく取引を禁じるものであるのに対して、今回問題となっている事案は、市場における価格形成をゆがめるような行為を禁止しようというものです。誰もが不公正な取引が横行する市場で資産形成を行いたいとは思わないのであり、市場の公正に対する投資家の信認を守ることは極めて重要であって、そのための規制の一つが今回のテーマになるわけです。

風説の流布

 金融商品取引法第158条は、「何人も、有価証券の募集、売出ししくは売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、又は有価証券等の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。」と規定しています。回答の中でご紹介した事件は、いずれも同条に規定された「風説の流布」の疑いがあるとされたものです。

 辞書によれば、「風説」とは「うわさ」、「流布」とは「世に広まること」などとされていますが、ただ、噂を世に広めただけでは、同条項に違反することにはなりません。噂を世に広めることが、「相場の変動を図る目的」などをもって行われた場合に、はじめて同条違反の「風説の流布」に該当することとなります。典型的な例として、手持ちの株式の価格を上昇させて高値で売却するために、同株式の値が上昇するような噂を世に広めることが挙げられます。

 このような目的要件をあえて明示したのは、表現の自由に対する過度の制約にならないようにするとの配慮からです。冒頭の事件が報道された際、ネット上で、「この程度で告発されるなら株価関連の掲示板では毎日逮捕者が出る」といったコメントが出たりしましたが、不当な目的がない限り、企業の噂を世に広めただけでは、上記条文には該当しないということです。

「風説」の認定には微妙な判断が必要に

 噂が虚偽であれば、明らかに「風説」に該当しますが、虚偽でなくても「風説」に該当することもあります。金融商品取引法第158条では、刑法233条(信用毀損きそん罪・業務妨害罪)といった他の法条とは異なり、「虚偽の」と限定する言葉が付いていないからです。つまり、問題となっている「風説」とは虚偽の情報である必要はなく、行為者がそれに合理的根拠のないことを認識している情報であれば足りるのです(東京地方裁判所・平成8年3月22日判決)。

 とはいえ、合理的根拠のないことは認識していながら、「必ずこの株式は上がると思う」と述べるといった、いわゆる相場観を「流布」することが、「風説」に該当するかどうかは微妙なところです。「風説」に該当するかどうかは、「流布」の態様や「流布」された内容次第で判断せざるを得ないと考えられていますし、仮に「風説」に該当したとしても、相場の変動にも影響しない場合には、違法性が認められないことも多いと考えられるのです。いずれにしても微妙な判断が必要となるわけです。

「流布」とは

 「流布」とは、上述のとおり、「世に広まること」であり、特定者への伝達ではなく、不特定多数の者に伝達されることが必要とされています。したがって、特定の者だけに伝達したのであれば、「流布」には該当しないこととなります。

 冒頭の名古屋の事件では、合理的根拠なく、「有名な仕手筋が買っている」などと虚偽の事実をインターネット掲示板に書き込んで、不特定多数の者が読める状態にしたということから、「風説の流布」に該当すると名古屋地検は判断したものと考えられます。

ペナルティーの内容

 金融商品取引法第158条に違反して、「風説の流布」を行った者には、行政処分と刑事罰が規定されています。

 行政処分としては、金融商品取引法第173条で、風説を流布し、その違反行為により有価証券等の価格に影響を与えた場合に、課徴金の国庫納付命令を行うこととされています。

 ちなみに、課徴金の計算ですが、取引態様によって異なるものの、分かりやすいように、風説を流布して株価を高騰させた上で株式を売却した場合を想定すると、売り越しとなった売付の価額(単価×株数)から、違反行為の終了時より1か月を経過するまでの間の各日における金融商品取引所等が毎日通知・公表する最低価格のうち最も低い価格に、株数を乗じて得た額を控除した額となります。計算式にすると、(「売付の単価」×「売付の株数」)-(「違反行為の終了時より1か月を経過するまでの間の各日における金融商品取引所等が毎日通知・公表する最低価格のうち最も低い価格」×「売付の株数」)ということになります。

 刑事罰としては、金融商品取引法第158条に違反して風説の流布を行った者は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処せられ、または懲役と罰金が併科されることとされています。また、財産上の利益を得る目的で、風説の流布の罪を犯して有価証券等の相場を変動させるなどし、その変動した相場により当該有価証券等の売買を行った者については、10年以下の懲役及び3000万円以下の罰金に処せられることになります。

 後者がより重い罰則となっているのは、行為者が財産上の利益を得る目的で風説の流布のような不公正な取引を行うときには、多額の利益を得る可能性があるため、通常の罰則による威嚇だけでは十分な抑止力にならないことから、罰金の上限を引き上げ、必ず罰金をも科すことによって(前者は「若しくは」、後者は「及び」となっている点に注目して下さい)、抑止力を高めることを意図してのこととされています。

証券取引等監視委員会

 風説の流布等の不公正取引の調査は、証券取引等監視委員会が実施しています。証券取引等監視委員会は、1992年7月、証券取引及び金融先物取引の公正を図り、市場に対する投資者の信頼を保持する目的で設立されたもので、現在、内閣府の外局である金融庁に置かれています。

 証券取引等監視委員会によるこの取引調査は、事件関係人や参考人に対する質問調査や立ち入り検査などを行うものです。取引調査の結果、違反行為が認められた場合には、内閣総理大臣および金融庁長官に対して課徴金納付命令を発出するよう勧告を行うこととなります。

 また、証券取引等監視委員会は、風説の流布等の金融商品取引の公正を害する悪質な行為の真相を解明し、告発により刑事訴追等を求めるため、犯則事件の調査も行っています。ちなみに、冒頭の名古屋の事件ですが、3月19日、次のような犯則事実で、証券取引等監視委員会により名古屋地方検察庁に告発されています。

 「大阪証券取引所市場第二部に上場されていたカネヨウ株式会社ほか2社の株券の売買のため、及び相場の変動を図る目的をもって、平成25年(2013年)1月23日頃から同年2月18日頃までの間、犯則嫌疑者が代表を務める会社の所在地において、パーソナルコンピューターを操作し、インターネットを介し、サーバーコンピューターの記憶装置に文字データを記録させる方法により、『株式研究掲示板』又は『Y氏と愉快な仲間の株式掲示板』と題する電子掲示板に、合理的な根拠もないのに、『明日の暴騰仕掛け銘柄 3209(筆者注:銘柄コードを意味します 以下同様)カネヨウが暴騰するという情報が入ってきました』、『倍増へ向けての暴騰仕掛け株 6775 TBグループに暴騰仕掛けが入るとの情報です』、『爆発二桁銘柄 今日の暴騰仕掛け入るとの情報株は6862ミナトエレクトロンです。決算黒字転換、為替レート80円換算ということから次は大幅黒字上方修正期待高まり株価大幅水準訂正へ始動開始』などと書き込んで不特定かつ多数の者が閲覧できる状態に置き、もって、それぞれ有価証券の売買のため、及び有価証券の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布した」

過去の刑事事件

 証券取引等監視委員会により告発されて刑事事件として訴追された著名事件としては次のようなものがあります。ちなみに、事案がやや複雑なのであえてここではご紹介しませんが、皆さんおなじみの、ホリエモンこと堀江貴文氏が逮捕されたライブドア事件は、風説の流布も問題となっています。

<1>テーエスデー事件

 ソフト開発会社テーエスデーの社長が「エイズワクチンをタイで臨床試験中」と記者会見で発表し、自社の株価を高騰させた事件です。当時同社は、発行した転換社債の償還期日が迫っており、その資金調達に窮していたため、虚偽の内容を発表して株価を上げたうえで、社債の株式への転換を促そうとしていました。上記行為は、株価の変動を目的とした風説の流布に当たるとして、同社社長は懲役1年4か月(執行猶予3年)の判決を受けています(東京地方裁判所・平成8年3月22日判決)。

<2>ドリームテクノロジーズ事件

 メール会員に対して投資コンサルティングを行っていた男性が、2003年3月中旬頃、「ナスダック・ジャパン市場に上場しているソフト開発会社ドリームテクノロジーズの存立を左右するような悪材料があるため、明日の寄り付きで同社の株式の売り注文を出して下さい」という内容のメールを会員に送信し、このメールの効果で、ドリームテクノロジーズの株価は暴落し、男性はドリームテクノロジーズの株を安値で入手。その後、男性は、悪材料は偽りだったとして株式の買い戻しを指示する電子メールを送信。安くなった株が再び高値になるよう誘導しました。

 この男性は、広島簡易裁判所において、罰金30万円、追徴金36万6000円の支払いを命じられました(広島簡易裁判所・平成15年3月28日略式命令)。ちなみに、この事件は、インターネットを利用した風説の流布・偽計を証券取引等監視委員会が摘発した初めてのケースとされています。

電子掲示板への書き込みも告発へ

 2011年12月21日、証券取引等監視委員会は、電子掲示板を悪用した風説の流布及び偽計事件の告発を初めて行いました。証券取引等監視委員会が公表したところによれば、事案の概要は、以下のようなものです(長いので事案の一部だけ紹介します)。

(概要)

 ジャスダック市場に上場されている株式会社エスプールの株式の売買のため、かつ、相場の変動を図る目的で、「専門誌Aによると、業績が大幅に拡大しているみたいだよ」「2471(エスプール)先日の専門紙Aによると業績が大幅に拡大しているみたいだよ。割安銘柄の1つとしている」「業務提携に関して・・・X、(2471)エスプールとも何ら決まった事実はない。決定しだい速やかに発表する。としている」などといった虚偽の事実を書き込んだ。

決して軽くはない罰金刑

 この結果、告発された40歳の無職男性は、罰金30万円、追徴金4万8330円の略式命令を神戸簡裁で受ける結果となりました(神戸簡裁・平成23年12月22日略式命令)。

 なお、この事件や前述ドリームテクノロジーズ事件では罰金を科されており、懲役となっていないことから、軽い処分と感じる人もいるかもしれませんが、罰金といえどもれっきとした「前科」です。公務員や医師、弁護士等の特定の職種に就けなくなる可能性があるといった不利益を受けることにもなるので、決して軽い処分ではありません。世間では、車の運転者が違反行為を犯し、それが比較的軽微なものだと、所定の金額を納付しておしまいになる反則金の制度と同じように考えている傾向がありますが、決して同じものでは無いのです。

インターネットによる情報収集

 老若男女の誰でもがインターネットを使うようになってきている最近では、株式の取引もインターネットを介して行う場合が非常に多くなり(日本証券業協会によれば、2013年4月から9月までのネット取引の売買代金は263兆円で前年同期対比4.6倍に増え、株式取引全体に占めるインターネット取引の割合は35・8%となっています)、投資情報もインターネット経由で得る機会が多くなっていると思われます。投資サイトといったものも増えており、今後、誰もが、インターネット経由で情報を収集して株式投資を行うことになるでしょう。

 もちろん、電子掲示板や投資サイトへの書き込みによって、株式投資を行う人が増え、様々な意見が自由に交換されることは、株式市場の価格形成や株式市場の発展に大いに役立つものと思われます。しかし、電子掲示板等への書き込みは、誰でも容易に、かつ匿名でできることから、安易に虚偽の事実を書き込んでしまうといった例も当然あります。そこで、証券取引等監視委員会は、ネットの探索を日常的に続けており、また、ネット上で情報窓口受付を設けて広く一般の方々から情報を受け付けています。

 そのHPでは、「証券取引等監視委員会では、資料・情報収集の一環として、 広く一般の皆様から、下記のような情報を受付けています。」とし、具体例として、「風説の流布(ネット掲示板の書込みやメールマガジンによるデマ情報など)」を挙げ、提供して欲しい情報例として、「●●のネット掲示板を見ていたところ、●月●日●時頃の投稿で、A社の事業に関する虚偽情報が書き込まれていた。その書き込みに影響されて、●月●日●時~●時頃、株価が大きく変動した」と記載されています。まさに、今回の相談にでてきたような事案の情報提供を求めているわけです。

安易な書き込みには要注意

 ご相談者が指摘するように、ネットだからといって、無責任に何を書いても良いというわけではありません。前述のように、ネットにおける、株に関する虚偽の情報の書き込み行為に対しては厳しい規制が設けられており、近時、証券取引等監視委員会も告発につながる情報収集に力を入れています。

 株取引をされている方は、虚偽の事実や合理的根拠のない事実を書き込んだ場合には、刑事罰を受けるということもあり得ることを十分に意識し、安易な書き込みはしないことが重要です。前述の神戸簡裁の事件で、男性が得た利益はわずか5万円弱に過ぎませんが、刑事罰を受けるという大きな代償を払うことになってしまっています。

 他方、インターネットの掲示板等から情報収集して株式投資を行う際には、書き込まれた情報には虚偽のものもあることを十分に意識しながら行動する必要があると思われます。そして、仮に意図的に虚偽の情報が流されていると考えられる場合には、証券取引等監視委員会の情報受付窓口に積極的に通報するなどし、市場の健全性維持のために不公正な取引を許さないという姿勢を持つことも重要かと思います。

 

2014年04月09日 08時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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