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“サクラ”口コミサイトで接待が大失敗!何の規制もないの?

相談者 SSさん
  • イラストレーション・いわしま ちあき

 「ひどい料理、ひどいワイン、最低の接客。わが社なんて、その程度の存在なのですね。今後の取引も考えさせてもらいますよ」。お得意先を接待したはずの会食。最初はなごやかでしたが、途中から黙りこくった険悪なムードとなり、相手先の社長の“絶縁宣言”でお開きとなりました。

 「君は、あの接待がどんなに大事なのか分からなかったのか。なぜあんな店を選んだのだ」

 私は、上司から激しく叱責されました。接待失敗の戦犯扱いをされ、リストラ候補として部下ゼロの閑職に飛ばされました。

 口コミサイトを信用して接待のお店を決めたのに、サイトの評価と実態にあれほどの落差があるとは……。

 「Sちゃん、社内一の食通と聞いているアナタの出番だよ」。営業部長がニコニコしながら私を呼びました。わが社の売り上げの3分の1にもなるお得意先をもてなす大事な宴会。その幹事役に、私が任命されたのです。ところが、接待は1週間後。時間がほとんどありません。でも、「大丈夫、あのサイトがあれば」と私は思いました。

 私は、利用者が評価を書き込む、ある口コミ・グルメサイトを頻繁に利用しています。食事をした人が書き込んだ、味、雰囲気、接客についての評価が載っています。このサイトの三つ星店を、まずはランチで利用し、「間違いない」と判断したら、会社の行事や接待などで使うお店として活用しています。薄給のサラリーマンです。夜の料理だと値段が高く手が出ないので、ランチで下見、味見というわけです。当たりの“打率”は約8割といったところでしょうか。

 レストランの自社サイトには、とてもおいしそうな料理の写真が載っていますが、本当の姿は見えてきません。一方、口コミサイトには、実際にそのお店に行った人が、ありのままに個人的な意見を述べているのでとても参考になります。

 さて、接待の話に戻ります。事前に、取引先の社長秘書に食事の好みを聞いたところ、スペイン料理が大好きだとわかりました。口コミサイトでチェックし、料理、接客、雰囲気がすばらしい高評価のお店を見つけました。

 「ラテンの香りがいっぱい」「マドリード帰りのシェフがつくるパエリアは絶品です」 

 お店を絶賛する書き込みがあふれています。事前に足を運んで確かめたかったのですが、予定が詰まっていたため下見のランチを断念しました。

 不安が心をよぎりました。でも、「口コミでこれだけ評判がいいなら大丈夫だよなぁ」と自分を納得させ、当日を迎えたのでした。

 ところがです。お店に行って驚きました。口コミ情報とは全く異なり、お店の雰囲気は最悪、料理もひどいものでした。サイトでチェックして、スペイン・バル風のレンガの内装に暖炉のある個室を予約したはずが、案内されたのはレンガ風の壁紙をはっただけの大会議室のような部屋です。塗装のはげたプリント合板のテーブルがいくつか並び、隣のテーブルでは大学生がコンパで大騒ぎしています。ワインもまずく、パエリアとは名ばかりで、電気釜で炊いたような炊き込みご飯が出てきました。芯が少し入っているのが本物のパエリアなのです。料理もなかなか出てきません。

 「こういうこともありますよ」と笑っていた取引先社長も、次第に機嫌が悪くなり、冒頭の発言となったのです。結局、当社との取引が打ち切られることになりました。私は上司から激しく叱責され、リストラ候補です。

 「あんなぼったくりのような店が、なぜあれほど評判が高いのか」

 不思議に思って、ネットで調べてみました。どうやら、問題の口コミサイトでは、レストランから報酬をもらって意図的に良い書き込みをして評価点を上げる請負業者が暗躍しているらしいのです。

 そして驚いたことに、接待で利用したスペインレストランが不当に高い評価点をつけられているといううわさがあることがわかりました。

 口コミサイトは、実際にお店に行って体験した事実がそのままつづられているから、参考になるのです。食事をしていない業者が書き込んだ情報が載っているのでは、ただの宣伝です。そんな情報に存在価値はありません。私としては、生の口コミ情報を入手しようと思い、サイトにアクセスしたのに、単なる店の宣伝を読まされたようなものです。ひどい詐欺に遭ったような気分です。

 口コミサイトで、サクラの書き込みなどを禁止するような規制はないのでしょうか。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答

「食べログ」やらせ事件

 2012年の年明け早々、飲食店に関して口コミ情報や採点を掲載しランク付けする著名サイト「食べログ」での、やらせ投稿問題がネット上をにぎわせました。

 報道によると、東京・月島のもんじゃ焼き店のうち一部の店で突然、行列ができたために月島もんじゃ振興会協同組合が調査したところ、サクラを使ったサイトへの書き込みが発覚したというものです。加盟店2軒が業者に店舗に好意的な口コミ情報を投稿するよう、ランキング操作の依頼をしたことを認め、不正が発覚しました。 当時の消費者庁長官は、2012年1月11日の記者会見で、「食べログ」の問題を取りあげ、事実関係の調査をすることを明言しました。しかし、同年3月28日の記者会見では、次のように述べています。

 「口コミ投稿代行事業者へ依頼をしていた飲食店があったということは確認できましたけれども、商品またはサービスについて、実際のものよりも著しく優良、あるいは有利と誤認されるような口コミ情報を投稿するように依頼をしていたということは、確認できませんでした。そういったことから、法的な措置ということにはここではなりません」

 結果的に関係者に何らの処分も行われませんでした。

「口コミサイト」に関する消費者庁の当初指針

 ちなみに、本連載の「格安食事クーポンをネットで購入、調べたらいつもその値段 問題では?」(2012年12月26日)でもご紹介したように、消費者庁は、2011年10月28日、「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(以下、「消費者庁資料」とします)と題する指針を公表しています。

 その消費者庁資料では、「フリーミアム」「口コミサイト」「フラッシュマーケティング」「アフィリエイトプログラム」「ドロップシッピング」の五つのインターネット消費者取引のモデルを取りあげ、それぞれについて、「定義・概要」「景品表示法上の問題点と留意事項」「問題となる事例」などを解説しています。

 同資料では、「口コミサイト」の定義・概要を「いわゆる『口コミ』情報(人物、企業、商品・サービス等に関する評判や噂など)を掲載するインターネット上のサイト(ブログや、口コミ情報を書き込める旅行サイト、グルメサイトなどを含む)」と説明しています。

 その上で、「口コミサイト」における「景品表示法上の問題点と留意事項」として、商品・サービスを提供する事業者が、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、または第三者に依頼して掲載させる事例を取りあげ、「当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる」としています。

 そして、「事業者は、当該口コミ情報の対象となった商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は当該商品・サービスを供給する事業者の競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されることのないようにする必要がある」と明記しています。

 同資料では、口コミサイトで「問題となる事例」として、飲食店を経営する事業者が、グルメサイトで、自店について、「このお店は△□地鶏を使っているとか。さすが△□地鶏、とても美味でした。オススメです!!」と口コミ情報を掲載したものの、実際には△□地鶏を使用していなかったケースを取りあげています。

消費者庁による指針の一部改定

 消費者庁は、「食べログ」やらせ事件については、上記のような従来の指針が必ずしもそのまま当てはまらず、問題とすることができなかったことを受けて、2012年5月9日に上記の消費者庁資料を一部改定することを発表しました。

 改定の理由として、商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼して、口コミサイトの口コミ情報コーナーに、口コミを多数書き込ませるという行為があったことが問題とされていることを掲げ、そうした行為に対する景品表示法の考え方を明らかにするためとしています。まさに、「食べログ」やらせ事件が改定の端緒となり、景品表示法の考えを明らかしたわけです。

 この改定では「口コミサイト」における以下の「問題とされる事例」が追加されました。

 <商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。>

 従来「問題とされる事例」に掲げられていたケースでは、例えば、お店が△□地鶏を使っているとしながら、実際には△□地鶏を使用していないという客観的事実の相違を問題としていました。それでは、「おいしいか、おいしくないか」とか「雰囲気が良い悪い」といった、お店に対する主観的評価の相違が当てはまるかどうか明確ではありませんでした。それに対して、改定された新しい指針では、「食べログ」やらせ事件のような事案を、明確に対象とすることができるようになるわけです。

消費者を欺くステルスマーケティング

 インターネット上では、口コミなどを装い、消費者を特定の商品やサービスに誘導する詐欺的なマーケティング手法が用いられています。宣伝と気づくかれにくいため、「ステルスマーケティング(ステマ)」と呼ばれています。ステルス(Stealth)とは英語で「こっそりと」「ひそかに」という意味です。レーダーに映りにくい戦闘機「ステルス戦闘機」のように、こっそり、ひそかに、消費者を欺き、商品を買う気にさせるのです。

 この連載「ペニーオークションをめぐる芸能人のウソ騒動とは?」(2013年3月13日)で取りあげたように、業者から報酬をもらった芸能人がブログで、特定の商品をほめて購買を促すという行動は、まさにステルスマーケティングの典型です。

 ブログや口コミだけではなく、Q&Aサイトで利用者がおすすめの店を問う質問に対し、やらせ投稿の請負業者が依頼主のお店に有利な回答をする、といったケースも同様です。

アメリカでは広告主に法的責任

 ステルスマーケティグについては根強い批判があり、前ページで取りあげた消費者庁資料では、米国では広告主からブロガーに対して商品・サービスの無償での提供や記事掲載への対価の支払いがなされるなど、両者の間に重大なつながりがあった場合、広告主が法的責任を負う旨が指摘されています(前述2013年3月13日の本連載記事参照)。

 これに関連し、冒頭で取りあげた消費者庁での2012年3月28日の記者会見で、記者と消費者庁との間で以下のような興味深いやり取りがありました。

 記者:ちょっと食べログに戻ると、今回、要するにステルスマーケティングだと思うのですが、広告だということを表示しないで広告のようなことをやっていると。景品表示法では、このステルスマーケティングが取り締まれないというのが今回の、要するに法律の限界が明らかになったと思うのですが、アメリカのようにステルスマーケティングを禁止するような法改正、前もちょっと聞いたかもしれませんが、検討するなり研究するなり、そういう方向性はないのでしょうか。

 回答:今の時点で法改正を検討するというところまで判断をしていませんけれども、更に推移を注意深く見ていきたいと思います。まずはやれること、先程、問題点・留意事項の話もしましたけれども、まずは消費者庁としてやれること、政府としてやれることをやり、あるいは事業者が自主的に取り組んでいること、そういったものの動きを十分見たいと思います。

 記者:ステルスマーケティングがこれだけはびこっていることに関しては、消費者庁としては別に構わないと考えていらっしゃいますか。

 回答:構わないというよりも、そこで消費者に実際に被害が起こったり、あるいは消費者が誤認をしたりすることは、決していいことではありませんし、自分がやっておいて他人がやったようにごまかすこと自体、それは道徳的に当然いいことではありません。構わないという判断をしているわけではありませんが、すべてを法律で全部縛ればいいということでもないと思いますので、それぞれの取組をやりながら、どうしても法改正が必要だというときにきちんと判断していくということだと思います。(以上、消費者庁のホームページより引用)

口コミイト業者自身による体制作りが急務

 ご相談者は、レストランから報酬をもらって意図的に良い書き込みをして評価点を上げる請負業者が暗躍しているような口コミサイトの情報を信用したばかりに、ひどい目に遭ったのに、これまで説明した通りステルスマーケティング全般に対する規制はありません。ただ、消費者庁は、食べログ事件を受けて、従来の指針を一部改定し、ご相談のような事案についてはきちんと対応しています。

 消費者庁の現在の指針では、 レストランが、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼して、当該レストランに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価を変動させて、もともと口コミサイト上で好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、当該レストランの料理やサービスについて、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させることについては景品表示法上の不当表示として問題となる旨を明示しています。今回のご相談でのスペインレストランの例は、法に違反している可能性があります。

 ご相談者としては、同様の被害を出さないためにも、消費者庁や都道府県の景品表示法担当窓口などに連絡し、対応を促すことを検討されてもよいでしょう。

 なお、本件のような場合、消費者庁資料から明らかなように、口コミサイト自体が責任を負うことはありません。ただ、消費者庁は、記者会見で「一番、口コミサイトで信用を失えば困るのは、口コミサイトの事業者ですから、それは事業者自身、危機感を持っていろんな取組は考えているようですので、必要な協力はしていきたいと思っています」と述べています。

 まさに消費者庁の指摘する通りです。口コミサイト自身が規制対象でなくても、ネットユーザーが安心して口コミサイトから情報を得られるように、健全な情報だけを掲載し、悪質な情報によって評価点などが影響されないような体制にしてもらいたいものです。

2013年04月24日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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