お菓子の名前が商標権侵害

   

お菓子の名前が商標権侵害!紛争避ける命名法は?

相談者 MMさん

  • イラストレーション・いわしま ちあき

 「こんな片田舎の目立たない店なのに、これだけおいしいケーキにありつけるなんて、奇跡だよ!」

 私がオーナーシェフをつとめる洋菓子店は口さがない常連客から、こんなお褒めのことばをいただく人気店です。午後の早い時間には、焼き菓子やケーキが売り切れるほどです。

 私は、「北関東の地方都市だけでなく全国でも通用する味」と、ひそかに自負しています。

 味の秘密は地元産の新鮮な食材です。酪農地帯に近く、搾りたて、作りたての新鮮な乳製品が手に入ります。果物も無農薬栽培の農家から極上品を仕入れています。もちろん、パティシエとしてフランスで修業した私の腕があればこそですが。

 「このまま田舎で埋もれたくない。全国に出てみたい」という気持ちを抱えながら、厨房ちゅうぼうに立つ毎日を過ごしていました。

 そんなある日、テレビで何気なく見ていたテレビの特集に目がくぎ付けになりました。私もよく知っている、地方の洋菓子店の話題でした。この店がネット販売している洋菓子が評判で、予約しても1か月待ちだというのです。

 私は、その洋菓子を食べたことがありますが、味はうちの方が上だと自信があります。特に、今度うちの店で売り出そうとしている新商品には絶対の自信があります。今や、地方にいても、インターネットで発信することによって、全国展開も可能な時代です。インターネットで販売を始めたら、うちの洋菓子も評判になるはずです。

 ただ、評判を得るには味だけではなく名前も大事だと思います。実際、評判になっている洋菓子には、魅力的な名前がついています。ありふれたフランス人の名前とかでは、だめなのです。

 今、新商品の名前を考えています。懇意にしている和菓子店の店長に相談したところ、商標登録をした方がいいと言われました。忠告もされました。その店長は、商標権侵害で警告書を受け取ったことがあるのです。創作和菓子の名前が他店の商品名と似ているので、「このままでは、損害賠償を請求する」という文書が内容証明で届き、驚いたそうです。

 私としては、そのような事態にならないような名前をつけたいと思います。ただ、そもそも商標について、自分には縁遠い話題であり、ピンときません。商標とはどういうものか、商標権侵害を避けられるように商標を登録するにはどうしたらよいか、簡単に教えていただけないでしょうか。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答

堂島ロールが巻き込まれた「モンシュシュ事件」

 3月7日、「堂島ロール」で知られている洋菓子会社のモンシェール社が看板などに使っていた「モンシュシュ」(Mon chouchou)のマークが、チョコレートメーカーの老舗として有名なゴンチャロフ製菓の商標権を侵害したとして争われた訴訟の控訴審判決が、大阪高等裁判所でありました。同裁判所は、大阪地方裁判所での第1審判決(平成23年6月30日)と同様に、商標権侵害を認め、モンシェール社に対して約5100万円の賠償を命じました(ちなみに、1審での認定額は約3500万円でした)。

 「モンシュシュ」という名のチョコレートを販売しているゴンチャロフ製菓が「商標権を侵害された」として、人気ロールケーキの販売元に対し名称使用の差し止めと損害賠償を求めたこの訴訟は世間の注目を集め、モンシェール社には厳しい結果となったわけです。

 ちなみに、モンシェール社は、1審判決で敗訴した後の2012年10月1日に、株式会社モンシュシュから株式会社モンシェールに社名変更しています。

 また、菓子名をめぐるトラブルとしては、芸能事務所である吉本興業が、「面白い恋人」という洋菓子を発売したのに対して、北海道の人気菓子「白い恋人」を製造・販売する石屋製菓が、商標権を侵害しているとして、2011年11月、販売差し止めなどを求めた裁判も注目を集めましたが、今年の2月13日に和解が成立しています。

 このように、誰もが知っている著名な商品に関連して、商標権に絡む紛争が意外に多く発生しています。

 相談者は、これから、洋菓子の新しい商品を開発して勝負をかけようということのようです。その際に、商標権の問題は避けては通れません。最初に紹介した裁判で問題となったモンシュシュという言葉は「私のお気に入り」を意味するフランス語ですが、このようにまったくの造語ではなく、元々ある言葉を使う際には特に注意が必要です。辞書などを探して気に入った言葉を見つけたというだけで、商標の調査をせずに安易に使ってしまうと、今回の例のように思わぬ係争に巻き込まれる可能性があります。

商標とは

 商標法第2条1項は、「商標」につき、「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であって、次に掲げるものをいう」としています。

 (1)業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
 (2)業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの

 よりわかりやすく言うと、一般的に商標とは、事業者が自己の取り扱う商品またはサービスを、他人の商品またはサービスと識別し、かつ商品またはサービスの同一性を表示するために、その商品またはサービスについて使用する標識、所謂いわゆるマーク――のこととされています。

 私たちは、商品を購入したりサービスを利用したりする際に、企業のマークや商品・サービスのネーミングである「商標」を、他と区別する一つの目印として選んでいます。そして、事業者は、商品やサービスに対する消費者の信用を得る努力を、日々積み重ねることによって、同一の商標を付した商品またはサービスは、いつも一定の品質を備えているという信頼を醸成します。

 つまり、当該商標に「信頼がおける」「安心して買える」といったイメージを付与するわけです。また、商標を広告に使用することによって、その事業者の商品またはサービスであることを消費者に伝え、その購買・利用を喚起させています。商標は「もの言わぬセールスマン」と表現されることもあるように、商品やサービスの顔として重要な役割を担っているわけです。

 このような、商品やサービスに付ける「マーク」や「ネーミング」を財産として守るのが「商標権」という知的財産権です。

 そして、商標には次のような種類があります。

 ・「文字商標」(文字のみからなる商標のこと)
 ・「図形商標」(写実的なものから図案化したもの、幾何学的模様等の図形のみから構成される商標のこと、例えば自動車のフロントグリルなどにつけられている企業のマークなど)
 ・「記号商標」(暖簾記号、仮名文字、アルファベット文字を輪郭で囲んだもの、文字を図案化し組み合わせた記号、記号的な紋章のこと、例えば、三菱のスリーダイヤモンドマークなど)
 ・「立体商標」(商標を立体したもの、包装容器のように容器自体を特殊な形状として商標として使用するもの、実在又は架空の人物・動物等を人形のように立体化したものなどのこと、例えば、不二家のペコちゃん人形、ケンタッキーフライドチキンのカーネルサンダース人形など)
 ・「結合商標」(異なる意味合いを持つ文字と文字、図形と図形、図形・記号等と文字の二つ以上を組み合わせた商標のこと)

 

商標登録制度

 商標には上記に掲げたような重要な機能があることから、商標法は、商標を使用する者の業務上の信用を、他人によって商標を不法に使用されて失墜することから防ぎ、経済社会における協業秩序を維持して、消費者の商標に対する信頼に応えて産業の発展に寄与することを目的として、商標登録制度を設け、商標を保護しています。

 まず、商標登録を受けるためには、特許庁に出願をすることが必要です(登録主義)。そして、同一または類似の商標の出願があった場合、同じ商標が登録されてしまうと、消費者による誤認や混同が生じる恐れがありますから、その商標を先に使用していたか否かにかかわらず、先に出願した者に登録を認めることになります(先願主義)。出願された商標について商標法が定める登録要件が備わっているか否かを審査官が審査したうえで、登録要件を充足している出願に限り、商標として登録されることになります。

 特許庁に商標登録出願をし、審査を経て登録査定となった後、登録料を納付すると、商標登録原簿に設定の登録がなされ、商標権が発生することとなります。商標権者は、指定商品または指定役務(サービス)について、登録商標の使用をする権利を専有し(専用権)、他人によるその類似範囲の使用を排除することができることになります(禁止権)。つまり、「モンシュシュ事件」でゴンチャロフ製菓が行ったように、商標権者は、商標権を侵害する者に対して、侵害行為の差し止め、損害賠償等を請求することができるのです。

 今回の相談例では、近所の和菓子店の店長は商標権者である他人が登録していた同一または類似の商標をたまたま使用してしまったために、警告書を受け取ったのでしょう。

類似の商標とは?

 特許庁の「商標審査基準」によれば、商標が類似しているか否かの判断は、「商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならない。」「商標が使用される商品又は役務の主たる需要者層(例えば、専門家、老人、子供、婦人等の違い)その他商品又は役務の取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断しなければならない。」とされています。

 「外観」とは見た目、「称呼」とは聞いた感じ、「観念」とは意味ということです。「外観」の類似は、“ライオン”と“ライオソ”、「称呼」の類似は、“ライオン”と“LAIHON(ライホン)”、「観念」の類似は、“ライオン”と“獅子”などが例となります。しかし、「外観」「称呼」「観念」のうち一つでも類似であれば、それだけで商標が類似とされてしまうわけではありません。

 最高裁判所昭和43年2月27日判決は、「商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」「商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従って、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。」としています。

 一方、最高裁判所平成4年9月22日判決は、「綿密に観察する限りでは外観、観念、称呼において個別的には類似しない商標であっても、具体的な取引状況いかんによっては類似する場合があり、したがって、外観、観念、称呼についての総合的な類似性の有無も、具体的な取引状況によって異なってくる場合もあることに思いを致すべきである。」としています。つまり、外観、観念、称呼が類似していなくても、取引実情によっては類似とされる場合もあるのです。

登録できないものもある

 良い名前を考えついたとしても、商標として登録できない場合もあります。

 商標法では、商標として登録できないものを規定しており(商標法第3条、第4条)、登録できない主なものを幾つか次にご紹介します。なお、この他にも、商標法では商標として登録が認められないものをいろいろと規定しています。ご相談者は、こういった名前を避けて、洋菓子の名前を考える必要があります。

 (1)商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

 これは、「ケーキ」に普通名称である「ケーキ」という商標を登録することができないということです。ただし、「○○ケーキ」というように「ケーキ」の前に固有名詞をつけるなど他の要件を充足すれば、登録可能です。

 (2)商品又は役務について慣用されている商標

 これは、慣用商標というものですが、同種類の商品またはサービスについて、同業者間で普通に使用されるようになったため、もはや自分の商品・サービスと他人の商品・サービスとを識別することができなくなった商標のことをいいます。例えば、「幕の内弁当」等です。ただし、「○○幕の内弁当」というように「幕の内弁当」の前に固有名詞をつけるなど、他の要件を充足すれば、登録可能です。

 (3)商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

 せっけんや化粧品などに関して「ワイキキ」という商標が認められなかった例があります(最高裁判決昭和54年4月10日)。

 (4)ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

 (5)極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標

 例えば、仮名文字の1字、数字、ありふれた輪郭(○、△、□等)、ローマ字(AからZ)の1字または2字など

 (6)需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

 例えば、地模様(模様的なものの連続反復など)のみからなるもの、標語(キャッチフレーズ)、現元号など

 (7)他人の肖像又は他人の氏名若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く)

 (8)他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

 (9)他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標

 (10)商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標

良い名前を思いついたらまずは商標登録を

 以上のように、商標権者は、商品やサービスについて、当該登録商標の使用をする権利を専有し、他人によるその類似範囲の使用を排除することができ、権利を侵害する者に対しては、侵害行為の差し止めや損害賠償等を請求できるという強力な武器を有することになります。

 ご相談者が思いついて名付けた洋菓子の名前を商標登録しないで販売していた場合、その名前が、既に洋菓子の名前について商標登録されている名前と同一または類似していた場合には、その商標権者から、商標権侵害であるとして、販売の差し止めや損害賠償請求をされる可能性があるわけです。

 また、上述のとおり、商標登録制度では先願主義がとられています。ご相談者が、新商品の洋菓子にいくら良い名前を考えて販売した場合でも、商標として登録していなければ、後から、他の第三者が洋菓子に同一または類似の名前をつけ、商標として登録してしまった場合には、ご相談者が先に名付けて販売していたとしても、商標権者から商標権侵害であるとして、販売の差し止めや損害賠償請求をされる可能性があることになります。

 したがって、インターネットで全国に大々的に販売するのであれば、後々のトラブルを避けるためにも、人を引きつける名前を考えるだけではなく、その名前を商標として登録しておいた方がよいと考えられます。

 そして、商標登録出願にあたっては、どのような商標をどのような商品またはサービスに使用するのか、類似の商標は出願されていないか等を事前に調査することが必要となります。商標調査は、特許庁の特許電子図書館等を利用すればある程度はできますが、商品やサービスにあった形式で商標権を取得するため、また、他人の商標と出願しようとしている商標が実際に類似しているのかどうかを判断するには、専門家に依頼する方が確実です。この専門家が、「他人の求めに応じ、特許、実用新案、意匠若しくは商標又は国際出願若しくは国際登録出願に関する特許庁における手続及び特許、商標等に関して代理を業とする」弁理士です(弁理士法第4条)。事前の商標調査だけでなく、商標登録出願後にも特許庁に、様々な書面を提出しなければならない可能性もありますので、商標登録出願を検討する際には、専門家である弁理士に相談することをお勧めします。

2013年03月27日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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