ペニーオークションをめぐる芸能人のウソ騒動とは

   

ペニーオークションをめぐる芸能人のウソ騒動とは?


相談者 KCさん

  • イラストレーション・いわしま ちあき

 「もしかして盗品? でも、こんなに安く手に入るんなら真似まねしてみようかな」。私は、そのブログを読んで驚いてしまいました。

 大人気のアロマ加湿器が半額以下の値段で手に入った、というのですから。ブログの主はある有名芸能人の奥様です。華やかなライフスタイルにあこがれ、彼女の日常がつづられたブログを楽しみにしています。

 日々起こったことや感じたことをストレートに書いていて、雲の上の存在である彼女を、身近に感じられるからです。時には、彼女が普段使っているという日用品を購入したり、「おいしい」と絶賛しているスイーツをお取り寄せしたりして、「ちょっぴり芸能人気分」に浸っています。

 そんなある日、彼女のブログに「ペニーオークション」なる方法で、「加湿器を落札した」と書いてありました。

 「セレブはオークションで格安品を手に入れているんだ。やっぱり、おしゃれ」。私は、早速チャレンジしてみました。

 調べてみると、ペニーオークションとは、ネットオークションの一種なのだそうです。ネットオークションと聞くと、「YAHOO!オークション」のように、最高値をつけた落札者だけが出品者に代金を支払うシステムを思い浮かべます。ペニーオークションは、開始時の価格や落札価格が低くても、入札のたびに手数料を支払うシステムです。しかも、出品物は主催者側が用意します。それこそ0円から入札価格が開始し、入札のたびに、1円とか5円と、入札単位の金額がわずかに上昇していくのです。

 この仕組みだと、0円からオークションを始めて、すぐに入札者が決まったら、業者のもうけは少なくなります。一方、入札回数が多くなると、支払う手数料もかさみ、落札できたとしても結局は高くつくかもしれません。

 「ちょっと仕組みが怪しい」とは思ったのですが、あこがれのセレブが「GET! GET!激安で落札できたよ」と書き込んでいるので、彼女を信頼して始めてみました。しかし、何回入札しても1円か2円の額で釣り上げてくる“ライバル”が登場するのです。結局、入札の手数料だけが、かさんでいきます。

 「1回も入札できないなんて、どう考えてもおかしい」

 不信感を抱き始めていたところ、新聞にペニーオークションがらみの不祥事が載ったのです。なんと、彼女を含む複数の芸能人がオークション業者に頼まれ、入札さえしていないのに「落札したよ!」などとブログにウソを書き込んでいたというのです。数十万円の報酬が支払われていました。私は、裏切られたという思いとともに、詐欺のようなペニーオークションの仕組みに憤りを覚えました。

 ペニーオークションの仕組み自体に法的問題はないのでしょうか? また、芸能人が、報酬を得て、ブログなどで商品の宣伝を書くことに問題はないのでしょうか? 教えてください。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答

芸能界のペニーオークション騒動

 昨年末、芸能界でペニーオークション詐欺騒動が起こり、今もその余波が続いているようです。

 昨年12月7日、インターネットオークションの一類型である「ペニーオークション」をめぐり、手数料名目で現金をだまし取ったとして、京都府警は、詐欺容疑でオークションサイト(「ワールドオークション」)の運営業者の男らを逮捕しました。このサイトは「最大99%オフ」「最新家電を激安で落札できます」などとうたって客を誘引したものの、実際は参加者が入札するたびに必ず高値を更新するサクラや、自動更新プログラム「ボット」を利用するなどして、落札できない仕組みになっていたうえ、商品も存在しなかったとみられています。つまり、絶対に落札・購入できないにもかかわらず、あたかも安値で購入できるかのように偽って、入札参加者から手数料名目で現金をだまし取っていたわけです。

 報道によれば、この事件の関係者の一人は、このコーナーの「スマホで出会い系に個人情報が流出 その対策は?」(2013年1月9日)でご紹介した事件(「電池長持ち」「電波改善」などとうたったアプリを配布し、スマートフォン内にある電話帳データを根こそぎ抜き取った事件)にかかわっていた人物とのことであり、違法アプリの摘発が、思わぬ方面に飛び火した形です。

 問題のサイトは、現在、「皆様にご迷惑をおかけして大変申し訳御座いません。誠心誠意を持って対応させて頂きたいと思いますので何卒ご理解いただきますようお願い申しあげます。」などと表示されており、運営を停止しているようです。

 さて、これだけであれば、時折ニュースに取りあげられる、違法サイトの摘発事例の一つで終わったわけですが、その後、さらに別の問題に波及しました。多数の有名タレントが、このサイトに関して、落札していない商品を落札したかのようにブログに書き込んで、報酬を得ていたことが判明したのです。

 あるタレントのブログには、新品の空気清浄機について、「1080円で落札した」と書いたものの、そういった事実はなかったということです。同タレントはブログで謝罪していますが、その謝罪文には次のように書かれています。「2010年12月初旬に友人より私的に依頼を受け、会社に報告することなく2010年12月27日 アメーバブログにて『プラズマクラスターをオークションでゲット』の題名でオークションサイトを紹介する内容の記事を掲載してしまいました。商品はオークションで落札せずに現物を受けとっており、友人に指示された通りの文面をそのままブログに掲載してしまいました。軽率な行動をとってしまったことを深く反省しております。本当に申し訳ございませんでした。」

 これらのタレントは、テレビ番組から降ろされるなど社会的な制裁を受けており、今後もこの余波は続きそうです。

ペニーオークションとは

 ペニーオークションとは、ご相談者も述べているように、ネット上で実施されるオークションの一種です。入札するごとに手数料を支払うのが特徴であり、「入札手数料オークション」とも呼ばれています。われわれが、ネット上のオークションと聞くと、「YAHOO!オークション」のように、YAHOO以外の第三者(出品者)が品物を提供し、それに最高値をつけた落札者が、出品者に対して代金を支払い、当該商品を取得するというシステムを思い浮かべます。

 ペニーオークションの場合は、出品物は主催者側が用意して、例えば、0円から入札価格を開始し、誰かが入札するたびに入札の手数料を負担しなければなりません。そして、入札ごとに、1円とか5円とか、入札単位の金額がわずかに上昇していき、誰かが確定的に入札するまで続きます。ペニーオークションは英国の通貨単位ペニーが由来とされており、1ペニーは1ポンドの100分の1ですから、ここでいうペニーは、わずかな金額という象徴的な言葉として使われているようです。つまり、入札ごとにわずかな金額の手数料を支払って入札に参加するということです。

 さて、オークション参加者は、最終的に安く落札できたとしても、入札ごとに手数料が必要になりますから、誰かと競り合って何回も入札したような場合には、そのたびに入札手数料が積み重なり、その落札額に手数料や送料を合計すれば、実は、決して安価な買い物になっていないという可能性があります。また、落札できなかった人は、単に手数料を支払うだけで終わることになります。他面、オークション業者は、商品の落札価格の収入が入ることはもちろん、入札機会が増えるのに比例して、入札手数料による収入が増加することになります。落札の結果を見ると、一見、原価割れに陥っているように見えても、実際は、手数料収入によって、見た目以上の収益を上げているということになるわけです。

 もっとわかりやすく、実際に数字を入れて具体的に説明すると、次のようになります。例えば、希望小売価格3万円の商品を、業者が0円で出品します。市場での実勢価格が2万5000円として、それが1万円で落札されたとします。1回の入札ごとに50円の手数料がかかる一方で、入札額は10円ずつしか上がらないシステムとすると、1万円になるまでの1000回分(10000÷10)の入札手数料(50円×1000回)である5万円と、落札価格1万円が業者の手元に入ります。他方、仮に落札者自身が100回入札していたなら、落札代金1万円と5000円の入札手数料(50円×100回)、それに送料を支払うことになります。この例では、落札者は、実勢価格より安く商品を入手でき、業者も利益を上げており、とりあえずWIN-WINの関係のようにも見えます。ただ、この背後には、「まあ、1回50円なら無駄になってもいいからで試してみよう」という思いの900回分の無駄になった入札があり、それが業者の収益になっているわけです。この「1回50円なら無駄になっても良いからで試してみよう」という発想は、宝くじでも買ってみようという発想に類似しているのであり、ペニーオークションが、ギャンブルに近いと言われるゆえんです。

 そして、賢明な読者の皆さんならすぐに気がつくと思いますが、上記のような、一見WIN-WINモデルのように見えるペニーオークションも、万が一、オークション業者が、サクラを使って、毎回、入札終了直前に、10円だけ高い金額で入札すれば、その風景が一変します。参加者は絶対に商品を落札できず、業者は入札手数料だけを労せずして取得することになるからです。

ペニーオークションは適法なのか

 実は、2010年ごろに、あるネット企業から、ペニーオークションに参入しようと思うが、果たして適法なのかという問い合わせを受け、私の方で検討し意見書を作ったことがあります。

 当該意見書において、多数の法規との関係を様々な角度から検討し、また、業務関連性がありそうな官公庁にも問い合わせしましたが、運用方法によっては違法性が生じる可能性があるものの、現行の法制度の下では基本的に違法とは言えないという結論でした。そして、問題となる運用方法の一つが、今回摘発された詐欺罪の該当性です。

 当時の意見書には、次のように記載されていました。

「さくら」を使って、次々と価格を更新して、それまでの入札者の申し入れを無効化するような場合、もしくは、より端的に、常に「さくら」が落札するように仕向け一般消費者が落札することが不可能な場合などには、詐欺罪となる可能性はあります。この点は、十分に注意する必要があると思われます。

レピュテーションリスク

 上記意見書において、私が、当該企業に対して、違法かどうかの問題とは別に指摘したのが、レピュテーションリスクです。つまり、きちんとした企業が、適正に運用する限りにおいては、ペニーオークションにギャンブル的要素があるという側面をどう評価するかは別にして、ビジネスモデルとして成り立ち得るとは思われます。現に、大手企業で、ペニーオークションを実施しているところも存在します。

 ただ、一部の事業者が、目先の利益に目がくらんで、サクラを使うなど違法な運用をして摘発される可能性が多分にあり、将来、そういった不正が問題になった場合には、不正を行っていない他の健全な事業者すべてが、同様の悪質業者とみられる可能性があるという、極めて重大なリスクが存在するということです。

 結局、相談にきた企業は、事実上参入を断念しました。上記リスクを重視して、参入することに二の足を踏んだわけです。今回の事件は、まさに、ペニーオークションが立ち上がり始めた時期から、危惧されていたリスクが現実のものになったわけです。

 国民生活センターには、詐欺として摘発まではされないものの、オークションの仕組みを理解せずに利用した消費者からの相談が多数寄せられており、「入札に没頭し、手数料ばかりかかってしまった」「途中でやめると手数料が無駄になると思い入札し続けた」「落札したものの、高額請求になってしまった」「サクラの可能性に不審」「落札したが、出品商品が未入荷で取り消しに」などといった相談事例があるようです。

 そのうえで、同センターでは、2013年2月12日に公表した「入札する度に手数料がかかるペニーオークション」という情報提供の中で、次のように注意を促しています。

 ペニーオークションは、入札の都度、別料金のポイントが必要だったり、システムについての説明が見つけにくい場所にあったり、入札金額や単位が固定されていたりするなど、不親切さも残ります。最も注意しなければならないのは、入札額が小刻みで、リアルタイムに変動するため、短時間の入札に熱中するあまり、手数料だけが積み重なって行くことがあります。落札できたとしても、入札手数料と落札価格を合計したら、実はかなり高くついてしまった事例がありますし、落札できなければ、積み上げた入札手数料は全て無駄になってしまいます。しかも、落札価格をつり上げるためのサクラの存在が報じられたり、出品の実態が疑わしいケース、落札価格の操作が疑われるケースなどもあるようです。オークションなので、確実に落札できるとは限りません。よく考えて利用しましょう。

ステルスマーケティングとは?

 以上のように、運用次第によっては、違法性が生じる可能性があるものの、ペニーオークションの仕組み自体には、現行の法制度の下で問題はないと言えるかと思います。では、芸能人が報酬を得てブログなどで、事実に反する商品の宣伝を書くことに問題はないのでしょうか。

 最近、ステルスマーケティングという言葉をよく聞きますが、それは、企業・組織などが、消費者に宣伝だとわからないよう隠れて宣伝行為を行うことです。今回問題となった、芸能人ブログによる宣伝活動は、まさにステルスマーケティングの典型です。

 本コーナー「格安食事クーポンをネットで購入、調べたらいつもその値段 問題では?」(2012年12月26日)でご紹介したように、消費者庁は、インターネット消費者取引の拡大につれて、さまざまな類型のサービスが消費者に向けて提供され利便性が向上する一方で、トラブルや消費者被害も拡大していることを受けて、2011年10月28日、「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」(以下、「消費者庁見解」)を公表しました。

 この中では、「口コミサイト」のビジネスモデルについて、「当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる。」と明記しています。そして、「ブログ等、個人(有名、無名を問わない。以下、ブログを運営する者を『ブロガー』という。)が情報を提供するウェブサイトにおいても、ブロガーの『おすすめ商品』等に関する情報提供が行われることがあり、こうしたブログなども口コミサイトの一つに数えることができる。」としており、今回のような芸能人ブログも、この範疇はんちゅうに含めています。

 そして、そうしたブログでの表示は、景品表示法上の「表示」には該当せず、景品表示法の問題が生じることは原則としてないとしながら、「商品・サービスを提供する事業者が、顧客を誘引する手段として、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させ、当該『口コミ』情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法上の不当表示として問題となる。」としています。

 そのうえで、消費者庁は、「問題となる事例」として、次のような具体例を挙げています。

 広告主が、ブロガーに依頼して、「△□、ついにゲットしました~。しみ、そばかすを予防して、ぷるぷるお肌になっちゃいます!気になる方はコチラ」という記事をブログに掲載させる。実際には…しみ、そばかすを予防するなどの効果に十分な根拠がなかった。

 さらに、当該事例に対する注記として、米国では、連邦取引委員会(FTC)が2009年12月に「広告における推薦及び証言の使用に関するガイドライン」を公表しており、この中でFTCは、広告主からブロガーに対して商品・サービスの無償での提供や記事掲載への対価の支払いがなされるなど、両者の間に重大なつながり(material connection)があった場合、広告主のこのような方法による虚偽の又はミスリーディングな広告行為は、FTC法第5条で違法とされる「欺瞞的な行為又は慣行」に当たり、広告主は同法に基づく法的責任を負う、との解釈指針を示している旨を記載しています。

 つまり、ブログ執筆者に依頼して、不当な広告を行った場合には、広告主は景品表示法違反となる可能性があるわけです。ただ、消費者庁見解が問題としているのは、あくまでも、商品サービスを提供する事業者であり、ブログ執筆者自体については特段言及されていません。そういう意味では、ブログ執筆者自身に責任を問うのは難しいと思われます。この点、消費者庁に問い合わせたところ、依頼を受けたブログ執筆者に対し、景品表示法に関連して消費者庁として対処することは現在予定されていないとのことでした。

芸能人広告塔の責任について

 では、芸能人が、いわゆる広告などで、商品やサービスの宣伝をした場合に、どのような責任追及ができるのでしょうか。

 東京地方裁判所は、平成22年11月25日、芸能人の広告塔責任について否定する判決を言い渡しました。これは、一時期、メディアで話題を集めた「円天」事業に出資した人たちが、その商法が大規模な組織的詐欺であり不法行為を構成するにもかかわらず、著名な男性歌手が円天主催の全国大会でコンサートを行ったり、DVDに出演するなどして、当該事業やその投資商品を宣伝しその信用性を高め、顧客らに対して出資させるなどしたとして、当該歌手に対して不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。

 東京地方裁判所は、おおむね次のように判示して、その芸能人の責任を否定しています。

 芸能人等有名人が、広告に出演する場合に、広告主の事業内容・商品等について、常に調査をしなければならないという一般的な注意義務を認めることは、過度の負担を強いるものであって相当でないというべきである。有名人が、広告に出演する場合に、調査義務を負うか否か及びその程度等については、個別具体的に、当該有名人の職業の種類、知名度、経歴、広告主の事業の種類、広告内容などを総合して判断すべきである。…被告は、歌手として長い経歴を持ち、現在においても人気のある歌手として活躍中の者であることは事実であり、被告がAの主催するコンサート等に出演することが、広告主たるAの事業内容やその販売する商品等について、出資者らの判断材料になる可能性がないとはいえない。しかし,被告は歌手として著名であるものの、それ以外の社会的分野について、特別の識見を有するというわけではなく、Aの事業内容や商品等の価値について、出資者ら一般人とさほど異なる判断材料を有していたわけではない。実際に、Aのコンサートに出演していたのは、被告に限らず、数多くの著名な歌手・芸能人が参加しており,被告が出演する以前にも著名な歌手が参加しており、そのことも被告がコンサートへの出演を決めた原因となっている。…さらに、被告がコンサート等に出演する行為が、何らかの形でAを広告することになるとしても、今日では、出資者らも、一般に広告主やその取り扱う商品等について様々な方法によって情報の提供を受けることができるのであって、ことに多額の出資や商品の購入などを、広告のみに依拠して行うことはおよそ考え難いのであり、被告がコンサートに出演する行為等が、原告らが主張するほどの強い影響力があったとまではいえず、出資者らが被告のコンサートを見たり、その話を聞いたことと、実際にAに出資することとの間には直接的な関連性があるとは認められない。すなわち、実際にAに出資したり、その販売する商品を購入する者は、自ら資料を収集調査し、A側に説明を求め、その出資金額や購入商品等具体的な内容を決定するのであり、そこでは、広告媒体は直接には関与しないのである。…これらの事実を総合考慮すれば、被告が、Aの主催するコンサート等に出演するに当たって、やや注意を欠くところがなかったとはいえないとしても、Aから依頼されたのは、あくまでもコンサートに出演することであり、また実際にAを宣伝するような行為を行っていないことや、出資者らが被告のコンサートを見聞することと、実際に出資することとの間には直接の関連性が認められないことなどからすれば、被告がコンサートに出演するに当たり、Aの事業内容や信用性をあらかじめ十分に調査・確認した上でなければ、コンサートに出演してはならないという一般的な法的義務があるとは直ちには認められない。

広告塔の責任を認めた事案も

 他方、芸能人の責任を肯定した判決も存在します。Xらが、不動産会社Yから北海道の原野を利殖物件として購入したが、その土地が評価額の極端に低い二足三文の土地であり、Yの行為は詐欺にあたるとして、Yばかりでなく、Yのディナーショー、宣伝用ビデオに出演し、Yのパンフレットに推薦文を載せた芸能人に対して損害賠償の請求をした事案です。

 大阪地方裁判所は、昭和62年3月30日、次のように判示しています。

 パンフレットについては、被告(注:広告塔となった芸能人)がその中で、Y(注:問題の不動産会社)役員と個人的なつながりがある旨記載し、北海道の土地に対して積極的な評価を加えた上で、同被告個人の立場でYを推薦しているのであり、これは、Yの単なる情報伝達手段にとどまらず、被告個人が自己のメッセージとしてYを紹介・推薦するものであることが明らかである。そして、Yの不法行為が詐欺を内容とするものであることに鑑みれば、Y及びその扱う商品を紹介・推薦し、これに対する信頼を高めることは、とりもなおさずYの不法行為を容易ならしめることに外ならないから、被告の右行為が客観的にYの不法行為に対するほう助になることは明らかである。

 そこで、次に故意・過失の存否を検討する。芸能人が、広告に出演する場合に、いかなる注意義務を負うか、換言すれば、その広告主の事業内容・商品についていかなる調査義務を負うかは、個別具体的に、当該芸能人の知名度、芸能人としての経歴、広告主の事業の種類、広告内容・程度などを総合して決められるべき問題である。そこで被告に関する…広告についての注意義務につき考察するに、被告は前記のとおり芸能人として長い経歴を持ち、現在においてもなお人気のある俳優あるいは歌手として活躍中の者である。そして本件では、広告主たるYの事業内容・信用性はもとより、その扱う商品(北海道の山林、原野)の価値についても原告ら一般人はその判断資料を殆ほとんど持ち合わせていないのであるから、被告らいわゆる有名人による第三者的な立場からの推薦が大きな判断資料となる可能性が高いといわなければならない。しかもその販売価格も一単位(ほぼ100坪)数十万円と決して安くなく、しかも被告は右価格を知っていたと推認できる。これらのことからすれば、被告は、自己の持つ影響力を認識するのはもちろんのこと、広告主の事業に不正があった場合に生じる損害が多額に上る可能性をも認識し、自分が、一人のタレントとしてYの単なる情報伝達手段としての役割を演じるにとどまらず、〇〇〇〇(注:芸能人の芸名)個人の立場から、Yあるいはその取り扱う商品の推薦を行う場合には、その推薦内容を裏付けるに足りる調査を行うべき義務があるものというべきである。しかるに、被告は、…Yの事業内容を調査することをまったくしなかったのであるから、同人には、前記注意義務に違反した過失があると言わざるをえない。これに対して、被告は、同人がYの事業の詳細を知りえる立場になかった旨主張するが、調査しようと思えば、Yから話を聞くことに始まり、評価証明をとったり、場合によっては興信所に依頼するなど種々の方法が考えられるのであり、しかも、仮に調査が困難あるいは経費がかかりすぎるというのであれば、広告の文言・内容を変更するという方法も採れるし、仕事の受任自体を拒否することも可能なわけであるから、右の主張は失当である。

 もっとも、被告は、右パンフレットの仕事をする前に、現地を一度見ており、その土地は…平地で、区画が為なされていたことが認められるが、現地に行ったのは前記映画の撮影のためにすぎず、これだけでは、前記内容の推薦をする上で必要な調査をしたものとは認められない。よって、被告には、パンフレットに推薦文を載せるにあたり必要な注意義務を怠った過失があると認められる。

今回の問題…詐欺の可能性も

 今回、問題の業者は、刑法の詐欺罪で摘発されたわけですから、仮に、名前の挙がっている芸能人が、その事実を認識した上で、そのブログで業者を紹介したのであれば、詐欺の共犯となる可能性があります。ただ、報道を見る限り、お小遣い稼ぎのつもりでよく調べもせずに、ブログに虚偽の事実を記載しただけのようですから、そこまでの責任を負うことは難しそうです。

 また、自らのブログに不当な表示をしたという点に関する、景品表示法の問題についても、消費者庁資料で問題としているのは、商品・サービスを提供する事業者の方であり、依頼を受けたブログ執筆者ではありませんから、原則としては、この点も難しそうです。

 ただ、上記のように、芸能人の広告塔としての責任をみとめた判例もあることから、判例の指摘するように、「当該芸能人の知名度、芸能人としての経歴、広告主の事業の種類、広告内容・程度などを総合して」責任の有無が判断されることになると思われます。

 実際に、被害者が、集団訴訟を提起するというような報道もあり、お小遣い稼ぎのつもりとはいえ、ファンを裏切った代償はあまりにも大きかったと言えるでしょう。

2013年03月13日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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