営業課長が新入社員にセクハラ どうすればいい

   

営業課長が新入社員にセクハラ どうすればいい?


相談者 ATさん

  • イラストレーション・いわしま ちあき

 「営業課長が私の体を、みんなの前で触ってくるんです。嫌で嫌でたまりません」。新入社員のT代さん(23)からの訴えがあったと、取締役総務部長の私に報告がありました。

 「彼に限ってそんなことはないはず。何かの間違いでは……」。私は絶句しました。営業課長(44)は、かつて私の部下だったので、よく知っています。礼儀正しく、女性にも丁寧な応対をする男です。T代さんは、「これ以上続くようなら辞めるつもりです。告訴も考えています」と息巻いているというのです。

                   

 「営業課内のセクハラについて聞きたいのだが」と私は、営業課長を個室に呼んで聞きました。

 「セクハラ? そんなことをやったやつは、いったいどいつですか」

 「君がやったという話だ」

 「私が…やった……んですか?」

 彼は自分の部署でセクハラ問題が起きているとは思ってもいなかったのです。しかも、自分がセクハラの当事者だと知らされ、心底驚いていました。

 問題となったのは、彼が部下に対して、日ごろから激励の意味で、背中をたたいたりしていた行為でした。昨年10月から新しく配属されたT代さんは、海外の大学を卒業した帰国子女で、いきなり背中を触られ息が止まるほどびっくりしたようなのです。課内のみんなが、体を触られても黙っていることにも、憤慨していました。

 「背中をべたべた触るなんて、とんでもありません。どう考えてもセクハラです」

 企業によってはセクハラ・パワハラの専門窓口はあるようですが、わが社でそのような制度がないため、私のところに相談にまわってきたようなのです。

 専門家の意見を聞くなど、いろいろ調べたところ、営業課長は社員に対する激励の意味で背中をタッチしたとしても、その行為はセクハラに該当する――ということが判明しました。 

 被害を訴えたT代さんには「二度とこのような不快な思いをさせません。約束します」と会社として謝罪しました。彼女も納得し、この件についてはこれ以上問題にせず、ほかの部署に異動することで一件落着しました。

 とはいえ、今後も同様の問題が生じる可能性は否定できません。今回の件を機に、うちの会社でもセクハラ対策をきちんと行おうと思うのですが、社長は乗り気ではありません。

 社長に、セクハラ問題を軽視することが会社として得策ではないことを説明して、適切な対策を講じたいと思います。どのように説明すればよいでしょうか。具体的な対策も教えてください。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答


今もメディアをにぎわすセクハラ事件

 2月5日、横浜市立大は、職員である男性係長について、セクハラ行為などを理由に同日付で諭旨解雇にしたと発表しました。2月14日にも、千葉県警が、20代の知人女性2人の体を触るなどのセクハラ行為をしたとして、浦安署長への停職3か月の懲戒処分(同人は同日付で依願退職)を発表しています。このように、相変わらず、セクハラ関連の事件がメディアをにぎわせています。

 一方、1月30日、セクハラ行為を理由として懲戒解雇された私立大学の教授が、解雇処分を無効として大学を相手取って地位確認などを求めた裁判で、京都地裁は、セクハラには該当しないとして解雇処分を違法、無効とする判決を言い渡しました。

 セクハラの問題は、当事者の主観が大きく影響し、また性に関する言動の受け止め方には個人間や男女間で差があることもあり、往々にして、加害者とされる人と、被害者とされる人との間に、大きな認識のずれが見受けられます。 

 その結果、相談に出て来る営業課長のように、本人が意図しない何気ない行為がセクハラに該当すると非難され、予期せぬ処分を受けることにつながります。また、非難された本人は、非難されるような行為をした認識が全くないので、その処分に納得できず、異を唱えて争うという事態を招くことになります。

 今回は、セクハラの中でも、特に職場におけるセクハラの問題について考えてみたいと思います。上記のような認識のずれがある限り、セクハラ事件はなくならないのであり、企業においては、後述するように、社員全員で共通の認識をもつための方策の実施が不可欠といえるでしょう。

セクハラとは何か

 セクハラとは、「セクシュアルハラスメント」(Sexual Harassment)の略語です。ちなみに、これは正規の英語であり、同様に職場の問題として取りあげられる「パワーハラスメント(パワハラ)」が和製英語であるのとは異なります。

 職場におけるセクハラについては、男女雇用機会均等法第11条に規定があり、同条1項は「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と規定しています。

 そして、厚生労働省のセクハラ問題に関する資料等において、セクハラとは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に起因するものと整理されています。

 ここでいう「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を意味し、通常就業している場所以外でも、労働者が業務を遂行する場所に含まれます。例えば、取引先の事務所、取引先と打ち合わせをするための飲食店(接待の席も含みます)、顧客の自宅(保険外交員等の場合)や、出張先、業務で使用する車中なども含まれます。

 また、勤務時間外の宴会などであっても、実質上職務の延長と考えられるもの(職務との関連性、参加者、参加が強制的な任意か等を考慮して判断されます)は職場に該当するとされます。

 「労働者」とは、男女の労働者を意味し、非正規労働者(パートタイム、契約社員等)を含む、事業主が雇用する労働者の全てを含みます。派遣労働者については、派遣元、派遣先事業主共に措置を講ずることが必要とされます。

 「性的な言動」とは、性的な内容の発言、性的な行動を意味し、行為者は、事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客なども含まれます。具体的な性的内容の発言例としては、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(うわさ)を意図的に流布すること、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗しつような誘い、個人的な性的体験談を話すことなどが想定されており、性的な行動の例としては、性的な関係を強要すること、必要なく身体へ接触すること、わいせつ図画を配布・掲示すること、強制わいせつ行為などが想定されます。

 本件営業課長は、社員に対する激励の意味で背中をタッチしたようですが、その意図にかかわらず、相手である「労働者」の意に反して「必要なく身体へ接触すること」を行ったわけですから、セクハラに該当することになります。

職場におけるセクハラの実 

 職場におけるセクハラの問題は予想外に多いというのが現実です。

 都道府県労働局雇用均等室に寄せられる男女雇用機会均等法に関する相談件数は、平成21年度で2万3301件、22年度で2万3496件、23年度で2万3303件でした。そのうち、21年度で1万1898件、22年度で1万1749件、23年度で1万2228件がセクハラに関する相談となっており、相談の半数以上がセクハラの問題となっています。

 また、平成23年度の都道府県労働局長による紛争解決の援助の申立受理件数のうちの約5割、機会均等調停会議による調停の申請受理件数のうちの約7割が、職場におけるセクハラに関する事案だったということです。

 セクハラ問題の性質上、実際に相談に至った件数、あるいは調停等の手続きを申請した件数は氷山の一角と考えられることから、実際には、もっと多くの企業でセクハラの問題が発生している可能性は否定できません。

企業が大きなダメージを受けた海外の例

 セクハラ事件で最も有名なのは、おそらく、米国三菱自動車製造工業の事例であると思われます。この事例では、同社の多数の女性従業員が、性的な問題で耐え難い職場環境であるとして、セクハラや昇進昇格での女性差別を理由にアメリカの雇用機会均等委員会に申し立てをし、同委員会は1996年4月に訴訟を提起。その後、両者の間で、1998年6月に和解が成立しました。和解金は総額3400万ドル(当時の日本円で約49億円)になり、事件は日本企業に衝撃を与えました。

 さらに、2006年、北米トヨタ自動車の社長アシスタントを務めていた日本人女性が、同社社長からセクハラ被害を受けたとして、同社、同社社長に対し、総額1億9000万ドルの損害賠償請求訴訟を提起したことも同様に衝撃的な事件でした。このケースは、和解で終了し、和解内容も非公開となっていますが、北米トヨタが多額の経済的負担を負ったことが推定されます。

 ちなみに、アメリカでは、いわゆる懲罰的損害賠償請求が認められていることから、このような巨額な請求事件となります。懲罰的損害賠償とは、加害者の行為が強い非難に値すると認められる場合に、裁判所の裁量などによって、制裁的に、実際の損害額に金額を上乗せして支払うことを命じるものです。マクドナルドのドライブスルーでコーヒーを買った高齢女性が、それをこぼして火傷を負い、マクドナルドを訴え、巨額の賠償を勝ち取ったという話は余りにも有名です。

 日本では、このような請求は認められていませんので、上記海外での事例におけるような多額な賠償リスクを、セクハラ事件にかかわる企業リスクととらえることはできません。ただ、上記両社は、セクハラを許していた企業として、社会的な評価が低下するといった、目に見えない大きなダメージを受けたことは間違いありません。賠償額の多寡にかかわらず、セクハラは、日本国内の企業においても、重大なリスクとして認識しておくべきことは言うまでもないことです。

日本国内での事例

 日本国内で、訴訟になったケースでは、初めて企業責任が認められた事例として、福岡地方裁判所平成4年4月16日判決があります。上司が、女性従業員の私生活について異性関係が乱脈であると非難し、異性関係の個人名を会社内外の関係者に噂として流布し、最終的に退職させたという事案です。裁判所は、女性差別であり、セクハラに該当する違法な行為があったとの認定をしたうえで、上司及び会社に対して連帯して165万円(慰謝料150万円、弁護士費用15万円)の支払いを命じました。

 同判決は、会社の責任に関して、「使用者は、被用者との関係において社会通念上伴う義務として、被用者が労務に服する過程で生命及び健康を害しないよう職場環境等につき配慮すべき注意義務を負うが、そのほかにも、労務遂行に関連して被用者の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来す事由が発生することを防ぎ、又はこれに適切に対処して、職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務もあると解されるところ、被用者を選任監督する立場にある者が右注意義務を怠った場合には、右の立場にある者に被用者に対する不法行為が成立することがあり、使用者も民法715条により不法行為責任を負うことがあると解すべきである」と述べたうえで、「早期に事実関係を確認する等して問題の性質に見合った他の適切な職場環境調整の方途を探り、いずれかの退職という最悪の事態の発生を極力回避する方向で努力することに十分でないところがあった」という点、および、「原告の退職をもってよしとし、これによって問題の解決を図る心情を持ってことの処理に臨んだものと推察されてもやむを得ない」という点で、会社にも責任があると認めました。

 また、岡山地方裁判所平成14年5月15日判決は、上司であり会社の後継者であった者が、派遣社員の女性の異性関係を問い質したり、電話をするなどの行為をしたほか、肉体関係を持つように求めたことを、当該派遣社員女性と同僚が代表取締役に訴えたところ、セクハラの事実が否定され、降格処分や段階的な減給処分がなされることとなり、最終的に退職を余儀なくされたという事案です。

 裁判所は、会社に対し、降格・減給処分は就業規則上の根拠がなく、かつ、減給の程度が労働基準法に違反すること、上司の行動・言動を放置し、職場環境の悪化を放置したことなどに、違法性ないし過失があるとして不法行為責任を認めました。未払い給料相当損害や退職後1年分の逸失利益等も含め、原告の一人に対し1528万9320円、もう一人に対し1480万2080円の支払いを命じたほか、上司に対しても損害賠償(それぞれ220万円と33万円)の支払いを命じました。

セクハラ対策の具体例…9つの指針

 上記のように、職場においてセクハラの問題が生じた場合に想定されるリスクを回避するため、企業として、どのようなセクハラ対策が望まれるのでしょうか。
 この点、厚生労働省が出している「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)が参考になりますので、以下、その内容を列挙します。

(1)セクシュアルハラスメントの内容、セクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化して、管理・監督者を含む労働者に対し周知・啓発すること。
(2)職場におけるセクシュアルハラスメントに係る性的な行動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

(3)相談への対応のための窓口(相談窓口)をあらかじめ定めること。

(4)相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、相談窓口においては、職場におけるセクシュアルハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるセクシュアルハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。

(5)事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。

(6)(5)により、職場におけるセクシュアルハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置及び被害者に対する措置をそれぞれ適正に行うこと。

(7)再発防止に向けた措置を講ずること。なお、セクシュアルハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても同様の措置を講じること。

(8)職場におけるセクシュアルハラスメントに係る相談者・行為者等の情報はその相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又は当該セクシュアルハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。

(9)労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントに関し相談をしたこと又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として、不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

早急に認識のずれの解消を

 ご相談者が述べるように、この会社で、今後も同様の問題が生じる可能性は否定できません。

 営業課長が、開口一番、「セクハラ? そんなことをやったやつは、いったいどいつですか」と聞いたように、セクハラをしたと指摘された人物は、自分がセクハラをした認識など全くなく、自分がセクハラの当事者だと知らされて、驚愕することも少なくありません。
 営業課長にとっては、社員に対する激励の意味の背中へのタッチだったのが、T代さんにとっては「背中をべたべた触るなんて、とんでもありません。どう考えてもセクハラです」となり、両者の間には大きな認識のずれがあるわけです。
 社内に存在する、この認識のずれを早急に埋めない限り、同様の事態が発生する可能性があるということです。
 「SNSで不祥事続発、企業側対策の決定打とは?」(2012年1月11日)でも指摘したように、SNSによる不祥事の怖さは、従前の企業不祥事における従業員の多くが、悪いと知りつつ違法な行為を行っていたのと異なり、SNSの場合、実行者(ツイッターで言えば発信者)に悪いことをしているという自覚が全くないということがあげられます。
 つまり、SNSの発信が、親しい友人・知人に対する近況報告や意見開示に過ぎないという認識を社員が持っている限り、不祥事はなくなりません。だからこそ、企業側は、SNSが全く新しい情報発信ツールであって、日ごろ活用しているメールとは異なり、開示した友人以外にも急速かつ無限定に伝達・拡散する可能性を持つものであることを、社員に対して徹底して教育する必要がある旨を指摘しました。
 セクハラも同じであり、性的な意味合いなど微塵もなく、激励の気持ちを持って行う限り、女性社員への背中へのタッチが許されるという認識を、社員が持っている限りにおいて、いつどこで新しいセクハラ事件が発生するか分かりません。そして、いったん、会社でセクハラ事件が発生した場合、被害者にとって大きな負担となることはもちろん、無自覚なままセクハラをするに至った加害者にも大きな責任と負担が生じるほか、その対応に追われることになる企業側の負担も極めて大きなものとなります。最悪の場合は、当該企業の評判を地に落とすことにもなりかねません。
 そこで、まずは社長に、上記のような裁判例等を説明しながら、セクハラ問題を軽視することが会社として得策ではないことを理解してもらい、前記指針(1)にあるように、社内で、セクシュアルハラスメントの内容、セクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化して、管理・監督者を含む労働者に対し周知・啓発することから始めるべきかと思います。

2013年02月27日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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