貯めこんだ電子マネー、発行会社が倒産したらどうなる? 

相談者 TKさん
  • イラストレーション・いわしま ちあき

 「お客さん、まさか無銭飲食するつもりじゃないでしょうね」。私の薄い財布の中には、なんと紙幣が1枚も入っていませんでした。

 居酒屋で飲んで、「さて勘定を」と財布の中をのぞき、慌てた私の様子を見ていた店員。その顔にはそんな疑いの気持ちがありありと表れていました。

 私は大きな金額を財布には入れていません。小銭にいたっては、ほとんど入っていません。というのは、日常の買い物や支払いを電子マネーで済ましているからです。

 この店では私が持っている電子マネーが使えなくて、あたふたしてしまったのですが、幸いクレジットカードが使え、事なきを得ました。

 電子マネーが便利なのは、小銭が必要な時は電子マネーのカードさえあれば事足りるからです。電車やタクシー、バスへの乗車、ちょっとした買い物でも、カードだけ持っていればよいのです。昔は、小銭でズボンのポケットが膨らんで困ったものですが、今はそんな事はありません。世の中、便利になったものです。

 私のように電子マネーを使う人が増えたのか、少し前に1円玉などの硬貨の製造量が減っているというニュースを読んだ記憶もあります。

 テレホンカードが登場したときも、その便利さに時代の進歩を感じたものですが、それも30年前の遠い昔の話です。

 最近は、カード型だけでなくインターネット専用の電子マネーも使うようになりました。近くのコンビニのほか自宅のパソコンでネットバンキングなどを利用して入金することもでき、とても便利です。オンラインゲームや音楽ダウンロードなどのネット上の少額決済は、すべてこれで済んでいます。

 そうして、気がつくとカードやネット上の電子マネーが結構な金額になっています。最近、これら電子マネーを発行している会社が倒産したりしたらどうなるのか不安になってきました。

 電子マネーの発行会社が倒産した場合、チャージしたお金は戻ってくるのでしょうか?

 なお、最近、色々な店舗でポイントが盛んに発行されていて、ポイントも随分とまっているのですが、ポイントについてはどうなっているのでしょうか? ポイントは、普通、買い物に付随しておまけのような形でもらっており、お金を払って入手した電子マネーとは違います。ポイントを使って少額の支払いなどができることもあるので、使えなくなると損した気持ちになるという意味では、電子マネーと同じような気もしますが……。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答


電子マネーの急速な拡大

 近時、電子マネーの利用が急速に拡大しています。あるメディアの調査によれば、主要な6規格(ワオン、ナナコ、スイカ、エディ、パスモ、イコカ)の2012年の決済総額は約2兆4000億円と、この3年間で2倍に増えたということです。

 特に、日本の経済状況を反映してか、利用のたびにポイントが付与され、実質的な値引きとなる、流通系電子マネーの利用が広がっているようです。

 エディ、スイカに続いて、首都圏私鉄などに使えるパスモが導入され、スイカとの相互利用が始まった2007年は「電子マネー元年」と呼ばれました。同年に、パスモに続いて、イオン、セブン&アイの2大流通グループが相次いで参入し、一気に電子マネーの普及が拡大していったわけですが、あれから5年で、ここまで国民生活の中に電子マネーが普及したわけです。

 この流れに対応して、硬貨の発行枚数が減少しています。財務省や造幣局によると、2011年は45万6000枚の1円玉を製造したものの、すべて記念品として販売する「貨幣セット」向けでした。流通用の1円玉は造らなかったとのことであり、これは1968年以来の事態とのことです。電子マネーが普及して、小銭を使うような場面では、多くの人が電子マネーで決済するようになったことが理由と考えられます。ちなみに、5円玉と50円玉は、2010・2011年は、やはり流通用には製造されていないとのことです。

電子マネーとは

 電子マネーには、これといった定義はありません。

 ネットで検索しても、「貨幣価値をデジタルデータで表現したもの」「現金紙幣や硬貨を介さずに電子媒体に現金に代わる金額が蓄積され、その中から行われる決済手段」「情報通信技術を活用した、企業により提供される決済サービス」「その金額に応ずる対価を得て電磁的に記録された金額情報であって、その記録者との関係にもとづき、それを移転することによって、契約にもとづく一定の範囲の金銭債務の弁済としての効力を有するもの」など、定義付けは様々です(定義をここで議論しても仕方がありませんので、ここでは、割愛します)。

 今回のご相談内容は、前払いで取得した電子マネーについて、発行体が倒産した場合に関するご相談です。ワオン、ナナコ、スイカ、エディ、パスモ、イコカといったタイプ(カード型であらかじめ金銭をチャージするもの)と、近くのコンビニのほか自宅のパソコンでネットバンキングなどを利用して入金して利用するインターネット専用の電子マネー(ウェブマネーなど)をイメージして、読み進めてもらえばよろしいかと思います。

 広義の電子マネーには、ポストペイ型(クレジットカードにひもづいて、利用後支払うタイプの決済手段)と呼ばれるタイプのものもありますが(iD、QUICPay、VISA touchなど)、今回は説明の対象から外します。

プリペイドカード法

 もともと、スイカなど、カード型であらかじめ金銭をチャージするタイプについては、「前払式証票の規制等に関する法律」(いわゆる「プリペイドカード法」)による規制がなされていました。

 プリペイドカード法という略称からして明らかなように、もともと、この法律は、スイカなどの電子マネーを規制対象とするものではなく、テレホンカードなど、同法の成立当時(1989年12月15日)、「プリペイドカード」と呼ばれていたものなどを規制対象として制定された法律です。

 当時、オレンジカード、ハイウェイカード、図書カードなど多数のプリペイドカードが流通していたことを覚えている方も多いと思います。エディとスイカが実用サービスを開始したのは2001年のことであって、プリペイドカード法成立当時は、まだ存在すらしていませんでした。

 さて、プリペイドカード法の内容ですが、簡単に言えば、プリペイドカードを発行する場合、その種類によって、大蔵大臣(当時)への届出または登録を必要とするなどの規制を行うとともに、お金を払ってそれらを入手した消費者の保護を図ることを目的としています。その発行したカード等の基準日(毎年3月・9月末時点)における未使用残高が1000万円を超える場合、その残高の2分の1以上の保証金を供託しておく義務を事業者に課しています。万が一、発行事業者が倒産などした場合において、その供託金の中から、カード保有者の損害を填補てんほするという趣旨です。

 そして、エディやスイカなどの、いわゆる電子マネーの発行流通が始まると、このプリペイドカード法の適用を受けることになったわけです。

資金決済法の成立

 ただ、プリペイドカード法の“抜け道”となっていたのが、「サーバ管理型電子マネー」と呼ばれるものです。「サーバ管理型電子マネー」とは、利用者に交付される証票等に金額の記載や記録がなく、IDのみが交付され、これによって店頭の端末やインターネットを利用して、発行者が管理するサーバにアクセスし、サーバに記録された利用者の金額の範囲内で商品やサービスを提供する仕組みとなっているものです。紙(デパート商品券など)、磁気型(テレホンカード)及びIC型(エディ、スイカなど)カードといった前払式支払手段と異なり、サーバ上のみで処理がなされるわけです。

 ご相談者が、最近利用を始めたという、インターネット専用の電子マネーというのが、これに該当します。ご相談者も指摘されているように、近くのコンビニのほか、自宅のパソコンでネットバンキングなどを利用して入金することもできます。消費者にとって大変便利ですし、事業者にとっても、上記のような厳しい法規制がないこともあり、発行が増加していました。

 ただ、基本的に、消費者が金銭を前払いして取得するものであり、発行体が倒産した場合における消費者保護の必要性は、スイカなどの電子マネーと何も変わらないのに、規制の有無が異なるのはおかしいのではないかと、長年言われていました。専門家の間でも、サーバ管理型電子マネーが規制対象とされるのは時間の問題とうさわされていましたが、それが実現したのが、2009年6月24日に成立した「資金決済に関する法律」(いわゆる「資金決済法」)となります(2010年4月1日施行)。

資金決済法による規制

 資金決済法が規制対象とするものは、次の4つの要件がすべて備わっているものとされています。

 <1>金額または物品・サービスの数量(個数、本数、度数等)が、証票、電子機器その他の物(証票等)に記載され、または電磁的な方法で記録されていること。
 <2>証票等に記録され、または電磁的な方法で記録されている金額または物品・サービスの数量に応ずる対価が支払われていること。
 <3>金額または物品・サービスの数量が記載され、または電磁的な方法で記録されている証票等や、これらの財産的価値と結びついた番号、記号その他の符号が発行されること。
 <4>物品を購入するとき、サービスの提供を受けるとき等に、証票等や番号、記号その他の符号が、提示、交付、通知その他の方法により使用できるものであること。

 ここでいう「証票」とは、商品券や、ギフト券、プリペイドカード等も包含する概念であり、資金決済法は、従前プリペイドカード法の適用を受けていた電子マネーなども、そのまま規制対象としています。そのうえで、「電子機器」「番号、記号、その他の符号」「通知」などを定義に加えることにより、規制対象を従前のプリペイドカードばかりではなく、サーバ管理型電子マネーを含む内容にしたわけです。

 この資金決済法の成立に伴って、プリペイドカード法は廃止され、現在では、電子マネー全般が、資金決済法によって規制されている形になっているわけです。
チャージ金額 少なくとも2分の1は保護

 前ページでご説明したように、資金決済法は、プリペイドカード法を引き継いで成立しました。その内容として、発行者が未使用残高の2分の1以上に相当する発行保証金を供託することが義務づけられているのは、従前と変わりません。

 そして、資金決済法第31条1項は、「前払式支払手段の保有者は、前払式支払手段に係る債権に関し、当該前払式支払手段に係る発行保証金について、他の債権者に先立ち弁済を受ける権利を有する。」と明記しています。したがって、倒産の際、電子マネーの発行事業者は多額の負債を負っているのが通常ですが、電子マネーの保有者は、発行保証金の中から「他の債権者に先立ち弁済を受ける権利」を有しているわけです。

 つまり、今回のご相談の回答としては、ご相談者が利用しているような電子マネーの場合、カード型かどうかにかかわらず、その発行体が、万が一倒産した際であっても、ご相談者は、この発行保証金から配当を受けることで保護を受けるということになるわけです。ただ、発行保証金として供託されているのは、あくまでも、一定基準時の未使用残高の2分の1にとどまるのであり、チャージした金額が全て戻ってくる保証はありません。一定の限度で保護が図られるというのが正確かも知れません。

 なお、すべての電子マネーが資金決済法の規制対象となっていないことには注意が必要です。例えば、有効期限が6か月以内であるものは規制対象となりませんし、他にも様々なものが規制対象から外されています。そのような電子マネーの発行会社が倒産した場合には、消費者は保護を受けない可能性があるのです。

サービス停止の場合は?

 ちなみに、今回のご相談は倒産の場合についてですが、事業廃止(サービスの停止)の場合についても、資金決済法は規定しています。同法20条は、前払式支払手段発行者(電子マネー等の発行者)は、前払式支払手段(電子マネー等)の発行業務を廃止する場合等に保有者に前払式支払手段の残高を払い戻さなければならない旨を明記しています。

 この場合、発行者はホームページ、日刊新聞紙、店頭等での掲示などにより、払い戻し手続きを告知し(60日以上の払い戻しの申し出期間が必要)、保有者は、払い戻しの申し出期間内に発行者に対して申し出をすることによって払い戻しを受けることができます。逆に言えば、申し出期間内に手続きをしないと払い戻しができなくなる恐れがありますので、注意が必要です。

 実は、資金決済法が、2010年4月に施行され、前払式支払手段の発行業務停止がルール化されたことで、2011年初頭にちょっとした騒ぎが起きました。インターネットの普及で商品券やギフト券の利用が低迷し、それらを廃止したいにもかかわらず、その手続きが明確ではなかったことから、どのようにするか悩んでいた事業者が、一斉にその廃止に動いたからです。

 「全国共通食事券すし券」や「全国共通文具券」などが当時廃止されましたが、それを知らない利用者から、「使おうと思って券を出したが『使えない』と言われた」などといったクレームが、各地の消費者センターに寄せられました。新聞にも、「商品券使えない!『知らぬ間に紙くず』相談急増」などという見出しが出ました。これは、資金決済法の予期せぬ副産物と言えるかもしれません。

 なお、金融庁のホームページには、「商品券(プリペイドカード)の払戻しについて」というページがあり、そこには、現在払戻手続を実施している発行者、払戻手続が終了した発行者、及び利用終了予定を公表している発行者の一覧(平成22年4月以降)がエクセルファイルの形で掲載されています。ご自分のお持ちのプリペイドカード等について気になるようでしたら、それをご覧になってはいかがでしょうか。驚くほど多数のギフト券や商品券などの名前が挙がっています。

ポイントについて

 さて、ご相談者は、ポイントについても質問されていますので、その点についても簡単にご説明したいと思います。

 実は、資金決済法が制定される前に、金融庁は、いわゆる「ポイント」を規制対象にするかどうかについても議論しています。平成19年12月18日付「決済に関する論点の中間的な整理について(座長メモ)」には、「ポイントには、財・サービスの販売金額の一定割合に応じて発行されるものや、来場や利用ごとに一定額が発行されるものなど多種多様なものがある。また、ポイントを利用して、景品への交換、商品の割引購入、前払式証票や現金・預金債権の取得等を行えるなど、ポイントによって得られる商品も多種多様である。さらに、ポイントの交換を行うサービスも提供されている。ポイントが電子的に発行・管理されることで、景品交換等に利用されるに止とどまらず、決済に利用される機会が増えていることから、決済との関係について検討を行う必要があると考えられる。」と記載されており、ポイントに対する規制も視野に入れた議論がなされています。

 ただ、ポイントサービスに対して新たな規制を導入することについては強い反対意見があったため、最終的には、資金決済法で新たに規制対象となったのは、先ほど説明したサーバ管理型電子マネーのみにとどまり、ポイントに対する規制は見送られました。そういう意味では、ポイントについては、資金決済法による規制対象となっておらず、先ほど電子マネーについてご説明した内容はあてはまりません。ただ、ご相談者も指摘されているように、ポイントが少額決済の手段とされているのは事実であり、電子マネーと近接してきていることは間違いないのであって、今後、ポイントに対する規制がどうなるかについては、注視していく必要があるかと思います。

おまけ、景品は規制の対象外

 ちなみに金融庁が公表している、資金決済法に関するQ&Aには、「いわゆるポイントについては、金融審議会での議論等を踏まえ現時点では制度整備を行っていませんが、ポイントと称していても、利用者が対価を支払って発行されていると認められるものについては、前払式支払手段に該当し『資金決済法』の規制を受けることになります」と明記されています。

 つまり、ポイントと呼ばれているものにも、様々なタイプがあり、商品やサービス利用に充てられるという点で電子マネーなどと同様の機能を有しているとしても、消費者から対価を得ずに、基本的には景品、おまけとして無償で発行されている限りは、資金決済法の規制対象にはならないということになるわけです。

 以上のように、現時点で、ポイントについては「おまけ」の範ちゅうと考えられており、倒産やサービス停止などのケースにおいては、その価値を維持できないと考えたほうがよいでしょう。また、ポイントの場合、サービスの停止だけでなく、価値の減少の可能性もあります。こちらも特に法律で保護されているわけではないので、提供企業ごとに、一定の告知期間を設けて、サービス内容を変更することがあり得ます。

 各会社から発信される情報に気を付けることで、せっかく貯めたポイントの価値が減らないように心がける必要があるかもしれません。なお、この点については、本連載の2011年10月12日付「“一方的な通告"で買い物ポイントが失効した…」の記事が関連していますので、参考になさってください。

2013年01月23日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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