不祥事で株価が暴落、株主として役員の責任追及ができないか


相談者 MYさん

  • イラストレーション・いわしま ちあき

 「私は疲れている。何で撮るんだ。もう追い回すなよっ」。テレビから甲高い声が響いてきました。その怒声の主はある大手ファストフードチェーンの社長でした。報道陣に自宅にまで押しかけられ、ついに“キレ”たのでした。

 マスコミの追及には訳がありました。販売していたケーキに食品衛生法上、違法な添加物が何年にもわたって使用されていたことが発覚。人の口に入ったケーキは数百万個にもなるのに、社長は釈明の会見を当初、開こうとしなかったからです。ケーキを食べた私も激しい怒りがこみ上げてきました。その怒りの根源は別のところにありました。私が大量に購入したこの会社の株が暴落したからです。

 私は、このファストフードチェーンの大ファンです。ピザやホットドッグ、デザートのケーキ類も、そこそこの値段でとてもおいしいのです。そこで、割引券がもらえる株主優待を目当てに、株まで購入して、何年も持ち続けています。ところが、ある時、新聞に今回の不祥事が報じられたのでした。ケーキはお店に行くたびによく食べていたので、心配になりました。ただ、海外の一部の国では使用が認められており、特に健康被害までは発生しないということなので一応は安心しました。

 問題はその後の展開でした。報道によると、一部の役員がその違法な添加物使用の事実を知りながら販売を続けていたようなのです。しかも、添加物混入を知らせた関係業者に口止め料まで支払っていたことがわかったのです。一連の醜聞の結果、この会社は深刻な経営不振に陥りました。私が持っている株も暴落して、買値の半額以下にまで落ち込んでしまったのです。

 あれほど、商品を愛して店に通い、株まで購入するほど贔屓ひいきにしていた会社に対し、かわいさ余って憎さ百倍の思いです。

 その後、問題を起こした役員らに対して、会社は当然、損害賠償請求を行うと思っていました。しかし、一向にそういう報道がなされていません。確かに、不祥事を起こした役員といっても、会社にしてみれば、長年一緒にやってきた同僚であり遠慮があるのは分からなくはありません。しかし、これだけの被害を会社に与えたのに何らのペナルティーもないというのでは、株主としてはやりきれない思いです。

 こういう場合に、会社に代わって株主が役員の責任を追及する株主代表訴訟という制度があると聞きました。制度の内容について教えていただけますか。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答


会社に代わり役員の責任追及…株主代表訴訟

 株主代表訴訟とは、会社法上、「責任追及等の訴え」という名称で規定されている、取締役や監査役といった役員らが会社に対して負う責任を、株主が会社に代わって追及する制度です。

 取締役等の役員が何か事件を起こして、会社に損害を与えた場合には、本来、その会社自身が当該役員に責任追及するべきものです。しかし、会社は、代表取締役をはじめとする取締役がその経営にあたっており、自社の取締役または監査役に対する責任追及は、いわば身内の問題であって、役員間の同僚意識やなれ合い等によって、その責任が追及されないことがあり得ます。ちなみに、取締役の責任を会社が訴訟によって追及するには、監査役が会社を代表すると法律で規定されていますが、たとえ監査役であったとしても、毎月役員会などで顔を合わせていた人間が対象になるわけであり、どうしても、つい私情がはいってしまい、その任務を怠ることも考えられます。

 つまり、役員に対する責任追及を全て会社に委ねていたのでは、会社の利益、ひいては株主の利益が害される恐れが出てきてしまうわけです。

 そこで、個々の株主が、会社に代わって役員の責任を追及する訴訟を提起する制度が設けられているのです。

ダスキン株主代表訴訟

 株主代表訴訟で有名なのは、この連載の中の「監査役への就任、賠償責任で全財産を失う?」(2012年3月14日付)でもご紹介したダスキン株主代表訴訟が挙げられます。

 ダスキンが経営するミスタードーナツが、食品衛生法上その使用が認められていない添加物を使用した肉まんを販売し、そのことが新聞・テレビ等で大々的に報道され、ミスタードーナツの売り上げが低下するといった損害が生じたため、ダスキンは、加盟店に売り上げ減に対する補償をするなど多額の出費(判決によれば106億2400万円)を余儀なくされました。これについて、ダスキンの株主から、取締役及び監査役の善管注意義務違反に起因するとして、株主代表訴訟が提起された事件です。

 この事件では、実際に添加物混入を認識しながら販売を継続した担当役員についての請求が認められたことは当然ですが、その事実が判明した後にこれを公表せず、積極的な損害回避の方策の検討を怠ったことについても、当時の役員(監査役も含む)に対して、2億1122万円~5億5805万円の損害賠償が認められています(大阪高等裁判所平成18年6月9日判決)。

 実は、これらの役員が無認可添加物の使用を知った時点では、既に問題の肉まんは完売しており、蒸した形で販売される肉まんという販売形態からみて、冷凍されて保存されていることも考えられませんから、本件は、現実的に商品の回収が見込めない事案と言えます。しかも、添加物の性質や使用量からみて、消費者に健康上の被害が生じている可能性が乏しい事案です(1300万個も発売されたのに実際の健康被害の報告はないようです)。そういった背景事情を考えると、当時の役員が、あえて積極的には公表しないという判断をしたこと(判決文によれば、役員会でそういった方針が正式に承認決議されたわけではなく、「当然の前提として了解されていた」こと)について、問題はあると思うが、理解できなくもないと感じられる人もいらっしゃるかも知れません。

 仮に、自分がその役員の立場であったとしたら、商品回収や、健康被害への注意を促す必要がない以上、事実を公表までする必要はないと考えるかもしれない、仮に公表した方が良いと考えても、役員会の議論の流れや雰囲気に逆らってまで異論を述べることができるだろうかなどと、いろいろ考えていくと、どうしても同情的になりがちです。

 このような事案では、会社としても、役員の責任追及を躊躇ちゅうちょしてしまう傾向が見られるのであり、株主代表訴訟の出番となってくるわけです。 

 ちなみに、大阪高等裁判所の判決(平成18年6月9日)では、次のように、役員らの前記行動について明確な判断をしています。

 現代の風潮として、消費者は食品の安全性については極めて敏感であり、企業に対して厳しい安全性確保の措置を求めている。未認可添加物が混入した違法な食品を、それと知りながら継続して販売したなどということになると、その食品添加物が実際に健康被害をもたらすおそれがあるのかどうかにかかわらず、違法性を知りながら販売を継続したという事実だけで、当該食品販売会社の信頼性は大きく損なわれることになる。ましてや、その事実を隠ぺいしたなどということになると、その点について更に厳しい非難を受けることになるのは目に見えている。それに対応するには、過去になされた隠ぺいとはまさに正反対に、自ら進んで事実を公表して、既に安全対策が取られ問題が解消していることを明らかにすると共に、隠ぺいが既に過去の問題であり克服されていることを印象づけることによって、積極的に消費者の信頼を取り戻すために行動し、新たな信頼関係を構築していく途をとるしかないと考えられる。

 また、マスコミの姿勢や世論が、企業の不祥事や隠ぺい体質について敏感であり、少しでも不祥事を隠ぺいするとみられるようなことがあると、しばしばそのこと自体が大々的に取り上げられ、追及がエスカレートし、それにより企業の信頼が大きく傷つく結果になることが過去の事例に照らしても明らかである。…それが積極的な隠ぺい工作であると疑われているのに、さらに消極的な隠ぺいとみられる方策を重ねることは、ことが食品の安全性にかかわるだけに、企業にとっては存亡の危機をもたらす結果につながる危険性があることが、十分に予測可能であったといわなければならない。

 したがって、そのような事態を回避するために、そして、現に行われてしまった重大な違法行為によってダスキンが受ける企業としての信頼喪失の損害を最小限度にとどめる方策を積極的に検討することこそが、このとき経営者に求められていたことは明らかである。ところが、前記のように、一審被告らはそのための方策を取締役会で明示的に議論することもなく、「自ら積極的には公表しない」などというあいまいで、成り行き任せの方針を、手続き的にもあいまいなままに黙示的に事実上承認したのである。それは、到底、「経営判断」というに値しないものというしかない。

株主代表訴訟の具体的な手続き

 では、具体的に株主代表訴訟の手続きについてご説明していきましょう。

原告になれる株主は?

 株主代表訴訟の原告となれる株主は、公開会社(通常は上場会社等を意味しますが、会社法では、株式の全部に譲渡制限がついていない会社とされています)においては、原則として、6か月前から引き続き株式を有している株主に限られます。公開会社でない場合には、保有期間の制限はなく、単に株主であればよいとされています。

被告となる役員は?

 株主代表訴訟の被告となる役員は、取締役、監査役、会計参与、執行役、会計監査人の他、発起人、設立時取締役、設立時監査役、清算人とされています。

手続き(1)…まず訴えを提起するように会社に請求する

 株主代表訴訟の原告となれる株主でも、いきなり裁判所に株主代表訴訟を提起することは、原則として許されていません。まず、会社に対して、役員らの責任追及等の訴えを提起するよう請求しなければならないとされています(「提訴請求」)。役員らに対して損害賠償請求権などの権利を有しているのは、あくまで会社であることから、会社には、訴えを提起するか否かを判断する機会が与えられているのです。

 請求する宛先は、原則として、代表取締役とされています。委員会設置会社の場合には、代表執行役です。ただし、取締役(取締役であった者を含みます)の責任を追及する訴えの提起を請求する場合には、請求の宛先は監査役となります。また、委員会設置会社に対して、執行役(執行役であった者も含む)・取締役(取締役であった者も含む)の責任を追及する訴えの提起を請求する場合は、監査委員となります。

手続き(2)…会社が60日以内に訴訟提起しない場合、訴訟の提起が可能

 株主が請求をしたにもかかわらず、会社が請求の日から60日以内に訴訟を提起しない場合、請求した株主は、自らが原告となって、訴訟を提起できることとなります。なお、会社が役員らに対して有する損害賠償請求の権利が時効で消滅してしまう場合など、60日間の経過を待つと会社に回復できない損害が生じる恐れがある場合には、株主は、会社に対して役員らの責任追及の訴えを提起するよう請求することなく、直ちに、訴えを提起することができるとされています。

手続き(3)…株主が賠償金を直接受け取るよう求めることはできない

 株主代表訴訟の訴えの内容は、被告となった役員らに対し、会社に対して損害賠償するように請求するものであって、原告である株主が損害賠償を受けるなどの直接的利益を得るものとはなりません。

 つまり、株主は、「取締役Aは〇〇株式会社に対し金〇〇円を支払え」といった請求を裁判所に申し立てることになります。訴えによって利益を直接的に得るのは会社であって、株主は、役員らの賠償により会社の損害が回復され、株式の価値が上がるといった間接的な利益を得ることとなるのです。

 株主が訴えを提起する裁判所は、会社及び他の株主が代表訴訟に参加しやすいように、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所になります。

手続き(4)…申し立ての費用

 訴え提起にかかる申立手数料として必要な印紙代は、1万3000円とされており、これが株主代表訴訟の大きな特徴です。

 通常、申立手数料として必要な印紙代は、訴訟の目的の価額によって決まりますが(例えば1億円の請求の場合、印紙代は32万円です)、前述のとおり、株主は勝訴しても直接的には利益を得ることがないこと、また、代表訴訟を提起しやすくすることが役員らの違法・不当な職務執行を防止するために有効であると考えられることから、株主代表訴訟の申立手数料は低額に抑えられているのです。

 実は、かつては、株主といえども訴額に応じた手数料を裁判所に納める必要があったため、長らく株主代表訴訟の制度はほとんど利用されませんでした。確かに、直接自分の懐に賠償金が入ってくるわけでもないのに、高額の手数料を負担してまで面倒な訴訟を提起する人が大勢いるとは思えません。そこで、平成5年の商法改正において、手数料を一律8200円(現在は、1万3000円)とした結果、多数の株主代表訴訟が提起されるようになったのです。

手続き(5)…濫訴防止のための制度

 会社法では、原告である株主が、当該株主もしくは第三者の不正な利益を図り、または当該会社に損害を与える目的とする場合には、当該株主は提訴請求や代表訴訟の提起をすることができない、と規定されています。代表訴訟制度の濫用(らんよう)を防止して、株主全体の利益を保護するためです。

 総会屋が訴訟外で金銭を要求する目的で代表訴訟を提起した場合や、株主が会社に対し事実無根の名誉棄損(きそん)的な主張をすることにより会社の信用を傷つける目的で代表訴訟を提起した場合などが該当すると考えられています。

 当該株主もしくは第三者の不正な利益を図り、または当該会社に損害を与える目的である場合には、提訴請求は無効となり、代表訴訟は不適法な訴えとして却下されることとなります。

 また、代表訴訟の提起が、原告である株主の「悪意」によるものであることが、被告によって疎明されたときは、裁判所は、被告の請求により、原告である株主に対して、相当の担保を立てるべきことを命ずることができます。これも、濫用的な代表訴訟を制限するためのものです。

 ここでいう「悪意」とは、提訴した株主の請求に理由がなく、かつ、同人がそのことを知って訴えを提起した場合をいい、請求に理由がないとは、(1)請求原因が主張自体失当なこと(2)立証の見込みが低いこと(3)被告の抗弁成立の蓋然性が高いこと等をいうとされています(東京高等裁判所平成7年2月20日決定)。

株主代表訴訟を利用して追及できる取締役の責任

 会社法には、取締役が会社に対して損害賠償等の責任を負う場合がいろいろ規定されていますが、株主代表訴訟で最も多く争われるものは、任務懈怠(かいたい)(=法律において実施すべき行為を行わずに放置すること)の責任です。

 取締役の任務懈怠責任には、(1)法令・定款に違反する行為(2)経営判断の誤り(3)他の取締役の監視義務違反(4)リスク管理体制(内部統制システム)の構築義務違反――があり、取締役が過失によって任務を懈怠し、その任務懈怠行為によって会社に損害が生じた場合に、取締役が会社に対して、損害賠償責任を負うこととなります。

 また、取締役の任務懈怠によって責任を負う者は、その行為をした取締役自身ですが、その行為が取締役会の決議に基づいてなされた場合は、その決議に賛成した者も、その賛成したことに任務懈怠が認められる場合には、同一の責任を負うこととなります。決議に参加した取締役は、議事録に異議をとどめておかないと、決議に賛成したと推定されることとされています。

問われる事実認識と意思決定の過程

 ただ、取締役は、会社に対して善管注意義務・忠実義務を負っていますが、上述(2)の経営判断を誤って会社に損害を与えた場合に、直ちにこれら義務に違反したことにはなりません。

 東京地方裁判所平成5年9月16日判決では、以下のように述べています。

 取締役は会社の経営に関し善良な管理者の注意をもって忠実にその任務を果たすべきものであるが、企業の経営に関する判断は、不確実かつ流動的で複雑多様な諸要素を対象にした専門的、予測的、政策的な判断能力を必要とする総合的判断であるから、その裁量の幅はおのずと広いものとなり、取締役の経営判断が結果的に会社に損失をもたらしたとしても、それだけで取締役が必要な注意を怠ったと断定することはできない。会社は、株主総会で選任された取締役に経営を委ねて利益を追及しようとするのであるから、適法に選任された取締役がその権限の範囲内で会社のために最良であると判断した場合には、基本的にはその判断を尊重して結果を受容すべきであり、このように考えることによって、初めて、取締役を萎縮させることなく経営に専念させることができ、その結果、会社は利益を得ることが期待できるのである。このような経営判断の性質に照らすと、取締役の経営判断の当否が問題となった場合、取締役であればそのときどのような経営判断をすべきであったかをまず考えたうえ、これとの対比によって実際に行われた取締役の判断の当否を決定することは相当でない。むしろ、裁判所としては、実際に行われた取締役の経営判断そのものを対象として、その前提となった事実の認識について不注意な誤りがなかったかどうか、また、その事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理なものでなかったかどうかという観点から審査を行うべきであり、その結果、前提となった事実認識に不注意な誤りがあり、又は意思決定の過程が著しく不合理であったと認められる場合には、取締役の経営判断は許容される裁量の範囲を逸脱したものとなり、取締役の善管注意義務又は忠実義務に違反するものとなると解するのが相当である。

 つまり、(1)経営判断の前提となる事実認識の過程(情報収集と収集した情報の分析・検討)において不合理な点はなかったか(2)事実認識に基づく意思決定の推論過程及び内容に著しい不合理な点はなかったかにより、任務形態の有無が判断されることとなります。

独力の訴訟ならそれなりの覚悟を

 以上ご説明した通り、株主代表訴訟の制度自体は、申立費用の低額化によって大分使いやすいものとなりました。万が一、役員に明らかな責任が認められる不祥事が発生したにもかかわらず、会社が何もしない場合、株主が、この制度を活用して、役員らの責任を追及していくことを検討してもよいかと思います。

 とはいえ、株主が会社に代わって訴訟提起ができるというだけで、裁判そのものが特に簡素化されているわけではありません。多くの場合、会社法にかかわる複雑な裁判になることが想定されるのであり、一般の方が独力で容易に遂行できるようなものではないと思います。弁護士に依頼せず、ご自身でやられるということであれば、それなりの覚悟をもって臨むことになると思います。

 この点、会社が不祥事を起こした役員に対し適正な責任追及を実施するなど、株主も含めた利害関係者のすべてが十分に納得できるような処理がきちんと行われる限りにおいて、株主が代表訴訟という武器まで使う必要はないわけですから、会社としては、その点を十分に考えて対応してもらいたいものです。

2012年11月14日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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