他の女に走った夫から離婚の請求 認められる

   

他の女に走った夫から離婚の請求 認められる?


相談者 NTさん


  • イラストレーション・いわしま ちあき

 郊外の閑静な住宅地に立つマイホームのベランダ。そこから、遠くの美しい山々が見えます。家の中からは、私を呼ぶ子供たちの声が聞こえてきます。何もかもが満ち足りているのです。家族で一人だけ不在の夫を除いて……。そして思い出したようにつぶやくのです、「あいつが外の女に走ってから、もう20年か」と。

 典型的なマイホームパパだった夫の異変に気付いたのは結婚10年目くらいだったと思います。飲んでの深夜帰りが多くなり、週末も「大事な接待だ」と言っては、“出勤”し始めたのです。いつまでも、そんな言い訳を信じると思ったのでしょうか。

 ある日、午前様の夫を執拗しつように問い詰めたところ、とうとう「女」のことを白状したのです。「会社の接待で利用していたクラブのママと深い仲になった」と。平々凡々の堅物には「免疫」がなかったのでしょうか? 夜の女にコロリと参ってしまったのです。情けない話です。

 「考えなおして」

 その晩、私は夫に向かって絶叫しました。「子供とその女とどっちが大切だと思っているのよ」。私の叫び声で幼い息子と娘も寝ぼけ眼で起きてきて、修羅場を不安そうに眺めていました。

 「その女と別れて。目を覚ましなさい」。一晩中、夫をなじり、どなり、そして懇願し続けたのですが、夫はうなだれるばかりです。私たち家族から、完全に心が離れてしまったようでした。

 夫は翌朝、家を出たまま女と一緒に暮らし始めました。「遊びのつもりの女に捨てられて、すぐに泣きついてくる」と、たかをくくっていましたが、それから20年、二度と家に戻ってきませんでした。

 別居してからの夫は、金銭的には十分な償いをしてきました。夫からの送金額は、3人の生活費と住宅ローン、子供たちの学費を補って余りあるものでした。その代わりということなのでしょうか、離婚を求めてきました。私は応じませんでした。離婚は、まだ見たこともない女に降伏したことになると思ったからです。

 子供たちには母子家庭となり、かわいそうな思いをさせました。でも、何とか人並みの生活を送ることができました。やがて、家のローンも払い終わり、2人の子供が大学を卒業して社会に出たある日、夫から連絡がありました。「大事なことで話し合いたい」というのです。

 指定された喫茶店で20年ぶりに会った夫は、うらぶれているどころか、血色もよく、嬉々ききとした笑顔で私に「やあ」と声をかけるのです。私の気持ちを逆なでする無神経さに怒りがこみあげてきました。

 「子供たちも無事就職したことだし、別れてくれないか」

 予想したとおり、離婚を切り出されました。夫には、もう未練はありません。しかし、あの女が正妻の座につくのだけは許せません。夫をにらんだまま、喫茶店を出ました。私の気持ちがわかったはずです。

 「離婚してほしい」。しかし、夫はその後もしつこく同じ申し入れをしてきました。「ローンが終わった自宅の名義も君に変えるし、一定の慰謝料も払う」という条件です。そして、「どうしても応じないのなら、離婚を求めて裁判をするしかない」と脅すのです。

 夫は、「夫婦関係が破綻した原因が、一方的に夫側にある場合でも、一定の条件さえ満たせば、裁判でも離婚は認められる」というのです。そして「裁判を起こしてもいいが、俺のせいで苦労をかけてきた君にさらに裁判といった苦労をかけるのは忍びない。離婚の条件について真摯しんしに話し合って、なんとか円満に離婚をしたい」と、いかにも私を気遣ったような言い方をしてきます。

 夫の言い分は、単に私に離婚に同意させたいがための方便なのでしょうか、それとも本当のことなのでしょうか。一方的に女をつくって家を出て行った夫からの離婚請求が裁判所で認められるなど、とうてい信じられないのですが……。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答


有責配偶者からの離婚請求

 今回のご相談は、いわゆる「有責配偶者からの離婚請求」というテーマになります。有責配偶者とは、まさに文字通り、「責任が有る」配偶者という意味で、自ら夫婦関係が破綻する原因を作った配偶者ということです。

 民法は、第763条において「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。」と定めており、夫と妻が、私的にもしくは裁判所での調停の場において、離婚の条件を協議して、お互いに合意すれば、離婚することが可能です。この場合、裁判などする必要もなく、単に役所に離婚届を提出すればおしまいとなります。

 それに対し、夫婦の一方が離婚することを拒否し、話し合いにも応じないような場合に、強制的に離婚をするためには、離婚裁判をするしかありません。

 ただ、理由もなく、裁判所で離婚が認められるわけではなく、一定の事由が存在しなければなりません。民法770条は「夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。として、(1)配偶者に不貞な行為があったとき(2)配偶者から悪意で遺棄されたとき(3)配偶者の生死が3年以上明らかでないとき(4)配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき(5)その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき――という、5つの離婚事由を挙げています 例えば、本件ご相談のように、夫が不倫をした場合には、上記(1)の不貞行為に該当する事由がありますから、仮に、ご相談者である奥さんの側から離婚裁判を提起すれば、夫が離婚を拒否したとしても、裁判所の判決によって離婚をすることができるわけです。

 では、逆に、ご相談の事案のように、不貞をした夫の側から妻に対して離婚請求をしてきた場合でも、上記と同様に、離婚原因が存在するとして離婚が認められてしまうのでしょうか? これが有責配偶者からの離婚請求といわれているものです。

 結論から言えば、長年の間、有責配偶者からの離婚請求は認められないとされていましたが、昭和62年の最高裁判決を契機に、一定の条件さえ満たせば、離婚請求ができるとされるようになっています。以下、裁判の変遷を踏まえながら、解説していきたいと思います。

有名な“踏んだり蹴ったり判決”とは

 有責配偶者からの離婚請求は、長年の間、裁判で認められないとされていました。この点についての有名な判決が、最高裁判所昭和27年2月19日判決であり、いわゆる「踏んだり蹴ったり判決」と呼ばれているものです。やや文体が古くさいですが、著名な判決なので以下に引用したいと思います(読みやすいように、漢字などを現在の形に一部修正しています)。

 本件は、新民法770条1項5号にいう婚姻関係を継続し難い重大な事由ある場合に該当するというけれども、原審の認定した事実によれば、婚姻関係を継続し難いのは上告人(注:有責配偶者たる夫)が妻たる被上告人を差しおいて他に情婦を有するからである。上告人さえ情婦との関係を解消し、よき夫として被上告人のもとに帰り来るならば、何時でも夫婦関係は円満に継続し得べきはずである、即ち上告人の意思如何にかかることであって、かくの如きは未だもって前記法条にいう「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するものということは出来ない、…上告人は上告人の感情は既に上告人の意思をもってしても、如何ともすることが出来ないものであるというかも知れないけれども、それも所詮は上告人の我儘わがままである。結局上告人が勝手に情婦を持ち、そのため、最早被上告人とは同棲出来ないから、これを追い出すということに帰着するのであって、もしかかる請求が是認されるならば、被上告人は全く俗に言う、踏んだり蹴ったりである。法はかくの如き不徳義勝手気儘を許すものではない。

 道徳を守り、不徳義を許さないことが法の最重要な職分である。総て法はこの趣旨において解釈されなければならない。

 論旨では、上告人の情婦の地位を云為うんいするけれども、同人の不幸は自ら招けるものといわなければならない。妻ある男と通じてその妻を追い出し、自ら取って代わらんとするが如きは初めから間違っている。あるいは、男にだまされた同情すべきものであるかも知れないけれども、少なくとも過失は免れない、そのため、正当の妻たる被上告人を犠牲にすることは許されない。

 戦後に多く見られる男女関係の余りの無軌道は患うべきものがある。本訴の如き請求が法の認めるところなりとして当裁判所において是認されるならば、右の無軌道に拍車をかける結果を招致するおそれが多分にある。論旨では裁判は実益が無ければならないというが、本訴の如き請求がみだりに許されるならば実益どころか実害あるものといわなければならない。…上告人と情婦との間に生まれた子は全く気の毒である、しかしその不幸は両親の責任である、両親において十分その責を感じて出来るだけその償をし、不幸を軽減するに努力をしなければならない、子供は気の毒であるけれども、そのため、被上告人の犠牲において本訴請求を是認することは出来ない。前記民法の規定は相手方に有責行為のあることを要件とするものでないことは認めるけれども、さりとて前記の様な不徳義、得手勝手の請求を許すものではない。

最高裁判所による方針転換

 前ページのように、長年、有責配偶者からの離婚は認められず、相手方と話し合いの機会を設けて、なんとか合意にまで至らない限り、その意思に反して無理矢理離婚することはできないとされてきました。

 しかし、昭和62年に転機が訪れます。最高裁判所は、昭和62年9月2日に、従来の判断を変更し、有責配偶者からの離婚請求を認める画期的な判決を言い渡しました。この判決は次のように述べています。

 思うに、婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにあるから、夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至った場合には、当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を失っているものというべきであり、かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえって不自然であるということができよう。しかしながら、離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから、離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであってはならないことは当然であって、この意味で離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを要するものといわなければならない。…そうであってみれば、有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷(かこく)な状態におかれる等、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできないものと解するのが相当である。

有責配偶者からの離婚請求が認められる条件

 上記最高裁判決によれば、次の要件が満たされれば、有責配偶者からの離婚請求が認められることになります。

 <1>夫婦の別居が当事者の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及んでいること(長期間の別居)

 <2>その夫婦の間に未成熟子がいないこと(経済的・社会的に自立していない子供の不存在)

 <3>相手方配偶者が離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれるなど、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のないこと(相手方が苛酷な状況におかれるか否か)

 <1>の長期間の別居ですが、何年別居すればよいかという、特段の基準はありません。上記最高裁判決の事案では、36年間という極めて長期間にわたって別居していましたが、この最高裁の新判断の後に出た判決の中には、別居期間が、15年間(最高裁平成元年9月7日判決)、13年間(最高裁平成6年2月8日判決)、9年8ヶ月間(最高裁平成5年11月2日判決)、8年間(最高裁平成2年11月8日判決)、6年間(東京高裁平成14年6月26日判決)などで、離婚が認められたケースもあります。

 他面、別居が17年間(神戸地裁平成15年5月8日判決)や15年間(東京高裁平成20年5月14日判決)という長期間に及ぶ場合であっても、離婚が否定されたケースもあり、裁判所は、別居期間の長さを一つの基準とはしていますが、それ以外の<2><3>といった要素も勘案して総合的に判断しています。

 <2>の未成熟の子供の不存在ですが、これも絶対的な要件ではありません。

 未成熟(=経済的・社会的に自立していない)の子がいる有責配偶者の離婚請求を認めた事例として,最高裁平成6年2月8日判決などが挙げられます。同判決は、「有責配偶者からされた離婚請求で、その間に未成熟の子がいる場合でも、ただその一事をもって右請求を排斥すべきものではなく、前記の事情を総合的に考慮して右請求が信義誠実の原則に反するとはいえないときには、右請求を認容することができると解するのが相当である。」とし、高校2年生の未成熟の子がいる事案において、有責配偶者の夫が妻に毎月15万円の送金をしてきた実績等に照らして、離婚請求を認めています。

 これに対し、東京高裁平成19年2月27日判決は、別居9年以上の夫婦間における23歳の長男に四肢麻痺(まひ)の重い障害があるため、日常生活全般にわたり介護を必要とする状況にある事案においては、「実質的には未成熟の子と同視することができる」として、その他の事情も勘案した上で離婚請求を棄却しています。

 <3>に関しても、そもそもどのような場合が、「離婚によって精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる」と言えるのかについての基準はありません。ただ、未成熟の子供の要件のところで紹介した最高裁判決などをみても、相手方や子供たちが生活に困らないように相当の金額を生活費として渡してきたか否かや、相応の財産分与があるか、相手方の現実の生活状況はどのようなものか、などは大きな要素になると思われます。

 神戸地裁平成15年5月8日判決は、婚姻破綻の原因がもっぱら夫の女性問題にあり、別居後、夫が何ら妻及びその子らの生活を顧みることがなかった事案(別居期間中に、生活費や養育費等の送金をまったくしていない)において、別居期間が17年を超え、子供も成人し結婚あるいは就職していても、「原告の離婚請求をそのままこれを認容するのは、正義、公平の観点からも、また、信義則に照らしても相当とは認めがたく、有責配偶者の離婚請求としてこれを棄却するのが相当である。」と判断しています。

 また、東京高裁平成20年5月14日判決は、別居期間が15年以上経過し、当事者間の3人の子はいずれも成年に達しており、夫婦間の婚姻関係は既に破綻しているとの事案において、妻が夫から婚姻費用分担金(月額14万円)の給付を受けることができなくなると経済的な窮境に陥り、罹患(りかん)する疾病(抑うつ症等)に対する十分な治療を受けることすら危ぶまれる状況になることが容易に予想され、また離婚請求が認容されれば、妻が独力で、身体的障害を持つ長男の援助を行わなければならず、妻を更に経済的・精神的窮状へ追いやることになるとの諸事情を勘案して、離婚請求を棄却しています。

裁判では夫側勝訴の可能性が大…今回のケース

 本件事案においては、ご主人がよそに女性をつくって家を出て行き、既に20年が経過しており、判例の掲げる「夫婦の別居が当事者の年齢及び同居期間と対比して相当の長期間に及んでいること」の要件は、近時の判例の傾向からして、基本的には満たしていると思われます。また、2人のお子さんも、既に大学を卒業して社会に出たとのことであり、ご相談内容を拝見する限り、ご紹介した判決(東京高裁平成20年5月14日判決、東京高裁平成19年2月27日判決)のケースのように、お子さんに身体障害等があって今後も継続的に面倒を見なければならないという事情もなさそうです。

 そうなると、本件では、裁判所が、ご主人からの離婚請求を認めた場合において、ご相談者が、「精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれるなど、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情」が存在するかという点にかかってくると思われます。

 ご相談内容を見ると、別居してからのご主人は、金銭的には十分な償いをしてきており、その送金額は家族3人の生活費と住宅ローン、子供たちの学費を補って余りあるものだったということであり、さらに、ご主人は、離婚に際して、「ローンが終わった自宅の名義も君に変えるし、一定の慰謝料も払う」という提案もしてきています。

 以上を勘案すると、確かに、夫婦関係を破綻させた原因がご主人にあることは言うまでもなく、その有責配偶者である夫からの離婚請求を身勝手なものと感じるのは当然ですが、仮にご主人が離婚裁判を提起してきた場合には、認められる可能性が高いのではないかと思われます。そういう意味では、ご主人が言う、「裁判を起こしてもいいが、俺のせいで苦労をかけてきた君にさらに裁判といった苦労をかけるのは忍びない。離婚の条件について真摯に話し合って、なんとか円満に離婚をしたい」との発言は、必ずしもご相談者を懐柔するためだけの方便とは言い切れません。

 ご相談者としては、裁判所での調停の場における協議などが決裂し、ご主人から本当に離婚の裁判が提起された場合には、離婚が認められる可能性が高いということを前提にして、離婚条件を、少しでも満足いく内容にする方向で対応してもよいのではないかと思います。もちろん、ご相談内容にはない、様々な事情もおありなのでしょうから、弁護士に相談に行って、そういった事情を全て説明し判断を仰がれてはいかがでしょうか。

2012年09月12日 09時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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