飲酒や無免許運転で多数の死傷者

   

飲酒や無免許運転で多数の死傷者、運転者に「7年以下の懲役」は軽すぎ?


相談者 MSさん

  • イラストレーション・いわしま ちあき

 「まさかっ、こんなことって」。妻が声を上げました。「ねえ、あなた」と妻が朝刊の社会面の記事を指さしています。

 「Yさん一家じゃない…」

 そこには「中央道で追突 4人死傷」の見出しと、車体後部がひしゃげた乗用車の写真がありました。そして、記事にある4人の死傷者の名前は、つい数日前に会ったばかりの学生時代の友人Y一家と同じです。Yとは家族ぐるみの付き合いでした。4人とも同姓同名の別人であってくれれば…と祈りました。しかし、写真の車のナンバーには見覚えがありました。友人一家の身に起きたことを悟りました。

 「Y、どうしてこんなことに」

 慎重な性格のYは、無謀な運転をしたことがありません。事故が起きたことが信じられませんでした。妻の嗚咽おえつの声だけが聞こえていました。

 事故当日、一家は中央自動車道経由で、山梨県の石和いさわ温泉に向かっていたそうです。大月ジャンクションを過ぎ、笹子トンネルを出たところで事故が起きました。中央道の大月から勝沼にかけては、山がちの地形を縫うように道路が通っています。上り下りが激しいうえ、カーブも多く、事故が多発しています。安全運転第一のYは、用心してスピードを出さなかったようです。

 これがあだになったのか、急加速してきた4トントラックに追突されたのです。車は大破しました。運転していたYは重傷を負いながらも、一命はとりとめました。しかし、後部座席の奥さん、3歳と5歳の子供2人は即死でした。

 警察の調べでは、事故を起こしたトラックの運転手は飲酒運転の常習者だったそうです。事故を起こす前に、談合坂サービスエリアにめたトラックで、ウイスキーや缶入り酎ハイを飲んでいました。運転の疲れもあり、蛇行運転を繰り返したあげく、惨事が起きたのでした。

 高速道路で、大型トラックの運転手が飲酒運転をしたら、そのトラックはもはや凶器と同じです。アルコールを飲んでハンドルを握る運転手は、事故が起きて人が死んでも構わないと思っている、としか考えられません。そうなると、「これは立派な殺人事件ではないか」と思うのです。

 友人のことがあったので、交通事故のことが気になっています。警察庁によると、昨年の交通事故の死亡者は4611人でした。1日平均で約12人、1時間54分に1人が犠牲になっています。交通事故で亡くなった方がこんなにも多いとは、考えもしませんでした。まさに交通戦争です。

 最近とみに、自動車の暴走などによる死傷事故が多発して世間を騒がせている気がしてなりません。

 先日も、京都府亀岡市で集団登校の列に車が突っ込み、児童ら10人が死傷した事故があり、死亡したお子さんらのご遺族の悲嘆にくれる姿がテレビに映し出されていました。運転していた少年が、このままでは軽い罪になりそうだということで、遺族の方々が、より重い犯罪の適用を求めていると、報道されていました。

 そこで、現在の自動車による死傷事故において、一般にどのような罪に問われるのか、またどのような刑罰が下されるのか、今、その何が問題になっているのかについて教えていただけますでしょうか?(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答


亀岡での痛ましい事故を巡る議論

 4月23日、京都府亀岡市篠町の府道で、軽自動車が、集団登校途中だった小学校の児童と保護者の列に突っ込み、児童ら10人が死傷する事故が発生しました。その後、運転していた少年(18)が、自動車運転過失致死傷などの非行内容で家裁送致され、少年審判で検察官送致となり、最終的には、京都地検は、少年を自動車運転過失致死傷罪と道交法違反(無免許運転)で起訴しました。遺族らは、より刑罰の重い危険運転致死傷罪の適用を求めて署名運動を行いましたが、その思いはかなわなかったわけです。

 新聞報道によれば、少年は無免許運転で居眠りして事故を起こしたとされていますが、京都地検は、少年が以前から無免許運転を繰り返していたことなどから、危険運転致死傷罪の構成要件である「運転技能がない」を満たさず、事故原因は「居眠り」という過失であると判断し、交通事故において一般に適用される自動車運転過失致死傷罪を適用したわけです。

 この点については。市民感覚とかけ離れた決定との非難もあるようで、遺族の方々は、無免許運転による重大事故に厳罰を科す法改正に向け、署名活動に乗り出すと報道されています。

 事案は異なりますが、昨年4月18日、栃木県鹿沼市の国道293号で登校中の小学生の列にクレーン車が突っ込み児童6人が死亡した事件でも、運転していた26歳の男が、てんかん発作で意識をなくしたのが事故原因と断定され、それ以降、てんかんや睡眠障害など意識障害を伴う一定の病気と運転免許制度に関して世間の注目が集まっています。結局、事故を起こした男は、上記亀岡の件と同様に、危険運転致死傷罪ではなく自動車運転過失致死罪で起訴され、検察側は法定刑の上限である懲役7年を求刑し、宇都宮地裁は、求刑どおりの判決を言い渡しています。これについても、刑が軽すぎるとの批判も集まりました。

 このように、多数の児童を巻き込むような、痛ましい交通事故が発生するたびに問題となる、処罰の適正さ(運転者が犯した交通事故の結果とそれに対する刑罰内容が見合っているかどうか)の問題、特に、交通事故において法定刑が一番重い「危険運転致死傷罪」(刑法208条の2「人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する」)が適用されるのか、それとも、交通事故一般を対象とする「自動車運転過失致死傷罪」(刑法211条2項「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」)が適用されるのかについて、過去の交通事犯における一般的な犯罪名の変遷の歴史を解説しながら検討してみたいと思います。

東名高速での事故を契機に生まれた「危険運転致死傷罪」

 交通事故が発生した際に常に問題になるのが、事故を起こした人間(運転者)に対する処罰の適正さについてです。特に、運転者の落ち度が大きく、罪のない幼い子供が犠牲になったような場合には、ご遺族の方の処罰感情が激烈なものになることはもちろん、世間の論調も厳しいものになりがちです。

 もともと、交通事故が起きた際、運転者には、「業務上過失致死傷罪」(刑法第211条1項)が適用されるのが一般的であり、その法定刑は、「5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」となっていました(後述するように、平成19年の「自動車運転過失致死傷罪」の新設により、それ以降、交通事故には、法定刑がより重くなった同罪が適用されています)。

 やや軽いように見えるかもしれませんが、自動車の普及によって、自動車による人身事故が、多くの国民がその日常生活において犯しかねない状況にあることや、通常一緒に犯す道交法違反(無免許運転、酒酔い運転等)による刑を加えることなどによって、最終的にはそれなりに適切な刑罰に落ち着くことが多かったことなどから、特に大きな社会問題には至らずにいました。

 ちなみに、業務上過失致死傷罪の量刑を、司法統計年報等の資料によってみると、平成10年においては、業務上過失致死罪で有罪判決を受けたのは2365件であり、うち懲役3年を超える量刑がなされたのは3件、また、平成11年においても、同罪で3年を超える量刑がなされたのは、2568件中で3件でした。新聞に載るのは悪質な交通事故が多いので、この数字に驚きを感じる人もいるかもしれません。

 しかし、例えば、幼い子供を抱えた、家庭の良きお父さんやお母さんが、わずかな運転ミスで死傷事故を起こしてしまった場合などを想定してみれば、これらの量刑や、業務上過失致死傷罪における「5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」という法定刑が、必ずしも軽すぎると感じない人もいらっしゃるのではないかと思います。

 さて、上記のような状況の中で、やがて、誰もが従来の業務上過失致死傷罪の法定刑だけでは軽すぎて対応できないのではないかという事故が発生するようになります。

 特に、平成11年11月、東京・世田谷の東名高速道路において、酒酔い運転のトラックに乗用車が追突され、乗用車は炎上し、1歳と3歳の幼い姉妹が焼死するという事故は衝撃的でした。捜査の結果、加害者の運転者が飲酒運転の常習者で、当日も酒を飲み蛇行運転を繰り返した上で事故を起こしたことが判明し、世間の関心を集めました。

 裁判所は、この加害者の運転手に対し、前記のように、従来、一般的に交通事故に適用される、業務上過失致死罪により懲役4年という、幼児が2人も死亡した結果に比して、いかにも軽いという印象を与える判決を下しました(東京地方裁判所平成12年6月8日判決)。同判決の言渡し後、2児の両親からの働きかけもあり、検察官は量刑不当を理由に控訴するという異例の対応をとるに至りましたが、東京高等裁判所は、「原判決の量刑が是正を要するほど軽すぎて不当であるとはいえない」として控訴を棄却しました(東京高等裁判所平成13年1月12日判決)。

 その中で、裁判所は、「本件被害者を含む国民の視点からみた場合に、本件のごとき重大な事故を惹起じゃっきした被告人の刑事責任を懲役4年と評価することが軽いと感じられるとすると、業務上過失致死傷罪の量刑のあり方を一般的に見直すべきではないかということが十分検討すべき事柄になるのは確かである」としながら、「飲酒運転等により死傷事故を起こした場合に関する特別類型の犯罪構成要件の新設、関連規定の法定刑の引き上げ等の立法的な手当をもってするのが本来のあり方である」と異例の言及を行っています。

 その後、こういった事故の遺族の方々が中心となって運動を展開し、平成13年に新たに制定されたのが「危険運転致死傷罪」(刑法第208条の2)です(平成13年12月25日施行)。

「危険運転致死傷罪」とは

 新たに新設された「危険運転致死傷罪」は、次のように規定しています。

第208条の2

1 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。 

2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。

 従来、飲酒運転や高速運転など、交通ルールを無視した悪質かつ重大な危険を有する無謀な運転による死傷の結果については、不注意な運転によるものとして、業務上過失致死傷罪で処罰されていました。しかし、危険な運転行為であることを認識しているにもかかわらず、衝突の危険やこれによる死傷の結果発生の可能性を考慮することなく、危険な運転行為を行ってその結果人を死傷させた場合、単なる不注意な運転(「過失犯」)というにとどまらず、「故意犯」として処罰するのが適当であるということから、「故意に危険な運転行為をした結果人を死傷させた者」として、重い処罰をすることにしたものです。

 これによって、人を負傷させた者は「15年以下の懲役」に処されますし、人を死亡させた者は「1年以上の有期懲役」に処されることになります。なお、刑法第12条は「懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、1月以上20年以下とする。」と規定されていますので、この「1年以上の有期懲役」とは、実質的には「1年以上20年以下の有期懲役」ということになります。

 この危険運転致死傷罪において、規定されている犯罪類型は、以下のとおりです。

 〈1〉アルコールまたは薬物の影響で正常な運転が困難な状態により、車を運転させて死傷事故を生じさせた場合

 「薬物」とは、麻薬、覚せい剤等の規制薬物に限らず、シンナーや睡眠薬など、正常な運転が困難な状態を生じさせる薬理作用のあるものを意味します。また、「正常な運転が困難な状態」とは、道路状況、交通状況、運転車両の性能に応じた運転操作が困難な状態を意味しますが、酩酊めいていの影響により、前方注視やハンドル等の操作が困難な心身の状態となることが必要とされています。

 〈2〉車を制御することが困難な高速度運転による死傷事故

 「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自車を走行させることを意味し、具体的には、ハンドルやブレーキのわずかな操作ミスによって事故を発生させるような速度を意味します。このスピードが具体的にどの程度かは、現実の事故における道路の状況によって判断されることになりますが、参考までに、松山地方裁判所平成20年1月17日判決を以下引用します。本判決は、右カーブを80キロで走行し事故を起こした事案について、危険運転致死傷罪の成立を否定しています。

 「本件事故現場付近の道路は緩やかな右カーブであり、その指定速度は時速50キロメートル、その限界旋回速度は時速93ないし120キロメートルであり、通常の車両は、同所を時速50ないし60キロメートルで走行している。本件車両の速度は時速約80キロメートルであるから、指定速度を時速約30キロメートル、車両の通常の走行速度を時速約20ないし30キロメートル上回るものであるが、その一方で、限界旋回速度の下限を約13キロメートル下回っており、現に、時速約70キロメートルで走行した車両も存在するところである。加えて、事故に至るまでの走行経過をみると、前記認定のとおり、被告人は、運転開始後原付を追い越すまでの間、危険な走行をしていた形跡はなく、その後加速して時速約80キロメートルに至ったのであるが、その速度で走行していた時間帯は非常に短い。そうすれば、本件車両は、事故当時、いまだ進行を制御することが困難な状態に陥っていたとは認め難い。」

 〈3〉車を制御する技能を有しないで自動車を運転したことによる死傷事故

 「制御する技能を有しない」とは、ハンドル、ブレーキ等の操作など運転技量が極めて未熟なことをいい、一般的に、無免許であるという意味ではないとされています。

 

〈4〉人や車の通行を妨害する目的での割り込み運転による死傷事故

 自己の車を、割り込み、幅寄せ、あおりなど、特定の相手方の直近まで移動させることによって、相手方に対して急ハンドル、急ブレーキ等の回避操作を余儀なくさせるような運転行為であり、かつ単に接近しただけでは足りず、そのような行為をとれば大事故を起こすと一般に認められる速度であることを要します。

 〈5〉危険な速度での信号無視による死傷事故

 赤色信号を殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転した場合です。最高裁判所平成18年3月14日判決は、時速20キロメートルの速度で赤信号を無視して侵入した事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めています。

福岡で発生した3児死亡飲酒運転追突事故の判決

 「〈1〉アルコールまたは薬物の影響で正常な運転が困難な状態」に該当するかどうかについては、有名な最高裁判決(平成23年10月31日判決)がありますのでご紹介したいと思います。これは、福岡市で2006年に起きた3児死亡飲酒運転追突事故に関する判決です。事案は、社会的に注目を集めたので、皆さんもまだ覚えていらっしゃるかと思います。

 被告人が、飲酒のうえ上自動車を運転し、橋の上の道路において前方を走行する被害者車両の後部に衝突し、その衝撃により、被害者車両を橋から海中に転落させた結果、被害者車両に乗車していた児童3名を溺水により死亡させ、またその両親を負傷させたにもかかわらず、事故現場から逃走したというものです。

 この事案は、被告人が福岡市の現役職員であり、現場から逃走したばかりでなく、事故後に大量の水を飲むなど飲酒運転の隠蔽工作をしたほか、友人知人に身代わりを依頼したなど、その悪質性が注目を集めました。

 1審の福岡地方裁判所(平成20年1月8日判決)は、危険運転致死傷罪の成立を否定し、前方注視義務違反を過失の内容とする業務上過失致死傷罪を認定し、懲役7年6月としたところ、検察官、被告人双方から控訴され、福岡高裁(平成21年5月15日判決)は、検察官の主張を入れて、第1審判決を破棄し、危険運転致死傷罪の成立を認め、懲役20年を言い渡しました。これに対して、被告人が上告したのですが、上告棄却となり高裁判決が確定しました。

 その中で、最高裁は、次のように判示しています。

 「刑法208条の2第1項前段の『アルコールの影響により正常な運転が困難な状態』とは、アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいうと解されるが、アルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態も、これに当たるというべきである。…本件は、飲酒酩酊状態にあった被告人が直進道路において高速で普通乗用自動車を運転中、先行車両の直近に至るまでこれに気付かず追突し、その衝撃により同車両を橋の上から海中に転落・水没させ、死傷の結果を発生させた事案であるところ、追突の原因は、被告人が被害車両に気付くまでの約8秒間終始前方を見ていなかったか又はその間前方を見てもこれを認識できない状態にあったかのいずれかであり、いずれであってもアルコールの影響により前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態にあったと認められ、かつ、被告人にそのことの認識があったことも認められるのであるから、被告人は、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させ、よって人を死傷させたものというべきである。被告人に危険運転致死傷罪の成立を認めた原判決は,結論において相当である。」

「自動車運転過失致死傷罪」の創設

 さて、前記のように、平成13年に危険運転致死傷罪が成立しましたが、さらに、交通事故被害者や遺族の要望を受ける形で、危険運転に当たらない、悪質な交通事犯にも対応できるように、平成19年6月12日に施行されたのが、「自動車運転過失致死傷罪」です。自動車を運転する際に、必要な注意を怠って、人を死傷させた場合に適用され、法定刑は7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金となっています。従来、自動車事故の際に一般に適用されていた業務上過失致死傷罪と比べ、罰金額は変わらないものの、懲役・禁錮の上限が「5年以下」から2年間引き上げられています。

 前述したように、交通事故に対する刑罰において、長年の間、「業務上過失致死傷罪」(「5年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金」)が適用されていました。その後、東名高速での事故を契機に、平成13年に「危険運転致死傷罪」(「人を負傷させた者は15年以下の懲役」「人を死亡させた者は1年以上の有期懲役」)が創設され、さらに、平成19年に、自動車を運転する上での過失に基づく事故について、「自動車運転過失致死傷罪」(「7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金」)が新設されたわけです。

 つまり、現状において、交通事故においては、自動車運転過失致死傷罪が適用されるか、危険運転致死傷罪が適用されるかが問題となり、両者はその法定刑が大きく異なることから、多くの自動車事故において、遺族は、危険運転致死傷罪の適用を望み、検察の判断がどのようなものとなるか注目を集める事態となるわけです。

亀岡での事故における検察の判断はやむを得ない

 冒頭に述べましたように、亀岡での事故について、京都地検は、運転していた少年を自動車運転過失致死傷罪と道交法違反(無免許運転)で起訴しました。遺族らは、より刑罰の重い危険運転致死傷罪の適用を求めて署名運動まで行いましたが、京都地検は、少年が以前から無免許運転を繰り返していたことなどから、危険運転致死傷罪の構成要件である「運転技能がない」を満たさないと判断したわけです。

 この点、定評のある刑法学者の概説書には、通常、危険運転致死傷罪における「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者」について、無免許であるという意味ではないと明記されています。

 つまり、亀岡の事案のように、以前から無免許運転を繰り返すことによって、経験技能はあるという場合、法律家の常識としては、たとえ無免許であっても本罪は適用されないことになるわけです。

 この点、京都地検の判断に多くの非難が集まっているようですが、この点は、冷静に対応すべきであると思います。一定の犯罪について、従来該当しないとされていたケースにつき、いざ実際に事件事故が発生した際に、その悪質性や被害の重大さに引きずられて、適用を拡張するのは極めて危険だということです。

 さきほど紹介した、福岡で発生した3児死亡飲酒運転追突事故の最高裁判決は、実は裁判官5名の全員一致ではなく、うち1名が、次のような反対意見を述べています。

 「かかる運転状況をもって、正常運転困難状態にあったと認定することは、正常運転困難状態とは、『事故を起こしたときにフラフラの状況であって、とてもこれは正常な運転のできる状態ではないという場合に限定していかないと、酒酔い運転プラス事故イコール本罪ということになると、本来意図していたところよりも広い範囲を捕捉することになって危険である』と刑法208条の2の立法時に学者が警鐘を鳴らしていたのと正に同様の状態を招来するものであり、同条の適用範囲を立法時に想定されていた範囲よりも拡張して適用するものであって、同条の解釈としても適切ではないというべきである。…多数意見は、本件事故の結果は、…その結果の重大性に引きずられて、被告人がアルコールの影響による運転困難状態にあったことを認識していたことを推認するものと言わざるを得ず、到底くみすることができない。」

 この少数意見の適否を論じる気はありませんが、この少数意見を述べた裁判官が抱いた問題意識については傾聴すべきものがあると思います。

 無免許運転で居眠りして児童の列に車を突っ込んでいった少年の行為が極めて悪質で許されないものであることは言うまでもありません。ただ、だからといって、刑法の規定を安易に拡張して適用することが危険であるということも認識する必要があると思います。ご自分や身内の方が、いかに社会的に非難を受けるような犯罪行為をしたとしても、従来、「7年以下の懲役」で処理されていたのに、いきなり、今回は被害が甚大だし行為態様も悪質で社会的注目を集めているから、特別に「20年以下の懲役」で処断しますとされた場合を想像してみていただければ、「危険」という意味をご理解頂けると思います。

 報道によれば、遺族の方たちが、無免許運転による重大事故に厳罰を科す法改正に向け署名活動に乗り出すとのことです。仮に、法律家の常識と市民感情との間に乖離かいりがあり、その点を正すべきであれば、立法による解決を図るべきなのであり、このような活動によってその乖離を埋めていくべきかと思います。そもそも、問題となっている、危険運転致死傷罪自体が、そういった市民の声によって生まれた法律なのです。

2012年06月27日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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