実態が伴わない

   

実態が伴わない“名ばかり管理職”、残業代を請求できる?


相談者 MNさん

  • イラストレーション・いわしま ちあき

 「給料が安くて毎日、残業続き。こんな会社もう辞めたい」。今日こそは辞表を出そうと思い出社したその日、社長室に来るように言われました。

 先制パンチでクビを言い渡されるのか? 身構えた私を社長はニコニコ顔で出迎えたのでした。50代後半のワンマン社長は一代で、従業員50人ほどの建築資材の製造販売会社を興したやり手です。スキンヘッドに鋭い眼光のワンマン経営者の口からは、意外な言葉が飛び出しました。

 「N山君、毎日、残業続きで大変だよな。来月から主任にするから」

 途中入社から5年目にしての昇進です。社の規定では主任手当として3万円が支給されます。

 役職は総務課主任。自分の働きぶりが認められての昇進ですから、うれしくないわけがありません。東日本大震災の復旧工事関連で建築資材の取引も多く、連日、午後10時過ぎまで残業でしたが、まったく苦になりませんでした。

 そして月末、給与明細書が配られました。会社では封を開かずに帰宅して妻に渡したところ、明細を見た彼女は沈黙したままです。

 「役職が付いたのに、お給料が減るなんてことがあるの」と妻。

 なんと、額が増えるどころか、減っていたのです。ヒラ社員時代の給与明細と比べたところ、残業代がカットされているではありませんか。

 「納得できません」。翌日、社長に問いただしたところ、「管理職には残業代は支給されないんだ。効率よく仕事をして残業しないようにすればいいだけだ」ととりつく島もありません。

 労務関係のサイトで調べたところ、確かに、管理職になると残業代が出なくなると書いてありました。ただ、私の勤務実態はヒラのままです。他の従業員より遅く出勤したり、早く帰ったり、自由にできるわけではありません。また、労務管理を任されることもなく、ましてや会社の経営に関与など全くしていません。

 以前、ハンバーガーチェーン「マクドナルド」の店長が、「残業代を支払わないのは違法」として会社を訴えたことを報じる新聞記事を読んだ記憶があります。私の場合、管理職として、残業代を請求することはできないのでしょうか。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答


「名ばかり管理職」とは

 最近では世間にだいぶん周知されるようになり、トラブルも余り聞かれませんが、今でもときおり見かけるのが、この「名ばかり管理職」の問題です。この問題は、ファストフード大手のマクドナルドの店長が会社に対して残業代支払いを求めて提訴したマクドナルド判決(東京地裁平成20年1月28日)で一躍世間に知られるようになりましたが、実は、そのずっと以前から問題となっていました。

 同事件から25年前の昭和58年7月12日には、大阪地方裁判所は、課長職にあった者が退職後に残業代を会社に請求した事案において、当該課長としての地位の実態に着目して、会社に残業代約220万円の支払いを命じています。

 その実態はともあれ、会社から一定の役職を与えられた社員が、会社に在籍しながら残業代の支払いを求めて争うのは勇気のいる行為であって、なかなか裁判にまで持ちこまれて争われることはありません。おそらく、名ばかりであっても「管理職」である以上は仕方ないということで、多くは黙認されてきたのだと思われます。

 しかし、マクドナルド判決以降、厚生労働省が、平成20年4月1日付「管理監督者の範囲の適正化について」と題する労働基準局監督課長発通達(基監発第0401001号)で、管理監督者(いわゆる「管理職」)の範囲の適正化につき、適切な監督指導を行うよう都道府県労働局長あてに通達するなどし、大手企業もその流れを受けて「名ばかり管理職」問題の是正に動くようになり、今では、多くの企業でそのような違法状態は解消されてきていると思われます。

 ただ、ご相談者のような企業が今でも存在しているのも事実です。

労働時間に関する原則

 本コーナーの第9回(2011年12月14日)の解説で詳しく述べましたように、労働時間に関しては、労働基準法上、従業員を就労させることのできる時間的限界が設定されています。時間的限界を超えた場合や深夜に労働をさせた場合には「割増賃金」を支払わなければならないものとされています。一般に「残業代」と言われているものは、残業によって生じる賃金を指す言葉であって、労働基準法に定められた上記割増賃金がこれに相当することになります。

 他面、労働時間、休憩および休日に関する労働基準法上の規制は、「監督若しくは管理の地位ある者」や「監視又は断続的労働に従事する者」などには適用がありません(労働基準法第41条)。なぜなら、これらの者はその事業や業務の特殊性から労働時間等を一律に規制することが適当でなく、あるいはその必要性が乏しいと考えられるためです。

 そして、残業代がつかない除外規定の中でも、実務上とりわけ争われやすいのが「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)に該当するかどうかです。ご相談者のように、一定の肩書を与えられ、役職手当も支給されるようになった場合に、会社が、管理職についた以上は残業代を払わなくてもかまわないと主張できるかどうかが問題となるわけです。

 なお、誤解されていることが多いのですが、上記適用除外は「労働時間、休憩及び、休日に関する規定」のみであって、深夜業の関係規定は適用が排除されるものではありません。そのため、労働時間等の適用除外を受ける者であっても、深夜労働をさせる場合には、深夜業の割増賃金を支払わなければならないことになります(最高裁判決平成21年12月18日)。

管理監督者とは?

 前記厚生労働省の通達では、管理監督者について、「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限定されなければならないものである。具体的には、管理監督者の範囲については、資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があり、賃金等の待遇面についても留意しつつ、総合的に判断することとしているところである」としています。

支社長であっても管理監督者ではないとされた判例も!

 管理監督者該当性を否定した裁判例として、例えば、銀行の支店長代理相当の職にある者につき、通常の出勤時間に拘束されて出退勤の自由がなく労働時間について裁量権を有しないこと、また、部下の人事考課や銀行の機密事項に関与した機会が一度もなく、経営者と一体的な立場にあるとは全くいえないことから、管理監督者には当たらないとした判例(静岡地裁昭和53年3月28日判決)があります。

 また、会社の本社主任及び工場長等であった者について、大阪高等裁判所平成元年2月21日判決は、両者に支給されていた役職手当は時間外勤務手当の基礎とされていたこと、出社、退社の勤務時間等は一般従業員と全く変わらなかったこと、経営者と一体的立場にあったとはいえないこと等から、管理監督者に当たらないとしています。

 さらに、話題になった裁判例として、相談者が挙げているマクドナルド判決があります。

 同判決は、当該ファストフード店の店長の権限について、「店長は、店舗の責任者として、アルバイト従業員の採用やその育成、従業員の勤務シフトの決定、販売促進活動の企画、実施等に関する権限を行使し、被告の営業方針や営業戦略に即した店舗運営を遂行すべき立場にあるから、店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの、店長の職務、権限は店舗内の事項に限られるのであって、企業経営上の必要から、経営者との一体的な立場において、労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとは認められない」としています。

 また、店長の勤務態様については、「店長は、自らのスケジュールを決定する権限を有し、早退や遅刻に関して、上司であるOC(筆者注:「オペレーション・コンサルタント」の略)の許可を得る必要はないなど、形式的には労働時間に裁量があるといえるものの、実際には、店長として固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要するうえ、上記のとおり、店舗の各営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置かなければならないという被告の勤務態勢上の必要性から、自らシフトマネージャーとして勤務することなどにより、法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀なくされるのであるから、かかる勤務実態からすると、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない。」としています。

 さらに、店長に対する処遇については、「店長の賃金は、労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては、十分であるといい難い。」と判断し、結論としては、店長は管理監督者にあたらないと判示しています。

 ちなみに、参考までに、管理監督者該当性を否定した裁判例を、以下に挙げておきますが、非常に多種多様な肩書であることがおわかりいただけると思います。中には、「支社長」の肩書の人まで管理監督者該当性が否定されている例があることには驚かれる方も多いと思います。このように、形式的な肩書だけで決まるのではないということを十分に認識していただきたいと思います。

地方銀行「個人融資部調査役補(支店長代理相当)」(静岡地方裁判所昭和53年3月28日判決)

広告、販売促進及びパブリックリレーションズ等の業務を行う会社「アートディレクター」(東京地方裁判所昭和59年5月29日判決)

生コンクリートの製造販売等を事業とする会社「主任」(大阪高等裁判所平成元年2月21日判決)

タクシー会社営業センター「係長」「係長補佐」(京都地方裁判所平成4年2月4日判決)

書籍等の訪問販売を主たる業務とする会社「販売主任」(東京地方裁判所平成9年8月1日)

カラオケ店「店長」(大阪地判平成13年3月26日判決)

建設会社「現場監督」(大阪地判平成13年7月19日判決)

学習塾経営会社「営業課長」(札幌地判平成14年4月18判決)

ホテル「料理長」(岡山地判平成19年3月27日判決)

留学・海外生活体験商品の企画,開発,販売等を業とする会社「銀座支社支社長」(東京地判平成20年9月30判決)

本件ご相談について

 本件ご相談者は、「主任」の肩書をもらい、主任手当として3万円を支給されていますが、勤務実態は肩書のなかった時代と何ら変わらず、ほかの従業員より遅く出勤したり早く帰ったり自由にできるわけでもありません。労務管理を任されたり、会社の経営への関与などないわけであり、管理監督者該当性が否定される典型的な場合かと思われます。

 第9回の事例での回答と同じく、相談者の方は、上記のような説明を前提にして、きちんと会社と交渉し、らちがあかないなら、労働基準監督署や弁護士に相談することをお勧めします。

2012年02月22日 09時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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