これまで紹介してきた話題が今どうなっているか-後編

相談者 KHさん

 私は、都内にあるIT企業の法務部に勤める31歳の男性。本コーナーをいつも興味深く拝見しています。特にITも含めた企業法務全般に関連する記事については、ホットな話題が取り上げられることが多いので、勉強も兼ねて精読しています。

 なお、自分としては、ずっと今の会社にいるのではなく、できればいつかは起業をしたいと考えています。周囲にアドバイスをしてくれそうな人はおらず、最初は一人でスタートすることになりそうです。そんな中、2015年8月に載った「民泊ビジネスの是非 ネットの新事業で失敗しない法律武装とは?」では、エアビーアンドビーやウーバーの問題を例に、ネットの新事業を開始するにあたっての法律面の注意点を解説してもらって、大変参考になりました。

 その後、今年5月の「民泊解禁 どんなことに気をつけたらいい?」で最新の情報を教えてもらいました。現在における民泊ビジネスの活況を見るにつけ、あの時、会社をやめて起業していたらどうなっていただろうかなどと、一人で勝手な想像をしています。

 ただ、エアビーアンドビーが最近脚光を浴びることが多いのに対して、もう一つの「ユニコーン企業」の雄であるウーバーに関するうわさは、ほとんど耳に入ってきません。やはり日本では、既得権益を脅かす革新的な事業は難しいのかなあ、などと思っています。

 さて、前回、一般的な法律知識について、過去に取り上げた話題がその後どのようになったかが紹介されていました。法的な話題というのは、近時の民泊に関する状況の様変わりからも明らかなように、常にキャッチアップしておく必要があると、ますます強く思うようになりました。

 そこで、今回は、ITも含めた企業に関連する話題のその後について、まとめていただければと思います(相談文はフィクションです)。

(回答)

最初に

 いよいよ今回が、「おとなの法律事件簿」の最終回となります。最終回では、相談者の方が関心を示されている、ウーバーの近時の状況、情報漏洩ろうえい事故を起こしたベネッセに関する後日談、SNSを巡るトラブルに関する近時の話題、「ハイスコアガール」を巡る著作権侵害の後日談、新たに導入された不当表示に対する課徴金制度の問題などについて説明したいと思います。

ウーバーについて

 ウーバーについては、相談者も指摘していますように、2015年8月26日に、「民泊ビジネスの是非 ネットの新事業で失敗しない法律武装とは?」とのタイトルで、エアビーアンドビーと一緒に説明しました。

 ウーバーとは、アメリカで09年に生まれた、自動車の配車サービスです。民泊のエアビーアンドビーと並んで、シェアリング・エコノミーの代表的担い手とされています。ウーバーの事業は、一般的なタクシーの配車に加え、一般ドライバーが、自分の空き時間と自家用車を使って、利用者を運送する「ライドシェア(相乗り)」ビジネスを展開しているところに特徴があります。利用者は、スマホアプリの位置情報を利用し、現在地の近くを走る空車を自動的に見つけて利用するわけです。

 13年からは、日本でも一般的なタクシーの配車サービスを開始していますが、本来のビジネスである、自家用車による運送サービスの本格的な開始には至っていません。エアビーアンドビーが、近時、TSUTAYAと提携するなど、日本における事業を急速に拡大させているのに対して、ウーバーは、日本では苦戦しているわけです。

 もちろん、ウーバーが何も手を打たなかったわけではなく、本来のサービスを日本でも展開するため、例えば、昨年2月、九州大学の関連法人である産学連携機構九州と提携して、スマホアプリを使って配車を依頼すると、事前に登録された一般ドライバーが迎えに来て、目的地に連れて行く仕組みのサービスの検証プログラムを福岡市で行いました。

 しかし、この検証プログラムについて、無許可の自動車を使ってタクシー営業を行う「白タク」行為を禁止する道路運送法に違反する可能性があるとして、国土交通省から中止の指導がなされ、わずか1か月で中止となっています。

 その後も、先月26日からは、京都府京丹後市がウーバーのアプリベースのICT(情報通信技術)を活用した輸送サービスとなる「ささえ合い交通」という新サービスを始めています。同サービスは、道路運送法第78条2号に基づいて、「公共交通空白地有償運送」として法定要件を備えた運転者と登録済みの自家用自動車を用いて行う「ライドシェア」サービスです。

 京丹後市丹後町域では、08年にタクシー事業者が撤退した後、地域交通の課題を解決するため市営バスが運行されていましたが、同バスの利用には事前予約が必要であり、乗車できる曜日や地域が限られているなど、住民からは、更なる地域交通の充実を望む声が上がっていたそうです。同サービス開始に当たっての記者会見で、ウーバージャパンの社長は、「やっとスタートがきれた」と発言した旨が報道されていますが、今回のサービスもウーバーの本来のサービスとはかけ離れたものであり、この発言はウーバーの日本における苦境を示しています。

 ちなみに、ウーバーは、今年2月、富山県南砺市と共同で行う配車実験の計画を発表しましたが、タクシー業界からの圧力で、3月には、実験予算が撤回された旨も報道されています。市長は、「予算の計上前に発表すべきではなかった」と悔しがったそうです。

 現行の道路交通法上、直ちに国内全ての地域でライドシェアサービスを実現することは困難ですが、京都府京丹後市での事例をきっかけに、今後同じような活用事例が拡大していく可能性は考えられます。ただ、日本では、まだまだ乗り越えなければならない壁はありそうです。

 他方、ウーバーは、海外においてはその有用性が認められ、多くの大手企業との提携が進んでいます。例えば、米小売り最大手ウォルマート・ストアーズと食料品や日用品の配送で提携し、今年5月には、トヨタ自動車からの出資受け入れを決めた上、サウジアラビアの政府系ファンド「公共投資ファンド(PIF)」からも35億ドル(現在の為替レートで約3600億円)もの出資を受けたとの報道がなされています。

 安倍首相が民泊規制緩和に本腰を入れたことによって、一気に民泊容認の動きが進んだように、シェアリング・エコノミーへの評価が社会で高まっていけば、政府の方針が変化し、ウーバーが実施しているライドシェアも、どこかの時点で劇的に規制緩和が進む可能性があります。このあたりの動きは今後も目が離せません。

情報漏洩事故について

 情報漏洩については、「教育事業大手から子どもの情報が漏洩 企業の対応や対策は?」(14年9月24日)とのタイトルで説明しました。

 教育事業大手のベネッセホールディングスが引き起こした情報漏洩事件は、14年9月10日の記者会見で流出件数が3504万件と報告されたことから、ヤフーBBの450万件(04年)、大日本印刷の864万件(07年)などをはるかに超え、国内における最大の個人情報漏洩事件となりました。当時の新聞などには「ベネッセ信頼回復正念場」「ベネッセ立て直し多難」など、厳しい見出しが躍っていました。

 事件から2年近く経過した現在も、事件によってベネッセが置かれた厳しい状況は何ら変わっていません。15年5月に発表された、事件発生時を含む期の決算で、ベネッセは、おわび費用などでの特損306億円の計上が響いて、107億円の最終赤字となりました。16年3月期の決算も82億円の赤字となって、日本マクドナルドホールディングスなどで手腕を発揮し、プロ経営者として名をはせた原田泳幸会長兼社長は、2期連続赤字のケジメをつけ退任を発表しています。

 この事件を巡っては、1万人を超える被害者が、会社に対し、総額約5億円の損害賠償請求訴訟を提起しています。原田氏ら当時の役員は、総額260億円の賠償を求める株主代表訴訟を受けており、こうした一連の動きがいつ収束するのか見当もつきません。これらの裁判手続きの節目ごとに、ベネッセの企業名と共に情報漏洩事件のことがメディアで流され、多くの人が事件の記憶を喚起させられます。ベネッセは、国内最大の情報漏洩事件を起こした企業という印象を社会に発信され続けていくわけです。

 ベネッセの情報漏洩事件がなかなか収束しない理由の1つとして、事件発覚当初の記者会見で、原田氏が「肝心な情報は漏洩していないため金銭的な補償は考えていない」と発言したことが挙げられます。もちろん、発言の真意は、カード情報のような金銭的損害に直接結び付く情報と氏名・住所といった情報は重要性が異なるということが前提となっているわけですが、そこには「子供」の情報であるという重要な視点が抜け落ちていました。

 その結果、社会的非難を浴び、わずか8日後の記者会見で、一転して、被害者に総額200億円の金銭補償をする旨を発表せざるを得なくなりました。

 被害者の感情を逆撫さかなでする、この不適切な発言が、その後の事件処理にも悪影響を及ぼしていることは言うまでもありません。企業不祥事が発生した際、記者会見などの公式の場であるかどうかにかかわらず、メディアに向けた発言に関して、最大限の注意を払うべきであることは今や常識です。

 古くは雪印乳業の集団食中毒事件において、当時の社長が発した「私は寝てないんだよ」が有名ですし、近時でも、13年の食材偽装事件における、阪急阪神ホテルズ社長による「偽装ではなく誤表示である」との発言が、当該企業に対してどれほどの悪影響を与えたかは計り知れません。

 個人情報漏えい事件の発生を完全に防止することが困難である以上、企業としては、事前の漏洩防止策を充実させることはもちろん、事件発生時における記者会見などを想定した、事後対応の準備を日頃から実施しておくべきということです。

 なお、近時、続発しているのが、いわゆる「標的型メール」による情報漏洩事件です。今月14日、大手旅行会社JTBは、子会社のサーバーが外部から不正アクセスを受け、顧客のパスポート番号など最大で793万人分の個人情報が流出した可能性があると発表しました。ちなみに、昨年6月に発覚した、日本年金機構における、年金情報125万件の流出事故や、同時期の、東京商工会議所における1万2000件の情報流出も手口は同じです。

 「標的型メール」とは、不特定多数の対象にばらまかれる通常の迷惑メールとは異なり、対象となる企業(組織)から重要な情報を盗むことなどを目的として、その担当者が業務に関係するメールだと信じて開封してしまうように、巧妙に作り込まれたウイルス付きのメールのことを意味します。

 企業の中のたった1人の社員が、標的型メールの添付ファイルを開封したり、リンクをクリックしたりすることで、情報を盗み出すウイルスに感染し、機密情報が漏洩する事態に陥ってしまうわけです。JTBの事件では、取引先である航空会社から送られたメールの体裁が取られており、それを信じた社員が標的型メールに添付されたファイルを開いた結果、パソコンやサーバーがウイルスに感染したとのことです。

 ちなみに、上記に挙げた事件のように大きく報道されるもの以外にも、実は、情報漏洩事件はほぼ毎日のようにどこかで発生しています。例えば、今年5月、サイバーエージェントは、「リスト型アカウントハッキング」により、約5万件の「Ameba」利用者の個人情報が流出した可能性がある旨を公表しました。

 このように、個人情報を狙った新手の攻撃が繰り広げられており、企業関係者は、従来問題となっていた「悪意ある内部者」対策ばかりではなく、これら最新事件の情報を収集して、常にそれに対する対策を講じておかなければならないわけです。

SNSを巡るトラブルについて

 この問題については、「SNSを使った「バイトテロ」、どう対応?」(13年10月9日)など、複数回にわたり説明してきました。ちなみに、本連載の第1回は「軽い“つぶやき”が重大な事態を招く」(11年8月10日)というタイトルで、当時旬の話題であったSNS利用を巡るリスクについて説明しています。11年1月、ウェスティンホテル東京内のレストランに勤務する女子大生アルバイトがツイッターで発した何気ないひと言が炎上し、女子大生の個人情報がネット上で開示されてしまいました。この件ではホテル側への批判が集中し、最終的にはホテル総支配人が公式ホームページで正式に謝罪するところまで追い込まれてしまいました。ちょうど社会で、SNSのリスクが意識され始めた頃でした。その後も多数の事件が発生し続け、社員のSNS対策は、現在でも、企業法務における重要なテーマとなっています。

 その後も、「SNSで不祥事続発、企業側対策の決定打とは?」(12年1月11日)、「SNSトラブルで非難殺到、適切な“鎮火”方法は?」(12年10月24日)と書き続け、最後にこのテーマで書いたのは、「SNSを使った「バイトテロ」、どう対応?」(13年10月9日)となります。

 12年10月にSNS関連記事を書いた際には、必要な情報はほぼ網羅したので当分はSNSについて書く必要はないだろうと思っていましたが、予想に反し、翌13年の夏に突如として多発したバイトテロに対応して記事を書くことになりました。

 この手の不祥事は、今も発生していますが、「バカッター」などというインターネットスラングが生まれたように、ツイッターで自ら反社会的行動をさらけ出す行為の愚かさが社会的に十分認識されるようになり、一時期に比べれば、そうした不祥事は減少したように思えます。他方、従前とは異なって、企業の不祥事などを告発したツイートが、本来称賛されてしかるべきであるにもかかわらず、自らの反社会的行動をさらしたツイートと同様に炎上し、告発者の個人情報が開示されるという事件(14年12月のペヤングやきそば虫混入事件など)も起きています。もちろんツイートの仕方の問題もありますが、告発者をたたく風潮の下では、個人特定や炎上を恐れ、SNSで何も発言できなくなる可能性も指摘されています。

 こうした事態に対する企業側の対応策としては、繰り返し述べているように、SNSに焦点を当てた社員教育を徹底して行うということに尽きると思われ、現在では多くの企業が実施しています。そこで注意すべきなのは、通常のコンプライアンス教育とは別物としてとらえ、SNSに関わる個別事件の詳細を説明し、生の事実を実感してもらうのと同時に、事件・事故を起こした人間が、最終的にどのような悲惨な結末を迎えたのかという点を厳しく指摘・説明することが重要かと思われます。

 上記ウェスティンホテルで事件を起こした元女子大生の個人情報は、事件から5年以上経過した現在でも、ネット上でさらされたままとなっていますが、自分の名前で検索したら、自らが起こした過去の不祥事の記事が最初に出て来る状況が、当人の人生にどれほどのマイナスになるかは言うまでもありません。そのような目にあわないためにはどうすれば良いかという、「従業員が自らの身を守るための研修」という視点での教育が、今後も不可欠と思われます。

 なお、上記のような過去の不都合な事実をどのようにしてネット上から抹消するかに関しては、「インターネットの検索結果は削除できる?」(16年1月13日)が参考になると思いますのでご確認下さい。

ゲームキャラクターの著作権

 ゲームキャラクターの著作権については、15年3月25日に、「ゲームキャラクターの無断使用で逮捕?」とのタイトルで説明しました。

 この記事は、大阪府警が、14年11月17日、コミック誌に連載されていた人気漫画「ハイスコアガール」で、他社(SNKプレイモア)のゲームに登場するキャラクターを無断で使用したとして、コミック誌の発行元であるスクウェア・エニックス、同社の編集出版の役員や担当者、漫画の作者、合計16人を著作権法違反の疑いで大阪地検に書類送検したという事件を受けて書いたものです。

 結局、本事件は、15年8月26日、両社間で(1)SNKプレイモアは、刑事告訴を取り消す(2)両社は、民事訴訟を各々取り下げる(3)スクエア・エニックスは「ハイスコアガール」の販売を継続することができる――という和解が成立したと発表されていますが、和解の具体的な内容については明らかにされていません。

 この和解成立を受け、今年5月23日、スクエア・エニックスは、7月25日発売の月刊「ビッグガンガン2016 Vol.08」から、「ハイスコアガール」の連載を再開すると発表しています。また、単行本の販売も同日から再開し、既刊の1巻から5巻は表紙を書き下ろし、一部加筆・修正した上で、新刊の6巻と同時に販売するとしています。当時、書いたように、「ハイスコアガール」は、ゲームに対する愛情を随所に感じる良い漫画だと思いますので、私も早速新刊が出たら買ってみたいと思っています(笑)。

 なお、あらゆる著作物は著作権法によって保護されており、基本的には著作権者の許可無しでは、著作物を利用することはできません。しかし、インターネット上で膨大な著作物が流通する中で、著作権者(もしくは著作物を利用する権利を付与された者)のみが著作物を自由に扱えるという、著作権法の規定は必ずしも著作権者側のメリットばかりになるとは限りません。著作権者本人が多数の人に自身の作品が利用されることを望んでいる場合もあります。インターネット上の著作物は、著作権が侵害されやすい反面、拡散性に優れているため、無名の人でも自分で作成した著作物をインターネットで発表することによって、注目を浴びる契機が得られやすいという側面もあるからです。

 実際、日本では、同人誌などにより、著作権者の許可を得ないで二次的著作物が公表され、独自の巨大なマーケットを形成してきました。この背景には、日本の著作権法は、著作権侵害を親告罪としており、著作権者自身が警察に通報しない限りは摘発されることはなく、多くの著作権者が二次的著作物の創作を黙認してきたという背景があります。しかし、日本がTPP(環太平洋経済連携協定)に参加することにより著作権侵害が非親告罪化されるとの見通しから、これまでのような二次的著作物の創作が困難になるのではないかと危惧されています。なお、TPPが著作権に及ぼす影響については、本コーナー「TPP交渉の結果、『吾輩は猫である』がタダで読めなくなる?」(13年9月11日)を参照して下さい。

 そこで、著作権者の許可する範囲内であれば自由に著作物を使用できることを証明するのに有効なものとして、「クリエイティブ・コモンズ」というライセンスが注目を集めています。

 「クリエイティブ・コモンズ」は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを提供している国際的非営利組織とそのプロジェクトの総称です。「クリエイティブ・コモンズ」を利用すれば、著作権者は自身の許可した範囲内で、インターネット上で作品を広く流通させることが可能となり、利用者側も使える作品の幅が広がるので、双方にとってメリットが生まれます。

 また日本では、日本独自の同人誌マーケットに対応して、「同人マーク」というライセンスが注目されています。「同人マーク」というのは、著作権者が自身の作品に当該マークを付して、その作品の二次創作による同人誌の作成と、同人誌即売会における配布を有償・無償を問わず許可する意思を予め表明するためのマークです。TPP参加後も、こうした試みによって、日本の同人誌文化が継続していくことを期待したいものです。

不当表示に対する課徴金制度について

 課徴金制度については、15年6月10日に、「不当表示に対する課徴金制度の導入 影響は?」とのタイトルで説明しました。

 13年に全国のホテルや百貨店等において相次いで食材虚偽表示問題が発覚、これを受けて消費者庁が課徴金制度を制度設計し、改正景表法が14年11月に成立しました。上記の記事で説明した時点では、改正景表法の施行日が不明でしたが、結局、今年の4月1日に施行されました。

 今回新たに創設された課徴金は、商品やサービスが実際より良いと表示に誤解させる「優良誤認表示」と、お得であると思わせる表示の「有利誤認表示」といった不当表示を理由として措置命令を受けた業者に対して課されるもので、対象となった業者は不当表示を行った商品やサービスの最長3年分の売上金額の3%の金額を支払うことになります。

 現時点ではまだ課徴金制度の対象となった企業は出ていないようでが、最近も、不当表示を理由とした景表法違反が度々問題となっています。

 例えば、今年1月、「グランブルーファンタジー」というソーシャルゲーム内での課金ガチャについて、レアアイテムの出現率に誤表記があるのではないかという点などについて、ユーザーから問題視され、ネット上で大きな騒ぎとなるという事件が起きました。他にも、先月25日、三菱自動車のカタログなどの表示と実際の燃費に大きな乖離かいりがあり、燃費データ不正表示が行われているのではないかという問題について、消費者庁が景表法違反の確認を行う調査を始めたという報道がなされています。

 また、先月26日には、クーポン購入サイトを運営する楽天の子会社、楽天クーポン社が、限定販売としたクーポンの枚数について、実際と異なる販売枚数や期間の表示を行っていたと発表しました。同社は、景表法に違反する恐れがあるとして購入者に返金などの対応を始めたようです。

 こうした状況の中で、今、課徴金制度の第1号が、どの事案になるかに注目が集まっており、企業関係者としては、不名誉な適用第1号にならないよう、従来以上に、表示に関する問題には注意を払う必要があると思います。

最後に~読者の皆様への御礼

 長い間、本コーナーをご愛読頂きありがとうございました。

 当初は軽い気持ちで、せいぜい1年間程度と思いお引き受けしたのですが、法律関連のコンテンツとしては破格のPVを稼いでいるなどと、担当者の方におだてられ(笑)、また途中から「記事ランキング」が導入され、俄然がぜんやる気になり、気がつくと5年間にもわたり連載を続けることになりました。13年には、私の専門分野でもあるIT・インターネット関連の記事だけを抜粋して、「おとなのIT法律事件簿~弁護士が答えるネット社会のトラブルシューティング」(インプレスR&D)を刊行したことも良い思い出です。すべて読者の皆さんのご支援のおかげと思っています。

 現在、本連載記事から、職場に関連する話題(労務問題その他)を抜粋して大幅に加筆し、また新たな書き下ろし原稿も含めた、続刊を準備しており秋頃までには皆様にお届けできると思いますので、そちらの方もぜひよろしくお願いします。

 なお、一部読者の方から、社内での業務の際に、この記事のバックナンバーを参考にしているが、連載終了後にも読むことができるのかとのご質問を頂きました。大変ありがたいことです。この点、アーカイブのコーナーでまだしばらくは引き続き閲覧できますし、また、ヨミウリ・オンラインのサイトから閲覧できなくなっても、私の主催する法律事務所のHPにおいて、11年からの全ての記事を閲覧できるようにしていますので、よろしければそちらをご参照下さい。http://www.shiroyama-tower.com/books/index.html

 私は、弁護士の傍ら、桐蔭法科大学院(ロースクール)の教授・大学院長も務めています。そして、法科大学院設立の理念は、法の支配を社会の隅々に及ぼすことにあります。「おとなの法律事件簿」のような、やや難解な法律に関連する連載が、一般読者向けの有力メディアのコンテンツの1つとして掲載され情報発信することにより、法律に係わる知識を少しでも多くの方々にお伝えすることができたとすれば、法科大学院の存在と同様、少しは法の支配の普及に役立つことができたのではないかと思っています。

 5年間、120回にわたって、様々なテーマを解説してきましたが、皆さんが出会う日常の何気ない話題に、実は、様々な法律が深く関わっていることを御理解頂けたとすれば、望外の喜びです。長い間ありがとうございました。

 

2013年04月10日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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