貯め込んだポイントが突然のサイト閉鎖で消滅、許される?

相談者 KHさん

  • イラストレーション・いわしま ちあき

 「3年間め込んだ息子の8万ポイントをどうしてくれるんだ!」。私は通販サイトの担当者を電話口で怒鳴どなりつけました。3歳の次男、夏樹が不思議そうな顔をして私を見ています。

 私は、夏樹が生まれた時から、このサイトでオムツを買い続けてきました。1か月で80枚入り(1500円)のオムツ3パックを消費し、3年間のオムツ代16万2000円が8万ポイントになりました。ポイントを3年間使わずにため込んできたのは、夏樹の幼児用自転車をポイントで手に入れるつもりだったからです。必要なポイントがたまり、ネットで申し込もうとしたところ「お探しのページが見つかりません」とサイトに表示されたのでした。

 「おかしい」

 調べたところ、運営企業が業績不振で突然サイトを閉じたことがわかりました。何の告知もなく、ある日突然のサイト閉鎖です。私は驚きました。「ポイントだけは取り返さなくては」と、そのサイトの運営企業の連絡先を探し出し、問いただしました。

 「利用規約に書いてある通りですから」

 木で鼻をくくったような返事が戻ってきました。「利用規約にはサービスを事前告知なく終了できる旨が明記されています。利用者の皆さんはそれを承知でサービスを利用されていました。当社に問題はありません」と言い張ります。いくら食い下がって、罵倒しても、懇願しても取りつく島がありません。

 3年前のサービス利用時にメールで送られてきた利用規約を確認してみました。確かに「当社は、利用者の皆様に対し事前に告知することなく、本規約、本サービスの内容または本サービス提供の条件の変更(ポイントの廃止、ポイント付与の停止、ポイント付与率または利用率の変更を含みますが、これらに限られません)を行うことがあり、本サービスを終了または停止することがあります。利用者はこれをあらかじめ承諾するものとします」と書いてあります。

 納得がいかず、サイトで色々調べたところ、この連載の「貯めこんだ電子マネー、発行会社が倒産したらどうなる?」(2013年1月23日)で、電子マネーの解説と一緒にポイントについても少し触れられていました。電子マネーについては一定の法的保護があるが、ポイントにはそういった保護はない旨が書かれていました。さらに、「“一方的な通告”で買い物ポイントが失効した…」(2011年10月12日)には、一定の事前告知をしたうえでポイントを失効させる場合、問題にはなりにくいと説明されています。しかし、今回のように、事前告知もなく、いきなりサービスが停止になってポイントがなくなってしまう場合についてはよく分かりません。

 会社の説明が正しければ、ポイントについては、発行会社の倒産やサービス停止などの場合、いわば、いきなり紙くず同然になるということになります。でも、電子マネーには利用者に一定の保護が与えられているのに、同様の機能を持つポイントでは、利用者がまったく保護されないのは納得できません。今回のような、ポイント発行企業のいきなりのサービス停止(倒産も含む)によるポイントの消滅について教えていただけないでしょうか。(最近の事例を参考に創作したフィクションです)

回答

ネット企業による相次ぐポイント制度の拡充

 3月5日、楽天は、「楽天スーパーポイント」による集客・送客サービスの一環として、今年春を目途めどに、新たに共通ポイントカード「Rポイントカード」を発行し、リアル店舗における「楽天スーパーポイント」の利用を開始する旨をプレスリリースで発表しました。

 楽天が主にインターネット通販において付与している楽天スーパーポイントを、共通ポイントカード「Rポイントカード」を発行することによって、多くの小売業をはじめとしたリアル店舗での活用を可能にするわけです。約8100万人の楽天会員がネット上で保有しているポイントが、リアル店舗でも利用できるようになり、ネットとリアルを融合した、一大ポイント経済圏が成立することになります。

 これにより、ポイントサービス2強との間で、利用者や加盟店の囲い込み競争が激化することが予想されます。2強とは、従来からリアル店舗向けにサービスを提供している、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)による「Tポイント」(今春、ヤフーポイントとの統合が予定されています)と、三菱商事の子会社であるロイヤリティマーケティングによる「ポンタ」です。

 さらに、スマートフォンのメッセージアプリを運営する「LINE」も、公式アカウントやその廉価版サービスであるLINE@(ラインアット)が提供するサービスを利用すると共通ポイントが貯まるという制度を、今春導入するとされており、注目を集めています。

 2013年度の国内ポイント発行額が1兆円規模に達するという予測も出ている中、にわかにポイントを巡る状況に注目が集まっているのです。

顧客の囲い込みに威力

 楽天をはじめとしたネット通販では、ポイントを使ったキャンペーンが繰り広げられ、相当の効果を出しています。

 ポイントは、

 (1)値引きと違って直接売り上げ減少に結びつかない
 (2)景品と違って管理・発送等に伴う経費がかからない
 (3)値引きがその場限りであるのに対して次回の購買につながる可能性が高い
 (4)ポイントのもつ実際の価値がイメージしにくいのでその価値以上に顧客を誘引できる
 (5)一度に景品を提供するより実質的に魅力的な景品を提供できる(分割された景品)
 (6)個人情報収集に対して利用者の理解を得られやすい
――などの特徴があり、業種や業態に関係なく、顧客の囲い込みに効果を発揮しています。

 特に、ネットビジネスにとって、ポイントの導入は有効であるとされています。ネット企業は、すでに保有しているサーバー上の会員データベースを流用することで比較的容易にポイント提供・管理のシステムを構築できます。サイト間の価格比較が容易で来店の手間に差異がなく、差別化が難しいネットビジネスにおいて、一度取引のあった顧客に次回の利用や来店(サイトへの誘導)を促す効果が見込まれるのは、ポイント導入の大きなメリットです。さらに、バーチャルな店舗ゆえ存在を告知することがネットの世界では困難です。ところが、すでに人々に認知されている他社ポイントを提供する方法で、その会員をサイトに誘導することも可能になります。

 こうした理由から、ネット企業の多くがポイントサービスを導入しているわけです。現在のネットビジネスにおいて、「集客をどのように進めるか」を論じるときに、ポイントの存在を無視できません。

リアルとネット融合で再び脚光

 さて、上記のようにポイントには多くのメリットがあり、一時期、ポイントバブルなどと言われるほど、マーケティングにおいてポイントサービスの活用がブームとなりました。しかし、その後、撤退する企業が相次ぐなど、ここしばらく、ポイントサービスに元気がない状態が続いていました。しかし、最近になって、再びポイントが脚光を浴びるようになっています。その原因としては、O2O型サービスの担い手としてポイントが期待されているという事情があると思われます。

 O2Oとは、「Online to Offline」の略であり、オンラインであるインターネット上の活動と、オフラインである実際の店舗上の活動を結びつけることで、新しい購買行動を促そうとする取り組みのことを意味します。かつて、ネットビジネス黎明期に「クリック&モルタル」(click and mortar)という、リアルとネットを融合させるビジネス手法が脚光を浴びましたが、同様の観点からの新たなビジネス手法と考えられます。

 近時、企業マーケティングにおいて、SNSをはじめとするソーシャルメディアの活用が注目されていますが、それは、O2Oにおけるオンライン側の主要な担い手がソーシャルメディアであるという企業側の認識が根底にあり、今回のポイントサービスの活性化も、同様の観点から捉えることが可能です。

 NTTドコモは、2月から、来店するだけでポイントがもらえる O2O サービス「ショッぷらっと」の試験運用を開始しました。このサービスは、アプリケーションを起動したスマートフォンを持ったユーザーが来店すると、店内入り口に設置された音波装置からの高周波信号をスマートフォンが自動検知し、サーバーを通じてスマートフォンへポイントやクーポンを配信する仕組みです。オンラインで興味をもったユーザーを、オフラインの店舗に誘導して、来店・販売促進へつなげる取り組みであり、まさにポイントを使ったO2Oの手法と評価できます。NTTドコモというと、日本電信電話公社時代の流れをくんで、何かと慎重という印象がありますが、そのような企業が、ポイントを活用したO2Oの新サービスを開始するというところに、ポイントサービスの新たな利用が、企業へ浸透していることを感じさせます。

ポイントには法的規制がない

 本連載「貯めこんだ電子マネー、発行会社が倒産したらどうなる?」(2013年1月23日)で、電子マネーの解説と一緒に、ポイントについても、付随的に少し言及したところ、読者の方から、ポイントについて、もっとじっくり説明して欲しいとのリクエストがありました。これも、ポイントが再び注目を集めていることの表れかと思います。

 さて、同連載記事においてご説明しましたように、資金決済法の規制対象となっている電子マネーは、基準日(毎年3月・9月末時点)における未使用残高が1000万円を超える場合、その残高の2分の1以上の保証金を供託しておく義務が事業者に課されています。そして、発行会社が倒産した際には、電子マネーの保有者は、その発行保証金の中から、優先的に弁済を受ける権利を有しています。つまり、電子マネーの場合、その発行企業が万一倒産しても、利用者は、この発行保証金から配当を得ることで、その限度において保護を受けることになります。

 また、倒産のような極限的な場合ではなく、発行会社がサービスを停止する場合についても、資金決済法には規定があり(同法第20条)、発行者はホームページ、日刊新聞紙、店頭などでの掲示などにより、払い戻し手続きを告知(60日以上の払い戻しの申し出期間が必要)するなどの手続きをしなければなりません。

 それに対して、ポイントにはそのような消費者保護制度はありません。

 1月の連載記事でもご紹介したように、資金決済法が制定される前に、金融庁は、いわゆる「ポイント」を規制対象にするかどうかについても議論しており、平成19年12月18日付「決済に関する論点の中間的な整理について(座長メモ)」にも、明確に、ポイント規制を視野に入れた議論がなされています。

 ちなみに、当時、ポイント規制について議論していた金融審議会金融分科会第二部会の「決済に関するワーキング・グループ」では、NTTドコモ、ヤフー、日本航空ほか、ポイントに関連するさまざまな著名企業が参考人として意見を求められました。私のクライアントであるポイント発行企業も、参考人として事業説明を求められ、私も補佐するために同行しました。その際、私は、金融庁が、ポイントも規制対象に入れたいと考えている「雰囲気」を肌で感じたことを今でも覚えています。

 しかし、ポイントサービスに対して新たな規制を導入することについては強い反対意見があったため(ポイント促進を掲げる経済産業省が反対したとの噂もありました)、最終的には、資金決済法で新たに規制対象となったのは、サーバー管理型電子マネーのみにとどまり、ポイントに対する規制は見送られました。

 つまり、多くの方も認識されているように、ポイントが「疑似マネー」などと呼ばれ、電子マネーとポイントの境界線が不明確になっているにもかかわらず、現状において、ポイントに関する特段の法的規制は存在しない状態が続いているわけです。

提供企業が自由に規約を設定

 前述のように、ポイントについては、特段の法的規制がないので、サービス提供企業が、ポイントにどのような価値を持たせるのか、その利用方法、有効期間などを、利用規約によって自由に設定することが可能です。

 本連載「“一方的な通告”で買い物ポイントが失効した…」(2011年10月12日)でも説明したように、基本的には、ポイントの内容などを一方的に変更したり廃止したりすることを自由にできるような制度設計が可能ということです。

 経済産業省がまとめた「企業ポイントのさらなる発展と活用に向けて」(2007年7月)と題する検討結果では、「各企業は自社の事業戦略にもとづき企業ポイントを設計、運営している。従って、企業ポイントに関するルールは、運営する企業の事業判断によって変更されうる。ただし、各社は提供するポイント制度に対して、消費者が正確かつ十分な理解を得られるよう情報開示及び告知を行い、消費者の期待の明確化に努めるとともに、その消費者が貯めたポイントの価値に対する消費者の期待に十分応えるよう、各社の事業やポイント制度の内容に応じて、可能な範囲で配慮することが望ましい。」とされています。

 また、同様に経済産業省による「企業ポイントに関する消費者保護のあり方(ガイドライン)」(2008年12月)では、ポイントプログラムの終了時の対応について、「ポイントプログラムの終了は、…利用条件の変更以上に消費者の利益を損なう可能性がある。このため、終了に際しては、…条件変更と同様に、十分な期間をおいて事前に告知を行うことが望ましい。仮に、約款に『発行企業の都合で、いつでも、事前通知なくポイントプログラムを廃止でき、その責任を一切負わない』と規定されている場合においても、やむを得ない場合を除き、十分な期間をおいた事前告知を行うことが望ましい。」としています。

 賢明な読者の方ならお気づきになると思いますが、ここでの要請は、いずれも「努める」「望ましい」という表現が使われています。つまり、これらは法律で要求される絶対的なものではなく、各企業に対する「要望」というような性格のものとなります。

 もちろん、「“一方的な通告”で買い物ポイントが失効した…」でもご説明したように、インターネットポイント・サービスを提供している企業を中心に構成されている日本インターネットポイント協議会が提示しているガイドラインで、「ポイントの利用及び価値に関する内容の変更及び中止を行なう場合には、最低1ヵ月前の事前告知するように努力する」と明記されているように、優良な企業であれば、利用者の利益を考慮した上で、きちんと十分な事前告知を実施しています。

 しかし、理論的には、事前告知などをしなくても、ポイントの内容を変更することや、ポイントサービスを終了・廃止させることも可能なのであり、仮に、利用者のことを無視して突然の利用停止を行うような企業が現れたとしても、利用者としては、有効な対抗手段がみあたらないのが現実です。

 なお、「永久不滅ポイント」などというようなコピーを使って消費者に宣伝しているような場合には、突然のポイントサービス停止は、景品表示法第4条の「不当な表示の禁止」に抵触する可能性が出てきますが、そのような例外的場合を除いては、景品表示法上も通常問題になりません。

大手の規約でも「事前通告なしにポイント停止」を明記

 では、ポイントサービス提供企業は、実際にどのような規約を設けているのでしょうか。

 楽天スーパーポイント利用規約は、第15条1項で、「当社は、会員に事前に通知することなく、本規約、本サービスの内容または本サービス提供の条件の変更(ポイントの廃止、ポイント付与の停止、対象サイトまたは取引の変更、ポイント付与率または利用率の変更を含みますが、これらに限られません)を行うことがあり、本サービスを終了または停止することがあります。会員はこれをあらかじめ承諾するものとします。」とし、同2項では、「当社は、前項の変更により会員に不利益または損害が生じた場合でも、これらについて一切責任を負わないものとします。」と明記しています。

 つまり、この規定を形式的に読む限り、楽天は、会員に事前に通知することなく、ポイントサービスを終了することが可能であり、その結果、会員が保有ポイントを喪失しても責任を負わないことになります。

 他にも、例えばTポイントの場合、ポイントサービス利用規約第7条において、「ポイントサービスのご利用条件(ポイントプログラム参加企業の変更やポイントサービスの廃止を含みます)につきましては、事前の予告なく変更する場合がございます。」としており、楽天と同様の内容となっています。

 つまり、こういった規約が定められている限りにおいて、ポイント発行企業のサービスがいきなり停止されて、ポイントが消滅しても、ポイント保有者は文句を言うことができないことになります。これは、ご相談の場合にように、運営企業が業績不振で突然サイトを閉じた場合でも、運営企業が倒産した場合でも基本的に同じことです。

 もちろん、ここで取りあげたような大手企業が、前述の経済産業省や日本インターネットポイント協議会が定めたガイドラインの内容を無視して、事前告知もなくポイントサービスをいきなり廃止するようなことは通常考えられません。ただ、ポイントに関する保護法制が未整備である現状においては、万が一そのような事態が起きても、利用者は、基本的に手の打ちようがないわけです。

優良企業を選んで利用すべき

 前述のように電子マネーの場合には、企業が倒産しても、発行保証金の中から優先的に弁済を受けることができます。ご相談の事案のように、自主的なサービス停止の場合であっても、一定の手続きを履践しなければなりませんが、ポイントの場合はそのような保護は、消費者に与えられていないということになります。

 ご相談者が、「電子マネーには利用者に一定の保護が与えられているのに、同様の機能を持つポイントでは、利用者がまったく保護されないのは納得できません。」と思うことは極めて自然です。しかし、現状においてポイントサービスは消費者保護も含めて、基本的に企業の自主性に委ねられているわけです。

 そういう意味では、今後ポイントが電子マネーと同様の法的規制を受けるようになるまでは、ご相談者としては、ポイントサービスを利用する際、利用者を蔑ないがしろにしない優良企業であるかどうかをよく見極めて利用することが重要であると考えられます。

 なお、ポイントか電子マネーかは実質的に判断すべきであり、ポイントという名称であっても、利用者が対価を支払って発行されていると認められるものについては、資金決済法の規制を受けることになるので、その点は注意が必要です。相談者のポイントが実質的に電子マネーと評価できる場合は、資金決済法の適用を受ける可能性がありますので、その点については、金融庁などにご相談されればよろしいかと思います。

2013年04月10日 09時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun

 

 


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